遺伝リテラシー -− 遺伝子検査を考える −-

(国語/理科) 遺伝リテラシー -− 遺伝子検査を考える −- 国語科(現代文Ⅰ) 若宮 知佐
理 科(生物基礎) 内山 正登
1、授業の概要 特講「科学の方法」『生命倫理』の授業の一環として、生物と現代文Ⅰのコラボレーションによる授業を行
う。生物基礎「遺伝子とそのはたらき」と現代文Ⅰ「パラグラフを意識して書く」の単元をクロスさせ、社会的
に話題となっている新型出生前診断(NIPT)*について、生物の知識をもとに自分の意見を表出し、生徒自らが
ルーブリックを作成して評価するという複合的な活動を行うことで、高度科学・技術社会の課題を発見する力や
科学的プロセスを踏んで解決する力を育成する。
2、学習指導案 日時 11 月 27 日(金)5 時間目 対象
1年 D 組(男子 21 名 女子 21 名 合計 42 名) 教室
1年 D 組教室 単元名 現代文Ⅰ「パラグラフを意識して書く」/ 生物基礎「遺伝子とそのはたらき」
使用教材 東京書籍 生物基礎・第一学習社 スクエア最新図説生物 neo 授業設定の理由 生命科学技術の発達にともなって、パーソナルゲノムの取り扱いなど今までにないさまざまな社会問題が生じ
ている。DTC 検査や新型出生前診断(NIPT)などが身近な技術となっている現在、専門家ではない一般市民も、
遺伝に対する正しい知識と理解を持つことが求められていると言えよう。平成 24 年から実施されている学習指
導要領において、生物では最新の研究結果をもとに「遺伝子のはたらき」に関する内容が充実してきている。そ
の一方で、従来から指摘されているように「ヒトの遺伝」に関する内容は十分とは言えず、日本人類遺伝学会が
中心となり「中央教育における『ヒトの遺伝と多様性』の扱いに関する要望」が出されている状況にある。この
ような現状において、次期学習指導要領に向け、学校現場においてヒトの遺伝に関する知識(遺伝リテラシー)
を身につける実践を行う必要があると考えている。
そこで、
本校では遺伝リテラシーを身につけるための授業
(特
講「科学の方法」
『生命倫理』
)を実践してきた。この授業では、
「ヒトの遺伝」について生物の教員が授業を行
うだけでなく、現代文・公民・英語と連携することで、最新の技術について主体的に思考・判断・表現し、実際
に社会生活で使える能力を育成することを目標としている。
さらに本校では、今年度より SSH 事業の一環として学校設定科目「現代文Ⅰ」(1単位)を新設した。この
* 妊婦の血液中の胎児由来の DNA を調べることによって、胎児の染色体の病気があるかどうかを調べる手法
授業では、本校の掲げるキー・コンピテンシーのうち、⑵科学的プロセスを踏んで問題解決する力、⑶グローバ
ルに発信する意欲と語学力を養うため、何らかの課題に対して《考え、話し合い、書く》活動を繰り返し行って
いる。また、その活動に対して質的評価を行うことで、生徒自身が自らの思考・判断プロセスをメタ認知できる
よう授業設計している。このように生徒のパフォーマンスと教員による質的評価を積み重ねることで、生徒のコ
ンピテンシーがらせん状に伸びていくことを企図する科目である。
今回は、「生物基礎」と「現代文Ⅰ」が連携し、新型出生前診断(NIPT)を題材としてパフォーマンス課題
に取り組ませる中で、高度科学・技術社会の課題を発見する力や科学的プロセスを踏んで解決する力を育成する
単元を構想した。
授業の目標 現代文Ⅰ 1、科学的根拠に立脚しておりかつ論理的な意見を構築できる。 2、他者との対話を包含した自分の意見を、第三者に分かりやすく伝えることができる。 (⑵科学的プロセスを踏んで問題解決する力・⑶グローバルに発信する意欲と語学力)
生物基礎 3、生命科学技術が社会に与える影響について、自らのこととして捉え、議論を通して課題を 明らかにしていく過程を体験する。 (⑴高度科学・技術社会の課題を発見する力) 指導計画(計 6 時間) 生物基礎 導入 授業Ⅰ DCT を題材として、シークエンス技術につ
現代文Ⅰ 授業Ⅱ自分の意見を効果的に述べるスキルとして
いて学んだうえで、新型出生前診断の概略を知る。 のパラグラフ・ライティングを学び、
新型出生前診
断についての意見文を 200 字で書く。 展開 授業Ⅲ 「現代文Ⅰ」で書いた意見文をクラス全体
で共有したうえで、自分に不足している知識・情報
について主体的に調べ、理解を深める。 まとめ 授業Ⅳ 新型出生前診断について、対立する意見を
授業Ⅴ 新型出生前診断について、反対意見との対
持つ人との話し合いを通して、自分の考えを深める
話を踏まえた自分の考えを 500 字程度で書き、今回
とともに、互いが容認できる地点を探る。 の活動について簡単に省察する。 授業Ⅵ(本時) 「現代文Ⅰ」で書いた 500 字の意見文のいくつかをクラスで共有し、それらを評価す
るルーブリックを生徒参加型*で作成する中で、より良い意見文の要素について認識する。 *「学生と作成する作成するルーブリック」(ダネル・スティーブンス他『大学教員のためのルーブリック評価入門』2013)
本時の学習指導案(6時間目) 生徒の学習活動
Time
1.
導
入
8
分
今回のパフォーマンス課題、および 500 字の
・ 横並び4人のグループに分けておく。
文章を作成する前に考えておいた「評価の観
・ ルーブリック作成の手順と、活動を通して
点」について確認する。
2.
本時の活動の内容とねらいについて説明を受
ける。
展
開
1
10
分
よび付箋を配布する。
4.
「良かった点」を各自が付箋一枚に書く。
5.
何人かが「良かった点」を発表する。
6.
カウンセラー役の教員から感想を聞く。
きた「良かった点」をルーブリックに位置
7.
班ごとに話し合い、ルーブリックの空欄に付
づける中で、グループ活動でやるべきこと
箋を貼り分ける。
のイメージを持たせる。
上記 3.4.6.7 のプロセスを2回繰り返す。
・ 生物科教員を遺伝カウンセラーに見立て
て、生徒に発表させる。
・ 国語科教員が生徒や生物科教員から出て
・ 5 のプロセスは抜かして1ターム8分程
度で回していく。
25
分
・ 評価する中で蓄積された「良かった点=評
班ごとにルーブリックの付箋を整理する。
10. 班ごとにどのような評価要素が挙がったかを
7
分
・ いくつかの項目が空白のルーブリック、お
指名された一名が意見文を発表する。
9.
ま
と
め
付けて欲しい力について説明する。
3.
8.
展
開
2
指導上の留意点
発表させる。
11. ワークシートに活動の振り返りを書く。
価要素」を観点ごとに整理させる。
・ 時間がなければ、全班黒板に貼らせて、教
員が簡単にコメントする。
・ 本時の活動について各自に省察させる。
◇ パフォーマンス課題 〈あなた/あなたの配偶者〉にとって初めての子どもを〈あなた/あなたの配偶者〉が出産する予
定です。胎児の出生前診断を行うかどうかについて、当初、配偶者と意見が対立していました。配偶
者と十分に話し合った結果あなたがどのような判断をするに至ったのかを、遺伝カウンセラーに 500
字程度の文章で伝えてください。 《条件》⑴ 480〜540 字に収める。文体は常体(だ・である体)をとること。 ⑵ 3段落構成で書くこと(→ 段落頭は1マス下げて、禁則処理を行う)。 ⑶「自分の判断と根拠・理由」「対立する配偶者の意見と根拠・理由」は必ず入れること。 (参考) 1段落 200 字が目安ですが、結論部(まとめ)は 100 字程度で済むものなので、「500 字 程度」という設定にしました。結論は最初に置いても(頭括型)、最後に置いても(尾括型) 結構です。 パフォーマンス課題評価用ルーブリック(授業者があらかじめ想定したもの) 観点 主
題
把
握
4 3 2 1 ⬜︎ 条件⑶はかなえられ
⬜︎ 条件⑶がかなえら
ている。
れていない。
⬜︎「自分の判断」と「対
⬜︎「対立する意見」への
⬜︎「自分の判断」と「対
立する意見」を総合す
有効な対応策や反論が
立する意見」が並列的に
る結論に至っている。
述べられている。
述べられている。
⬜︎ 多くの人にとって
⬜︎ 実現可能な結論が
⬜︎結論が明確である。
⬜︎結論が明確でない。
受け入れがたい内容
示されている。
得点 ×2
である。
⬜生物基礎で得た知
×2
識に基づいている。︎
⬜︎ 用いている情報に
複数の誤りがある。
⬜科学的知識が論を
⬜︎ 科学的知識が有効に
基づいている。
有機的に支えている。
活用されている。
⬜︎ 用いている情報が有
科
学
的
根
拠
⬜︎ 正しい科学的知識に
⬜︎ 遺伝子検査の特異
効に作用していない。
な問題性に気づいて
いる。
論
理
構
成
⬜︎ 最後まで述べきって
⬜︎ 未完成ながら主張
いる。
は述べられている。
⬜︎ 3つの段落が有機
⬜︎ 3つの段落の内容が
⬜︎ 条件⑵がかなえられ
⬜︎ 条件⑵がかなえら
的につながっている。
それぞれ明確である。
ている。
れていない。
⬜︎「自分の判断」から
⬜︎「結論」段落と他の2
「結論」に向けて、発
つの段落とが論理的に
展性のある論理展開
つながっている。
⬜︎ 条件⑴はかなえられ
⬜︎ 条件⑴がかなえら
ている。
れていない。
×2
になっている。
文
章
表
現
⬜︎ 正確かつ効果的な
⬜︎ おおむね正しい文で
⬜︎主述のねじれがある。
文章表現である。
書かれている。
⬜︎修飾関係があいまい。
⬜︎ 接続詞がうまく使
⬜︎ 読点の打ち方がよく
⬜︎読点、句点の打ち方が
えていて、段落相互の
考えられている。
不適切。
関係が見えやすい。
⬜︎ 3つの段落が分量的
⬜︎誤字脱字が複数ある。
にバランス良い。
×1