平成 19 年度整形外科年報 整形外科科長 安間基雄 平成 19 年の業務目標と総括 平成 19 年の業務目標は 1)年間手術数 100 件突破、2)医師確保と業務内容の見直し、3)学会発表、の 三つでした。1)の年間手術件数は昨年より 13 件増えて 95 件(内訳は後述)でしたが、目標に 5 件及び ませんでした。当科は人工関節手術などの待機手術がまだ絶対的に尐なく、相対的に外傷に依存せざるを 得ない状況で、どうしても手術件数が月ごとにばらついてしまう傾向にあります(以上言い訳) 。何年か仕 事を続けるうち徐々に口コミで件数が増えるのを期待していますが、平成 20 年はなんとかもう尐し増える よう努力いたします。2)のスタッフ確保も残念ながらまだ適任者が見つからない状況です。次善の策とし て週一回程度でも手術に入れる年代の非常勤医師の雇用を、上層部にご検討いただいている所です。3)の 学会発表は幸い 2 回演題を出すことが出来、ようやく山近病院整形外科として対外的な活動を始められま した。昨年の年報にも書いた通り、今後若手医師を確保したり、日本整形外科学会臨床研修施設に応募す るためにもある程度は学際的な雰囲気作りが必要です。そうしたことから、今年も学会活動を継続してい こうと考えています。 *** 第 9 回日仏整形外科学会での発表 9 月にフランスのニースで開催された第 9 回日仏整形外科学会で、 「Technicaladvices and pit-falls for locking compression plates in fracturesurgery」 (骨折治療におけるロッキングコンプレッションプレ ートの技術的アドバイスと注意点)という演題を発表してきました。近年私が修練してきた小切開からの プレート骨接合の紹介と、技術的な注意点を述べたものでしたが、フランス側の反応は概ね好評でした。 会場となった Lenval 病院は紺碧海岸に面しており、山近病院のように眺めの良い病院です。湘南海岸との 違いは、海岸にトップレスの女性がいることと、西湘バイパスがないことでした。学会の後のパーティー では、私がかつて 2 年間フランスで働く職場を紹介していただいた順天堂静岡病院金子教授とも旧交を深 めることが出来、プロヴァンス地方の日帰り旅行なども大変楽しめました。いつも国際学会に出て思うこ とですが、日々の英語やフランス語学習の重要性を今回も認識した次第です。 *** 第 34 回日本股関節学会での発表 10 月に金沢で開催された第 34 回股関節学会では、 「大腿骨頸部骨折に対する PFNA 使用上の注意点」と いう演題を発表して来ました。PFNA は私が 2004 年冬から使用を開始した大腿骨頸部外側骨折用の内固定 材で、これによって当院でも「手術翌日から全荷重開始」という早期リハビリテーションが可能となりま した。しかし 1 例だけですが、92 歳のきわめて骨粗鬆症が強い患者さんに用いた際にブレードが抜けてき てしまうという合併症が起きました。この方は幸い再手術で事なきを得たのですが、調べてみるとこうし た事例の報告は世界的にも無いことが判ったため、注意を喚起するために発表したわけです。発表では模 造骨にブレードを刺入していく様子やブレードのロッキングの手順などを動画で詳細に説明したため、聴 衆も興味深く聞いてくれたようです。動画を混ぜたプレゼンテーションは機械的トラブルも起きやすく何 かと嫌なものですが、苦労の甲斐はあったと思いました。この内容は股関節学会誌に投稿中で、掲載され ればようやく当院整形外科がインターネットの文献検索でヒットするようになるわけです。 *** 下肢深部静脈血栓症予防にアリクストラ導入 平成 17 年 6 月から発売になった下肢深部静脈血栓症(DVT)予防薬「アリクストラ」の臨床成績を確認 することも、股関節学会参加の目的の一つでした。アリクストラ(一般名フォンダパリヌクス)は半減期 17 時間の抗凝固薬で、Ⅹa 選択性でトロンビンにほとんど影響を与えないため出血のリスクが尐ないのが 特徴です。股関節手術後 24 時間から一日一回 2.5mg 皮下注を最大 14 日まで行うプロトコールでは、出血 による有害事象が 2 例北里大でありましたが、 DVT は予防出来ました。現時点で最も安全性の高い抗凝固 薬と言えるものの、当院で最も多い高齢者骨折の術後に使用するには 1.5mg 製剤の方が無難だろうと考え、 ご承認いただいた上で 11 月から使用を開始しています。DVT は近年整形領域で最も注目されている合併症 で、肺塞栓症を来すと致死率が高いため、積極的な予防が必要です。しかし抗凝固薬の至適量がなかなか 定まらず、私もやきもきしていたところでした。アリクストラの導入で当院の下肢手術がさらに安全にな るよう、第一病棟の看護師さん方と共に出血などの有害事象を監視していく方針です。 *** 万有製薬社内講演会での発表 12 月には万有製薬の社内セミナーで、 「下肢骨折治療における最近の知見」という講演をしてきました。 万有製薬はチエナムなどで有名な大手製薬会社ですが、最近は骨粗鬆症治療薬「フォサマック」の営業に 力を入れているようです。とくにこの種の薬は、週一回製剤が開発されたことで俄然活気が出てきていま す。と言うのも、従来のビスフォスフォネート製剤は起床時に多量の水で内服後一時間は、 「寝るな・飲む な・食うな」という患者さんや介護する家族にとって実に面倒な薬でした。この負担が週に一回ですむと いうことになれば、今までは内服薬が多すぎたり、服薬管理が困難なために投与をためらっていた方々に も処方しやすくなります。万有製薬も骨折予防を盛んに謳うようになってきましたが、販売する当人が骨 折について知らないのもまずいだろう、という訳で私に話が回ってきたようです。11 月から相当気合いを 入れて準備をしただけあり、営業担当の方々は当日大いに笑ったり唸ったりしていました。もちろん山近 病院の宣伝もさりげなく、しかししっかりとさせた頂いたことは言うまでもありません。週一回製剤に関 しては、平成 20 年から当院でも検討していこうと考えております。 *** 平成 19 年手術統計 平成 19 年は総数 95 件(昨年は 82 件)の手術を無事行うことが出来ました。 症例の内訳は下記の通りで、 大腿骨頸部骨折が 3 割近くを占めています。高齢者骨折に対する低侵襲手術は当科の目玉商品ですが、術 式の低侵襲化を上回る勢いで患者の高齢化が進んでおり、相対的にハイリスクの手術患者が増えたなあと いうのが実感です。術前後の全身管理で関係各科の先生方にお世話になることも増えました。各科の先生 方、外来・病棟・手術室・リハビリの各スタッフの方々に、この場を借りて心からお礼を申し上げます。 平成 20 年も引き続きどうか宜しくお願い申し上げる次第です。 大腿骨頸部骨折:28 例(うち内側骨折 11 例、外側骨折 14 例) 人工関節置換術:4 例(うち膝関節 2 例、股関節 2 例) 大腿骨骨幹部骨折:2 例 肩関節周囲外傷:4 例(うち上腕骨骨幹部骨折 1 例、肩関節人工骨頭 1 例) 肘関節周囲外傷:2 例 前腕・手関節周囲外傷:2 例 膝関節周囲外傷:6 例(うち鏡視下手術 3 例) 手の外科・外傷:14 例 下腿・足関節周囲外傷:5 足部外傷:2 例 下肢切断:7 例(うち足部 2 例、下腿 3 例、大腿 2 例) デブリードマン・異物除去:4 例 軟部腫瘍:8 例(うち生検 2 例) 拔釘術:7 例 平成 20 年業務目標 平成 20 年の業務目標は、今年実現できたことを継続し、実現できなかったことを達成することです。 具体的には 1)年間手術件数 100 件突破、2)医師確保、3)学会発表の継続、です。1)と 2)に関しては 私の努力だけでは遺憾ともしがたい点がありますので、せめて 3)くらいは継続していきたいと思います。 現時点で予定している発表は、大腿骨頸部内側骨折の治療に関するものです。大きく転位した大腿骨頸部 内側骨折に対しては人工骨頭置換術が従来行われてきましたが、当科では平成 18 年から骨頭温存手術を行 ってきました。この結果は確かに低侵襲で骨頭の温存も出来るものの、いくつかの問題点も明らかになっ てきました。この辺のことを股関節学会あたりで発表出来ないものか、現在検討中です。今年も手を抜か ず、さりとて燃え尽きず、というスタンスで淡々とやっていこうと思います。病院各部署の皆様のご支援・ ご協力を、どうか宜しくお願い申し上げます。
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