大動脈瘤がある 大動脈瘤があると言われている方、あるいは 知人、家族の大動脈瘤のことが心配な方へ -その 4- 市原哲也 心臓血管外科部長 前回は、大動脈瘤はなぜ治療の必要があるかについて述べました。今回 は、 “太くならずに破裂する、もうひとつの大動脈瘤;解離”について述べ たいと存じます。 “解離”を、簡単に申し上げますと、“薄皮 1 枚でかろうじて破れない でとどまっている状態”ですね。大動脈の壁は、顕微鏡で覗きますと、3 枚から成り、 “解離”は、この内側の 2 枚に裂け目ができ、2 枚目と一番外 側の壁との間に血液が流れ出し、まるで本来そこに血液が流れていたかの ように流れてしまう状態です。この、2 枚目と一番外側との間には、本来、 隙間はありませんので、ここに血液が流れ出すということは、サロンパス (貼っている方を見かけなくなりましたが)を勢い良くはがす感じに似てい ます。そうです、あの、 “バリッ”という感じです。あれをはがすのは、非 常に痛いですね。よく、祖母が風呂に浸かりながら剥いでおりました。こ うして、血液の新しい、あるいは偽の通り道が突然にできてしまい、偽の 通り道は、まさに“薄皮 1 枚”で血管の外に面していることになるのです。 ですから、 “破裂寸前”という状態と言えるのです。こういう現象が、胸の 大動脈で突然起きるのです。そこに、もともと太い大動脈瘤があろうが無 かろうが関係なく、つまり、正常の太さの大動脈にも起きるのです。これ が“大動脈解離”なのです。そして“解離”の怖さは、この“薄皮 1 枚” が、破れることなのです。それは、“即死”を意味しますが…。“解離”は 正しく治療されないと、24 時間以内に 90%の方が亡くなるのです。これ が“大動脈解離”という病気の恐ろしさなのです。 血管の壁の中で、しかも突然にこういう現象が起きますと、やはり、痛 いのです。胸から背中にかけて、 “ダンプカーにはねられたような”とか“突 然後ろから蹴飛ばされたような”痛みなのだそうです。時には、その痛み で気を失ってしまう方もおいでです。また、“痛い!!”と思った瞬間、気を 失い、気がついたら左手足が動かないというような、あたかも脳卒中を思 わせる症状もあるのです。あるいは、血液が漏れ出し、心臓を包む袋(心嚢 と言いますが)に漏れ出した血液が沢山たまり、心臓を押さえつけて動きを 悪くし、血圧が出せなくなり、そのため、ゲーゲー吐いたり、生あくびば かりしていたりで、何だか意識がおかしくなってしまう方もあります。大 抵は救急車で運ばれるのですが、診断確定までの時間は、10 分から一昼夜 まで、非常に差があります。胸や背中が猛烈に痛くて、かつ血圧が 200 も ある、などという典型的な症状ならばすぐに診断がつきますが、脳卒中を 思わせる症状の場合には、やはり脳卒中が最初に疑われるものですから、 長い“回り道”をした後やっと見つかることになるのです。特に、気を失 っているところを見つけられ、病院へ運ばれたような場合は、気がつくま では、余程経験豊かな施設でないと、そこですぐに“解離か?”と疑われる ことはまずありません。大抵は、気がついた時に“背中が痛い”とか“胸 が痛い”とか訴えがあって CT を撮影したら解離だった、というような見 つかり方が多いのです。こうして、簡単に 10 時間や 20 時間は過ぎてしま うのです。 このように色々な症状があるものですから、 “解離”の診断は経験不足だ と非常に難しいのです。ともすると“迷宮入り”してしまい、間に合わず に亡くなってしまった後、病理解剖(亡くなった後、病院側から御遺族に、 死因究明のため解剖させて下さいとお願いするのですが)で診断がついた、 という、非常に悲しい見つかり方もあるのです。もちろん、状態の悪くな り方が余りに急激だと、いくら早く診断をつけても間に合わないというこ ともあります。 こうして診断されたなら、次には治療が始まります。次回は、 “解離の治 療”について述べたいと存じます。 体のことで日頃気になっていることがあれば、どのようなことでも構い ませんので、まず、連絡下さい。大動脈瘤破裂、解離で皆様の大切な方と 突然悲しいお別れになってしまうのを未然に防ぎたい、ただそれだけです。 連絡をお待ち申し上げます。 電話;03(3694)8100 e-mail; [email protected]
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