堤防の浸透破壊を防止するパイプドレーンの設計

第55回地盤工学シンポジウム
2010年11月
堤防の浸透破壊を防止するパイプドレーンの設計マニュアル案
Pipe drain design manual that prevents against seepage failure at levee toe
太田英将*,宇野尚雄**
Hidemasa OHTA, Takao UNO
河川堤防は,堤防の豪雨照査の結果,全国約 1 万 km 中の約 4 割弱が基準の安全性を満たさない
と言われている。その中でも,浸透破壊の対策が必要な区間が多く,要対策区間をできるだけ早急
に,しかも安価に対策をする必要がある。本論文は,パイプを裏法尻部に打込んでドレーン排水に
よる浸透破壊の防止を効果的に挙げるパイプドレーン工法の設計マニュアル案を提示して,御批判
を戴きたく願う次第である。内容的には,
(1)数式計算法と数値計算による検討,
(2)模型実験
成果,(3)設計マニュアル案,を提示する。
キーワード:浸透,堤防,パイプドレーン,設計マニュアル
Seepage, Levee, Pipe Drain, Design Manual
1.はじめに
河川堤防の5年間に亘る浸透照査の結果,直轄堤防約
1万 Km 中の約4割が安全でなく,照査精度の絞込みが
進められている。その中でも,浸透破壊の対策が必要な
区間が多い。要対策区間をできるだけ早急に,しかも安
図-1
価に対策をする必要があり,新たな技術開発が期待され
ている.パイプドレーン工は,JR 東海道新幹線はじめ重
法尻部へのドレーンパイプ挿入
 )によりストレーナー先端部(x=  )おける浸潤面水
要鉄道路線や,道路法面,造成地の盛土法面等で数多く
位(h2)が通常のときの浸潤面水位(h2’)より低い浸
使われ,安定した効果が得られてきた実績があり,本工
透水位となって,次式の水位低下量を期待する。
法の河川堤防への適用を検討したものである.
Δh=h2’-h2
パイプドレーン工は,遮水構造物としての河川堤防に
(1)
本研究で使用しているドレーンパイプは,1本の長さ
は安全性は改善できても浸透漏水を助長する懸念があっ
L=220 cm または 180 cm に対してストレーナー部の長
て不向きと考えられていたが,小規模な実験堤防で排水
さ  (先端部 15cm および出口部 55cm または 45cm から
パイプの目詰まりが無ければ,水位低下とそれによる法
面の安定性向上が期待できることを認識した 1), 2),3)。
本文は,パイプドレーン工法について,洪水が長時間
継続している定常浸透状態の均質堤防に対する近似的な
数式解法を示すと共に,今後の実用化に向けての設計マ
ニュアル案を提示するものである。
集水)である。実際の現場で使用する際には,パイプを接
続管で繋いで延長できる。なお,周辺土砂の吸出し防止
のため,パイプ内部へのフィルターを挿入する原則とし
ている。
3.数式計算法と数値計算による検討
3.1 近似的な定常浸透流の場の設定
2.パイプドレーン工法の概要
図-2 は幅Bの均質な矩形堤防(堤体土質の透水係数k)
砕石をブロック状に構成するドレーン工法は既に実績
がある
5)
。これに対して,パイプドレーン工法は,図-1
を表し,定常浸透流の場を設定する。(a)流量配分と(b)
のように堤防裏法の法尻に水平または下向きに,ストレ
浸潤面水位を対比して示す。右側上流からの領域を左端
ーナーを切った排水管を打ち込んで管出口からの排水に
から水平座標xを右側へ取り,図-2(b)では上向きに水位
より内部の浸潤水面高さを低下させ,すべり破壊と水
を取る。図-2(a)流量配分図では,パイプ挿入しない区間
平・鉛直方向のパイピング破壊を防止しようとするもの
(
である。
x ≦

≦ x ≦L)の浸透流q1 が,パイプ挿入区間 ( 0 ≦
 )の漸減する流量q2 とパイプ排水が漸増する流
洪水時には計画高水位に相当する堤防表側の上流側
量q3 の和に転化する流れになると近似する。図(b)の浸
水位(hL,図-2 中に表示:以下同様)に対して定常浸透
潤面図では,パイプ挿入前の浸透水位は放物線型の破線
流では法尻には浸潤面(高さh0)が現れる。幅 B の延長
P-Qで表され,パイプ挿入後に1点鎖線P-R-Qに低下
に打ち込んだドレーンパイプ1本(ストレーナー長が
すること,をそれぞれ表現する。
*
**
有限会社太田ジオリサーチ
Ohta Geo-Research
岐阜大学名誉教授
Gifu University
- 87 -
図-2
長方形の堤防内の無対策時とパイプドレーンした時の浸透流の近似化モデル
3.2 解析式の誘導 4),6)
無対策条件下の上流側のq1 流れ場における流量と水
面形は放物線型の次式で表される。
2
 B(h
h
' 2
2
' 2
2
2
(1)
 h0 ) / 2 
q2 とq3 の流れ場では定常流であり,合流(合計)す
ると一定であるから,
2
( x)  hL x / L  (1  x / L)h0
2
2
h ' 2  h ' 2 ()  hL  / L  h0 (1   / L)
(2a),
q 2 ( x)  q 3 ( x)  0
(2b)
2kT1T2 2
kB d 2 h 2
2
dx 
h  h0 dx  0 (7b)
2
B
2 dx
パイプ挿入条件下では,定常状態で考えているため,
区間(q1 流れ場)ではパイプドレーン時には浸透流量を
 
で当然であるが,これが土砂の吸出しを喚起する懸念が
ある。前式(2)のh2’が次式のh2 に低下するための必然的
結果である。
q1 / k  B(h L h2 ) /2L   , h x 
2
 h 2  ( h L  h 2 )  x    /  L   ,
2
2
2
d 2H
 2H
dx 2
基礎微分方程式:
2
H  h 2  h0 ,
 2  T1T2 ( B / 2) 2 ,
(9)
きパイプ排水効果が大きくなるので,以下では  をドレ
ーン係数と呼ぶ。x = 0, h = h1 と x =  , h = h2 の条件を
満たす式(8)の解は,
2
 
(8)
ここに,  は幅Bの逆数の関係にあり,  が大きいと
(3)
一方,区間(q2 とq3 の流れ場)では連立して解く。
 d h  dh  
q 2 ( x )   kB h 2     dx
 dx  
 dx
kB d 2 h 2

dx
2 dx 2

  T1T2 /( B / 2)
 h2  h() Eq.(13a)
2
(7a),

増加させることになる。堤体中途で強制的に排水するの
2
(6)
4
さ,r0:管暗渠半径,hs:管渠内水位である。
2
2
1
ここに,図-3を参照して,h0:管渠内水位までの高
 B(hL  h ' 2 ) /2L   
2
1
T2  2h0  hs  h0 
q1’
/ k  B(hL  h0 ) /2 L 
2
T1  hs  0.5r0  h0  2 ,
sinh(x)
sinh()
2
2 sinh   x 
 (h1  h0 )
sinh  
h 2  x   h0  (h2  h0 )
2
(4)
パイプ排水のq3 の流れ場では,流れ方向に直角向きの
2
2
0 x
単独管暗渠に対する集水量が Forchheimer の式(5)7)で表
(10)
各区間の流量は次のように算出される。q2 は式(4)で式
わされる流量⊿q3 だけパイプ挿入区間の流量⊿q2 が減
(10)を微分し,q3 は式(10)を積分して,
少すると近似する。
q3 ( x) 
2kT1T2 2
2
(h ( x)  h0 )dx
B
q2 ( x ) 
kB
2 sinh  

(5)




 h2  h0 cosh x   h1  h0 cosh   x 
- 88 -
2
2
2
2
0 x
,
q2 (0) 
kB
2 sinh  

ドレーン工の上流側での堤体内の動水勾配を 1/3 以下
に抑制する考え 5)の双方に対して,
 


(11b)
 h 2 h0  h1  h0 cosh  
q2   
2
2

2
2


 h2  h0 cosh    h1  h0
q 3 ( x) 
h2  h1  /   i * , h  h ' 2  h1  i *(a)
h
kB
2 sinh  
2
に対する限界動水勾配は赤井の基準値 i*を用い 8),また
(11a)
2
2
2

(11c)

L    / 3  hL  h ' 2    h  h ' 2  h1   i *
 h 2 2  h0 2 cosh    cosh x 


2
2
 h1  h0 1  cosh    x  

0 x
k T1T2
q3 0  
cosh    1
sinh   
2
 
2
2
 h2  h0  h1  h0
2
で 0.256 である 9)。
(12a)
3.3 設計指針
前述した近似的な解析法によって,均質堤防である各
(12b)

種の要因の関係が明確になった。
(a) 無対策ときの, x
なお, q3    0 である。
は式(4)の h

h2  XhL  (Y  1) Zh0  Zh1 /  X  YZ 
2
2
2
2
2
1
0
2
 h0
2
2
 h0
2
2
1
2
対策時の式(2b)のh’2 とパイプドレーン時の低下した水
(13b)
位:式(13a)のh2 との差で表される。これにより,すべ
り面破壊に対する安全率とパイピング破壊に対する安全
率が向上することは別途確認する。換言すれば,安全性
 
 h  h 
2
2
1
  における
ドレーン先端部付近の水位低下Δhは式(1),すなわち無
のストレーナー長  は次の制約を受ける。
1
  における洪水時の浸透水位
で与えられる。ただし,降水量の影響は考
洪水時の浸透水位h2 は式(13)で与えられる。すなわち,
各流量は正値でなければならないので,ドレーンパイプ
1 cosh h  h  h
 1 cosh h

2
(b) パイプドレーン排水したときの, x
(13a),
X  sinh , Y  cosh , Z   L  
'
慮していない。降水量の影響は後述する。
図-2(a)に示すq1=q2(  )の関係を考慮すると,ドレー
ン先端部の水位h2 が求まる。

(17)
ここに,i*は法勾配が3割で 0.501,2割5分で 0.401, 2割

,
2
(b)
従って,
sinh  


 h ' 2  h / L     1 / 3
 h  L    / 3  (hL  h ' 2 )
k T1T2

L
,
の面から式(1)の期待する水位低下が事前に判明してい
れば,それに見合うパイプドレーン工を設計することが
(14)
可能である。
0
一方,
(c) パイプドレーンの設計量は,実験に用いたものと
式(1)で表される水位差Δh がある値 A 0 以上を期待する
同じ仕様のパイプを使用する前提として,1本あたりの
ならば,A = h 2’-A0 と表せば,パイプ打設ピッチ幅 B は
幅 B, パイプの全長 L(結果的に,必要なストレーナー
次の制約を受けるが,上記の計算が正しければ通常は満
長  )である。
足される。
このために必要な要因から設計量を推定する過程の概



B  2 T1T2 L    A 2  h0 cosh     h1  h0


2

/ hL  A 2 sinh   
2
2
2

略を述べると次のようである。
(15)
このことは,均質な堤体土質の条件で,しかも定常流状
態で考慮しているため,打設ピッチに影響すべき堤体土
質の透水係数が関与しない関係となるわけである。ピッ
チ幅の制約はすべり地帯でのパイプ排水や井戸揚水時に
使用される影響圏半径で定めることが実用的であろう。
ここでは,クサキン(Kusakin)の式を次に示す 8)。
R  575( h) kH
(16a),
BR
(16b)
図-3 パイプ周辺の水位とその取り方
ここに,R :影響圏半径,δh =Δh :水位低下量,k:透水
係数,H :帯水層厚さ.
パイプの管径r0,管渠内水位:hs,後述する下流水位
また,傾斜した裏法尻面の水平方向のパイピング破壊
- 89 -
h0,等の関係は図-3を参照して,与える。パイプのスト
パイプ打設高さは約 10~15 cm で,hs=3 cm, h0=15 cm
レーナー長  (パイプ全長は直接計算に入らない),1本
とすると,式(6)により
当りの幅B,堤体敷幅L,上流水位hL,下流水位h0,浸
T1 
潤面高さh1,x =  における無対策時の水位h2’,パイプ
T2  2  15  3 / 15
ドレーンによる低下水位h2,を与えて試算する。(h1 は
1
h0 より高い水位であるが,実験観察によれば同程度と見
なして良いので,数 cm 高い水位を仮定して良い。また,
パイプストレーナー先端位置の未知水位h2 は仮の値を設
定して計算を進めた後に,事前に与えているhL, h0, h1 等
を用いて式(13)でほぼ1回の計算で収束する。)
3  0.5  3.025  / 15
 0.548,
4
 1.158 , T1T2  0.635
ドレーン係数は式(9)により,
  T1T2 / B / 2   0.635 /( B / 2) (単位:1/B =1/cm),
で計算される。
計算の確認は,維持管理の面からも重要になる。無対
実験では,種々の都合で定常状態の浸透水面を観測せ
策の q 1 に対して減少した堤体漏水流量 q 2(0)の計算値
ず,浸透水がパイプに届くと排水される状態を観測して
(式(11b))およびパイプ排水流量q3(0)(式(12b))が流
極めてスムーズに排水されて浸潤水面はパイプの途中で
出可能なことと同時にパイプ出口部の適切な排水処理の
水面がそれ以下に低下したことを確認した。
工夫が要請される。
近似的計算法による計算過程を,2009 年暮れに実験し
が L=155 cm のときのものである。このときの観測水面
た観測(第二次実験)に準じて次章で説明する 1),2),3)。
表-1はその試算例であり,表の右側がストレーナー長
形を図-5 のモデル断面の水面形状(case3 の水面形)に
示す。パイプ排水量はq3(0)= 848cm3/min が実験時に観測
4. 模型実験
さ れ , 式 (12b) に よ る 計 算 値 q 3(0)=1656 ×
4.1 模型実験の概要
0.04=66.2(cm/sec)=3,972 cm3/min の約2割(0.213 倍)で,
第一次実験として,パイプドレーン工の浸潤線低下効
緩詰めによる透水係数kの推定に課題が残った。併し,
果を観察するための模型実験を行った.実験規模は,幅
パイプ排水能力は保証されることが期待される例となっ
3m×奥行き 3m×天端高さ 1.1mである.パイプドレー
た。
ンは 50cm ピッチに設置した.堤体模型に使用した山砂
は K=1.9×10-2cm/sec である.
パイプドレーン工の有無によって,浸潤線は図 4 のよ
図-4.パイプドレーン工による浸潤線低下効果
うに低下し,パイプドレーン工に浸潤線低下効果がある
ことが確認された.
第二次実験では,土の透水係数・堤体の土質構造・パ
イプドレーンの打設間隔を変化させて実験を行った(図
5).
4.2 模型実験での観測値の解釈
第二次実験装置は,幅 1.5 m×堤防敷幅 4 m×高さ 1.5 m
の台形堤体の上流水位 1 m,パイプはΦ60.5 mm, 全長
220 cm であり(最大のストレーナー長  =150 cm),計算
では長方形堤体の敷き幅 L=350 cm と評価する(上流側
法面の勾配のため)。従って,パイプ半径r0=3.025 cm,
- 90 -
図-5.第二次実験時の浸潤線
( 注 ) 上記の表-1に記す記号 L(ローマン)は矩形堤体の敷幅全長を,L(イタリック)はパイプに切られたストレーナーの先端部までの
長さを表す。実験では,パイプを x = 0 位置まで打ち込んだとき,パイプ出口先端部はストレーナーが無い部分が 15 cm あるので延長
(15 cm ~ L )がストレーナー部で,実際には L より短い位置で水頭は管出口の高さ以下になっている。
示した。降雨浸透流による水面上昇が極めて大きい場合
4.3 降雨浸透の影響
にも対応できる。
降雨浸透(雨量強度 r)の影響は堤体土質の透水係数k
との関係および土質の水分保持特性等の影響で雨量全て
5. 設計マニュアル案
が浸透せず,堤体表面を流下することもある。堤防設計
現時点で,パイプドレーン工法の設計マニュアルは暫
指針では,標準的雨量を,事前降雨 1 mm/h×200h=20 cm,
定版として運用している。設計マニュアルの目次は以下
洪水時 10mm×300h = 30 cm, と規定している。いま,図
の構成としている。
-2 の表面に降った降雨量rが全て堤体(土質の透水係数
1.概要
k)へ浸透するとき,式(2a)の水位に対して降雨時の水面形
1.1
適用範囲
1.2
適用材料
は次式で表される。



hR  x   h0  h L h0 / L  r / k L x  r / k x 2
2
2
2
2
(18)
表-1の中段より下側部に,透水係数 k=0.01 cm/sec と
して r/k= 1cm/h /36cm/h= 0.0278,r/k= 0.0833, および
r/k=0.1389 の場合を試算し,前者のケースは図-6 にも表
- 91 -
2.パイプドレーン工法の基本
2.1
基本方針
2.2
設置区間の設定
2.3
基本仕様
2.4
施工
3.パイプドレーン工法の設計
3.1
設計の基本方針
ルター材,孔口止処理,孔口処理)及び堤脚水路で
3.2
設計諸元の決定
構成するものとし,その機能が長期的に確保され,
3.2.1
安全性の照査
かつ堤防の安定性を阻害することのない構造とし
3.2.2
排水パイプの設計
て計画する。
3.2.3
排水パイプの設置間隔
施工:パイプドレーン工法は,施工時期,堤体内の水位
3.2.4
排水パイプの設置位置
条件・土質状況を勘案した施工計画を建てた上で実
3.2.5
排水パイプのフィルター材
3.3
施する。
付属施設の設計
パイプドレーン工によって法尻付近の水位を低下させ
4.施工上の留意点
るが,その効果は,①すべり面安全率の改善,②パイピ
5.効果の観測
ング破壊の防止,の2点である。
5.1
堤体内水位の観測
5.2
出水時の巡視および事後点検
これらは国交省によって平成 16 年度から 5 年間で実施
された豪雨時の浸透照査で明らかになっている前提であ
6.ライフサイクルケアー
る。前者の「すべり安全率」は発生する間隙水圧が水位
以下に各章の説明を行う。
低下Δh により減少させて改善されることを記す。後者
のパイピング破壊は裏法尻周辺の『鉛直上向き』と『水
5.1 概要
平方向』の各動水勾配の改善であり,ドレーンによる水
適用範囲:本マニュアルは,堤防裏のり面の浸透破壊防
位低下が効果を発揮する。
止対策を目的とし,平常水位時の施工の場合に適用
5.3 パイプドレーン工法の設計
する。
適用材料:ドレーンパイプは,φ60.5mm,t=2.3mm の鋼
管製の排水パイプを用いることを前提とする
設計の基本方針:パイプドレーン工法は,長期間にわた
りその機能を発揮し,浸透に対する堤防の安全性が
適用土質:堤防の堤体に対して,有害となる可能性があ
る土質に対しては用いてはならない
確保できるように設計する。
設計諸元の決定:パイプドレーン工法の設置間隔等の設
ここでは,適用範囲と適用材料および適用土質につい
て定義している。現時点で実験によって効果を確かめら
計諸元は,施工後の堤防の浸透に対する安全性を確
認した上で決定する。
れている条件を適用範囲としている。具体的には,堤体
安全性の照査:浸透流解析により,堤体内への水の浸透
の透水係数k=10-2~10-3cm/sec オーダー程度の土質材料
状況をシミュレーションし,すべり破壊におよびパ
で,かつこれまでに盛土法面に対して用いられてきた材
イピングに対する安全性を検証する。必要な安全性
料(図-6)に限定している。
を有しない場合に,パイプドレーン工法の検討を行
う。
排水パイプの設計:排水パイプを設置した状態で浸透流
解析を実施し,浸潤線が低下した状態ですべり破壊
およびパイピングの照査を行い,所要の安全率が得
られるまでシミュレーションを行う。所定の安全率
が満たされる長さ,打設間隔の組み合わせの中から
合理的な組み合わせを選択する。
排水パイプの設置間隔:排水パイプの設置間隔は,1.0
m以下を標準とするが,堤体の透水特性に対応した
地下水低下効果,想定される崩壊規模(幅・深さ)
図-6
等を総合的に判断し,適切に定めるものとする。
排水パイプの写真と地盤への挿入の模式図
排水パイプの孔口位置:排水パイプの孔口位置は,裏法
面の法尻付近とする。打設角度は,水平あるいは若
干下向きとする。
5.2 パイプドレーン工法の基本
基本方針:パイプドレーン工法は,堤防の横断形状,堤
排水パイプのフィルター材:排水パイプにはパイプの内
体並びに基礎地盤の土質等の諸条件を検討した上
側に交換可能なフィルター材を設置することを原
で基本計画を策定する。
則とする。
設置区間の設定:パイプドレーン工法の設置区間は,浸
付属施設の設計:パイプドレーン工法の付属施設は,現
透対策を必要とする区間について,効果の確実性等
場状況に応じて適宜設計するものとする。1.孔口
止め,2.孔口処理,3.堤脚水路
を考慮して適切に選定する。
基本仕様:パイプドレーン工法は,排水パイプ,(フィ
堤防の浸透破壊用パイプドレーン工は,長期にわたり
機能を維持し続けることが必要であるため,長寿命でか
- 92 -
つメンテナンス可能な構造とする。具体的には高耐食性
れども,密実化を期待している一方,パイプ周辺に仮に
メッキを施した鋼管を用い,孔内の点検ができ,必要に
も発生した空隙はミズミチとなって有害な漏水原因にな
応じて孔内洗浄やフィルター交換が容易な構造とする。
り易いため,日常の点検が必要である),③平常時・豪雨
また,打設間隔,長さの決定に当たっては,堤防の安
前後・地震後の点検が欠かせないこと,を肝に銘じて欲
全性照査が,2 次元非定常浸透流解析で実施されている
しい。④フィルターを挿入したドレーンパイプを原則と
ことから,照査に用いられた同じ断面を用いてドレーン
しているが,相当に密な土砂のケースではフィルターな
パイプを入れたモデルでシミュレーションする方法を採
しで吸出しがない経験も多いが,安全と維持管理のため
用している。
である。
その際,3 次元的な構造となるドレーンパイプを 2 次
打撃挿入に関しては,30kg ブレーカーを用いた打撃挿
元解析に取り込むため,パイプの等価透水係数に換算す
入を基本とする(写真-1)が,人力打設の場合には経験
る方法を規定している。等価透水係数は,実験結果を 2
的に累積摩擦力が 50KN を超えると挿入が著しく困難と
次元浸透流解析によって逆解析することにより,表-2 の
なる。φ60.5mm 排水パイプを打ちこんだ際のパイプと
ように定めている。
周面地盤との摩擦力は,砂質地盤の N 値との間に,τ
また,堤体の透水係数に応じて標準打設間隔を表-3 の
=14N-31(kN/㎡)の関係があることが知られている 10)。
ように規定しているが,堤防の規模や土質構造は様々で
具体的には N 値 5 の地盤で約 6.5m(累積周面摩擦力
あり,原則として浸透流解析によって安全性を照査して
48kN),N 値 7 の地盤で約 4.0m(同 51kN)程度が限界
最終決定するものとする。
である。施工性を考えると,限界長さの 80%程度以下(累
積摩擦力 40kN 以下)を目安とするのが望ましい。平坦
表-2 排水パイプの打設間隔と浸透流解析に用いる
排水パイプの等価透水係数 kp
排水パイプの
排水パイプの透水係数kp と
打設間隔
堤体地盤の透水係数kの比
d(m)
0.50
500
0.75
250
1.00
100
(1.50)
50
で施工スペースに余裕がある場合など,油圧機械等を用
いて効率化を図ることも検討に値する。
表-3 堤体の透水係数と排水パイプの標準設置間隔
堤体の透水係数
k(cm/sec)
排水パイプの
標準設置間隔d(m)
1×10-3~1×10-2
0.50
-2
-2
0.75
-2
3×10 ~7×10
-2
1.00
7×10-2~1×10-1
1.00~(1.50)
1×10 ~3×10
写真-1
30kg ブレーカーを用いた標準的施工方法
また,堤体地盤が良く締まっている場合や硬質礫が混
在する場合,あるいは設計上長尺になる場合には,高エ
ネルギーの打撃装置の選択や,小径(排水パイプ外径よ
5.4 施工上の留意点
り小径として地盤の緩みを生じさせないため)でのプレ
パイプドレーン工法の施工に際しては以下の点に留意
削孔を計画する必要が生じる場合がある。
すること。
1.排水パイプの打撃挿入に関わる事項
5.5 効果の観測
2.粘性土層を貫入する場合
堤体内水位の観測:堤体内の浸潤線の状態を確認するた
本工法は経験の少ない工法であるから,道路盛土等の
斜面の漏水・パイピング破壊の防止と同様に安易に河川
めに,必要に応じて観測施設の設置または施工前後
の物理探査等を実施する。
堤防の法面に施工することは慎まなければならない。ど
出水時の巡視および事後点検:必要に応じて,排水パイ
んな堤防に適応性があるか専門家の慎重な判断が必要で
プからの排水状況等の確認を行う他,排水パイプ内
ある。
のフィルター材の状況も確認する。
現在指摘できる点は,①砂礫混入の堤体土質の場合は
河川堤防に対してパイプドレーン工を施工した事例は
不適(打設パイプが堤防内部を乱す懸念。試験的な施工
なく,今後施工された場合には観測や点検を通してデー
で確認するべきで,土質構成に拘わらず施工することへ
タを収集する必要がある。
警告する),②堤体土質とパイプとの良い「なじみ」を維
持する努力(パイプを打ち込むため,堤体土質は乱すけ
- 93 -
5.6 ライフサイクルケアー
体内の水は速やかに抜く」原則に反する堤防にも,有力
長期的な堤体の安定を図る観点から,排水パイプからの
なドレーン工法となる可能性がある。裏小段部に挿入す
排水状況について定期点検を実施し,必要に応じて排水
る工法も効果的である。種々の適用に際する留意事項を
パイプ内清掃等の処置を行う。
守って,コスト縮減の一方法として活用が期待される。
定期的に,排水パイプ内を管内カメラ(ファイバース
また,具体的にパイプドレーン工を設計・施工・維持
コープ)で観察し,フィルター材の老朽化や目詰まりな
管理するためのマニュアル案を示した。ただし,道路や
どの機能障害を発見したら,高圧水を用いた孔内洗浄(写
鉄道盛土等には実績が豊富な工法であるが,河川堤防に
真-2)またはフィルター(写真-3)を交換する。
対しては実績がないため,今後もデータを収集し適宜改
善していく必要がある。
参考文献
1)
太田英将・柏熊誠治・宇野尚雄:堤防の浸透破壊を
防止するパイプドレーンの効果,第 45 回地盤工学研
究発表会講演集(486 番, E-07),2010, pp.971~972.
2)
太田英将・宇野尚雄・柏熊誠治:堤防の浸透破壊を
防止するパイプドレーン工法,土木学会平成 22 年度
第 65 回年次学術講演会講演集,第Ⅲ部門,Ⅲ-124,
2010, pp.247~248.
写真-2
3)
高圧水による洗浄
太田英将・林義隆・宇野尚雄・柏熊誠治:堤防の浸
透破壊防止用パイプドレーン工の設計手法,日本応
用地質学会平成 22 年度研究発表会,2010(投稿中)
4)
宇野尚雄・太田英将:堤防の浸透破壊を防止するパ
イプドレーンの設計指針,地下水地盤環境に関する
シンポジウム 2010(投稿中)
5)
写真-3
青山俊行・中山修・佐古俊介:ドレーン工設計マニ
ュアル,JICE 資料第 198009 号,(財)国土技術研究セ
パイプの内側にセットするフィルター
ンター,1998.
6)
宇野尚雄(私的メモ):河川堤防に対するパイプドレー
ンの近似的な数式解法,2010(July,1),6 頁.
6. あとがき
本報告では,パイプドレーン工法の均質堤防への近似
7)
イプドレーンの設計要因は幅 B とドレーンストレーナー
長  が主要なものである。計算では,幅 B が小さいとき
ドレーン係数  が大きくなり,ドレーン効果が大きくな
申潤植:地すべり工学―理論と実践―,山海堂,1989,
p.971.
的数式解法を示した。堤防土の透水係数kに対して,パ
8)
久保田敬一・河野伊一郎・宇野尚雄:透水―設計へ
のアプローチ,鹿島出版会,1976, pp.128~133.
9)
Jacob Bear: Hydraulics of Groundwater, McGraw-Hill
Int. Book Co.,1979, p.306.
る。
パイプドレーンの施工法は打設方式で簡便であるが,
10) 太田英将・柏熊誠治・橘高敏晴(2004):斜面対策の
洪水による浸透水が堤体内に進入中に打設してはならな
新工法-排水補強パイプ・鋼管膨張型ロックボルト
い。打ち込みによる間隙水圧の異常発生を招き,逆効果
- , 第 43 回日 本 地 す べ り学 会 研 究 発 表会 講 演
が現れるからである。従って,事前に施工する建前であ
集,pp.543~546.
るが,裏法面側が細粒土で構成されている堤防などの「堤
Nearly 40% out of 10,000km of levees throughout the country do not meet the safety standard as
results of check on levee under heavy rain. Out of these, there are a lot of zone requiring
countermeasure to be taken against to the seepgage failure, and these zones need to be taken care of
the earliest possible timing furthermore economically.
This article exhibits projection of design manual for pipe drain construction method that is effective
for preventing destruction caused by penetration of discharged water from drain with driving pipe into
the behind toe of slope: we kindly request for your input.Followings are the contents being exhibited;
(1) review with mathematical formula calculational method and numerical computation, (2) outcome of
model experiment and (3) projection for design manual.
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