自給飼料を利用した和牛繁殖の実証的調査研究(2)

日本農業研究所研究報告『農業研究』第27号(2014年)p.427~441
自給飼料を利用した和牛繁殖の実証的調査研究(2)
小 川 増 弘 ・ 吉 沢 哲
目 次
1 はじめに 2 気象状況 3 作業・労働時間 4 飼料生産と放牧 5 土壌及びサイレージの分析
6 繁殖牛の動向と繁殖実績
7 子牛の販売 8 今後に向けた課題
9 参考文献 10 その他
1 はじめに
実験農場が2011年以降に黒毛和種の子取り繁殖経営に特化することになった
経過に伴って、自給飼料生産と利用並びに繁殖牛の繁殖成績と子牛の販売実績
などがどのような状況になっているかを前報(小川、吉沢 2013)に報告した。
本報では飼料生産や子牛生産について、その後の経過について項目ごとに取り
まとめることとした。
農場に内在する問題としては、繁殖牛の飼養頭数の増頭に伴って頭数当たり
の牧草地面積が縮小したこと、作業を実施する職員の高齢化が進んでいること
が挙げられる。外的な環境としては飼料価格の高止まりもあって粗飼料を含め
購入飼料に充てる経費増がある。また、家畜市場における子牛の取引価格の上
昇は短期的にみると子取り経営にとっては収益増となっているがこのことにつ
いては長期的に検証する必要があろう。
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2 気象状況
2013年1月から2014年9月までの月ごとの降水量、降雨日数(1日当たり1
mm以上降雨のあった日数)、平均気温、日照時間について、平年値(1981年か
ら2010年の30年間の平均)との比較を図1~4に示した(気象庁データ:観測
地はつくば市舘野)。降水量は2013年次は年間おおよそ1,280mmで平年値と変わ
らなかったが10月については1カ月間で417mmであり平年値の2.5倍と多かっ
た。これは降雨日数が多かったことと合わせて、後述するように牧草地の更新
作業に影響を及ぼした。2014年次は9月までの数値であるが、降水量は平年値
よりも20%以上多く、特に6月が平年の2.5倍多かった。降雨日数はすでに記
述した通り2013年10月が平年より多かった(1.4倍)がその他はおおむね平年
値に近似していた。平均気温は2013年次の7月及び9月が平年より1℃、8月
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が1.7℃それぞれ高く、年間の平均気温は0.7℃高かった。2014年次は9月まで
のデータであるが、5月から7月が平年より1℃以上高く推移し、9月は反対
に1℃低く、期間内の平均気温は0.5℃の上昇にとどまっている。日照時間は
この期間平年より10%多く推移した。
3 作業・労働時間
農場の作業を大きく分けると家畜飼養に関わるもっぱら人力による作業と大
型農業機械を利用して行う機械作業に分けることができる。過去に実施した農
場内の調査結果では家畜管理作業は全体のおおよそ60%を占め、その中で55%
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が哺乳牛(子牛を母牛から分離して3カ月齢頃まで)の管理で最も多く、繁殖
牛と育成牛についてはともに20数%であった。一方、機械作業はおおよそ40%
であるがその中の45%を飼料生産・調製が占め、草地更新、堆肥調製及び放牧
管理の順に多くの時間を要するという結果であった。2014年現在の作業者は常
勤職員が2名、非常勤雇用が1名である。3名のうち2名は60歳を超えており、
1名は50歳代の後半である。
農場に勤務する職員が年間に可能な作業時間は単純に計算すると、3人の合
計が3,700時間程度と考えられる。一方、畜産物生産費統計(平成24年度、農
林水産省)によると子牛1頭当たり労働時間は繁殖牛50頭以上では76時間、地
域別でみると関東・東山が107時間となっていることから、労働時間からみた
子牛生産の限度は、前者によると50頭、後者によると35頭である。これに加え
て、農場の場合は給与する粗飼料をできるだけ自給飼料で賄うという基本方針
から、飼料生産に充てる時間は上記の統計資料(子牛1頭当たりの自給牧草に
係る労働時間が50頭規模以上では9.35時間、関東・東山では12.26時間)より
も多いと考えられる。
4 飼料生産と放牧
以上の条件の中で飼料生産とその利用についてどのような作業が可能である
かを今までの経過を踏まえて考えた結果として、牧草生産・サイレージ調製と
放牧を組み合わせることとした。
採草地については、収量を確保するために単年生のイタリアンライグラスを
取り入れ、一方では収穫・調製作業の集中を避けて作業の平準化を進めるため
に永年生牧草を取り入れることとした。永年生牧草の草種は、従来から主要草
種として利用していたオーチャードグラスは耐暑性が弱いことからそれにトー
ルフェスクを混播して草地更新の間隔を広げようとしたがこの狙いについては
十分に進捗しているとは言えないが、自家産の堆肥を全量施用することによっ
て化成肥料の施用量の削減に努めた。
放牧については放牧地が牛舎を中心にして主に4つの圃場に分かれているこ
とから、牧草地の効率的な利用のために輪換放牧を実施している。取り入れて
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いる草種は採草地の永年生牧草と同様である。農場内の圃場が限定された条件
では飼養頭数を増加してもそれに見合った放牧地を確保できない課題が発生す
る。
ロールベール調製については、更新圃場が2013年10月の天候不順によって永
年生牧草の草地では播種が遅れたことから2014年度に収穫できない圃場が発生
した。そのために、ロール数は前年よりも12%減少した。収穫できた圃場につ
いては、面積当たりロール数には前年と大きな差異がなかった(表1)。刈り
取りからロール調製の間に予乾の工程があり、この期間に降雨に当たると調製
したサイレージは質的にも量的にも大きな損失となるが、2014年度に関しては
予乾工程で降雨を避けて作業が行われた。
2013年度の放牧期間は
4月10日~9月29日で休
牧日を除いた利用日数は
112日、延べ5,803頭・日
で あ っ た。2014年 度 に
ついては暫定値である
が、利用日数は93日、延
べ4,795頭・日であった。
採草地と同様に放牧地
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についても更新圃場の一部が2013年10月の降雨の影響で更新作業が遅れ、その
ような圃場では春の放牧ができなかったために年間の延べ放牧日数は17%減少
し、なかでも4月及び5月の延べ放牧頭数・日は、前年よりそれぞれ、29%、
34%少なかった(表2、図5)。
5 土壌及びサイレージの分析
牧草地の土壌分析結果とその判定を表3に示した(分析結果及びその判定は
(株)雪印種苗の提供による)。今回採取した試料についてはリン酸吸収力が強
い、保肥力が強い、pHと電気伝導度は適正、置換性MgOと置換性K2Oは高い、塩
基飽和度は低いという結果であった。有効性リン酸及び置換性CaOは適正の試
料と低かった試料が混在した。
サイレージの飼料成分については(株)雪印種苗の提供によるが、乾物率が
高く、乾物中の粗蛋白質は低く、TDN含量も低かった。繁殖牛向けの粗飼料と
してみると、粗蛋白質は低すぎ、TDN含量についてはやや低いのではないかと
思われる。硝酸態窒素含量は非常に低く中毒発生に関しては問題ない水準であ
る。オーチャードグラスについてはカリウム含量がやや高くテタニー比がやや
高かったので注視する必要がある(表4)。発酵品質については、水分含量が
極端に低かったことから乳酸以外の有機酸はほとんど認められないか、わずか
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しか含まれず、その結果、Vスコアは100点あるいはそれに近い数値であった
(表5)。今後の試料採取については点的ではなく面的な把握ができるように番
草ごとに行うなど幅を広げた測定が望まれる。
6 繁殖牛の動向と繁殖実績
2013年度は繁殖牛(14カ月齢以上を対象とした)の平均飼養頭数(各月の月
初めと月末の飼養頭数の平均をその月の飼養頭数として、12カ月を平均して求
めた)は60 ~ 62頭で推移し平均すると60.7頭であった。多産の高齢牛や低受
胎牛を3頭淘汰する一方で自家産もと牛4頭を後継牛とした。2014年(4月~
9月までの上半期、但し暫定値、以下同様とする)では平均飼養頭数は59.7頭
で、この間に3頭を淘汰し後継牛が1頭参入した。淘汰した3頭の内、1頭は
1産後の淘汰であり、1頭は未経産での淘汰であったことから若齢繁殖牛の飼
養管理に課題を残した。
分娩頭数は2013年度と2014年度上半期それぞれ54頭と31頭で、両期間それぞ
れを性別に分けてみると雄子牛33頭と11頭、雌子牛は19頭と18頭であった。こ
の期間にはその他に3頭の死産と出産後の子牛死亡が1頭あった。生時の体
重は雄子牛、雌子牛ともに29kg台で大きな差異はみられなかった。生時体重が
25kg以下の低体重子牛は2013年では8頭(15%)、2014年上半期では2頭(6%)
であった。
分娩した繁殖牛の平均産次は2013年度が6.1産、2014年度上半期が5.3産で
あった。分娩間隔は2013年度が12.5カ月、2014年度上半期が11.9カ月であった。
初産月齢については2013年度に10頭が該当したが、その平均は25.3カ月であり
2カ年を1カ月以上超えた。初産が30カ月齢を超えた1頭が平均の月数増加へ
影響をもたらした。この繁殖牛については初回受精後に獣医師によって排卵障
害との診断が下された経緯がある。分娩牛の平均受精回数は2013年度は1.75回、
2014年上半期1.43回、両期間を合わせると1.64回であった。受胎率については、
それぞれ、57.1%、69.9%、61.0%であった(表6)。
各項目について、若干の検討を加える。先ず産次数について産次数ごとに度
数分布を調べたところ、2013年度は1産次の分娩が最も多かったが2014年度上
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半期では2産次の分娩が多くなった。現在のところ(2014年上半期末期)2~
3産次の分娩と8及び11産次分娩が多くなっている。牛群全体をみると若い繁
殖牛と産次を重ねた高齢の繁殖牛が多く、5~7産の繁殖牛が少ないことから
牛群の更新が始まって道半ばの状態と言えよう(図6)。分娩間隔について期
間ごとの度数分布をみると13カ月未満が80%であるが、14カ月までを含めると
90%に達した(図7)。このように、分娩間隔は12.3カ月でほぼ年1産に近い
結果を得たが、一方で6頭(8%)が15カ月を超えていることは避けたい課題
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である。初産の10頭について月齢ごとに分布をみると、10頭中6頭は24カ月齢
あるいはそれ以下であったが、1頭が30カ月齢すなわち2歳半に達したことに
ついては既述した通りである(図8)。受精回数について受胎に要した回数ご
との度数分布をみると1回の受精での受胎が62.5%、1回と2回の受精での受
胎を合わせると86%であった(図9)。2013年度及び2014年上半期を含めて受
精回数と分娩間隔の散布図をみると、受精回数の増加につれて分娩間隔は長く
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なる傾向が示された(図10)。
得られた回帰式は以下の通りである。
Y=47.7X+299.8(r=0.751(1%水準で有意))
Y:分娩間隔(日数) X:受精回数(回)
この回帰式から、1回の受精増につれて分娩間隔は50日近くの増加となり、
発情周期である21日の倍以上となっている。このことから、分娩間隔が長くなっ
た繁殖牛については、受精後に受胎しなかったという現象の他に複雑な要因の
関与が予想される。
酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針(2010年7月)及び家畜
改良増殖目標(2010年7月)によれば、肉用牛(繁殖)経営指標において、初
産月齢は24.5カ月を23.5カ月、分娩間隔は13.3カ月を12.5カ月にすることを将
来目標にしている。繁殖成績の取りまとめに当たって参考とした。
7 子牛の販売
子牛を出荷してるJA全農いばらき家畜市場では、2013年度の後半頃から取
引価格(消費税込み)が上昇した。当該市場の2012年度平均取引価格は雄子牛
478千円、雌子牛381千円であったのに対して2013年度はそれぞれ、542千円、
451千円(2012年度を100とすると、それぞれ110、118)、2014年度上半期では
さらに上昇しそれぞれ582千円、490千円(同様に、122、129)となった(表7)。
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但し、2014年度上半期については消費税がそれまでの5%から8%に増加したこ
とによる増加分が含まれている。農場が出荷した子牛の平均取引総額は2013年
度が雄子牛、雌子牛それぞれ524千円、434千円、2014年度上半期がそれぞれ、
532千円、476千円となり市場の平均と比較して14千円から50千円低かった。最
も差が大きかったのは2014年度上半期の雄子牛で50千円の差異であったが、こ
の場合には出荷体重の平均は農場出荷と市場平均に2kgしか差異がなく、単価
が150円(8%程度)低かったことが大きく影響していた。その他の場合につ
いてみると2014年度下半期の雌子牛については、出荷体重平均は市場平均より
わずかながら高かったが単価は80円(率にして4.5%)と低くかったことが取
引総額のやや低い結果となった。
出荷した子牛について、出荷体重と販売総額の散布図を示した(図11)。体
重が重い子牛ほど販売額は高くなり、雄子牛と雌子牛を合わせた全体の相関係
数(r)は0.684(1%水準で有意)と高く、回帰式を求めた結果、次の式を得た。
Y=1.69X+22.29 Y:販売価格(千円)X:市場で測定された体重(kg)
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上記のとおり、今回の限定された期間(この期間の特徴としては取引価格が
上昇していることが指摘できるであろう)においては現象として、販売総額は
出荷時の体重が大きく影響していたと言えよう。このように販売価額は体重と
正の相関がある一方で、寄与率は0.47であったことから残りの半分以上は他の
要因に影響されていることを意味している。子牛の販売価格については、遺伝
的な要因だけでなく生育状況などを含めて複雑に絡んでいると思われる。
農場では子牛の市場への搬送を他に依頼して実施している。数年前までは市
場が開設される前日の夕方に輸送していた。そのために輸送前に農場で測定し
た体重と比べて翌日に市場で測定した体重(この数値がセリで表示される)は
20kg程度減少していた。その後、開設当日の朝に輸送するようになり体重の減
少は10kg程度に減少した経緯があり、輸送変更の影響を留意する必要がある。
取引価格のもっとも大きな差異は雄子牛と雌子牛の間にあることから、性判
別精液を利用して肉用牛の場合は雄子牛が生産される確率を高くする技術が開
発されて、実際に性判別精液が販売されている。現状では受胎率が低いこと、
利用できる種雄牛が限定されていることなどの課題もあるようであるが、先取
りした取り組みが望まれる。
8 今後に向けた課題
1)自給飼料生産については、気象変動に対処するために早めの作業が必要で
ある。
2)自給飼料不足によって、若い繁殖牛に栄養不良が指摘されている。できる
だけ別飼いのスペースを確保することや飼料不足対策として10産を超える
高齢牛の淘汰が望まれる。
3)繁殖成績についてはおおむね良好であるが10%程度の低受胎牛が牛群全体
の成績低下の原因となっている。このため、低受胎牛については淘汰を含
めて早めに対処する必要がある。
4)子牛については、分娩から哺育・育成での損耗防止に努めて出荷頭数を最
大限確保する。
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9 参考文献
農林水産省 酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針 2010.7.
農林水産省 家畜改良増殖目標 2010.7.
小川増弘、吉沢哲 自給飼料を利用した和牛繁殖の実証的調査研究 農業研究 第26号 385 ~ 400 10 その他
下記の論文作成に協力した。
修士論文に関する研究協力
実施者の氏名、所属:高倉 梓
茨城大学大学院農学研究科 生物生産科学専攻
論文発表:2014年3月
論文タイトル:
家畜牛におけるネグレクトの実態と母牛の行動および生理的な特徴の解明
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