解 析 力 学 岡村 隆 2005 年 11 月 1 日 1 Hamilton の原理、(最小) 作用原理 質点の運動は、慣性系において F (t, r) = m d2 r(t) dt2 (1.1) に従う、というのが Newton の運動の法則であった。これを認めると、あと Newton 力学の世界で為すべき ことは、力 F を与えること、および、実際に (1.1) 式を解いて様々な現象を予言したり、物理的理解を深める ことである*1 。 一つの事柄 (法則) を様々な観点 (定式化) から論ずることは、より深い理解を得るために必要なことである。 また、それによって副産物 (技術的利点) を得ることもよくある。 力 学 法 則 の 運 動 方 程 式 (1.1) と 異 な る 定 式 化 に 、以 下 に 述 べ る よ う な 変分原理 に 基 づ い た 、 Hamilton(ハミルトン) の原理 がある。これは、 質点の実際の運動は、その軌跡に従って値が定まる 作用積分 と呼ばれる量が極値となる軌跡を描く。 というものである。 微分方程式の形で書かれた運動方程式 (1.1) は、時間方向の局所的な繋がりを指定すること*2 によって実際 の運動を特徴付けている。一方、“Hamilton の原理” は、原理的に可能な軌道群をいっぺんに考え、 「その軌 道群の中で作用積分を停留 (極小 or 極大) にする軌道が実際の運動である」という大域的な特徴付けをする。 このような考え方は、我々も日常生活で何気なく使っているものである。例えば、大学から帰宅するまでに、 夕食を済ませ、複数の店に寄って買い物をしたいとする。このとき、どのような考え方で帰路を選んでいるだ ろうか? 恐らくは、まず、適当と思われる複数のルートを想定し、その中から、腹の減り具合い、交通手段、 店の混み具合いや買い物荷物の量などを考慮して、最終的に「気分良く帰れる」ルートを選んでいるのではな いだろうか? この、 「可能なルート (状態) 群を想定し、その中から、各ルート (状態) に応じて決まる “気分良さ” 関数 (評 価関数、作用積分) を最適化するものが、実際に取るルート (状態) である」という考え方は、まさに変分原理 そのものである。 Hamilton の原理による力学の定式化には、以下のような利点がある。 1. 特定の座標に依拠しない定式化のため、直交座標と異なる座標系での運動方程式を得ることが容易。 2. 運動に拘束が課せられた (例えば、あるレール上のみを動けるなど) 場合の取り扱いが容易。 3. 対称性と保存則との関係 (Noether(ネーター)の定理) など、系の持つ一般的性質の抽出が容易。 *1 現象が予言できても現象を理解できた (分かった気になる) ことにはならない。単に、 「(1.1) 式を解いたらこうなりました。」とい うのと、 「解いたらこうなりましたが、それは、(1.1) に従う系は必ず A という性質 (例えばエネルギー保存則) を持つことの反映 です。また、性質 A は F がこれこれの性質を持つときに一般に成立します。」というのとでは、理解の質が異なる。 *2 ある時刻 t での質点の位置 r(t) と “ほんの少し” 後 (or 前) の時刻 t + ∆t での位置 r(t + ∆t) との関係、つまり、“次の一手” を指定すること。 1 1.1 変分原理 状態に応じて変化する量を停留させる状態を求める問題の典型例は、関数の極値を求める問題である。 状態が一変数 x によって指定されるとき、状態に応じて来まる量は x の関数 f (x) で表される。これを停留 させる点を探すために、ある点 x と微少に異なる点 x + ∆x での f の値を比較すると、 f (x + ∆x) − f (x) = ( ) df (x) ∆x + O (∆x)2 dx (1.2) となる。これから、f を停留させる点 (x の値を微小変化させても f の値が変化しない点) は 0 = df (x)/dx (1.3) の解となる。例えば、f = x2 (x − 3) の極値を与えるのは、f 0 (x) = 3x(x − 2) = 0 の解、つまり x = 0 と x = 2 の2つで、前者は極大値、後者は極小値を与える。 状態が二変数 x と y で指定される場合 f (x, y) にも、この考え方は素直に拡張できる。まず、(x, y) での f の値と、微少に異なる点 (x + ∆x, y + ∆y) での f の値を比較して f (x + ∆x, y + ∆y) − f (x, y) = ( ) ∂f (x, y) ∂f (x, y) ∆x + ∆y + O (∆x)2 , (∆y)2 , ∆x∆y ∂x ∂y (1.4) を得る。いま、任意の ∆x と ∆y で f の値が変化しない*3 ところを探したいので、 0= ∂f (x, y) , ∂x 0= ∂f (x, y) ∂y (1.5) の解が停留点を与える。例えば、f (x, y) = x2 + y 2 の場合、極値を与えるのは、0 = ∂f (x, y)/∂x = 2x かつ 0 = ∂f (x, y)/∂y = 2y より、x = y = 0 が停留点となる。 この考えをもっと進めると、N 個の変数 xi (i = 1, 2, . . . , N ) で状態が指定される関数 f (x1 , x2 , . . . , xN ) の停留条件は 0= ∂f (x1 , x2 , . . . , xN ) ∂xi (i = 1, 2, . . . , N ) (1.6) となることが自然に理解できる。 さて、これから考えたいことは、状態が有限個 ( (1.6) 式の状況の場合は N 個) の変数の組で与えられる場 合ではなく、もっと “凄い” 形で状態が与えられる場合である。 例えば、時刻 t = ti で始点 ri をスタートし、時刻 t = tf で終点 rf に到着する経路は、各時刻での位置 r(t) (ti ≤ t ≤ tf ) によって指定される。時刻は ti と tf の間で連続値を取り得るので、すると経路は、連続無 限個 (この意味で “凄い”) の変数の組 { r(t) }ti ≤t≤tf で与えられる。*4 これから、経路に応じて定まる量を議論するのだが、この “凄さ” を強調するために、数に 数を結び付ける ものを関数 (function) と呼ぶのに対し、関数 (経路) に 数を結び付けるものを 汎関数 (functional) と呼ぶ。 N 個の関数の集まり (象徴的にベクトルのように書くことにする) x(l) = ( x1 (l), x2 (l), · · · , xN (l) ) (li ≤ l ≤ lf ) によって定まる汎関数 ∫ lf I[ x ] := ( ) dl F x(l), ẋ(l), l (1.7) li を考える。ここで、ẋ := dx/dl である。 *3 *4 正確には、 「∆x と ∆y の 1 次微少量で」変化しないという意味で、2 次微少量まで考えると f の値は変化している。 質点の運動をストロボ写真にとれば、軌道は、 「各フラッシュ時での質点の位置」の集まりで (近似的に) 指定できる。この軌道指 定法の、フラッシュ間隔を無限小にした極限が、ここで考えている { r(t) }ti ≤t≤tf である。 2 これから考えることは、始点 x(li ) と終点 x(lf ) を、それぞれ xi と xf に固定し、その途中経路は自由に 動かせるものとした場合に、(1.7) 式を停留させる関数 x(l) を求めることである。そこで、(1.2) や (1.4) 式と 同様に考えて、微少にずれた2つの経路、x0 (l) と x(l) での汎関数 I の値を比較する。 ζ(l) := x0 (l) − x(l) として (よって、ζ(lf ) = ζ(li ) = 0)、 ∫ ∫ lf ( 0 ) 0 0 dl F x (l), ẋ (l), l − δI := I[ x ] − I[ x ] = ∫ [ lf = dl lf ( ) dl F x(l), ẋ(l), l li li ( F x0 (l), ẋ0 (l), l ) ( − F x(l), ẋ(l), l )] (1.8) li ( ) d x(l) + ζ(l) dx0 (l) dx(l) dζ(l) ここで、F x, ẋ, l を x、ẋ、l の関数と考えると、 = = + から dl dl dl dl ( ) ( ) ( ) ( ) F x0 , ẋ0 , l − F x, ẋ, l = F x + ζ, ẋ + ζ̇, l − F x, ẋ, l (1.9) ( ) = N ∑ ∑ ∂F ∂F + ζ̇ k k ∂x ∂ ẋk N ζk k=1 (1.10) k=1 よって (1.8) 式は、部分積分を使って整理すると、 ∫ lf δI = li ∫ lf = li ∫ lf = li N [ ∑ ∂F ∂F ] + ζ̇ k (l) k ∂x ∂ ẋk k=1 ( ) ] [ ]l=lf N [ ∑ d ∂F ∂F ∂F k k − ζ (l) + ζ (l) dl ζ k (l) ∂xk dl ∂ ẋk ∂ ẋk l=li k=1 ( ) ] N [ ∂F ∑ d ∂F ζ k (l) dl − ∂xk dl ∂ ẋk dl ζ k (l) (1.11) k=1 を得る。最後は、ζ(lf ) = ζ(li ) = 0 を用いた。 すべての l (li ≤ l ≤ lf ) に対して、ζ k (l) を各々自由に動かしても、δI = 0 となるのが I を停留にする関数 x(l) なのだから、停留条件は 0= ∂F d − ∂xk dl ( ∂F ∂ ẋk ) (k = 1, 2, · · · , N ) , (1.12) で与えられる。この方程式を Euler-Lagrange の方程式と呼ぶ。 ( ) この導出から分かるように、変数変換 x(l) → y(l) = y x(l), l によって、汎関数 I を関数 x の汎関数で はなく、y の汎関数とみなした場合も、それから導かれる Euler-Lagrange 方程式の形は変わらない、という 性質を持つ。つまり、 ∂ F̃ d 0= − k ∂y dl ( ∂ F̃ ∂ ẏ k ) (k = 1, 2, · · · , N ) , ( (1.13) ) となる。ここで F̃ は、F を y 、ẏ 、l の関数と見做すことを意味する。即ち、y(l) = y x(l), l を x(l) につい ( ) て逆解きした x(l) = x y(l), l を用いて、F̃ (y, ẏ, l) := F ( x(y, l), ẋ(y, l), l ( ) に対して、変数変換 x → y = 2x をした場合、F̃ (y) := F x(y) = y 2 /4)。 ) である (例えば、F (x) = x2 1.1.1 変分原理の利用例 測地線問題: 2点を結ぶ最短距離 −→ 直線 Fermat(フェルマー) の原理: 2点を結ぶ光線経路 等周問題: −→ 反射・屈折の法則 一定長さのロープで、土地を囲んだとき、面積最大となる形状は? −→ 円 −→ 懸垂線 懸垂線問題: 一定長さをロープを、端点を固定して吊した場合、その形状は? 最速降下線: 重力に引かれて運動する物体が、地表上の2点を最短時間で行き来できるトンネル形状 は? −→ サイクロイド曲線 3 1.2 Hamilton の原理 ¶Hamilton の原理 ³ ( 質点の運動が、一般化座標 q(t) = q1 (t), q2 (t), · · · , qN (t) ) は、始点 q(ti ) = qi と終点 q(tf ) = qf が定まった軌道群の中で、作用積分 ∫ tf S[ q ] := ( ) dt L q(t), q̇(t), t (1.14) ti を停留するものである。 つまり、実際の運動は δS[ q ] = 0 を満たすものとして与えられ、運動方程式はそれから導かれる Euler-Lagrange 方程式 ∂L d 0= − ∂qi dt ( ∂L ∂ q̇i ) (i = 1, 2, · · · , N ) (1.15) に他ならない。ここで、L は Lagrangian(ラグラジアン) と呼ばれる。 µ ´ 例えば、x 軸上を運動する質量 m の質点の Lagrangian として ( m L x(t), ẋ(t), t ) = 2 ( dx(t) dt )2 ( ) − U x(t) (1.16) を考えると、 ∂L dU =− ∂x dx ∂L = mẋ ∂ ẋ (1.17) より、Euler-Lagrange 方程式は 0=− dẋ dU d2 x ∂U −m =− −m 2 , ∂x dt dx dt −→ m d2 x dU =− dt2 dx (1.18) となり、力がポテンシャル U (x) によって F (x) = −dU/dx で与えられる場合の運動方程式を導く。 これから容易に推測できるように、空間を運動する質量 m の質点に、ポテンシャル力 Fi (x) = −∂U/∂xi がはたらいている場合の運動は、Lagrangian ( m L x(t), ẋ(t), t ) = 2 ( から導かれる。 4 dx(t) dt )2 ( ) − U x(t) (1.19) 2 Noether の定理 ∼ 対称性と保存量 ∼ 2.1 序 運動方程式は、(少なくともポテンシャルが導入できるような場合について) 作用 (汎) 関数に対する「最小 作用の原理」から導かれる Euler-Lagrangian 方程式と等価であることを見た。 もちろん、等価であるならば、どちらで記述しようがそれは好みの問題だが、Lagrangian 形式による定式 化の方が、実利・概念の両面においてより便利である。 実利面における利点: 1. 質点の位置を記述する座標によらず、Euler-Lagrangian 方程式の形は同一である。つまり、 ( ) ) ( ∫ tf ( ) ∂L d ∂L S[ q ] = dt L q, q̇, t → − =0 ∂qk dt ∂ q̇k ti (2.1) ならば、旧座標 q と q = q(q 0 , t) によって一対一に結び付く新座標 q 0 に対しても、 ∫ tf ( ) S̃[ q ] = dt L̃ q 0 , q̇ 0 , t , t ( ( )i ) ∂ L̃ ∂ L̃ d −→ − =0 ∂qk0 dt ∂ q̇k0 0 ( ) ( dq(q 0 (t), t) ) L̃ q 0 , q̇ 0 , t := L q(q 0 , t), ,t dt (2.2) (2.3) と同形の方程式が成立し、これが新座標系での運動方程式を与える。 2. 上の事実より、様々な座標における運動方程式を得る事が容易。 実利的な利点については、講義において、直交座標系での運動方程式から極座標系での運動方程式への変換 を例に取って説明した。 本講では、Lagrangian 形式の概念的な利点 – 保存則と対称性の関係 – について説明する。 2.2 Noether の定理 自然界の現象を微細に記述しようとすると当然複雑なものになるが、 「まずは現象を理解したい」と考えた とき、時間が経過しても変わらない保存量に着目するのが、記述の上でも、また運動の定性的理解にとっても 有用である。 では、どのような場合に保存量が存在するのだろうか?さらに、経験的に保存量の存在が既知である場合、 その現象を司る理論はどのような性質を持つべきだろうか?これが分かると、基礎理論の候補を絞る上で非常 に有難い。そこで、 「 (保存量の存在)と(基礎理論の性質)の間に、密接な関係がないだろうか?」 という問題に興味が湧く。 例えば、力が時間に依存しない場合はエネルギーが保存する。 「力が時間に依存しない」ということは、たっ た今からある初期条件の下で実験を始めた場合と、任意の時刻 (例えば 1 年後) から同じ初期条件下で実験を 始めた場合とで、起こる現象は同じであることを意味する。このことから、エネルギー保存則が、 「時間の原点 を任意に変えても、運動は変らない」という系の性質 (時間推進不変性) と関係していることを示唆する。 このように、一般に、 「保存量の存在は、系が持つ対称性と密接なつながりがある」 5 と予想されるが、この予想に肯定的に答えるのが、Noether (ネーター) の定理である: ある (連続) 変換に対して、作用が不変ならば、運動方程式が成立するところで、保存量が存在する。 以下では、上記の言明の正確な意味と、定理の成り立ちを見てみる。 Noether の定理の証明 2.2.1 簡単の為に、1 次元空間の質点の運動を考える。 その運動が、次の作用積分で与えられるとする。 ∫ tf S[ x ] = ti ( dx(t) ) dt L x(t), ,t dt (2.4) この系に対し、仮想的に、時刻および質点の位置を t −→ t0 (t) = t + ∆t(t) 0 0 x(t) −→ x (t ) = x(t) + ∆x(t) (2.5) (2.6) のように変化させた場合に、作用がどれだけ変化するかを評価する。 この対応関係から分かるように、質点の位置ずれは、経路自体の変更によるものだけでなく、異なる時刻を 比較対応させていることから生じる変化分も含まれている。 仮想変位後の経路に沿った作用は、 S 0 [ x0 ] = ∫ t0f t0i ( dx0 (t0 ) 0 ) dt0 L x0 (t0 ), ,t dt0 (2.7) であるが、これを元の経路に沿った作用 Eq.(2.4) の値と比較することを考える。 そのためには、仮想変位後の経路上での速度 dx0 (t0 )/dt0 を、元の経路上での速度 dx(t)/dt と結び付ける必 要がある。その準備として、まず、2つの経路を同時刻で比較した場合の変分 δx(t) := x0 (t) − x(t) を導入す る*5 。なぜなら、この同時刻比較による変分 δ は、 ) dx0 (t) dx(t) dδx(t) d( 0 dx(t) = x (t) − x(t) = − =δ dt dt dt dt dt (2.8) のように、時間微分と変分が交換できるので計算上便利だからである。 さて、 x0 (t0 ) = x(t0 ) + δx(t0 ) = x(t + ∆t) + δx(t + ∆t) [ ] [ ] dx(t) dδx(t) = x(t) + ∆t + O (∆t)2 + δx(t) + ∆t + O (∆t)2 δx dt dt [ ] [ ] [ ] dx(t) dx(t) = x(t) + ∆t + δx(t) + O (∆t)2 + O ∆t δx = x(t) + ∆t + δx(t) + O (2) (2.9) dt dt [ ] (ここで、(∆t)2 や (∆t)(δx) といった、2 次の微小量を、面倒なので、まとめて O (2) で表した) である から、 ∆x(t) = δx(t) + ∆t *5 [ ] dx(t) + O (2) dt 変分 ∆x(t) はその定義から明らかなように、2つの経路を、異なる時刻 t0 (t) と t で比較している。 6 (2.10) さらに、時刻 t0 における x0 の速度 dx0 (t0 )/dt0 は、 ¯ ¯ ¯ ¯ [ ] dx0 (τ ) ¯¯ d dx0 (τ ) ¯¯ dx0 (τ ) ¯¯ dx0 (t0 ) dx0 (τ ) ¯¯ = + ∆t + O (2) = = ¯ ¯ ¯ ¯ 0 dt dτ τ =t0 dτ τ =t+∆t dτ τ =t dτ dτ τ =t 0 2 [ ] dx (t) d x(t) = + ∆t + O (2) dt dt2 [ ] dx(t) dδx(t) d2 x(t) = + + ∆t + O (2) 2 dt dt dt (2.11) と表される。これから、 ( ∆ dx(t) dt ) [ ] dδx(t) d2 x(t) dx0 (t0 ) dx(t) − = + ∆t + O (2) 0 2 dt dt dt dt [ ] d (∆x(t) − ẋ(t)∆t) d2 x(t) = + ∆t + O (2) 2 dt dt [ ] d∆t d∆x(t) − ẋ(t) + O (2) = dt dt := (2.12) (2.13) である。 以上の準備により、仮想変位後の作用 Eq.(2.7) を書き換える。それには、2 通りの方法がある。 まず一つは、t0 と t の関係 Eq.(2.5) を用いて、S 0 [ x0 ] を t の定積分で表す方法で、 0 0 ∫ dt0 ( 0 0 dx0 (t0 ) 0 ) L x (t ), ,t dt dt0 ti ( ) ∫ tf ( d∆t dx0 (t0 ) 0 ) dt 1 + = L x0 (t0 ), ,t dt dt0 ti ∫ tf ∫ tf ( ) [ ] dx0 (t0 ) 0 ) d∆t ( = dt L x0 (t0 ), , t + L x, ẋ, t + O (2) dt 0 dt dt ti ti ] [ ∫ tf ) [ ] ( ) d∆t ( L x, ẋ, t + O (2) = S[ x ] + dt ∆L x, ẋ, t + dt ti S [x ] = tf dt (2.14) である。ここで、 ( ( ) dx0 (t0 ) 0 ) ∆L(x, ẋ, t) := L x0 (t0 ), , t − L x, ẋ, t 0 dt (2.15) もう一つの方法は、S 0 [ x0 ] の積分変数 t0 を、別の変数、例えば s や τ などを用いて書いても、積分値 S 0 [ x0 ] は代わらないことを利用する。積分変数 t0 の代わりに、あえて t を用いると ∫ t0f ( dx0 (t) ) ,t dt L x0 (t), dt t0i ∫ tf ( dx(t) ) dt L x(t), = S[ x ] − ,t dt ti ∫ t0f ∫ tf ∫ ti ( 0 ( 0 ( dx0 (t) ) dx0 (t) ) dx0 (t) ) dt L x (t), + dt L x (t), ,t + ,t + ,t dt L x0 (t), dt dt dt tf ti t0i [ ] ∫ tf ( ( dx0 (t) ) dx(t) ) = S[ x ] + dt L x0 (t), , t − L x(t), ,t dt dt ti ( )¯¯ ( )¯¯ [ ] + ∆tf L x, ẋ, t ¯ − ∆ti L x, ẋ, t ¯ + O (2) t=tf t=ti [ ( ) ] ( ) ∫ tf [ ] [ ( ) ]tf ∂L x, ẋ, t dδx(t) ∂L x, ẋ, t + O (2) + ∆t L x, ẋ, t = S[ x ] + dt δx(t) + t i ∂x dt ∂ ẋ ti [ ]t ∫ tf ( ) [ ] δS[ x ] ∂L(x, ẋ, t) f dt δx(t) = S[ x ] + + ∆tL x, ẋ, t + δx + O (2) (2.16) δx(t) ∂ ẋ ti ti S 0 [ x0 ] = 7 ここで、 ( ) ( ) ∂L x(t), dx(t)/dt, t ∂L x(t), dx(t)/dt, t δS[ x ] := − δx(t) ∂x(t) ∂ ẋ(t) (2.17) であり、δS[ x ]/δx(t) = 0 が運動方程式を与える。 よって、Eqs.(2.14) と (2.16) から、Eqs.(2.5) と (2.6) の組で与えれらる任意の仮想変位に対して、 ∆S[ x ] := S 0 [ x0 ] − S[ x ] [ ] ∫ tf ( ) d∆t ( ) [ ] dt ∆L x, ẋ, t + = + O (2) L x, ẋ, t dt ti [ ( ) ]tf ∫ tf ( ) [ ] ∂L x, ẋ, t δS[ x ] dt δx(t) = + ∆t L x, ẋ, t + δx + O (2) δx(t) ∂ ẋ ti (2.18) (2.19) ti が成立する。 この後者の式から、運動方程式が成立するところで、 [ ] [ ] ∆S[x] = − N (tf ) − N (ti ) + O (2) ( ) ( ) ( ) ∂L x, ẋ, t ∂L ∂L N (t) := −∆t L x, ẋ, t − δx = ∆t ẋ − L − ∆x ∂ ẋ ∂ ẋ ∂ ẋ (2.20) (2.21) が成り立つ。この N (t) を Noether current という。これから、∆S[x] = 0 となる仮想変位に対して N (t) = 定数 が導かれる。つまり、保存量 N (t) の存在が言える。 2.2.2 Noether の定理の例 エネルギー保存 時間推進対称性 時間推進: ∆t = ² (= 定数) ∆x(t) = 0 (2.22) で作用が不変であるとき、系は時間推進対称性をもつと言い、この対称性に結び付いた Noether current は Eq.(2.21) より、Hamiltonian H := ẋ ∂L −L ∂ ẋ (2.23) である。つまり、時間推進対称性はエネルギー保存則を導く。 運動量保存 空間推進対称性 空間推進: ∆t = 0 ∆x(t) = ² (= 定数) (2.24) のもとで対称な系では、運動量 p := ∂L ∂ ẋ (2.25) が保存する。つまり、空間推進対称性は運動量保存則を導く。 これらの他にも、回転対称性には 角運動量保存則 が結び付き、電磁気学で登場したゲージ対称性には 電荷保存則 が結び付いている。もちろん、ここで挙げられた例は一例に過ぎない。 今や、「対称性と保存量の対応」は現代物理学における基礎概念の一つとなっている (素粒子物理や場の理論 のテキストで、これに触れていないものはないであろう)。 8
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