活動報告(PDF形式、約888kバイト)

発表 10
ジャパン・フォー・サステナビリティ
http://www.japanfs.org/ja/
助成テーマ
自治体における幸せ指標の調査研究および経済面も含めた地域の幸せ指標づくり
への提言(平成 25 年度助成)
プロフィール
ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)は、日本からの情報発信を通して、世界と日本
を持続可能で幸せな社会に近づけようと活動している非営利団体です。
日本から全世界へ、持続可能で幸せな未来へ向かう日本のさまざまな取り組みや情報を発信し
ています。約 10 本の記事を毎月ウェブサイトで発信するほか、日本全体の動きや注目すべき展
開を詳しくお伝えするニュースレターを毎月発行し、世界 184 カ国 7700 人に配信しています
(2013 年 9 月現在)。
近年は、世界からの注目が集まっている人口減少問題、また、レジリエンス、定常型社会といっ
た国内外で注目を集めているテーマにおいて、日本での動きや取り組みについて、世界にまとまっ
た情報を英語で伝えている環境 NGO として、環境・サステナビリティの分野の有識者からも信
頼を得ています。
■□■助成事業報告■□■
1. 活動の目的
エコロジカル・フットプリントのデータによれば、現在の人間活動を支えるために、地球が 1.5 個
必要になっている。それは人口が増え続けていること、そして私たちの、もっと欲しいという欲望の
せいでもあるが、それだけではない。今の経済・社会には、拡大へ向かう構造が埋め込まれていて、
その 1 つが「指標」である。GDP という経済規模の指標だけを重視してきたことが今日の問題状況の
根底にある原因の 1 つであることを多くの人々が理解し始め、それ以外の指標(幸福度指標や真の豊
かさ指標など)をつくる動きが内外で、国際レベルでも国レベルでも、地域や自治体のレベルでも盛
んになりつつある。
今回のプロジェクトでは、持続可能性の要である地域レベルに焦点をあて、内外の自治体の新しい
指標づくりのプロジェクトを取り上げ、地域の持続可能性にとって不可欠である経済の視点がどのよ
うに盛り込まれているかを調査するとともに、内外の有識者から「21 世紀の持続可能性に向けて地域
が持つべき必須の視点」に関する知見を集め、自治体の幸福度指標・豊かさ指標づくりを真に有意義
なものにするための枠組みを提供することをめざして活動を開始した。
2. 活動の内容と成果
JFS がプロジェクトパートナーとして実施した幸せ経済社会研究所「幸せな地域へ!少なくとも 22
の自治体が「幸福度指標」を作成 ~ 47 都道府県 54 政令指定都市等市区を対象とした調査~」およ
び JFS がニュースレター等で世界に発信しつつある「レジリアンス」「人口減少時代の定常型経済」
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の取り組みをベースに、
1)内外自治体の幸福度指標・豊かさ指標を調査し、時に経済的な視点がどのように組み込まれて
いるか、組み込むことが有効かを調査・考察
「GDP(国内総生産)では幸せは測れない」という考えや実践は、世界的に大きな流れとなっており、
日本の地域でも、真の豊かさや幸せを測ろうという動きが数多く展開されている。
水俣市の吉本哲朗氏の「3 つの経済」では、お金でやり取りをする「貨幣経済」、自分たちで作る「自
給経済」、そして「贈与経済(バーター経済)」を挙げている。GDP が測っているのは貨幣経済の部分
だけである。また、GDP のもう 1 つの特徴は、「新たに生産された」ものを測ること、すなわち「今
年生産され、市場で売れたのはどれぐらいか」である。畑で野菜を作ったとして、その年に収穫した
野菜は GDP に繋がるものの、その野菜を生み出した土は GDP にはカウントされない。つまり、ストッ
クではなく、フローを測っていることになる。
あるストックがあるからこそフローが生まれる、豊かな土があるからこそ、野菜ができるのに、そ
のストック(土)の豊かさは関係なく、フロー(今年の収穫物)だけを測るのが GDP と言える。極端
な話、化学肥料や農薬、殺虫剤をいっぱい撒いて、ある年の生産量を大きく増やすと、GDP 的にはプ
ラスとなるが、そのせいで土地が痩せて次の年から作物が育ちにくくなるという、ストックに対する
マイナスは GDP では測れない。このストックとフローの区別は非常に重要だと考えた。
このストックを測ろうという試みとして、2012 年 6 月、国連持続可能な開発会議(リオ+ 20 サミッ
ト)で発表された「包括的な豊かさの指標」
(IWI)にも着目した。人工資本(道路、機械、インフラ等)、
人的資本(教育やスキル)、自然資本(土地、森、石油、鉱物等)などの資本を計算するもので、フロー
である GDP では他国に抜かれつつある日本も、IWI の総額では米国に次いで 2 位、人口一人当たり
では世界 1 位である。
今回こうした観点から、国内外の幸福度指標
を調査した。日本の地域の幸福度指標を 16 集め、
経済的側面を含む幸福度指標を調べ、「個人-地
域」
「ストック-フロー」という 2 軸でプロットし、
そのうち住民に対する意識調査を行っている指
標 10 のうち、経済項目の入っている 7 つについ
て、経済に関する全ての質問内容を分類、プロッ
トした結果(図 1)、「収入」を測定しているもの
が多いことがわかった。
海外の自治体による幸福度指標に関しては、住
民意識調査を行っているもののうち、調査項目が
手に入った以下の 5 指標を調査対象とした。
・Community Indicators Victoria
・The Seattle Area Happiness Initiative
・Community Wellbeing Monitor
・Wellbeing Watch
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図 1. 分析結果:日本の指標(暫定版)
・Vancouver Vital Signs
経済関連の質問のみカウントし、同一指標に同
じ分類の質問(例えば個人収入)が複数存在した
場合は、1 つとしてカウントした(図 2)。「雇用」
や「資産」という個人のストックを測っているも
のが多く、個人のフローを測っているものは「収
入」が多いという結果となった。また、地域の建
物や資産、産業など、地域のストックを測るもの
も多く見られた。
全体的に、フローよりストックを測ろうという
図 2. 分析結果:海外の指標(暫定版)
傾向が強い印象となった。元々はフローを測って
いる GDP に対する代替案として、そのような結果となったものと思われる。今回調べた住民意識調
査を通じての幸福度指標では、地域のストックにつながるフローを測っているものはなかった。また、
「ストックを豊かにするか、枯渇するか」という視点でフローを区別して見ているものも見つけられ
なかった。
2)内外の有識者から「21 世紀の持続可能性を考えたときに、地域が持つべき必須の視点」に関す
る知見を集め、とりまとめる
プロジェクト活動期間内には、国内での自治体による
幸福度指標の先駆けとして知られる東京都荒川区の担当
者を招いてのセミナーを開催し、熊本県からも「県民総
幸福量(AKH)」の取り組みについてのヒアリングを行
なった。また、海外からは、映画「幸せの経済学」の監
督として、そして、ローカリゼーション運動のパイオニ
アとして知られるヘレナ・ノーバーグ=ホッジ氏にイン
タビューし、日本語字幕をつけてウェブサイトに公開し
た。
これらの共同セミナーやヒアリング、インタビューに
共通して、3 者それぞれの立場から、地域におけるつな
がりづくり、場づくりに力を注いでいる様子が見て取れた。
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3)国内自治体で幸福度指標・豊かさ指標を策定し、地域づくりに活用し始めているところの担当
者を招聘し、シンポジウムを開催。国内の実践例や学びを共有し、これからそのような取り組
みを始める自治体などとも共有することで、よりよい取り組みを加速する
2014 年 2 月 6 日、プロジェクトのまとめと位置づけて、自治体からは兵庫県、コミュニティや公共
政策を専門とする千葉大学の広井良典氏、地域づくりの現場でプロデューサーとして活躍する島根県
海士町の阿部裕志氏をパネリストに招いてシンポジウムを開催した。
それぞれの立場からの取り組みや考察の発表に加え、パネルディスカッションでは、以下の内容に
ついて、参加者とともに議論を深めた。
・地域の経済と幸せをミクロ(個人)マクロ(県・自治体)レベルでどう捉えていくか?
・環境社会・福祉社会、ローカル・ナショナル、都市・地方・農村の関係性を含め、どういう社会を
日本が構想していくか?
・地域の経済と幸せの文脈で、これからの時代の企業の役割とは?
・地域の経済循環が確立している地域の事例はあるのか、その場合、キーマンは?
・地域の幸せな経済のために、都会にいてできることはあるのか?
4)上記の調査・考察、とりまとめ、シンポジウムの内容などを、世界 185 カ国に情報発信をして
いる JFS のネットワークを活用して、世界にも発信し、フィードバックをやりとりすることで、
内外の知見や事例を結集し、その結果をふたたび発信していく
これらの活動はすべて、JFS のウェブサ
イトで詳細または概要をまとめ、全成果を
公開し、英語にも翻訳して、メールニュー
スを通じて世界に 184 カ国に発信した。
また、活動を通じて、国内の幸福度指標
に取り組む自治体との連携を深め、海外で
は、地域内乗数効果について、「漏れバケ
ツ理論」として広く紹介した英国のシンク
タンク New Economics Foundation や、こ
の考え方を元に、地域経済の様子を研究し
漏れバケツ理論・概念図
地域経済の青写真・レポート表紙
たトットネスの研究についてとりあげ、海
外の研究機関・団体との連携を深めることができた。
また、地域の経済と幸せをめざす具体的な取り組みとして、地域の事業者に投資をする「スロー
マネー・ムーブメント」や、CSA(地域が支える農業 )の産業版である CSI(community-supported
industry)など、多くの取り組みを知ることができた。
3. 今後の展望
JFS では、今後のプロジェクトにおいても、こういった海外の取り組みの調査や紹介も含め、地域
の経済と幸せのつながりと測り方について、さらに考えを深め、地域や自治体の幸せ指標や取り組み
に反映させられる知見を構築し、ウェブサイトや出版物を通じて広く共有していきたい。
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