農林水産大臣賞 わらび の しゅうらく 参加団体名: 蕨 野 集 落 地 区 名:蕨野地区(佐賀県唐津市) 1.地区の概要 蕨 野 地 区 は 、佐 賀 県 唐 津 市 の 南 端 、八 幡 岳 の 北 麓 に 位 置 し 、平 均 勾 配 1/5 と い う 急 傾 斜 の 棚 田 が 、 集 落 の 上 部 の 標 高 120m か ら 400m の 間 に 扇 状 に 広 が っ て い る 。 棚 田 は 36ha で 700 枚 ほ ど あ り 、全 国 の 中 で も 規 模 の 大 き い 棚 田 で あ る 。区 画 は 5a ほ ど で 、石 垣 の 高 さ は 3m か ら 5m も あ り 、営 農 条 件 の 厳 し い 環 境 下 に あ る 。地 区 の 人 口 は 194 人 、世 帯 数 は 67 戸 、そ の う ち 農 家 戸 数 は 44 戸 で ほ と ん ど が 兼 業 農 家 で あ る 。 主 た る 作 物 は 棚 田 で 生 産 さ れ る 米 で あ り 、 ほ と ん ど の 農 家 が 経 営 面 積 1ha を 下 回 る 零 細 農 家 で あ る 。 蕨 野 地 区 の 棚 田 は 、 江 戸 期 よ り 造 成 さ れ て お り 、 明 治 か ら 大 正 、 昭 和 20 年 代 ま で 、 セ マ チ だ お し や 原 野 を 開 墾 し て 現 在 の 規 模 に 至 っ て い る 。そ の 作 業 は 全 て 人 力 で 行 わ れ 、棚 田 や ため池の造成には協同作業が欠かせなかったことなどもあり、地域の団結力は潜在的に強 く、集落ぐるみで地域振興が図られている。 2.当該団体の概要 農 家 の 高 齢 化 や 耕 作 放 棄 地 の 拡 大 が 進 む 中 、棚 田 を 守 っ て い く の が 困 難 と な っ て い た 。し か し 、先 人 が 残 し た 地 域 の 宝 で あ る 棚 田 を 守 る た め 、蕨 野 集 落 で は 営 農 を 基 軸 と し 、都 市 と の 交 流 に よ る 地 域 の 活 性 化 で 棚 田 の 保 全 を 目 指 し た 取 り 組 み を 行 っ て き た 。 特 に 、 平 成 14 年 度 か ら 平 成 16 年 度 に か け て 、 来訪者が快適に交流できるように里地棚田保全整備事業で交流 広場や展望所などが整備された。さらに、棚田米の生産や販売活動、消費者との交流を深めるため の各種のイベントにも積極的に取り組み、地域が活性化してきている。このように、蕨野の棚田を 未来へと継承するために始めた取り組みは、集落を活性化させるとともに、集落外の消費者と連携 した取り組みに発展しており、棚田保全の取り組みが地域を越えて次世代に継がれるよう努めてい る。 3.事業の概要 地域づくりの契機となった農村整備事業 ① 事業名:里地棚田保全整備事業 ② 工 ③ 総事業費:145 百万円 ④ 受益面積:26.6ha、受益戸数:46 戸 ⑤ 主要工事: 期 着工年度:平成 14 年度∼ 完了年度:平成 16 年度 ・連絡農道工 L=342m ・遊歩道工 L=386m ・交流広場 A=3,400 ㎡ ・トイレ 1 箇所 ・休憩所 2 箇所 現在の地域ぐるみ活動につながっている事業 ① 事業名:多面的機能支払交付金 ② 活動期間 ③ 総交付金額:2,730 千円(平成 26 年度) ④ 受益面積:30.6ha、受益戸数:67 戸 ⑤ 主要工事:・農用地及び施設の点検、適正管理(草刈り・泥上げ等) 活動開始年度:平成 19 年度∼ 活動終了年度:平成 30 年度 ・補修、長寿命化(水路 L=41m) 現在の地域ぐるみ活動につながっている事業 ① 事業名:中山間地域等直接支払制度 ② 活動期間 ③ 総交付金額:32,345 千円 ④ 受益面積: 32.1ha、 受 益 戸 数 44 戸 ⑤ 主要工事:・都市との交流事業 平成 22 年度∼平成 26 年度 ・農道舗装 ・水路、農道の管理 ・農地、農業施設の災害復旧 ・イノシシ被害対策 4.主な活動 活 動 名 活 動 内 容 蕨野浮立 村の鎮守「大山祇神社」へ五穀豊穣祈願のため浮立を奉納 棚田米の生産・販売 ブランド米「棚田米蕨野」を生産及び販売活動 農産物直売所運営 直売所で棚田米・野菜などの販売、来訪者への棚田の案内 ウォーキング大会 「早 苗 と 棚 田 ウ ォ ー ク 」「菜 の 花 ハ イ ク と 屋 台 村 」年 2 回 開 催 棚田援農隊の活動 佐賀大学農学部が耕作放棄地の棚田を復田し、実習田に活用 コンサート 棚 田 を 舞 台 に し て 「ふ る さ と の 灯 り コ ン サ ー ト 」の 開 催 棚田と里山再生プロジ 地元の新聞社とNPO法人と企業が連携して棚田の保全活動を 実施 ェクト 棚田ボランティア さが棚田ネットワークを通じて、企業がボランティア活動 5.農業農村整備事業の実施後の取り組み内容と効果 活 動 名 1蕨野浮立保存会 活 動 内 容 蕨 野 の 浮 立 は 、 江 戸 期 よ り 伝 承 さ れ て お り 、 毎 年 9 月 23 日 に 五 穀 豊 穣 を 祈 願 し「 大 山 祇 神 社 」へ 奉 納 さ れ て い る 。伝 統 芸 能 の 継 承 が 保 存 活 動 を 通 じ て 、仲 間 作 り と 地 区 の 団 結 に つ な が っ て い る。 2蕨野棚田保存会 現 在 の 会 員 は 23 戸 で 、 12.2ha で ブ ラ ン ド 米 「 棚 田 米 蕨 野 」 の 生産及び販売活動を行っている。 イベントによる消費者との交流を棚田米の売上げにつなげて い る 。消 費 者 は 購 買 で 棚 田 を 支 援 し 、農 家 は 棚 田 米 の 売 上 げ 増 で 営農意欲が高まることから、棚田の保全へとつながっている。 3蕨野棚田直売所 事業で整備した蕨野棚田交流広場内に、農産物直売所を建設 し 、 地 元 農 家 24 人 の 会 員 で 運 営 し て い る 。 棚 田 米 を 中 心 と し た 農 産 物 の 販 売 、ま た 棚 田 米 を 加 工 し た 棚 田 米 せ ん べ い を 販 売 す る な ど 6 次 産 業 化 に も 取 り 組 ん で い る 。さ ら に 、蕨 野 棚 田 の 来 訪 者 へ地域の案内を行っている。 会 員 は 、年 に 1 回 は 直 売 所 の 先 進 地 研 修 を 行 う な ど 、直 売 所 運 営 に 対 す る 意 欲 も 向 上 し 、直 売 所 の 運 営 が 地 域 振 興 に つ な が っ て いる。 4棚田と菜の花実行委 員会 蕨 野 区 長 を ト ッ プ に 、棚 田 保 存 会 、生 産 組 合 、婦 人 会 、消 防 団 、 育 友 会 な ど 集 落 ぐ る み で 実 行 委 員 会 を 組 織 し て い る 。こ の 実 行 委 員 会 は 、先 人 が 人 手 の み で 石 を 一 つ 一 つ 積 み 上 げ て 築 き 上 げ た 蕨 野 の 棚 田 を 未 来 へ つ な げ た い 思 い か ら 、消 費 者 で も あ る 参 加 者 に 蕨野棚田の良さを知らせ応援していただけるようウォーキング 大会などのイベントに取り組んでいる。 棚 田 を 舞 台 に し た イ ベ ン ト で 多 く の 来 訪 者 が 当 地 を 訪 れ 、石 積 み な ど の 棚 田 景 観 に 心 地 よ さ を 感 じ ら れ 、蕨 野 フ ァ ン が 増 え て き た 。集 落 の 人 々 も 蕨 野 集 落 へ の 誇 り を 持 つ よ う に な り 、先 人 が 苦 労を重ねて築いてき棚田を未来へ継承する力になっている。 5蕨野機械利用組合 平 成 19 年 度 に 、35 戸 の 農 家 で 、農 業 用 機 械 の 共 同 利 用 を 行 う た め 発 足 し 、播 種 機 1 台 、田 植 機 3 台 、動 力 噴 霧 機 3 台 を 導 入 し ている。 農業用機械のコスト削減や農作業の共同化で効率化が図られ て い る 。ま た 、共 同 防 除 に よ り 計 画 的 に 適 正 に 農 薬 散 布 が 行 え る ようになった。 6.内容などについての効果 指 標 事業実施前 現在 「棚 田 米 蕨 野 」の 販 売 0t 33t 蕨野棚田直売所での販売売上げ 0円 200万 円 イベント交流参加者 蕨野機械利用組合への加入農地面積 50人 400人 0ha 21ha 7.取り組みに対しての苦労、工夫及び地域の課題の克服について 蕨野区長をトップとした棚田と菜の花実行委員会でイベントを運営し、イベント当日は、 組 織 の メ ン バ ー の ほ ぼ 全 員 が 参 加 し て い る 。唐 津 市 は 、イ ベ ン ト 参 加 者 へ の 参 加 申 込 み の 宛 名書きなどで協力している。 蕨野浮立保存会は、集落内の 30 人で活動している。蕨野棚田保存会、蕨野棚田直売所の運営は、 各々の会員で組織し運営している。 いずれの組織も役員の担い手がいない、会員の高齢化による会員数の減少などの課題はあるが、 集落内の話し合いや団結力で解決し、組織を維持継承している。 8.本取り組みと農業について ①今回の地域づくりにおける取り組みは農業や農家にどのような影響を与えたか、また、農業自体 がどう変わってきたか。 ・蕨野棚田保存会を設立し、「棚田米蕨野」を会員自らの手で生産、販売を行なった。消費者から 安全・安心でおいしいと好評を得ており、ブランド米として全国で食されている。 ・集落のメンバーで蕨野棚田直売所を交流広場に建設し、運営を行なっている。米や野菜の販売 のほか、棚田米を使用した棚田米せんべいを独自に商品化して直売所で販売している。このせ んべいがもっと売れるように、平成 27 年度には新たな形やパッケージを作るなど 6 次産業化 の取り組みを行う。 ②環境に配慮した農業の展開、新規作物の導入について。 ・「棚田米蕨野」の生産は、蕨野集落の上部にある棚田で生産しているので、生活雑排水が一切入 らない安全・安心なお米で、平成 15 年度に佐賀県の特別栽培農産物認証を受け、化学肥料や 農薬の使用を通常の 50%に削減して栽培している。 9.今後の展望 集落を取り巻く環境は、高齢化や、担い手不足と厳しい状況にあるが、先人が人手のみで石を一 つ一つ積み上げ、苦労を重ね築き上げてきた蕨野の棚田を未来へ継承していく覚悟である。そのた め、ボランティアの支援などを積極的に受け入れるなど、これまでの活動を糧にして、集落ぐるみ で課題解決を図り元気な地域にしていきたい。 農業農村整備優良地区コンクール参加地区の概要 Ⅰ 地区の概要 ふりがな わらび の ち く 蕨 野地区 地区名 ふりがな 参加団体 わらび の しゅうらく 名称: 蕨 野 集 落 住所:〒849-3203 佐賀県唐津市相知町平山上甲1244 ふ り が な かわはら Tel:0955-62-4791 Fax:無 ひろ み 代表者氏名: 川原 廣美 事業の概要(対象事業、工期、 里地棚田保全整備事業、平成14年度∼平成16年度、145百万円、26.6ha、46戸 多面的機能支払交付金、平成19年度∼、2,730千円(平成26年度)、30.6ha、67戸 総事業費、受益面積・戸数) 中山間地域等直接支払制度、平成22年度∼平成26年度、32,345千円、32.1ha、44戸 主要工事・規模 連絡農道L=342m、遊歩道L=386m、休憩所2箇所、交流広場A=3,400㎡、トイレ1箇所 多面的機能支払交付金(施設の点検・適正管理、補修・長寿命化:水路L=41m) 中山間地域等直接支払制度 農地、農業施設の災害復旧、農道舗装、イノシシ被害対策 Ⅱ 主な活動 活 動 名 活 動 内 容 ・蕨野浮立 ・棚田米の生産・販売 ・農産物直売所運営 ・ウォーキング大会 ・棚田援農隊の活動 ・コンサート ・棚田と里山再生プロジェク ト ・棚田ボランティア ・村の鎮守『大山祇神社』へ五穀豊穣祈願のため、浮立を奉納 ・ブランド米『棚田米蕨野』を生産及び販売活動 ・直売所で棚田米・野菜などの販売、来訪者への棚田の案内 ・『早苗と棚田ウォーク』『菜の花ハイクと屋台村』年2回開催 ・佐賀大学農学部が耕作放棄地の棚田を復田し、実習田に活用 ・棚田を舞台に『ふるさとの灯りコンサート』開催 ・地元新聞社とNPO法人と企業が連携して、棚田の保全活動 ◆活動状況の主な指標 ・『棚田米蕨野』の販売 ・蕨野棚田直売所での売上げ ・イベント交流参加者 ・蕨野機械利用組合への加入農地面積 ・さが棚田ネットワークを通じて、企業がボランティア活動 事業実施前 事業実施前 事業実施前 事業実施前 0t 0円 50人 0ha → → → → 33t 200万円 400人 21ha ◆関係組織 ・蕨野浮立保存会、蕨野棚田保存会、蕨野棚田直売所、棚田と菜の花実行委員会、 蕨野機械利用組合、棚田援農隊、NPO法人蕨野の棚田を守ろう会 Ⅲ 推薦理由 全国で農家の高齢化や耕作放棄地の拡大が進む中、蕨野集落も例外ではなく、棚田を守っていくのが困難となっていた。 しかし、先人が残した地域の宝である棚田を守るため、蕨野集落では営農を基軸とし、都市との交流による地域の活性化で棚 田の保全を目指した取り組みがなされてきた。特に、平成14年度から平成16年度にかけて、里地棚田保全整備事業により交流 広場や展望所などの環境整備が行われ、来訪者が快適に交流できるようになった。 そして、棚田米の生産や販売活動、消費者との交流を深めるための各種イベントにも積極的に取り組まれ地域が活性化して きている。このように、蕨野の棚田を未来へと継承するために始めた取り組みは、集落を活性化させるとともに、集落外の消 費者等とも連携した取り組みに発展し、棚田保全の取り組みが地域を超えて次世代に継がれていくことが期待される。
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