「強さとは何か」植物の強さから学ぶ、人間の生き方 ―熊本地震、植物の

「強さとは何か」植物の強さから学ぶ、人間の生き方
―熊本地震、植物の生命力に再起の力をもらう―
倒れても鮮やかな花をつけ続けた、
カーネーション
「植物は強いな」と栽培農家はその生命力の強さに驚いたという。
熊本地震で被害を受けた熊本県甲佐町の農園「清住フラワーファーム」では、5月8日の母の日を前にカーネーションの
出荷作業に追われていた。熊本県は、カーネーションの全国有数の生産地だ。(全国第9位、7610千本、2014年)【注】
「ビニールハウス内の地面は地割れして、鉢が倒れたり、水道管が壊れて水やりができなくなりました。さらに、最も深
刻だったのは、地中に設置されたパイプの破損。3日間、水を与えられなかった花は痛んでしまい、廃棄することを迫ら
れました。廃棄される花の山を前に呆然とするしかありませんでした。しかし、そこで目に飛び込んで来たのは、倒れて
も鮮やかな花をつけ続けた、カーネーションの姿でした」
「本当に、ハウスに最初入った時は『これはもうだめだ、全滅だな』と思っていました。やっぱり植物は強いな。この強さ
を自分たちも見習わないといけないなと感じています。その生命力に再起への決意を新たにしました」とその感動を生産
者は語る。
地震に負けず、少しでも多くのカーネーションを出荷したい。それが復興につながると話す生産者は、4万鉢のうち半数
の2万鉢の出荷にこぎつけた。
農業用ハウス栽培で少しでも幸せを届けて挙げたいという生産者の願い。しかし、一連の地震で、栽培農家も大きな
被害を受けていた。
【注】:カーネーションの2014年生産量(出荷量)日本一は長野県(50,500千本、シェア17・8%)。次いで愛知県(49,100
千本)、兵庫県(32,400千本)、北海道、(30,600千本、シェア10・8%)と続く。全国では283,000千本の生産をしている。
下を向いていたら太陽の光は当たらない
熊本地震で、生産者は農園のカーネーションの「植物の強さ」から再起、生きる力をもらった。
植物は動物のようには動かないし、何気なく生えているような気がするかも知れないが、この自然界を生きるために、さ
まざまな生きる知恵や工夫を発達させて進化してきた。
植物は動かないから弱い、弱いからこそ、強い植物のいない場所、つまり人に踏まれてしまうような悪条件で繁殖する
ようになったのだ。
『植物はなぜ動かないのか』(稲垣栄洋著、ちくまプリマー新書)から学んだ。本書は「強さとは何か」をテーマに、植物
の優れた戦略を駆使して自然を謳歌する豊かな生き方を紹介する。弱肉強食の自然界で悪条件を利用するなど、植物
の生態、本能は人間の生き方にも共通するものがある。著者は植物の強さから、人間の生き方、あり方との共通性を指
摘する。
「植物ほど不思議なものはない。意思を持たないにもかかわらず、どんな環境にも適応し、子孫を残そうとする。風に吹
かれ、踏みつけられ、時には不運な場所に生まれても一切文句を言わずに力強く生きていくのだ。そんな植物たちの生
命力は、すぐに折れそうになってしまう人間の心を支えてくれる魅力がある。下を向いていたら太陽の光は当たらない。
踏まれても蹴られても、植物の様に、いつでも太陽の光が届く場所を求めて、積極的に動いていきたい。それがこの世
に生を授けられた生物の務めなのかもしれない」
「生物は常にほかのものとの生存競争を強いられている。しかし、馬鹿正直に正面から戦えばいいというものではな
い。ほかのものが利用していない食物や場所を獲得できれば、戦わずして勝利することができる。こうやって生物はみな
独自の道を歩み、多様性が生まれることになった。これは我々の人生にも当てはめられることだ。
ヒトの『強さ』は一つだけではない。数え切れないほどの多種多様な『強さ』が存在する。既存の価値観にしばられるこ
となく、それぞれが独自の生き方をしていくからこそ多様性があり、ヒトは面白くなるのだ。そんな人生の可能性を、植物
の生き方は教えてくれる」
「自然界の競争の激しさは、人間社会の競争と比べものにならないだろう。お互いが助け合う共生関係のために植物
がしたことは何だっただろうか。植物は昆虫に花粉を与え、密を与えた。そして、鳥たちには甘い果実を用意した。こうし
て、結果的に自分の利益よりも、まず相手の利益のために『与えること』、それが共生関係を築かせたのである。
キリスト教の言葉に『与えよ、さらば与えられん』というものがある。この言葉を説いたキリストが地上に現れる遙か以
前に、植物はこの境地に達していたのである」植物は動けないから、逃げることなく環境を受け入れて、自分自身を変え
ている。そんな植物の生き方、植物の強さは、商売や仕事のやり方に行き詰まっているときに現状を打破し、常識や既
成概念にとらわれない新しい発想、新たな一歩を踏み出すヒントになるかもしれない。
熊本地震で、カーネーションの生命力から、我々は貴重な生きる教訓、応援花(?)をもらった。
本誌編集長 佐藤 公(さとうたかし)