2012 年度 生活文化・社会科学部門活動報告

2012 年度
生活文化・社会科学部門活動報告
生活文化・社会科学部門
部長
秋野晃司
2012 年度の 生活科学・社会科学部門は、食文化経済学研究会を設立して活発な研究活動
を行いました。主要な活動は下記の通りです。
Ⅰ
食文化経済学研究会
Ⅰ-1
2012 年度の主要な活動
Ⅰ-2
「食文化経済学研究会」設立趣意
Ⅰ-3
研究会活動報告
Ⅱ
客員研究員活動報告
(草野孝久 客員教授)
Ⅰ
食文化経済学研究会
Ⅰ-1 2012 年度の主要な活動
2012 年 8 月 10 日
本研究会設立
第1回研究会・平口嘉典「齋藤仁氏の「自治村落論」について」
2012 年 8 月 25 日
笹巻き視察研修会「地域力と郷土食」
2012 年 9 月 28 日
第2回研究会・松田俊介「宮本常一に学ぶ社会調査の志向」
2012 年 10 月 20 日
女子栄養大学創立 80 周年記念事業・記念講演会「フランス料
理の食文化誌」
2012 年 12 月 7 日
第3回研究会・秋野晃司「フィールドワーク再考 -参与観察
法を中心に-」
2012 年 12 月 25 日
研究会公式サイト設立
(
http://www.eiyo.ac.jp/sfce/
)
研究員報告・秋野晃司「笹巻きから食文化を読み解く」
客員研究員活動報告・澁谷利雄「ブータンの幸せの木」
客員研究員活動報告・草野孝久
2013 年 1 月 18 日
第4回研究会・松田俊介「地域文化財への食文化調査の方法と
展開」
2013 年 2 月 22 日
第5回研究会・五明紀春「セキュリティ・システムとしての食
文化」
2013 年 2 月 27 日~3 月 1 日
2013 年 3 月 27 日
東南アジア地域マングローブ生態系管理・シンポジウム
第6回研究会・平口嘉典「山村地域における産業の創出・発展
の条件に関する研究」
1
Ⅰ-2
「食文化経済学研究会」設立趣意(2012.8.10)
本研究会は、食文化にまつわる国内外の事例や学術的蓄積について、おもに生活学・経
済学・農業経済学・民俗学・人文地理学・文化人類学などの領域横断的な視座から、議論
や意見交換を交わし、情報発信をしていくものである。
“食文化”を対象化した専門研究の重要性は、わが国で近年とみに強い社会的要請を受
け、高まっているといえるが、現在の食文化学において必ずしも、諸領域の一般的了解の
もとに新理論の構築がなされている、もしくは方法論の確立・発展がなされているとは言
い難い。食文化に関わる先学の価値を再確認するとともに、学術的な連続性を把握し、経
済学をはじめとする実学的視点を取り入れ、とりわけ現地調査研究の方法論をつきつめて
いくことが必要である。そのために本研究会は、定期的な研究会の開催を主要な活動とし、
食文化学の実質化に取り組んでいく。また、本研究会は女子栄養大学(栄養科学研究所)
を活動の本拠とするが、さまざまな学術組織と連携して、隣接領域の研究者らとの交流を
はかる。こうした活動を通じて、会員おのおのが実社会への貢献を果たすべく、食文化学
の発展に努めていくことを目指すものである。
【活動内容】
定例研究会・講演会・共同フィールドワーク・刊行物の共同制作・公式サ
イトにおける活動報告
Ⅰ-3
研究会活動報告
第1回研究会「齋藤仁氏の「自治村落論」について」
日時
:2012 年 8 月 10 日(金)15:00-17:00
発表者:女子栄養大学専任講師
平口嘉典
我が国の農村振興を推進する上で、その主体を誰が担うのかは重要な問題である。ここ
では今後の農村振興の主体について、齋藤仁氏の「自治村落論」をふまえて検討した。
我が国の農業協同組合(以下、農協)は、その組織率は 100%に近く(全戸加入)、全国
的な連合組織として巨大な事業規模を持ち、強力な政治力をもつ圧力団体の一つである。
これら特徴を有する農協は、世界的に見ても例がない。この点に齋藤氏は着目し、我が国
の農村において農協の発展を可能にした二つの条件を指摘し、その一つに「農民の自発性
=村落の自発性」を挙げている。
農協の前身である産業組合は 1900 年頃から自生的な発展を遂げるが、それら組合は、藩
政期の封建自治村落に由来する(大字を冠する)村落を組織基盤とする。当時、村落の執
2
行部層(地主層)は、村落構成員=農民を経済的困窮から救う道の一つとして、協同組合
の組織化へと導いた。ここに村落執行部層の社会的側面が表出しており、これを齋藤氏は
「農民の自発性=村落の自発性」と呼んでいる。
齋藤氏の自治村落論は、明治初期の農村において、村落を主体とした農村振興がおこな
われていたことを実証するものである。現代農村に存在する住民自治組織は、当時の村落
を原型としており、これを農村振興の主体として挙げることができよう。実際の農村現場
では、住民自治組織を主体に、創意工夫に富んだ農村振興活動をおこなう例も存在する。
ただし住民自治組織を主体とする場合、住民あるいは自治組織の自発性をどのように創
出するかが当面の問題となる。農村では兼業農家や非農家の割合が年々高まっており、多
種多様な住民間で利害を一にすることは容易ではないからである。さらに農村住民の自発
性が確認される場合、これをどのように促進し、発展させるかは、政策を含めた外部支援
における課題である。
【参考文献】
齋藤仁『農業問題の展開と自治村落』日本評論社、1989
【文責:平口嘉典】
第2回研究会「宮本常一に学ぶ社会調査の志向」
日時
:2012 年 9 月 28 日(金)16:00-18:00
発表者:女子栄養大学栄養科学研究所研究員
松田俊介
本研究会においては、Writing Culture Shock や震災問題などの主題に直面し、近年とみに
フィールド調査のあり方へ関心が高まるなか、多くの研究者によって再考されている民俗
学者・宮本常一氏の社会調査の志向を研究議題とした。
まず、代表作『忘れられた日本人』以降、宮本氏がそれまでの日本人論ではあえて捨象
されてきた人々――漂泊民・被差別民・困窮農民など――を対象化し、彼らに対する生々
しい描写のうちに日本人の原風景を求めてきたことを確認した。そうした宮本氏の特殊性
を議論し、既存の民俗学との対立軸を整理したが、そこには近代主義的二元論の価値観が
支配的だった国内学界において、当時の宮本氏が著しく特殊な位置づけを“背負ってきた/
背負わされてきた”ことを念頭におかなければならない。だからこそ、他の合理的調査で
はできない日本人像が描き切れたといえる。それは“庶民が作る歴史”を想定する市民主
義的社会論によって重く価値付けられる功績でもあった。
フィールド調査の実践論についても、「つねに固有名詞を使って話すこと」「略奪型調
査に陥らないこと」「何らかの貢献をすること」「当該社会の民俗でなく、民俗をもつ社
会や人を念頭に調査を行うこと」といった考え方について、参加者が調査経験をあげつつ
3
話し合った。とくに、宮本氏が地域振興策として、早くから特産物を作ることの重要性を
強調していたことを集中的に議論した。宮本氏がアドバイザーを務めた佐渡八珍柿は、い
まや年間数十億円産業となっている。国内の農業従事者らが苦境に立つ昨今、こうした“現
地の人々が誇れる文化経済”が推進されていくために研究者はいかに活動していくべきか。
教育・流通の包括的変革が必要と指摘されたが、とくに主体論やコミュニティ・オブ・プ
ラクティス、マイクロファイナンスなどの主題からも、宮本氏の功績に倣った各論的検討
が必要と思われる。
【参考文献】
宮本常一『忘れられた日本人』岩波書店、1984 年(未來社、1960 年)
宮本常一『山に生きる人びと』河出書房、2011 年(未來社、1964 年)
宮本常一『日本文化の形成』講談社、2005 年(そしえて、1981 年)
佐野眞一『旅する巨人
宮本常一と渋沢敬三』文藝春秋、1996 年(大宅壮一ノンフィク
ション賞受賞作)
佐野眞一『宮本常一が見た日本』筑摩書房、2010 年(NHK 出版、2001 年)
福田アジオ・岩田重則ほか『現代思想 11 月臨時増刊号 総特集 宮本常一 生活へのまな
ざし』青土社、2011 年
【文責:松田俊介】
第3回研究会「フィールドワーク再考 -参与観察法を中心に-」
開催日:2012/12/07(金)
発表者:女子栄養大学教授
秋野晃司
オブザーバ:女子栄養大学教授
五明紀春、愛国学園大学教授
高橋美和
本研究会においては、発表者である女子栄養大学・秋野教授が 20-30 代に渾身の力をこめ
て実施したインドネシア民族調査と、インドネシア残留日本兵(ライフヒストリー研究)
の調査経験を事例にして、作品の作り方、表現方法、教育活動への生かし方などについて
報告し、参加者を交えて討議をおこなった。
まず、発表者の研究経歴が説明され、人類学専攻以前よりの学術的背景と研究志向をあ
きらかにした。そのなかで、政治学・法学・人文地理学など多岐にわたる学術領域を修得
してきた経験をふまえ、人文学における“現地調査”の重要性を認識したため、対象地に
おける現地調査を主要研究法とする文化人類学を専攻するに至った経緯が語られた。とり
わけ“参与観察(対象地域への社会参加をともなう調査)”の方法論について、理論的先
駆者であるマリノフスキーや、佐藤郁哉、シュルツ・ラヴェンダら(発表者が日本初の翻
訳実施した米国大学最多採用の人類学教科書の著者)の理論から典拠を示しつつ、その実
4
効性を主張した。参与観察の経験として、自身のインドネシア・トラジャ村落社会の事例
が取り上げられる。当地では葬送をはじめ、年中通してたびたび儀礼がおこなわれ、同時
に非常に盛大な共食がされるという(おもに水牛・豚。日常では口にしない)。この儀礼
は贈与慣行であるとともに、当地の再分配のシステムでもあり、宗教思想・経済の基礎と
もなる。さまざまな面で互いを助け合う、トラジャ村落の共生的ありようを示す伝統であ
った。
この長期現地調査の過程で、発表者は膨大な観察データを収集したが、科学的論文形式
の体裁をとる過程において、その大部分が捨象されることになる。発表者はこの状況を「人
間不在の論文となりかねない」として強い問題意識をもち、その立場からインドネシア残
留日本兵の方々への取材と協力活動の経験を語った。
会場からは、現地語-現地文化の認識というサピア認識人類学的見解からの質問(五明
オブザーバ)や、そもそもの現地調査への着手契機(平口幹事)、論文の枠にとらわれず
調査過程でのデータや見解を公表していくことの重要性(松田幹事)、質的調査と量的調
査の相補性(高橋オブザーバ)などの討議がさかんに繰り広げられ、とりわけ現地社会と
のラポールを築くフィールドワークの重要性の認識を共有した。
【参考文献】
秋野晃司「はるかなり母国
―インドネシア残留日本人」『西日本新聞』西日本新聞社、
1987 年(8/7-9/2 連載・全 20 回)
秋野晃司「死と再生のドラマ
―トラジャ、葬送儀礼ディラパイと豊穣儀礼マブア」『季
刊民族学』16(2)、千里文化財団、1992 年
秋野晃司「乙戸昇の生涯
―インドネシア残留日本兵の記録(1)」『アフラシア』第 7
号、現代アジア・アフリカセンター、2010 年
佐藤郁哉『フィールドワーク
―書を持って街へ出よう(増訂版)』新曜社、2006 年
シュルツ,E.A.& R.H.ラヴェンダ『文化人類学―人間状況への視角』Ⅰ、Ⅱ、秋野晃司・
吉田正紀・滝口直子訳、古今書院、1993 年
マリノフスキー,B「西太平洋の遠洋航海者」『マリノフスキー・レヴィ=ストロース』世
界の名著 59 巻、中央公論社、1967 年(1922 年)
レヴィ=ストロース,C「悲しき熱帯」『マリノフスキー・レヴィ=ストロース』世界の名
著 59 巻、中央公論社、1967 年(1922 年)
【文責:松田俊介】
第4回研究会報告「地域文化財への食文化調査の方法と展開
―栃木市都賀町強卵式・日光市七里強飯式の事例から」
開催日:2013/01/18(金)
5
発表者:女子栄養大学栄養科学研究所研究員
オブザーバ:女子栄養大学教授
松田俊介
五明紀春
本研究会では、発表者が 2012 年 11 月末に実施した祭礼調査をもとに話題提供をおこな
い、食をめぐる伝統的地域文化への解釈法を議論した。
まず、食文化を調査・研究していくことの特殊性と留意点について、発表者が見解を述
べた。そして、食文化調査については「細部・過程への精査」、「食を通してみた当該社
会の全体性への視点」、「方法論整備の拡充」などが必要であり、今後研究者同士の調査
過程の共有(報告会の実施、フィールドノートの共有など)が重い意義をもつことを論じ
た。これは、食文化経済学研究会実施自体の重要性を再度強調するものであり、今後の方
向性への提言でもある。
事例は、栃木県日光周域に広く分布していた強飯行事である。まず、「栃木市都賀町の
強卵式」という、天狗が地元の名士たちに対して大量の卵を食べるように強いるが、それ
を名士たちが「神社の神使である鳥の卵を食べられない」と断る儀礼が紹介された。これ
は、地元でかつて鳥・卵が禁食とされてきたことを、ふたたび表象するために、近隣で行
われていた強飯式の様式を取り入れたものだった。また、「日光市七里の子供強飯式」で
は、修験者に扮した子どもが自分の親に対して「75 杯の飯を食べよ」と強いる儀礼が行わ
れ、加入儀礼としての性格が色濃いことを示した。
いずれも高位の者、もしくは新入りなどに、あえて滑稽な姿(大食にえづくなど)をと
らせ、民衆側に引きつける(≒制裁のうえ、再統合・仲間入りさせる)という、すぐれて
民衆文化的な構造が見出だせる。発表者はフランスの民俗慣行“シャリヴァリ”や、バフ
チンの“グロテスク・リアリズム”概念を援用しつつ描写した。
最後に研究を振り返り、本調査の過程で重要と感じた「イーミックなアプローチと深い
現地参与」、「量的調査と質的調査の往還」、「他領域研究者の人的ネットワーク」につ
いて強調した。発表後の質疑においては、「富める者への食強要という皮肉な構図の知恵」
(五明オブザーバ)、「文化人類学・民俗学の系譜と、マレビト概念」(秋野会長)、「当
事例にみられる教育的・社会的価値構築」(平口幹事)といった視点から活発な議論が行
われた。
【参考文献】
蔵持不三也『シャリヴァリ―民衆文化の修辞学』同文舘、1991 年
松田俊介・蔵持不三也『医食の文化学』言叢社、2011 年
ミハエル・バフチン『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネッサンスの民衆文化』
川端香男里訳、せりか書房、1974(1965)年
早稲田大学人間科学部文化人類学研究室『七里子供強飯式調査報告書』早稲田大学、2012
年
【文責:松田俊介】
6
第5回研究会報告「セキュリティ・システムとしての食文化」
開催日:2013/02/22(金)
報告者:女子栄養大学教授
五明紀春
昨今、食の外部化の進展を背景に、食事行為の「逸脱」が散見され、それがもたらす健
康被害が大きな社会問題となっている。
本報告では、食文化の本質的意義は、日常的な食事摂取に伴う過誤を極小化するための
危機管理にあり、歴史・風土に根ざして形成され、「形」として伝承されてきたセキュリ
ティ・システムであることが示された。さらに生物学、栄養学、思考経済、食料安全保障
の五つの側面から食文化に基づく危機管理についての考察がなされた。
第一に生物学的な側面では、日本の食文化は、人種的特徴に適合し、祖先から受け継い
だ食習慣であり、現存する人々はこれに生物学的に適応し、生活習慣病への罹患リスクを
回避できることが示された。
第二に栄養学的な側面では、「和食」が主食・主菜・副菜・汁物のセットから構成され、
この秩序に従って食物を選択・摂取すれば、自然に栄養バランスが担保されるように、食
文化に則った食事により、栄養学的な逸脱を回避できることが示された。
第三に衛生学的な側面では、生鮮魚介の多い日本料理は、細菌汚染、寄生虫など衛生上
のリスクが高いが、調理・摂取時における習慣化した様式(食文化)によってこのリスク
を回避できることが示された。
第四に思考経済的な側面では、食文化が有する「形」に従うことで、日々の食物選択が
容易になり、「そのつどの思考」を省略することが可能になることが示された。
第五に食料安全保障の側面では、食文化は、その地域あるいは国で入手できる食料に依
存して形成・発展し、継承されてきたものであり、地産地消のような食料自給を喚起する
ことが示された。
以上を踏まえて、セキュリティ・システムとしての食文化を現代社会で機能させていく
ためにも、長期的、育成的な「農学的発想」に依拠する「食育」の推進が重要であること
が述べられた。
報告後の質疑では、「地域実践活動における食文化の活用、食文化と外食産業の関連」
(秋野会長)、「文化の拘束性」(松田幹事)、「セキュリティ・システムを機能させる
ための仕組み・推進力」(平口幹事)といった視点から活発な議論がおこなわれた。
【参考文献】
五明紀春「危機管理
~連載エッセー食の遠近画法 71」『食品と容器』Vol.53,No.12,
pp.112-113,2012.
7
五明紀春「試論:セキュリティ・システムとしての食文化」(淑徳大学紀要,投稿中).
五明紀春「工学的発想と農学的発想」『女子栄養大学紀要』第 42 号,pp.5-7,2011.
【文責:平口嘉典】
第6回研究会報告「山村地域における産業の創出・発展の条件に関する研究」
開催日:2013/03/27(水)
報告者:女子栄養大学専任講師
平口嘉典
オブザーバ:女子栄養大学教授
五明紀春、愛国学園大学教授
女子栄養大学准教授
高橋美和、
守屋亜記子
本報告では、現代農山村における産業創出への示唆を得るために、戦前期農山村に存在
した製糸業を対象に、その創出・発展の条件が明らかにされた。
研究対象地である岩手県陸前高田市生出地区は山間部に位置し、過疎・高齢化の進行す
る典型的な山村地域である。戦前期、当地区では、繭を生糸に加工する農民資本製糸場(生
出製糸場)が存在し、地域経済を支える重要な産業であった。この製糸場の展開過程の分
析を通じて、産業の創出・発展条件の導出がなされた。
創出条件では、第一に、産業創出に対する地域内のニーズが存在したこと、第二に、地
域のニーズをくみ上げ、課題解決を考え、実行できる主体が存在したこと、第三に、地域
の資源(繭)に目を付け、その加工を考えたこと、第四に、生産物(生糸)に対する需要
が存在したこと、第五に、産業の創出に対する技術的・資金的な外部支援が存在したこと、
が導出された。
発展条件では、第一に、地域の資源を、地域の実状に応じて利活用し、地域の発展に寄
与する事業を遂行する運営主体が存在したこと、第二に、利用可能な地域資源(ヒト・モ
ノ)が存在したこと、第三に、地域の資源量、労働量に応じた生産体制を構築したこと、
第四に、地域の農林業を生かし、調和する形で、製糸業が営まれたこと、第五に、得られ
た利益は最大限組合員に還元したこと、が導出された。
以上の分析をふまえ、現代産業創出への示唆として、第一に、地域資源を活用すること
の重要性、第二に、創出を担う主体の重要性、第三に、外部支援主体の重要性の 3 点が指
摘された。
報告後の質疑では、
「商品経済と自給自足経済が並立する二重経済システム(秋野会長)」
、
「養蚕・製糸業にまつわる文化的活動(松田幹事)」
、「経済活性化における農村コミュニテ
ィの役割の重要性(五明オブザーバ)」
、「養蚕・製糸業における女性の労働負担(高橋オブ
ザーバ)」
、「製糸業収益による社会インフラ整備(守屋オブザーバ)」
、といった視点から活
発な議論がおこなわれた。
8
【参考文献】
平口嘉典「山村地域における産業の創出・発展の条件に関する研究-戦前期岩手県気仙
郡生出製糸場を事例にして-」,東北大学大学院農学研究科所収(博士学位論
文),2008.
【文責:平口
Ⅱ
嘉典】
客員研究員活動報告
活動報告
栄養科学研究所客員教授
草野孝久
これまで村落の在りようと云うものを「住民の目線で考える」ことを基軸に、女子栄養
大学の秋野晃司教授等とともに研究を重ね、
『国際協力と村落開発(古今書院、2002 年、 韓
国語版:2007 年)』および『村落開発と環境保全(古今書院、2008 年)』
、
『フィリピン貧困
のゆくえ,「アフラシア」No.8, 2010 年』等を発表してきた。2011 年より現在まで、国際協
力機構からインドネシア林業省に派遣され、
「マングローブ生態系保全と持続的な利用のア
セアン地域における展開」プロジェクトのチーフ・アドバイザーを務めている。
マングローブとは、沿岸の潮間帯に生息する植物群の総称、それらを中心とした森また
は生態系を指す言葉である。形態は様々であるが、塩分を好み潮間帯に生息という共通点
を持つ純マングローブ植物は世界で 70 数種、生態系の一部を成すが海水が届かない水中や
陸上にも生息する准マングローブは学者により違うが 200~400 種類存在するとされる。時
代時代に熱帯・亜熱帯地域であった場所でマングローブは、平野の形成に関与し、高潮や
強風から人家を保護し、その高い再生産性から水産資源や森林資源を人類に提供してきた。
人類はマングローブに依存しながら熱帯・亜熱帯地域での文明を発展させてきたともいえ
る。
インドネシアやアセアン地域各国で調査を続けているが、沿岸部の乱開発とともにマン
グローブ生態系が各地で急速に消失または破壊されており、その結果、沿岸部地域経済へ
の悪影響、特に土地なし漁民等の貧困層の生活を更に厳しいものにしている。こうした現
状を改善するための有効事例をアセアン地域で共有していく活動を進めている。
2012 年には、インドネシアのスラバヤ市とバリクパパン市の沿岸保全について、両市当
局者と地域住民代表等が共有学習するためのワークショップを実施し、東ジャワ州のアラ
スプルボ国立周辺でのエコツーリズムを主題としたワークショップをインドネシア全国9
カ所から 30 名強の参加者を得て共有学習型で実施した。11 月にはアセアン地域 10 カ国に
よる共有学習ワークショップを、沿岸管理とマングローブ保全をテーマに実施。2013 年2
月には、東南アジア地域のマングローブ生態系管理をテーマとしたシンポジウムを 14 カ国
から 200 人の参加を得て実施した。地域間の共有学習、国際的な共有学習、特定地域内で
9
の関係者間、特にマングローブ生態系の特徴を踏まえた地方政府と住民の間での共有学習
のあり方を研究開発中である。
2012 年度 活動内容概要
1.
アセアン・マングローブ・ネットワーク設立について
東南アジア諸国連合(アセアン)に、マングローブ生態系の保全と修復にかか
る協力メカニズムとしての ASEAN Mangrove Network を設立することを支援した。
コンセプト・ペーパー、関連アセアン会議での発表、ToR & RoP (設立趣意書、設
置規則)の草案をインドネシア林業省カウンターパートが行うのを助言した。また、
ASEAN 事務局との協議・調整を行った。本ネットワークは、第16回アセアン林業
関係高級官僚会議(平成25年7月開催予定)に最終案が提出され、審議される
予定。
2.
国際シンポジウム
“Regional Symposium on Mangrove Ecosystem Mangement in Southeast Asia”
(「東南アジアのマングローブ生態系地域シンポジウム」、平成25年2月27
日〜3月1日にインドネシア・スラバヤ市にて実施)の組織委員会共同議長とし
て、 インドネシア共和国林業省のカウンターパートたちによる企画・実施・評価
を助言・監督した。本シンポジウムには14カ国201名の参加があり、約60
人による発表がなされた。
3.
東南アジア地域ワークショップ
「沿岸管理の一部としてのマングローブ生態系保全にかかる東南アジア地域ワ
ークショップ」(平成24年11月5日〜10日にインドネシア・スラバヤ市に
て実施)の組織委員会共同議長として、 企画・実施・評価を助言・監督した。本
ワークショップには東南アジア10カ国32名を招聘して実施した。
4.
論文・報告書
(1)
共同編者として、”Mainstreaming Mangroves”をインドネシア林業省より
出版した。”Preface”(序文)を執筆した。本序文には、女子栄養大学客
員教授の肩書きを使用。本書は、上記2.のシンポジウムのプロシーディン
グとして約60編の論文を収録。 関連部分の抜粋を別紙のとおり添付した。
(2)
上記3.の地域ワークショップのほか、インドネシア国内で昨年度に実施し
た「マングローブ利用のエコツーリズム・ワークショップ」、「スラバヤ
市・バリクパパン市共同ワークショップ:沿岸管理とマングローブ生態系」
の報告書を監修した。
5.
調査
10
(1)
インドネシア林業省のカウンターパートとともに、タイ国チャンタナブ
リ県の住民主体によるマングローブ林修復と保全状況調査を行った(2
4年7月)。
(2)
インドネシア林業省のカウンターパートとともに、フィリピン国パラワ
ン島のマングローブ生態系保全状況調査を行った(25年1月)。
(3)
女子栄養大学秋野晃司教授、日本大学国際関係学部吉田正紀教授による
バリ島の文化の変化、ベノア湾周辺のマングローブ林集落調査に参加し
た(24 年 8 月~9 月)
6.
その他
(1)
24年4月6日、一時帰国中に女子栄養大学秋野晃司教授とインドネシ
ア「マングローブ生態系と生物多様性保全」の調査研究の打ち合わせを
行った。
(2)
24年12月6日、在バリ州のウダヤナ大学と山口大学が行う「傾斜地
森林復旧プロジェクト」の合同委員会に招かれ、意見を述べた。
(3)
25年3月7日、国際緑化協力推進財団の研修生21名に対して、「マ
ングローブ生態系と生物多様性保全」の講義をした。
別添:”Mainstreaming Mangroves”の拙著序文等一部抜粋。
11