共 に 生 き る

共 に 生 き る
∼犯罪被害者支援のために∼
群 馬 県 警 察
はじめに
日本の犯罪被害者や遺族は、今まで社会から適切な援助を
受けることなく 孤立し、心に大きな傷を抱え、様々な困難に
直面しながら、長い間苦しみ続けているという 実態がありま
した。
そ の よ う な 中 で 、平 成 1 6 年 1 2 月 、
「犯罪被害者等基本法」
が成立し、
「 す べ て 犯 罪 被 害 者 等 は 、個 人 の 尊 厳 が 重 ん ぜ ら れ 、
その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」こと
など被害者の権利がはじめて明文化されたのです。
さらに、政府は、この法律に基づき、平成17年12月、
犯罪被害者等のための施策の大綱等 を盛り込んだ「犯罪被害
者等基本計画」を閣議決定 し、総合的かつ長期的な施策の推
進に取り組み始め、これを受けて、本県においても、平成1
9年10月15日、群馬県の実情を勘案し、犯罪被害者等 に
対する支援施策 や今後の基本的な方向性等 を整理・体系化し
た「群馬県犯罪被害者等基本計画」が策定され、まさに、犯
罪被害者等に対する支援が大きく動き始めました。
本冊子は、まず、犯罪被害者の心情に触れていただけるよ
う犯罪被害者の手記を、次に犯罪被害者の支援を担当した警
察 官 の手 記 、さらに 、 被害者支援のために 何ができるのか 問
題提起させていただくとともに 、群馬県警察が行っている 犯
罪被害者 のための諸制度等 について 掲載させていただきまし
た。
被害者支援といっても、何をすればいいのか・・・
平成11年4月、山口県光市 において当時18歳の少年に
妻 子 を 殺 害 さ れ 、「 犯 罪 被 害 者 の 権 利 と 被 害 回 復 」 を 求 め て 活
動中の本村洋氏 は、犯罪被害に遭われた直後「どこに相談し
て い い か わ か ら ず 、 と て も 孤 独 だ っ た 。」 と 話 さ れ て い ま す 。
犯罪被害に加え、周囲の好奇の目、誤解に基づく中傷や過
剰な報道といった二次被害 に苦しめられる 、そのような被害
者に対して被害前と変わらず、近くにいる 人がしっかりと 寄
り添い、理解して支えること、共に生きるということが大切
ではないでしょうか。
-1-
目
1
次
被害者の 悲し み
∼ 交通事故犠牲者の 家族 からの 手記
「妹よ」
2
悲しみを 乗り越えて
∼ 被害者支援担当警察官 の手記
「また来たよ」
3
被害者支援のために 何ができるのか
(1) 被 害 者 と 共 に 生 き る
(2) 被 害 者 支 援 へ の 参 加
(3) 被 害 者 支 援 の た め の 諸 制 度
-2-
∼
∼
被害者の悲しみ
∼交通事故犠牲者の家族からの手記∼
「妹よ」
佐波郡
女性
「A子がぁ、A子が死んだあ!」
私の両肩を激しく揺すり、泣き崩れる父。母が、遠くで呆然
と立ち尽くしていました。
何 も 知 ら ず 、そ の 朝、家 族 は 、そ れ ぞ れ の職 場 へ と 向 か い、
突然私を迎えに来た父。それが、妹の死を知った瞬間でした。
私の体の中の血が全て足元に落ちて、全身が冷たくなってい
くのがわかりました。
夢を見ている 様な気持ちのまま、ようやく警察署 に辿り着
きました。
そこで、最初に目にしたのは、妹を轢いたと思われるトラ
ックでした。タイヤ には血を水で流した跡がありました。大
人の背丈もある 大きなタイヤに驚き、そして、警察の人に聞
かされた言葉には、皆、耳を疑いました。
「 誠 に 言 い に く い 事 で す が 、 娘 さ ん の 頭 は 、 あ り ま せ ん 。」
私達は、愕然としました。妹は、目も鼻も無く、頬は口か
ら耳まで深く裂け、頭からは脳みそも出てしまい、血で染ま
った包帯が巻かれていたのです 。手足は、すり傷と骨折で無
惨な姿でした。
どれだけ妹が苦しみ、痛い思いをした事か。私達は妹の体
にすがりつき、ただ、ただ泣き続けるだけでした。
その年、妹は高校を卒業し就職したばかりで 、まだ十八歳
の、これから沢山楽 しい事があるはずだった妹の青春が、心
な い ド ラ イ バ ー に よ っ て 踏 み 潰 さ れ る な ん て 、ひ ど す ぎ ま す 。
妹は、自転車 できちんと 青信号を直進していたのに、ウイ
ンカーを出したか覚えていず、ミラーも確認せずに 、左折巻
き 込 み防 止 窓も 人に 見 られるのが嫌 だったからと座 布 団で 隠
して、妹が左側にいるのにも気づかずに左折して、自転車 ご
と何メートルも引きずって行ったなんて信じられません!
父と母にとって、妹をこんな 形で失った事は、想像以上 に
-3-
辛く悲しいものでした。私達は、笑う事を忘れ、何をしてい
ても妹の事を思い出しては 泣き、父母は、口もきけない日々
が続きました。
私には、そんな両親をどうやって 慰めたら良いのか、全く
わかりませんでした。
「さようなら」の言葉も言えず、最後に、妹の顔も見る事
さえ出来なかったあの時の悲しみ、辛い悔しさは、九年も経
った今も、決して癒える事はありません。
今、私も母になり、子供を亡くした両親の心の痛みは、あ
の時以上にわかる様になりました。
一歩家を出ると、
猛スピードで走り去る車
ヘルメットをかぶらず走り去るオートバイ
携帯電話をしながら片手運転する人
お酒を飲んでいるのに「大丈夫」と平気で車を運転す
る人
を見かけます。そんな人達に、是非、知って欲しいのです 。
あなた達にとって、大切な人を失うという 事が、どういう 姿
になる事か。加害者 も被害者も、今まで築き上げて来た幸せ
な生活も思い出も全てメチャクチャになり、耐え難い苦痛が
待っているのです。これが、交通事故の現実なのです。
「妹よ、天国での暮らしはどうですか。
あの時の傷は、神様が治して元通りの体に戻れたことと願
っています。
辛く悲しい時に、側にいてあげられなくて本当にごめんね。
姉ちゃんは、一人っ子になってしまったけれど、お前
の死を無駄にせず精一杯生 きるよ。あと、どれだけ 涙を流し
たら、お前は帰って来られるのだろう。あと、どれだけ苦し
んだら、お前に会えるのだろう。
今度、生まれ変わったら長生きで
きる命をもらって、また家族になろうね。
姉ちゃんは、ずっとずっと待って
い る よ 。」
-4-
悲しみを乗り越えて
∼被害者支援担当警察官の手記∼
「また来たよ」
警察署女性警察官
「 今 晩 は 。 ま た 来 ち ゃ っ た 。」
甘えた声で、ニコニコしながらB子が交番に入ってきた 。
あれから半年経った今も、B子は、私の宿直日を数えて、
当直中の私に近況を知らせに来る。
B子は19歳。製造工場 で働く事務員で、自立したいと 実
家から出てアパートの1階に住んでいた。
とてもかわいくて、今時のギャル風のいでたちで、髪は縦
ロールの茶髪、派手な化粧で、性格は明るく素直、交際中の
彼もいる。
そんな彼女が、ある日突然、強姦事件の被害者 となってし
まった。
平穏で楽しい時を過ごしていた、かわいい女の子を突然襲
った事件。
半 年 前 、「 す い ま せ ん 。 助 け て 下 さ い 。」 と 青 白 い 顔 で 交 番
に飛び込んで来たのがB子だった。
私はとりあえず 彼女を椅子に座らせ、隣に座って事情を聞
いた。
「 知 ら な い 男 が 家 に 入 っ て き て エ ッ チ さ れ た 。」
彼女は、小さな声でそう言った。
お化粧は涙で流れ、華奢な身体をずっと ガタガタと震わせ
て、今にも倒れそうな様子だった。
彼女の恐怖、混乱、不安が伝わってくる。
聞くのがつらい。
その気持ちを押し殺し冷静に事情聴取を続けるのは、犯人
へ の 強 い 怒 り と 、「 私 が し っ か り し な け れ ば 」 と い う 使 命 感 の
ようなものだった。
ポツリポツリ と話す彼女の口から、徐々に事件の概要が明
らかとなる。
前日の夕方、彼女は会社から自宅に戻り、仕事に疲れ電気
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をつけたまま寝てしまい、午前1時過ぎ
ころ目を覚まして、玄関の鍵を閉めよう
と立ち上がると、無施錠の玄関ドアから
見知らぬ男が押し入り、強姦被害にあっ
てしまったというものだった。
彼女は男が逃走した後、どうしていい
かわからず、泣きながら車を運転し、一
人で交番まで来たのだ。
事件の状況を全て話し終えると、彼女は「親にこのことを
話すと実家へすぐ戻されるから 言えない。でも、彼氏には本
当のことを話そうと思う。でも、これで彼が私を嫌いになっ
た ら と 思 う と 迷 っ ち ゃ う な 。」 と 話 し た 。
そして、自分に言い聞かせるように「本当に私を好きなら
別 れ な い よ ね 。」「 大 丈 夫 だ よ ね 。」 と 何 度 も 言 っ た 。
私 は 希 望 を 込 め て 「 そ う だ ね 。」「 大 丈 夫 だ よ 。」 と 繰 り 返
した。
心身共 に傷ついている彼女を、ありのまま温かく見守って
くれる相手が必要だと思った。
それから数週間が経ち、B子から「交際中の彼に被害に遭
っ た 事 を 話 し た 。」 と 聞 か さ れ た 。
心配で何度か連絡を取りながらいたところ、B子は私の宿
直日を聞き、その日に合わせ彼を連れて交番へやって来たの
だ。
彼は長身で彼女と同じ茶髪、親の会社の見習いをしている
という優しそうな青年で、この彼ならB子の傷を癒してくれ
ると思った。
私は彼を呼び寄せ、小さな声で「今のB子は元気そうにし
ているけど、いつも 不安でいっぱいだと思うよ。B子は君を
信じて本当の事を話したんだよ。わかってあげてね 。大事に
し て ね 。」 と お 願 い し た 。
すると彼は、彼女に視線を向けた後真っ直ぐ私の方を見て、
ま る で 彼 女 に 誓 う か の よ う に 「 わ か り ま し た 。」 と 力 強 く 答 え
てくれた。
それからは、私に会いに来るときはいつも二人で、仲の良
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い姿を見せてくれる。
し ば ら く し て 、 B 子 は 彼 の 家 の 近 く に 引 っ 越 し て 、「 今 度 の
ア パ ー ト は 2 階 だ し 、彼 の 家 も こ の 交 番 も 近 い か ら 安 心 だ よ 。
親 に は 引 っ 越 し た 理 由 は 言 っ て な い よ 。」 と 話 し て く れ た 。
B 子 が 私 の と こ ろ に 来 る 時 、そ の 表 情 は ニ コ ニ コ と 明 る く 、
事件のことは微塵も感じさせないが 、それは心の傷が癒えて
いない証拠なのだと思う。
私と話すことで、いくらかでも不安な気持ちを落ち着かせ
ているのだろう。
B 子 の 苦 し み や 不 安 は 本 人 以 外 わ か り よ う も な い が 、私 は 、
B子が必要な時、少しでも近くにいてあげたいと思う。
私はずっと彼女の隣にいるうちに 、いつの間にか捜査員 と
してだけでなく 、母親のような気持ちになっていたようだ 。
実の 母親 ではないが 、他 人 だからこそ落 ち 着い て話 を聞 け
る、そんな存在でいたい。
被害者支援は、特別なことではないと思う。
警察官 として 、いや、人として当たり前のことをして、相
手 と 自然 に 接するだけで、 こころのあたたかさは相 手 に伝 わ
るのではないだろうか。
B子の「また来たよ」が聞けなくなるのはちょっぴり寂し
いけれど 、早く彼女が私を必要としないようになってほしい
と願う。
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被害者支援のために何が 出来 るのか
(1) 被 害 者 と 共 に 生 き る
犯罪被害に遭われた方やその家族の方が、あなたの周り
にいるときは 、あなたが 支えて下さい。そして、その人を
ひとりにしないで下さい。
犯罪被害による苦しみ、それだけでなく、ときとして 周
囲の人達からの偏見と誤解に悩み、苦しみ、孤立していま
す。
そんな時に大切なのは 、手記にもあるように、特別なこ
と で は な く 、「 人 と し て 当 た り 前 の こ と を し て 、 相 手 と 自 然
に接する」ことではないでしょうか。
私たちは、みんなで支え合って、共に生きているのです
から。
(2) 被 害 者 支 援 へ の 参 加
ア
すてっぷぐんまの活動への参加
被害者支援においては、行政機関だけでなく 、民間被
害者支援団体が欠くことのできない重要な役割を果たし
ています。
県 内 で は 、「 N P O 法 人 被 害 者 支 援 ネ ッ ト す て っ ぷ ぐ ん
ま」がその役割を担っていますが、ボランティア団体で
すので、みなさんの協力や浄財に頼らざるを得ません 。
「すてっぷぐんま」の行う各種行事 にボランティア と
して参加してみませんか。或いは賛助会員 や寄付という
形で「すてっぷぐんま」に支援して頂けませんか。
みなさんの踏み出す一歩は、共に生きる社会を支える
大きな一歩となるでしょう。
イ
関係機関団体への協力
本 県 で は「 群 馬 県 犯 罪 被 害 者 等 基 本 計 画 」 が 策 定 さ れ 、
県内の被害者支援に関係する機関・団体が相互に連携し
合い、さまざまな取組みが行われています 。
そこでみなさんには 、その取組みにご理解いただき 、
いろいろな 場面で積極的に携っていただけるよう、ご協
力を是非お願いします。
-8-
(3) 被 害 者 支 援 の た め の 諸 制 度
情報提供や付き添い等の支援
◎
被害者連絡制度
被害者又 はその遺族に、刑事手続や犯罪被害者のため
の制 度 の教 示、 被疑者検挙状況 や 処分場教頭の 連 絡を 行
う制度
◎
指定被害者支援要員制度
専門的な被害者支援が必要とされる 事案が発生したと
きに、事件発生直後から捜査員 とは別に指定された警察
職員が支援する制度
経済的支援
◎
公費支出制度
∼被害者の経済的負担の軽減∼
○
性犯罪被害者のための初診料等支出制度
○
身体犯被害者の診断書料、死体検案書料支出制度
○
司法解剖遺体公費支出制度
◎
等
犯罪被害給付制度
○
遺族給付金(被害者の第一順位遺族)
○
重傷病給付金(被害者本人)
○
障害給付金(被害者本人)
再被害の未然防止
◎
再被害防止制度
加害者からの 報復被害に備えた再被害防止措置を講じ
る制度
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もし…
あなたが万が一被害に遭われた 時には、ひとりで悩まな
いで下さい。
あなたは、決してひとりではありません。
ご相談ください。
私たちはあなたの隣に寄り添い、一緒に向き合いたいと
思います。
私たちは、みんなで支え合って、共に生きているのですか
ら。
ツーホー
ハレバレ
警 察 安 全 相 談
027 − 224− 8080
又は、#9110
すてっぷぐんま
027 −243−9991
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∼
ボランティア・賛助会員を募集しています
◎
ボランティアとして参加してみたい…
◎
賛助会員になりたい…
◎
寄付をしたい…
という方は、下記のところまでご連絡ください。
あなたのお電話をお待ちしています。
警察本部被害者支援室
※
027− 243− 0110
内 線( 2643)
インターネットでの受付は、
群馬県警察 ホ ー ム ペ ー ジか ら お 願 いします
すてっぷぐんま事務局
0 2 7− 243− 9992
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