世界で一番自転車にやさしい都市

世界で一番自転車にやさしい都市
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連載
世界で一番自転車にやさしい都市
コペンハーゲンでインタビューにこた
えてくれた女性。
毎日オフィスまでの 6km を自転車
で元気に通っています。
今月からシリーズで掲載させていただく「世界で一番自転車にやさしい都市」。
今回の企画は、歩行者とクルマ、そして自転車がともに安心して移動できる都市づくりにヨーロッパの都
市、とくにコペンハーゲンがどんなふうに取り組んでいるのか、現地の人々へのインタビューなどを通じ
てご報告するものです。
(取材・熊倉次郎
株式会社リベラルアーツ総合研究所 代表)
シリーズ「世界で一番自転車にやさしい都市」の概要
はじめに(今回の取材の目的)
第 1 回 コペンハーゲンの自転車道路網
第 2 回 自転車のマナー向上キャンペーン
第 3 回 自転車と乗れる通勤電車
第 4 回 ライバルはアムステルダムです
第 5 回 ヨーロッパの都市と自転車
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はじめに
昨年 3 月の震災以後、自転車で通勤する人が増えています。
あの日、都内では交通機関がストップし、駅の周辺は大変な混雑となりま
した。渋滞のためにバスやタクシーも機能せず、多くの人が徒歩で帰宅しま
した。靴がこわれるほど歩いて、ようやく深夜に帰宅したというひとも多か
ったようです。
こうした体験から、いざという時に電車やバスに頼らずにすむ自転車での
通勤が見直されています。
さらに遠くない将来に首都圏で大地震が起こる可能性が指摘されており、
自転車通勤は今後もますます増えるかもしれません。
そもそも自転車は健康的で環境にもやさしい乗り物です。しかし、東京の
狭い道路が許容できる範囲は限られているのも事実です。
通勤ラッシュの時間帯、道路も歩道も混雑しているなかで、さらに自転車
の乗り入れが増せば、思わぬ事故やトラブルが増加することも予想されます。
自転車は左側通行を守ること、そして通常は車道を走行すること。これが
基本的なルールです。しかし、これがきちんと守られているとは限らないの
が現実です。
筆者も毎日、自宅から仕事場までの約4km の道のりを自転車で通勤して
います。そんなとき、これは危ないぞというシーンにしばしば出くわします。
まあとにかくクルマも自転車も、通勤時間はみな急いでいるので、どうし
ても道路のスペースを奪い合うようなかたちになりがちです。しかしこれは
本当に危ない。
このままではちょっとまずいぞという印象を持っていたところに、昨年の
秋ごろから、道路交通を管轄する当局や地元の警察署などでも、この問題に
積極的に取り組みはじめました。
通勤時間に比較的自転車で走りやすいルートを案内したり、車道を走行す
るルールの遵守を呼びかけたりしています。
しかし、ママチャリのお母さんが専用シートに幼児を乗せているような場
合に、クルマと一緒に車道を走らせていて、ほんとうに大丈夫かしらんと心
配になることもあります。
緊急時への備えや、ガソリンの値上がりなどもあって、今後ますます増加
しそうな都市の自転車。歩行者やクルマとのトラブルを未然に防ぐための新
しいルールや習慣が必要なように感じます。また、道路の設計としても、現
在のままでよいのか、見直しが必要かもしれません。
しかし、この東京の街で、たとえば新たな自転車道の整備など、本当に実
現できるのでしょうか。
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歩行者とクルマ、そして自転車、それぞれが安心して移動できる都市をど
う実現するのか。難しい問題です。
まあ、ちょっと東京では無理かな、という自分の心の声も聞きながら自転
車を漕いでいましたが、ふと、海外の都市ではどうしているのだろうという
考えが横切りました。
数年前、ブラジルの環境先進都市として有名なクリチバを取材した時には、
100 万人をかかえる都市が鉄道を一本も敷かずに、バスのネットワークで効
率的な通勤移動を実現しているのを見ました。
ボルボ社と共同開発した巨大なバスが、近未来 SF を思わせるチューブ型
のバス停に乗り入れていました。非常にイノベーションを感じさせるシーン
でした。
(クリチバ市の環境行政に関心のある方は、本サイトで配信中の「ブ
ラジルの環境都市・クリチバ」をご覧ください)
。
クリチバの場合はバスを中心に都市交通をデザインしていましたので、自
転車とはまた違う発想です。しかし、世界にはこんなふうに工夫をして、何
かうまいことやっている都市があるんじゃないの?という思いがしたので
す。
そんなことが、今回の取材をはじめるきっかけになりました。
ですから「世界で一番自転車にやさしい都市」というタイトルは、取材を
はじめる前に決めた題名です。
さて実際に「そんな都市があるかなあ」という期待をもって Google など
で検索し始めたのですが、ほどなく2つの都市が浮かび上がってきました。
アムステルダムとコペンハーゲンです。
周知のとおり、アムステルダムは国土の大部分が低地で平たい国オランダ
の首都です。運河網が巡らされた地勢は、高低差が少なく、自転車での移動
にも適しています。またアムステルダム市の行政当局も、自転車の利用にあ
わせた交通システムの運行に積極的に取り組んでいるようです。
一方のコペンハーゲンは、やはり酪農の国として知られるデンマークの首
都です。地図を見るとアムステルダムよりずっと高い緯度に位置し、対岸は
もうスウェーデンの町が見えるという北欧の都市です。コペンハーゲンの行
政当局もまた、自転車の利用にあわせた都市計画に積極的に取り組んでいる
ようです。
また、これらの都市のほかにも、ドイツの古都ミュンスターでも、自転車
の利用を促進するような道路のデザインや、駐輪場の整備が行なわれていま
す。
取材先をどこにすべきか検討していたのは 1 月ごろのことでした。東京で
も今年は例年にくらべて寒く、毎朝、防寒具に身をかためて自転車を漕いで
いました。
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さてこんな寒い季節でも、北欧では自転車で通勤しているものだろうか。
雪が降ったり、路面が凍結している朝は、やはり自転車はあきらめて、電車
やバスで通勤するのだろうか、と疑問がわきました。
それである時、自宅に戻ると、カミさんが Youtube で面白いビデオがあっ
たと教えてくれました。それは雪が降りつもるなかをコペンハーゲンの市民
が元気に自転車で通勤している風景だったのです。職場に向かう男性や女性
が鼻を真っ赤にしながら白い息をはいています。
しかも驚いたことに自転車専用レーン専用の除雪車というものすら存在
していることが映像からわかりました。すごく寒そうだけれども、これはな
んだか面白そうだという気持ちがわき、結局、厳寒の 2 月にコペンハーゲン
で撮影取材することに決めました。
2 月 3 日の朝、成田空港からスカンジナビア航空でコペンハーゲンに向か
いました。
一緒に 6 歳の息子を連れていたのですが、機がシベリアの上空にさしかか
ったあたりから熱をだしはじめ、コペンハーゲンのアパートメントホテルに
到着した時には 39 度をこえていました。どうやらインフルエンザを発症し
たようです。
自転車の街コペンハーゲンの取材は、最初に市民病院に向かうという、思
わぬスタートを切りました。
(つづく)
世界で一番自転車にやさしい都市
取材・構成: 熊倉次郎 リベラルアーツ総合研究所代表
配信: 公益財団法人ハイライフ研究所
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