スライド 1

2010年6月4日付
今度はスペインの番か
スペインの財政危機と今後の有り様につい
6月に入ったが、欧州の債務危機を元にし
て考察してみたい。
たユーロ売りやユーロ圏諸国の国債の売り、
4月以降のスペインに関する主な出来事
クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)買い
◎4月28日:
の動きは沈静化する気配が見えない。ギリ
格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)
シャの財政問題に対応すべく1,100億ユー
がスペインの格付けを「AAプラス」から
ロの支援パッケージが出され、さらに欧州
「AA」に引き下げ。
諸国の金融危機に際して最大7,500億ユー
◎5月10日:
ロの支援策が合意された。しかし、国際金
格付け会社ムーディーズがポルトガルとギ
融市場ではユーロ圏内の過大債務の問題
リシャの格下げの可能性に言及。
をあぶり出すかのように、今度はポルトガ
◎5月22日;
ルやスペインを狙い撃ちにする取引が続い
スペイン銀行(中央銀行)が貯蓄銀行カハ
ている。
スールを管理下に置いた。
5月以降、スペインの問題が特にクローズ
◎5月27日:
アップされてきた。同国の財政赤字は不動
スペイン下院は、150億ユーロ規模の財政
産バブル崩壊への対応の不備もあって拡
緊縮法案を1票差の僅差で可決。
大し、2010年は国内総生産(GDP)の
◎5月28日:
9.8%となり、公的債務残高はGDP比で
格付け会社フィッチ・レーティングスがスペ
53%となる見通しだ。同国では150億ユー
インの信用格付けを「AAA」から「AA+」へ1
ロ規模の財政緊縮法案をかろうじて可決し
段階引き下げ。
たが、これを同国民がすんなりと受け入れ
◎5月31日:
るかどうか、見通しは不透明である。
欧州中央銀行(ECB)は金融安定報告書で、
また、各国金融機関の貸出額はギリシャ向
金融危機の影響で2010~2011年にユーロ
けが約3,000億ドルに対し、スペイン向けは
圏の銀行が計上する追加評価損は1,950
1兆1,000億ドルと規模が大きい。スペイン
億ユーロに達する可能性があるとの試算を
の財政危機が高まり、同国債務の返済に
公表。
懸念が生じた場合、ユーロ圏や世界経済全
スペイン政府が不良資産処理に着手
体に及ぼす影響は甚大なものになりそうだ。
5月22日、スペイン中央銀行が貯蓄銀行の
一つ「カハスール」を公的管理下に置いた。
米大手金融機関ゴールドマン・サックスによ
これにより、欧州債務危機の問題の焦点は
れば、スペインの不動産会社の債務は
不動産バブル崩壊の実像が明らかになっ
4,450億ユーロ(約50兆円)と同国の国内総
たスペインに移った。
生産(GDP)の45%にも上っている。その大
21世紀に入ってからスペインでは不動産
部分は貯蓄銀行からの借入だ。
ブームが到来した。一般市民の居住用住
また、2009年末時点で同国内の不動産市
宅だけでなく、地中海沿いの気候温暖な地
場には92万6,000戸もの過剰在庫がある。
域におけるリゾート開発にも力が入り、不動
これは同国内の4年分もの取引件数に相当
産市場はある種バブルの様相を呈した。
する。
その過程において、不動産融資を後押しし
スペイン政府は、これまで手付かずであっ
たのが「caja(カハ)」と呼ばれる貯蓄銀行で
た不動産等の問題資産を抱え持つ貯蓄銀
ある。これは同国内で地域密着型業務を行
行の再編と経営刷新に着手した。これは
う金融機関であり、国内で45行ほどある貯
「秩序だった再編」と言えるもので、金融機
蓄銀行の貸出資産総額は国内金融機関の
関の不良資産の処理により今後の事態の
総額の約半分を占めている。
悪化に歯止めをかける意思表示と見られる。
貯蓄銀行は不動産ローンを中心とした業務
スペインの債務拡大と構造問題
を展開しているが、米サブプライムローンに
ギリシャ危機は、同国が経済規模や財政収
始まる世界金融恐慌をかろうじて回避した。
支構造に比して過大な財政赤字を抱え持
しかし、その後の景気後退に伴う不動産市
つという国家債務レベルの問題であった。
場の急落による不動産バブル崩壊の煽りを
スペインの事情はこれと異なり、一般の金
大きく受ける形となった。不動産開発会社
融機関による民間債務レベルの問題であ
の経営の悪化により不良資産額が膨らみ、
る。
業績は悪化した。
ギリシャでは、総労働人口の4分の1とも言
カハスールはスペインの中核都市コルドバ
われる公務員に対する手厚い待遇が同国
を拠点とする貯蓄銀行だが、2009年に約6
財政を圧迫し、ついには同国の国家財政を
億ユーロの損失を計上したことから、5月22
破たん寸前まで追いこんだ。
日にスペイン政府による救済介入の手が
今回のスペインの危機については、金融機
入った。これは銀行に公的資金注入を行い、
関の不動産貸出債権が不動産価格暴落に
経営陣の刷新を図るものだ。
よって回収不能になったことが原因である。
貯蓄銀行は、一般居住用不動産のみなら
これまで金融市場で問題にしていた欧州の
ず、地中海に面する高級リゾート地であるコ
債務問題や危機が新たな次元に入った印
スタ・デル・ソルの別荘やセカンドハウスな
象がある。
どにも多額の融資を行ったが、現在、それ
スペインの不良資産問題は、主に貯蓄銀行
らの不動産価格は大幅に下落している。
における問題であり、同国の二大銀行で
あるサンタンデール銀行とBBVA(ビルバ
の景気見通しが不透明感を強める中、金融
オ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行)の経営状
機関は自己資本を強化して、時間をかけて
態は健全だとされている。
少しずつ不良資産処理を進めていくことが
しかし、この二大銀行については、中南米
肝要になると見られる。
向けの貸出額が多額であることを指摘する
ガイトナー米財務長官は、5月26、27日と相
向きもある。もしこの二大銀行の業績が悪
次いでオズボーン英財務相、トリシェECB
化すれば、国際金融市場において中南米
総裁、ショイブレ独財務相と会談した。この
向け貸出が相当に厳格化すると見られ、世
際、ガイトナー長官は「欧州の民間銀行の
界規模で動揺が広がると見られる。
不良資産処理を進めるには公的資金を投
カハスールの件でスペイン政府は民間金融
入して銀行の自己資本強化をすべきであり、
機関の不良資産の本格的な処理に動いた。
それに先立っては金融機関のストレステス
政府が経営状況の悪化した銀行に公的資
ト(不良資産等の資産査定)を行うべし」と
金を注入し、民間債務を国家が引き受ける
伝えたとされる。
形となる。当然、国家債務負担は増大する
スペイン政府が貯蓄銀行に対して行う資本
ことになるので、スペイン国債の利回り上昇
注入は、この流れに沿ったものと言える。
等の市場の動きはこのあたりを捉えている
また、金融機関は増強した自己資本で資金
のではないか。
運用を行い、その収益で不良資産処理を行
また、スペインの経済成長を阻む構造上の
うが、運用手段は自国の国債購入が中心
問題を指摘する向きもある。同国の硬直的
になると見られる。その際、国が定める会
で閉鎖的な労働市場により、雇用はなかな
計制度として、国債の評価を時価でなく、帳
か流動化せず、企業も雇用者を増加させる
簿価格で行う措置も必要になってくるので
に至らず、その結果として、失業率が20%
はないか。これにより、金融機関は自己資
もの高率となっている。同国が労働法の改
本減少の恐れを回避できるとともに、国債
正や雇用規制の緩和等の労働規制改革を
の市場価格を気にすることなく長期に渡っ
進めることが国際競争力を高めるのに不可
て国債利息を収益計上することが可能にな
欠と見られている。なお、6月2日にスペイン
る。
当局は労働法を抜本的に改正する方針を
5月18日、イタリアが金融機関の保有国債
示している。
を時価でなく帳簿価格で評価する措置を導
欧州金融機関の問題解決に向けて
入し、即日実行した。これにより、同国の銀
次に欧州の金融機関全般について考えて
行は8億ユーロ(約900億円)の自己資本減
みる。
少を回避できる見通しであるが、同国でこ
欧州系金融機関は不良資産を抱え持って
れはすでに時価評価の義務付けをやめて
おり、その処理をどのように円滑に進めて
いるフランスやドイツなどに追随する動きだ
いくかが今後の課題となっている。先行き
としている。
今後の見通し
丘」に行きたい。これは1992年のバルセロ
日本や米国では金融機関の不良資産処理
ナ・オリンピックにおけるマラソン・コースの
のため、金融機関に公的資金注入を行い、
一部であったが、ゴール直前にこれはない
自己資本を厚くした。その中で残すべき金
だろうというくらいに険しい坂が長く続く。実
融機関を選び、時間をかけながら不良資産
際に車で登るのも大変なくらいだ。この丘の
を処理する手段を取った。欧州における、
道を踏みしめつつ、競技時に有森裕子氏が
公的資金注入による金融機関の自己資本
エゴロワと死闘を演じながら何を考えてい
を強化する動きは、これから先、まだ時間
たかに思いを馳せたい。また、サグラダ・
がかかると見られるが、その過程で、ユー
ファミリアではdonation(献金)を必ずしたい。
ロ圏諸国内において今回のスペインのよう
自分の払ったお金が人類遺産の一部にな
にソブリン問題がクローズアップされると、
るなんて途轍もなく凄いことだ。
ユーロ/ドルは売りの圧力にさらされやすい
また、スペイン旅行の際に気をつけなけれ
と見られる。
ばならないことは、スペインの小都市では
【コーヒーブレイク】スペイン観光のご案内
英語が全く通じないということだ。小生がセ
by Okada
ビリアで宿を取ろうとした際、英語が通じな
スペインは大好きな国である。これまでに2
かったので、仕方なくドイツ語で話したとこ
回行ったことがあるが、何回行っても飽きな
ろ、ようやく意思の疎通が図れた。いかにド
い面白い国である。スペインで有名な観光
イツ人が観光が好きで、スペインまで足を
名所はいくつかあるが、特にお勧めなのが、
伸ばしているかの様子を垣間知ることがで
世界遺産でもあるトレド(Toledo)の街並み
きた瞬間であった。
だ。石と土を固めて作った、茶色の街並み
が中世の有り様そのままで残っており、街
※今回の原稿は執筆時点である6月4日時
中を歩くとエル・グレコやゴヤの描く絵の中
点で判明した各種情報を元に記載していま
にでも迷い込んだかのような幻想的な感覚
す。
が身体中に広がる。
首都マドリッドではプラド美術館に行きたい。
美術の教科書に出てくる歴史的名画を間近
で見ることができる。ちまた有名なピカソの
「ゲルニカ」もこの美術館にある。「ゲルニ
カ」はお化け絵と言われるほど馬鹿でかい
作品なので、この絵の収納のためだけにプ
ラドはわざわざ別館を建てたという伝説ま
である(本当か?)。
大都市バルセロナでは「モンジュイックの
株式会社外為どっとコム総合研究所
常務取締役 岡田 剛志