16 世紀植民市支配下におけるクラーカの地位継承に関する一考察

16 世紀植民市支配下におけるクラーカの地位継承に関する一考察
―アンデス南部コレスーヨの記録文書分析を中心に―
小山朋子(大阪大学外国語学部非常勤講師)
本発表では、現在のペルー、モケグア周辺の、コレスーヨとよばれた地域において、先
住民共同体の指導者クラーカたちが、
「カシーケ」の地位をめぐって争った訴訟の記録を分
析し、彼らの主張について考察した。なお、
「カシーケ」とは行政当局が王室官吏として承
認あるいは任命したクラ―カに与えた称号である。
1573 年から 1594 年にかけて、世代を超えて行われた一連の訴訟文書を分析すると、時
を経るにつれ、彼らの主張に変化が生じることが分かる。当初、
「カシーケ」の地位を求め
る所以として、訴訟当事者双方はそれぞれ、インカから任命された統治者である祖先から
の継承の正統性を繰り返し主張していた。ところが、1590 年を境に、両者は相手の家系の
正統性を否定し、訴訟相手本人だけでなく、その周囲の人間をも批判するという手段に訴
えるようになる。そこに突然現れるキーワードが、
「偶像崇拝者」と「妖術師」である。1590
年、当事者の一方が「偶像崇拝者」として罰せられたことが証言として記録されているこ
とから、「偶像崇拝者」や「妖術師」が批判の材料として使われるようになった背景には、
この頃行われたであろう教会巡察が大きく影響しているものと考えられる。また、この年、
スペイン人の後見人がついたことも一因として挙げられる。
インカからの任命を重視し、玉座に座って就任の儀式を行うなど、古来の伝統が存続し
尊重されていたことは明らかだが、訴訟文書を時系列に分析することにより、時を経るに
つれて西洋的概念が色濃くなっていく様子を見ることができる。
しかし、これらの文書だけでは、伝統的クラーカの地位と、官吏としての承認を得た「カ
シーケ」の地位が、先住民社会においてどのような価値を持ったのかは分からない。彼ら
が控訴を繰り返してまで「カシーケ」の地位を求めた理由を知るためには、彼らと一般先
住民との関係を研究することが必要であろう。
史料
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