平成 12年度卒業研究発表会(日本大学工学部情報工学科) B-8 分散型システムによるインターネットコードレス電話接続方式 Internet Wireless Telephone System using Distributed Gatekeeper System 096170 宮崎真弘 1. はじめに VoIP(Voice over IP)技術の発展により、IP(Internet Protocol)ネットワークを用いた音声通信が広く利用され るようなってきた。VoIP 技術の標準化についても、 ITU-T(国際電気通信連合−電気通信標準部門)や IETF で 行われており、ITU-T では H.323 として標準化を行って いる。現在では、H.323 に準拠した VoIP システムも登場 しており、コードレス電話に VoIP 技術を適用するインタ ーネットコードレス電話システムの検討も行われている ([1])。インターネットコードレス電話システムの利便性 を向上するには、携帯端末と同様に、移動先でも同一の電 話番号を用いて通信を可能にするローミング技術が重要 である。このローミング機能を実現する方式としては、ネ ットワークに NSP(網サービス制御局)を設け、移動時の位 置登録と接続情報の変換を行う方式が、大規模なネットワ ークで採用されてきた。しかし、事業所や地域といった比 較的小規模なネットワークにこの方式を適用する場合、 NSP の設置に伴い、設備コストがかかるとともに、NSP の故障時には通信できないという問題があり、NSP によ り位置情報を集中管理する方式とは別の方式が必要とな る。この方式として、各ゾーンに設置された PPX(接続制 御装置)間で位置情報を交換し、ゾーン間の通信および移 動時の通信を可能とするグローバルローミング方式を提 案した([2])。 本研究では、各ゾーンに設置された PPX のみを利用し てゾーン間および端末移動時の接続を可能にするインタ ーネットコードレス電話システム接続方式を検討する。 [竹中研究室] 換(以下、位置情報と呼ぶ)表を管理し、PPX からの問 い合わせに対して位置情報を応答する。 2.2 分散型システム 位置情報を PPX で分散管理する分散型システムのシス テム構成を図2に示す。分散型システムでのゾーンの構成 は集中型システムと同様である。しかし、分散型システム には、NSP がないためゾーン間の通信および端末がゾー ン間を移動した時は、PPX 間で位置情報の交換が必要と なる。具体的には、外部へ移動する場合に移動先の PPX で位置登録する。この時、移動先の PPX から自局の PPX にも位置情報の転送が行われる。これにより、PPX は自 局端末の移動時も位置情報を保持することができる。 PPX では、ゾーン内にいる他局ゾーン端末の位置情報 と自局端末の位置情報を、位置登録テーブル上に自局用と 他局用に分けて管理する。電話番号はゾーン番号と端末番 号からなり、位置登録テーブルには、この電話番号と IP アドレスが登録される。 PPX1 PT PPX2 PPX3 PT PT ゾーン ゾーン ゾーン 2. 集中型システムと分散型システム 2.1 集中型システム 位置情報を集中管理する集中型システムのシステム構 成を図1に示す。この図に示すように、各ゾーンに PPX を設置する。ゾーン内の通信に関しては、PPX が電話番 号と IP アドレスの変換を行う。図には示していないが各 PT は親機と子機から構成され、親機は LAN に接続され ている。親機と子機は無線インターフェースで接続される。 PPX の設置は親機が接続された複数の LAN に対して 1 台設置される。NSP は、ゾーン間の通信時および端末が ゾーン間を移動した時の通信時の位置情報検索に用いら れる。NSP は各ゾーンの PT の電話番号と IP アドレス変 NSP PPX1 PT PT ゾーン PPX2 PPX3 PT ゾーン ゾーン 図1.集中型システム PT 図 2.分散型システム 3. インターネットコードレス電話接続方式 3.1 基本的な接続手順 ここでは、集中型および分散型システムに共通な基本的 な接続手順を述べる。 ①ユーザは PT を Off Hook して電話番号を入力する。 ②PT は PPX へ IP アドレスの要求する。 ③PPX は位置登録テーブルを検索し、PT へ IP アドレ スを返す。 ④PT は通信相手を呼び出し、通信を開始する。 3.2 位置情報検索手順 集中型システムでは、前記手順③の位置情報検索におい て、PPX は位置登録テーブルの検索を行う。この時、位 置登録テーブルにエントリがない場合、NSP へ IP アドレ ス要求を行う。しかし、提案の分散型システムでは NSP を持たないため、PPX 間で協調しながら位置情報の検索 を行う。以下、分散型システムにおける位置情報の取得方 法を、発信端末のロケーションおよび接続相手端末のロケ ーション毎に述べる。 A.発信端末が自局ゾーンにいる場合 ⅰ.接続相手が自局ゾーンの端末の場合 PT から自局 PPX へ IP アドレス要求を行うと、接続相 手が自局ゾーン内の端末であるため、PPX は自局用位置 登録テーブルを検索し接続相手の IP アドレスを返す。 平成 12 年度卒業研究発表会 B-8 ⅱ.接続相手が他ゾーンの端末の場合 PT が自局 PPX へ IP アドレス要求を行うと、PPX は接 続相手が他局ゾーンの端末であるため、他局用位置登録テ ーブルを検索する。エントリを発見できた場合、IP アド レスを返す。エントリを発見できない場合、電話番号内の ゾーン番号より通信相手の自局 PPX の IP アドレスを PPX 位置情報テーブルから求め、その PPX に接続相手の IP アドレスを問い合わせる。問い合わせを受けた PPX は 自局用位置登録テーブルを検索し、IP アドレスを返す。 具体的なシーケンスを図3に示す。 User1 PT1 Off hook PPX1 PPX2 (PT1 自局) (PT2 自局) User2 PT2 ツー音 PT2-ID In-put ツー音停止 BS1の未利用確認 連続送受信モード IP-Add要求(PT2) PT2のゾーン番号より他 局用位置登録テーブルを 参照 3.3 PPX 間の情報交換省略 提案方式では、移動の際に移動先 PPX および自局 PPX へ位置登録を行う。そのため、移動端末に対する通信にお いて PPX 間の情報交換を省略できる。これにより接続時 間の短縮および負荷の軽減ができる。 4. 実験システム 実験システムの基本構成を図5に示す。接続制御装置 PPX および端末 PT を PC 上に実現する。PPX 用のアプ リケーションソフトウェアは Linux 上でネットワークプ ログラミングを応用して作成する。PT 用のソフトウェア は Windows 上に構成する。H.323 に準拠した VoIP の通 信部分は OpenH.323 Project のホームページよりダウン ロードしたものを使用する([3])。ネットワークとしては、 PPX 間は LAN を使用し、PT−PPX 間は無線 LAN を使 用する。 四 階 有る場合はPT1にIPAdd応答(点線へ) P T2 P P X1 P T1 無い場合はゾーン番号よ りPPX2へIP-Add要求 IP-Add応答 (PT2) IP-Add要求(PT2) 自局用位置登録テー ブル参照 IP-Add応答(PT2) IP-Add応答(PT2) 呼出要求(PT1→PT2) 三 階 BS2の未利用確認 連続送受信モード 呼出応答1 呼出音 移 動 P T3 呼出音 着信 呼出応答2 音声バス解放 音声バス解放 P P X2 図3.他局ゾーンの端末との接続シーケンス(自局ゾーン にいる場合) B. 発信端末が他局ゾーンに移動した場合 ⅰ.接続相手が移動先ゾーンの端末の場合 PT が移動先の PPX に IP アドレス要求を行うと、その PPX は接続相手が自局ゾーンの端末であるため、自局用 位置登録テーブルを検索し IP アドレスを返す。具体的な シーケンスを図4に示す。 User1 PPX2 (PT2 自局、PT1他局) PT1 PT2 User2 PT1が PPX2の ゾーンへ 移動後 Off hook ツー音 PT2-ID In-put ツー音停止 BS1の未利用 確認 連続送受信モード IP-Add要 求 (PT2) 自局用位置 登録テー ブル参照 IP-Add応 答 (PT2) 呼出要求 (PT1→ PT2) BS2の未利用確認 連続送受信モード 呼出応答1 呼出音 呼出音 着信 呼出 応答2 音声バ ス解放 音声バ ス解放 図4.移動先ゾーンの端末との接続シーケンス(移動先ゾ ーンにいる場合) ⅱ.接続相手が移動先ゾーン以外の端末の場合 PT が移動先の PPX へ IP アドレス要求を行うと、その PPX では接続相手が他局ゾーンの端末であるため、他局 用位置登録テーブルを検索する。エントリを発見できた場 合、IP アドレスを返す。発見できない場合、電話番号内 のゾーン番号より通信相手の自局 PPX の IP アドレスを PPX 位置情報テーブルから求め、その PPX に接続相手の IP アドレスを問い合わせる。問い合わせを受けた PPX は 自局用位置登録テーブルを検索し、IP アドレスを返す。 図5.実験システム構成図 5. 今後の課題 5.1 通信中の移動(ハンドオーバ) 現在の実験システムでは、ハンドオーバについて実装し ていない。ハンドオーバを実現するためには、PPX 内の 位置情報テーブルの更新が必要である。分散管理方式であ る本方式では、移動先の PPX がハンドオーバによる位置 情報の更新を自局 PPX へ通知する必要がある。また、ハ ンドオーバが頻発した場合の負荷を軽減する処理方式の 確立も必要である。その方法として、Hello 方式により PPX 間で間欠的に位置情報を交換する方式を検討中であるが、 接続シーケンス上の問題を検討する必要がある。また、通 信の途絶がハンドオーバによるものか切断によるものか を判定する論理の確立も必要である。 5.2 認証機能追加による接続時間の短縮 現在の方式は、PPX から位置情報を検索する場合 PPX による利用者の認証を行っていない。実際には認証は必須 であり、このため接続時間が長くなると想定される。接続 時間の短縮として、PPX にキャッシュを設ける方式が考 えられるが、その有効期限について検討する必要がある。 5.3 NAT 経由の VoIP 現在多くの LAN はプライベートアドレスを用いている ことが多い。プライベートアドレスは NAT でパブリック アドレスに変換されるため、こうした LAN にある PT は エンド・エンドに IP アドレスを交換できない。このため、 現在の VoIP では NAT を経由した通信は行えないので、 今後検討が必要である。 参考文献 [1] 特許 インターネットコードレス電話システム 特願平 11-109067 [2] 角 将高 インターネットコードレス電話システムにお けるグローバルローミング 日本大学工学部情報工学科 2001.1 [3] OpenH.323 Project http://www.openh323.org/
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