22 悪性リンパ腫および類縁疾患 malignant lymphoma and other

444 22 章 皮膚の悪性腫瘍
悪性リンパ腫および類縁疾患 malignant lymphoma and other hematopoietic tumors
概念
悪性リンパ腫(malignant lymphoma)はリンパ球系細胞由来
の悪性腫瘍である.皮膚の悪性リンパ腫〔皮膚リンパ腫(cutaホジキン
neous lymphoma)〕は非 Hodgkin リンパ腫の一つで,診断時に
皮膚以外の臓器で腫瘍細胞を認めない原発性皮膚リンパ腫(primary cutaneous lymohoma)と,他部位に原発病変があり,転移
巣として皮膚病変を生じる続発性皮膚リンパ腫(secondary cutaneous lymphoma)に大別される.以下,原発性皮膚リンパ腫
を中心に述べる.
分類
皮膚は消化管や鼻咽喉についで節外性リンパ腫を生じる頻度
が高い.原発性皮膚リンパ腫の分類にはさまざまなものがあっ
たが,2005 年に WHO/EORTC 分類が提唱され,統一されつ
つある(表 22.6)
.増殖細胞の由来から,T 細胞,NK 細胞,B
細胞,血液前駆細胞に大別され,さらに臨床所見や表面マーカ
ー,分化度などから分類される.日本では原発性皮膚リンパ腫
表 22.6 原発性皮膚リンパ腫の病型
皮膚 T 細胞・NK 細胞リンパ腫(cutaneous T cell lymphoma;CTCL / NK-cell lymphoma)
22
菌状息肉症(mycosis fungoides;MF)
Sézary 症候群(Sézary syndrome;SS)
成人 T 細胞白血病/リンパ腫(adult T cell leukemia / lymphoma;ATLL)
原発性皮膚 CD30 陽性リンパ増殖症(primary cutaneous CD30+ T-cell lymphoproliferative disorders)
・原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫(primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma)
・リンパ腫様丘疹症(lymphomatoid papulosis)
皮下脂肪織炎様 T 細胞リンパ腫(subcutaneous panniculitis-like T cell lymphoma)
節外性 NK/T 細胞リンパ腫,鼻型(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type)
種痘様水疱症様リンパ腫(hydroa vacciniforme-like lymphoma)
原発性皮膚 g /d T 細胞リンパ腫(primary cutaneous g /d T-cell lymphoma)
原発性皮膚 CD8 陽性進行性表皮向性細胞傷害性 T 細胞リンパ腫
(primary cutaneous CD8+ aggressive epidermotropic cytotoxic T-cell lymphoma)
原発性皮膚 CD4 陽性小・中細胞型 T 細胞リンパ腫(primary cutaneous CD4+ small/medium T-cell lymphoma)
末梢性 T 細胞リンパ腫,非特定(peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified)
皮膚 B 細胞リンパ腫(cutaneous B cell lymphoma;CBCL)
原発性皮膚辺縁帯 B 細胞リンパ腫(primary cutaneous marginal zone B-cell lymphoma)
原発性皮膚濾胞中心リンパ腫(primary cutaneous follicle center lymphoma:PCFCL)
原発性皮膚びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫,下肢型(primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, leg type)
原発性皮膚びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫,その他(primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, other)
血管内大細胞型 B 細胞リンパ腫(intravascular large B-cell lymphoma)
血液前駆細胞腫瘍(precursor hematologic neoplasm)
CD4+/CD56+ hematodermic neoplasm, blastic NK-cell lymphoma
(Kim YH, et al. Blood 110:479, 2007 を参考に作成)
悪性リンパ腫および類縁疾患/ A.皮膚 T 細胞リンパ腫 445
の 90%が T 細胞由来(皮膚 T 細胞リンパ腫)である.
検査・診断
病型の決定には病理組織学的検討が必須である.HE 染色に
加えて,各種表面マーカーや T 細胞受容体(TCR)
,免疫グロ
ブリン(Ig)の発現を免疫組織学的に検討する.TCR および
Ig 遺伝子再構成を検索することで腫瘍細胞の起源や単クロー
可溶性 IL-2 受容体
(soluble IL-2 receptor;sIL-2R)
ン性を調べる.病期決定を行うために各種画像検索(CT,PET,
超音波検査,消化管検査など)
,末梢血検査(フローサイトメ
トリー,LDH,可溶性 IL-2 受容体(MEMO 参照)
,HTLV-1 検査,
EBV 抗体価,ボレリア抗体など)
,骨髄穿刺(生検)
,リンパ節
生検などを考慮する.
以下,主な疾患について概説する.
A.皮膚 T 細胞リンパ腫 cutaneous T cell lymphoma;CTCL
そく にく
1.菌状息肉症 mycosis fungoides;MF
●
最も頻度の高い皮膚 T 細胞リンパ腫.
●
数年〜数十年にわたって慢性に経過.皮疹の形態により紅斑
期,局面期,腫瘍期に分類される.
●
末期まで他臓器への浸潤をみない.
●
病理所見で表皮内の異型リンパ球浸潤(ポートリエ微小膿瘍)
.
●
治療はステロイド外用や紫外線療法が中心.末期では化学療
法など.
症状
皮疹の形態(図 22.36)により経過を 3 期に分類する.初期
22
には湿疹・皮膚炎や乾癬に類似した皮疹が出現し,これが数年
〜 10 年以上続く(紅斑期)
.続いて浸潤を触れる扁平に隆起し
た皮疹を呈するようになり(局面期)
,さらに数年後には腫瘤
を形成してリンパ節転移や他臓器への浸潤をきたすようになる
(腫瘍期)
.
①紅斑期〔erythematous stage(斑状期:patch stage)〕
体幹や四肢に,さまざまな形状と大きさをもつ紅斑が多発,
軽度の落屑を伴う.軽い瘙痒を伴うことがあり,一見,脂漏性
ジベル
ひ こう しん
皮膚炎や乾癬,Gibert ばら色粃糠疹などと区別がつかない.ス
テロイド外用薬に反応することもあるが,一般的には皮疹は増
悪と軽快を繰り返しながら数年〜数十年かけて拡大する.進行
図 22.36① 菌状息肉症(mycosis fungoides)
紅斑期.
446 22 章 皮膚の悪性腫瘍
菌状息肉症の亜型・類縁疾患
に伴って皮膚萎縮や色素沈着(多形皮膚萎縮)をきたすことも
多い.局面状類乾癬(15 章 p.273 参照)は本症への移行が多く
みられ,紅斑期の一種と考えられている.
②局面期〔plaque stage(扁平浸潤期:infiltrative stage)〕
a
b
c
d
e
f
g
h
p
j
紅色ないし紅褐色で,扁平に隆起し浸潤を触知する.環状や
l
m
n
o
k
i
馬蹄状などの形態をとり,鱗屑を伴うことが多い.これが増悪
と軽快を繰り返しつつ,数年かけて次の病期へ移行.
③腫瘍期(tumor stage)
暗赤色のドーム状に隆起した弾性腫瘤が出現.当初は表面平
滑であるが,しだいにびらん,潰瘍化する.腫瘍期に至ると進
行は速くなり,リンパ節や肝臓,脾臓,肺などへの浸潤をみる
〔内臓浸潤期(stage of visceral dissemination)〕.白血化すること
はまれ.免疫能低下による感染症や内臓病変により,多くは 1
〜 2 年で死の転帰をとる.
病理所見
a
b
c
d
e
f
g
紅斑期:真皮浅層にリンパ球浸潤を認め,海綿状態を伴わない
h
図 22.36② 菌状息肉症(mycosis fungoides)
a:紅斑期.b:毛包向性を示す(folliculotropic MF).
22
j
p
l
m
n
o
k
i
表皮内へのリンパ球浸潤(表皮向性)や,一部では異型リンパ
球を認める.
局面期:真皮上層に,かなり密な帯状の細胞浸潤を認める.浸
潤リンパ球のなかには,核の形状が深くくびれた大型の異型細
胞もみられる.表皮向性も顕著になり,ポートリエ微小膿瘍
(Pautrier’
s microabscess, 図 22.37)と呼ばれる巣状の表皮内リン
パ球浸潤が多数みられる.
腫瘍期:表皮向性は軽度で,真皮全層および皮下組織まで異型
リンパ球が浸潤する.
浸潤する腫瘍細胞は CD4+T 細胞の表面マーカーを有する
(CD3+, CD4+, CD5−, CD20−).正常 T 細胞で発現する CD7 や
CD26 は,陰性になることが多い.
診断・鑑別診断
末期になるまで,血液や生化学的検査などでの異常所見はほ
悪性リンパ腫および類縁疾患/ A.皮膚 T 細胞リンパ腫 447
a
b
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図 22.36 ③ 菌状息肉症(mycosis fungoides)
a 〜 c:局面期.d 〜 l:腫瘍期.浸潤の強い潰瘍を形成する.
とんどない.診断は臨床および病理所見による.早期では特徴
的な所見が得られにくいため,疑わしい症例に関しては皮膚生
検を繰り返すこともある.組織の遺伝子再構成解析が有用であ
る.鑑別を要する疾患は,湿疹・皮膚炎(アトピー性皮膚炎な
ど),乾癬,類乾癬,成人 T 細胞白血病 / リンパ腫などである.
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22
448 22 章 皮膚の悪性腫瘍
遺伝子再構成解析
(gene rearrangement analysis)
図 22.37 菌状息肉症の病理組織像
紅斑期から局面期に相当する組織像.異型を伴うリ
ン パ 球 が 表 皮 内 に 侵 入 し, ポ ー ト リ エ 微 小 膿 瘍
(Pautrier's microabscess)を形成する.
治療
TNMB 分類(表 22.7)を決定し,治療法を考慮する.局面
期までの病変には PUVA や narrow band UVB などの光線療法
で,ある程度の進行を抑制する.ステロイド外用やインターフ
ェロン投与も行われる.腫瘍期などの進行例に対しては,電子
線照射や多剤併用化学療法(CHOP 療法など非 Hodgkin リンパ
腫に準じる,表 22.8)を行う.
セザリー
2.Sézary 症候群 Sézary syndrome;SS
●
原発性皮膚 T 細胞リンパ腫の一種.
●
強い瘙痒を伴う.紅皮症,表在リンパ節腫脹,末梢血中での
異型リンパ球出現の 3 主徴.
22
●
図 22.38 Sézary 症候群(Sézary syndrome)
強い瘙痒を伴う全身の潮紅.
病理所見および治療は菌状息肉症とほぼ同じ.
定義
紅皮症,表在リンパ節腫脹,末梢血中での異型リンパ球出現
の 3 主徴を有する原発性皮膚 T 細胞リンパ腫.現在では,表
22.7 で 示 し た TNMB 分 類 に お い て T4, B2 を 満 た す も の を
Sézary 症候群と診断する.
症状
50 歳以上の男性に好発.全身に落屑を伴う紅斑をびまん性
に認め,紅皮症(体表面積の 80%以上)の状態を呈する(図
悪性リンパ腫および類縁疾患/ A.皮膚 T 細胞リンパ腫 449
表 22.7 菌状息肉症・Sézary 症候群の病期分類(ISCL /EORTC, 2007)
T:皮膚病変の性質と範囲
T1:体表面積の 10%未満
T1a(斑のみ)
,T1b(局面を伴う)
T2:体表面積の 10%以上
T2a(斑のみ)
,T2b(局面を伴う)
T3:1 個以上の腫瘤形成(直径 1 cm 以上)
T4:紅皮症(体表面積の 80%以上)
ⅠA
T
N
M
B
1
0
0
0,1
ⅠB
2
0
0
0,1
ⅡA
1〜2
1,2
0
0,1
ⅡB
3
0〜2
0
0,1
ⅢA
4
0〜2
0
0
N:リンパ節
N0:臨床的に異常リンパ節なし #
N1:臨床的に異常リンパ節あり.組織学的に NCI LN0-2 *
N1a(クローン性増殖なし),N1b(クローン性増殖あり)
N2:臨床的に異常リンパ節あり.組織学的に NCI LN3 *
N2a(クローン性増殖なし),N2b(クローン性増殖あり)
N3:臨床的に異常リンパ節あり.組織学的に NCI LN4 *
Nx:臨床的に異常リンパ節あるが,組織学的確認なし
ⅢB
4
0〜2
0
1
ⅣA1
1〜4
0〜2
0
2
ⅣA2
1〜4
3
0
0〜2
ⅣB
1〜4
0〜3
1
0〜2
M:内臓
M0:内臓病変なし
M1:内臓病変あり(組織学的に確認)
*リンパ節の NCI 分類
NCI LN0:異型リンパ球なし
NCI LN1:随 所に孤立性異型リンパ球を認めるが,集
塊はつくっていない
NCI LN2:多数の異型リンパ球,または 3 〜 6 細胞の
集塊
NCI LN3:異 型リンパ球が大きな集塊をつくるが,リ
ンパ節の基本構造は保たれる
NCI LN4:異 型リンパ球または腫瘍細胞によってリン
パ節構造が部分的あるいは完全に消失する
B:血液
B0:末梢血リンパ球のうち,異型リンパ球の数が 5%以下
B0a(クローン性増殖なし),B0b(クローン性増殖あり)
B1:末梢血リンパ球のうち,異型リンパ球の数が 5% を超え
るが,B2 を満たさない
B1a(クローン性増殖なし),B1b(クローン性増殖あり)
B2:Sézary 細胞(クローン性増殖あり)が 1000 個 /mL 以上
# 異常リンパ節:表面から触れ,なおかつ硬い,不整形,
集簇,可動性不良ないし直径 1.5 cm 以上のもの
(Olsen E et al. Blood 110 : 1713, 2007 を参考に作成)
表 22.8 菌状息肉症(腫瘍期)に適用される CHOP 療法の例
22.38)
.しばしば強い瘙痒を伴う.また,表在リンパ節腫脹(画
像上 1.5 cm を越える)と肝脾腫をみる.全身状態は一般に良
好で発熱はない.進行すると結節性の皮疹を生じ,内臓臓器へ
浸潤する場合がある.
病理所見・検査所見
末梢血で白血球増加と異型リンパ球を認める.この異型リン
パ球は Sézary 細胞(CD4+T 細胞の表面マーカーを有する)と
呼ばれ,菌状息肉症で観察される細胞と同様の,切れ込みの深
い核を有する.紅皮症の皮疹部では,真皮上層に帯状または血
管周囲性のリンパ球浸潤,さらに Sézary 細胞も認める.表皮
にポートリエ微小膿瘍をみる場合もある(図 22.37 参照).
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