病理診断科初期研修プログラム

病理診断科初期研修プログラム
病理診断科研修は、臨床研修 2 年目の自由選択期間に選択可能なものとして位置づけられ
ています。そのため、2 年目の8ヶ月間は受け入れ可能になります。
当院の病理診断科を研修では、主に下記 5 項目に重点をおいています。基本的に臨床研修
で得る診療能力+αの内容が多く、研修中に全て獲得するのは非常に困難なため、研修医の
希望に合わせて研修内容を調節します。
A.
病理診断科を研修するメリットと概要
①病理検体を扱う症例での質の高い診療が行えるようになります。
病理診断科では、臨床医学の診断を支援する「診断病理」が中心的な仕事です。
病理診断科は、中央検査室と異なり、採取された組織検体を顕微鏡で観察出来るように標
本作製するため、血液検査などより結果が出るのに時間がかかります。
実際に病理診断に関わることで、依頼箋の効果的な記載方法や検体の提出方法など診断を
迅速に進められるポイントが分かり、病理検体を扱う症例での質の高い診療が行えるよう
になります。
②病理診断に必要な能力の基礎が得られます。
一般診療では、問題解決思考(problem based thinking)を用いた臨床診断、病態把握が基
本とされています。病理診断では「組織の形態」から抽出する複数の「所見」から診断に
至ります。「所見」を抽出する能力は、臨床診断のみでは培われない分野であり、病理に
携わらない限りは手に入れるのは困難です。実際の診断に用いられる特殊染色の適応や評
価を知ることで病理像が関係するカンファレンスでのレベルの高い討論が可能になります。
③実際に診療されている「がん」症例を横断的に経験することで、より深い理解を元にし
た「がん」診療を行えるようになります。
当院は東京都がん診療拠点病院で、比較的悪性腫瘍(「がん」)に関わる頻度が高い病院です。
病理診断科での「がん」の確定診断および腫瘍の特徴が確定した上で、診療の流れが進み
ます。およそ 60-80 件/月程度、「悪性腫瘍」の診断となる症例が多くの診療科から提出さ
れています。消化器内科、婦人科、泌尿器科、血液内科が主ですが、短期間に複数科の「が
ん」を詳細に見ることは「がん」の多様性を理解する良い機会になると思います。
④病理解剖を通じより根拠を持った病態把握が出来るようになります。
病理解剖症例を経験することで、重症症例の臨床経過と画像所見以外に、病理解剖時の肉
眼所見、病理所見を加えることで、より根拠を持った病態把握が出来るようになります。
血管内リンパ腫、血球貪食症候群、深在性真菌症など血液検査や画像で把握しにくいもの
やありますが、大動脈解離など画像で典型的なものも、実際に肉眼で見て、顕微鏡的に観
察することで多くの示唆を得ることが出来ると考えています。
特に興味深い症例については、年 10 回程度、CPC(clinico-pathological conference)を行
い、院内全体で検討し、その知識を共有しています。
⑤手術検体に関わる病理診断に強くなります。
術中迅速診断を実際に経験することで、その利点と限界を知ることが出来、迅速診断に関
わる症例を受け持つ際にそれを踏まえた精度の高い対応が可能となります(15 件/月程度)。
また、摘出された手術検体の標本作製(切り出し作業)を行うことで、実際の病理診断報告書
を見るだけでは知り得ない診断上のポイントが理解出来ます。
B.
初期研修プログラムにおける病理診断科研修の具体例
一般目標(GIO)
病理診断を通じ、病理検体を扱う症例での質の高い診療が行え、病理診断に必要な能力の
基礎を on the job training 形式で身につける。
行動目標(SBO)
①基本姿勢:病理診断を自ら経験することにより、臨床医として必要な診断病理学の基礎
知識・技能・態度を身につける。
②検査・手技:術中迅速・手術検体の標本作製(切り出し)と顕微鏡観察・病理解剖などを通
じて病理診断に必要な技術を習得する。
③病理診断:切り出しした病理組織標本について指導医のもとで診断報告書を作成する。
院内カンファレンスにおいて病理側担当として症例呈示を行い、病理所見を説明する。
<一般的な病理研修の週間スケジュール>
月
火
水
木
午前
切り出し・病理解剖(随時)
午後
病理診断・病理解剖(随時)
時間外
金
CPCやカンファレンス、院外勉強会への参加を随時
土
病理解剖(随時)
院外勉強会(随
時)
<学習方法(Learning strategy)>
検体切り出し作業と病理診断を並行して行います。
①検体切り出し作業:病理診断科に提出され、固定された検体を標本作製に最適な形に処
理を行います。臨床所見と関わる点が多く、病理診断に重要なパートになります。
○見学(~2 週間程度)、指導医の元で切り出し作業を行い、その方法や肉眼所見の取り方学
びます(3 週間~)
②病理診断:形態から診断に必要な要素を得るトレーニングとなります。症例数はそれぞ
れ到達度を見つつ加減する形になります。
○診断後の標本を見て所見を確認します(1-2 週間)
○未診断の標本を見て所見を記載します(3 週間~)
○それぞれ重要な症例、気になる症例など指導医とまとめて顕微鏡観察をしながら
discussion を行います。
③病理解剖
○1 ヶ月研修での病理解剖例は原則として見学とします。
○2-3 ヶ月の研修期間がある場合は、病理解剖の介助の他、標本作製、顕微鏡観察、病理解
剖診断、CPC の全てを経験出来ます(標本作製に時間がかかり 1 ヶ月では間に合わない)。
④カンファレンス
院内カンファレンスの発表や学会・研修会・セミナーに積極的に参加する
研修評価(EV)
研修期間を勘案した SBO の到達度とコメディカルの評価も含めた総合的な評価を行う。
C.
専修課程(レジデントコース)プログラム
現在のところ初期臨床研修に引き続く病理診断科専修課程はもうけていません。今後の専
門医機構の元で行われる後期研修では、連携病院を想定していますので、病理医を目指す
方は、適宜相談の上、基幹病院の紹介を行います。