葛の季節

1886.「葛の季節」
紀伊民報「水鉄砲」2013.6.15.
(傍線:吉田祐起引用)
「葛の季節」 北米でいま、緑化や飼料作物として日本から運ばれたクズ(葛)が大繁殖し、 ジャパニ
ーズ・グリーンモンスター(緑の怪物)と呼ばれているそうだ。
▼つるの途中からあちらこちらに根を下ろしているので、切ってもなかなか枯れない。苦労して地
表のつるを駆除しても、地中に栄養を蓄えた太い根が残るので、翌年また生えてくる。
▼この季節には、空き地や河川敷で一気に勢力を拡大する。ある所では地をはうように忍び寄
り、ある所では立木やガードレールを覆い尽くす。巻き付くものがない所でも、虚空をつかむように
先端を伸ばし続ける。
▼厄介な植物だが、日本人の生活や文化に古くから関わってきた 。紫の花は秋の七草に数えら
れ、万葉の歌にも多く歌われている。つるは工芸品や布の材料にされた。根から取れるくず粉は、
薬や食材として珍重されてきた。奈良県の吉野地域で産出される吉野くずが有名で、本くずと呼ば
れる純度の高いものは流通量が少なく、驚くほど値が張る。
▼先日、高野山で吉野くずを用いたごま豆腐を買ってきた。鮮度にこだわる店は保冷容器がない
と持ち帰らせてくれない。滑らかで弾力があり、ほのかにごまが香る。控えめに添えたわさびととも
に口に運べば、ツンと鼻に抜ける刺激が梅雨のうっとうしさを忘れさせてくれる。
▼あっさりと口の中で溶けるごま豆腐と「怪物」とまで呼ばれるクズの生命力は、表と裏の関係な
のだろうか。(長)
ヨシダコメント:
戦時中(原爆直前)のわが家は木造モルタル造り3階建てでした。子供心に覚えているのが、その
壁面にグリーンの蔦が一面に張っていたことです。懐かしさで本記事を掲載しました。
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