アトピー性皮膚炎の問題点を考える

「アトピー性皮膚炎の問題点を考える」
浅草寺病院小児科 増田
敬
アトピー性皮膚炎は子どもの病気としては、ごく一般的にみられる慢性の皮膚疾患かつアレルギー
疾患です。一般的であるが故にさまざまな問題点があり、いじめ、不登校のきっかけとして社会問題
として取り上げることも多くなっています。
診断における問題点
子どものアトピー性皮膚炎の最新有症率は2001∼2002年に全国8カ所で実施した厚労省の
研究班によるもので、1歳半で7.2∼16.6%、3歳で5.8∼20.4%、小学1年で5.6
∼19.0%、小学6年では4.7∼16.3%で過去の調査と比較すると増加していることは確実
であった。この調査は秋から冬にかけてアレルギー専門医の小児科医、皮膚科医が同じ診断基準を用
いて行ったが、人により診断にかなりのばらつきがあることがわかる。筆者も東北地区を分担したが
地域や季節によっても有症率は変動する可能性を感じた。このようにアトピー性皮膚炎の診断基準は
あっても確定的ではない。アトピー性皮膚炎として管理されている中にはある程度の頻度で乳児湿疹、
接触性皮膚炎、単なる乾燥肌などが含まれていると思われるが、鑑別するにはアレルギー検査以上に
注意深い経過観察が必要である。
食物の問題
アトピー性皮膚炎の原因はといわれると、答えに困難を覚えることが多い。十分に解明されていな
いが、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合っていると言って良さそうである。アレルギー検査が容
易に実施可能になると、食物が主たる原因であるという説を唱える小児科医が増え、厳格に食物除去
を指導する治療が隆盛を極めた。1980年代後半には、信仰に近い状態で盲目的に食事制限を行う
母親が多くみられた。粟、稗、蛙、兎、カンガルーなどはポピュラーな代替食であった。その後、除
去食による栄養面(発育)の問題、家族の精神的ストレスなどがクローズアップされ、学会でも科学
的根拠のない食事制限を反省するに至った。今では、臨床経過の検討、アレルギー検査、食物負荷試
験から総合的に判断し、本当に問題になる食物に限定して制限するようになってきた。しかし、食事
制限を必要とする乳幼児、学童は決して少なくない。受け入れる保育施設、幼稚園、学校の受け入れ
態勢の問題、食物アレルギーを持つ子どもたちの心の問題の解決は残されたままである。
ステロイド恐怖とアトピービジネス
外来受診する患者さんのお母様の中にはステロイド外用薬(喘息における吸入ステロイドも同様)
は怖い薬だから使用したくないという方が、ときどき見受けられる。ステロイドの必要性を長々と話
しても納得がいかない方も多い。アトピー性皮膚炎の病態は皮膚のアレルギー性炎症とバリア機能の
低下に集約される。この炎症を抑えないとバリア機能は破綻する。炎症を抑え込むにはステロイドは
不可欠である。ステロイドをここまで悪者にした原因としてアトピービジネスによりステロイドの副
作用情報が誇張され、正しい情報が伝わらなかったことが挙げられる。先頃、癌に対する健康食品を
用いた民間療法の誇大広告が摘発された。これと同様なことがアトピー性皮膚炎でも起きている。ア
トピー性皮膚炎を難病に仕立て、ステロイドの悪い情報のみを流す営業戦略で科学的根拠の乏しい治
療法を押し付けるのがアトピービジネスである。正しい知識が封じ込まれ、無資格者が医療行為に関
わり、高額な費用がかかり、責任の所在もはっきりしない。アトピー性皮膚炎の患者さんたちが、ア
トピービジネスにより不利益を被らないような正しい情報を得ることは重要である。
おわりに
アトピー性皮膚炎は1週間、1ヶ月で良くなる病気ではありません。毎日薬を内服し、スキンケア
をしても一進一退はあると思います。お母さんは家族、友人、主治医などに悩みを相談しストレスが
たまらないようにガス抜きをするのも大事なことです。病気を理解し、根気よくつきあって行くと道
は開けると思います。