岡野 邦俊 1971 年卒 法学部 千葉県柏市 (ギター&コントラバス担当 K.O) 「アウロラ部室の春夏秋冬と都ぞ弥生」 40 数年前のアウロラ部室での春夏秋冬を思い起こしてみたくなった。 では、なぜ今になってかというと、今年の 5 月にHBCテレビで都ぞ弥生誕生のドラマ「清 き國ぞとあこがれぬ」の放映があったことを知り、改めて都ぞ弥生の歌詞を見ていたとこ ろ、そこに謳われていた北海道の春夏秋冬が瞼に浮かび、学生生活の半分以上を過ごした 「アウロラ部室」が懐かしく思われたからだ。当時の部室は、理学部原生林前、古河講堂 の北横にあった古い木造 2 階建てで、1 階は交響楽団、2 階がアウロラ部室と、交響楽団と の共用のオケラ練習室。壁には佐藤春夫の詩「酒、歌、煙草、また女、外に学びしことも なし」の落書きがあった。当時の写真が交響楽団OB会HPに掲載されているが、外壁に 「アウロラ」と大きく書かれている。 「春」 春は突然訪れる。雪解けと土の香りに蕗の薹。中央ローンの芝も部室前の理学部原生林 のエルムも新緑が萌え、一気に深さを増してくる心躍る春。原生林のエルムに 4 月には花 が咲き、6 月には実が成る。部室にいるとその実(翼果)がサラサラと落ちていく音が聴こ えてくる。部室いてこそ聴こえる、初夏を感じる天上の自然の音楽だ。このことはとても よく覚えている。 部室には新入部員が訪れ、新 3 年生による運営により小樽市民会館で行われる春の演奏 会に向けた練習が本格化し、楽器の音が賑やかになる。 春に相応しい曲は「春のノスタルジア」(武井守成)だ。 都ぞ弥生の春は 4 番。 「真白の花影さゆらぎて立つ 今こそ溢れぬ清和の光」とある。真 白の花は、もちろん延齢草。アウロラには美しい花が大勢おられた。好きな歌詞は「清和 の光」だ。 「夏」 夏は足早に過ぎ去る。短いが「今でしょ」とばかりに青春を謳歌する季節だ。早朝には カッコウの声が聴こえて、清々しい。理学部原生林のエルムの豊な緑を爽やかな風が吹き わたる、緑と風が創り出す優しい音楽が聴こえてくる。中央ローンに寝ころび、抜けるよ うな青空が心地よい時間が過ぎていく。付属植物園での楽しい時間。演奏旅行の準備と練 習が佳境に入る。2 年生中心の演奏旅行もあり、道内をあちこち廻った楽しい思い出がよみ がえる。 夏に相応しい曲は「真珠採りのタンゴ」 (ビゼー作曲オペラ「真珠採り」より/アルフレ ッド・ハウゼ編曲)だ。 都ぞ弥生の夏は 5 番。 「高鳴る血潮の迸りもて 貴き野心の訓え培い」とある。季節につ いての歌詞はその前にあるが、最後の 5 番を飾る青春の高揚を表すに相応しい。一気に謳 いあげる。好きな歌詞は「貴き野心」だ。 「秋」 訪れが早い秋。理学部原生林のエルムを爽やかに揺らしていた風が、急に冷たくなる。 木々の葉が色づいたかと思うと落ち葉が舞い、冬の訪れを感じさせる雪虫たち。しかし、 部室はいよいよ定期演奏会に向けた練習が熱を帯びてくる。指揮者の必死さ、演奏者の真 剣なまなざし、オケラが熱気に包まれる。人と音がぶつかり合う。 でも、秋に相応しい曲は「雨とコスモス」(武井守成)。なんとも可愛らしいメロディが 好きだ。コスモス=秋桜=(花言葉)乙女の純真。 都ぞ弥生の秋は 2 番。 「雄々しく聳ゆる楡に梢 打ち振る野分に破壊の葉音の 甍に久遠の光 さやめく おごそかに北極星を仰ぐかな」とある。まさに秋から冬へと急ぐ理学部原 生林そのものだ。好きな歌詞は「久遠の光」 。 「冬」 半年で3つもの季節が足早に過ぎ去ると、とうとう冬がやってくる。白く、冷たく、厳 しく、長い、それでいて意外に明るい。そう、とても輝く瞬間がある。音もなく凍った大 地が明るい日の光に照らされるとき大気がキラキラ輝くダイヤモンドダストだ。零下 10 度 以下で見られるので、そうそうは見られない。しかし、そんな穏やかな日は少なく、通常 は雪景色を楽しむどころではない。都ぞ弥生の 3 番にあるとおり「荒る吹雪の逆まくをみ よ」となる。ところが、冬の部室で思い出すのは、部室のストーブに石炭をくべながら語 り明かした記憶だ。しかし、一夜明ければ、都ぞ弥生の「ああその蒼空梢聯ねて 樹氷咲 く壮麗の地をここに見よ」のとおりとなり、部室を出た私は立ち尽くした。 冬に相応しい曲は、何といっても「雪の造形」(鈴木静一)だ。なにせ、西村先輩が書か れていたように、鈴木静一が第 3 楽章の曲想を想いついた現場に我々はいたのだから。 これでアウロラ部室の四季を廻ったが、都ぞ弥生の 1 番が登場していない。当時の札幌 農学校の新学期は秋に始まるため、2 番から秋、冬、春、夏、の順になっている。1 番は、 作詞家である横山芳介が生家の東京神田で「弥生のころ北への憧れを謳ったもの」だから と思われます。いちばん好きな歌詞であり、皆さんもよく歌われるでしょうからお分かり のことと思います、 最後に、アウロラ部室の春夏秋冬のどれがいちばん好きか、です。緑を風が吹きわたる 夏も好き、冬支度を急ぐ木々の葉が舞う秋も好き、荒る吹雪のあとで壮麗の地となる冬も 好き、でもやはり「春」がいちばん好きです。一気に気持が開放され、体も軽くなり、前 向きな気持ちになれる春が好きです。 来年の 90 周年記念OB演奏会は真冬の 1 月開催ですが、また春に訪れたい。そして、そ んな四季が私の上に永遠に続くことを当然のこととして疑いもしなかった青春の地に立ち たい。
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