新しいフロンティアがあること

序
章
アートもサイエンスも、我々の目に見えるものと見えざるもの、その両方を解
き明かそうとしている。アートでありサイエンスでもあるマーケティングが、
その両方を追究しないわけにはいかない。
現代経営の権威ピーター F. ドラッカーによれば、ビジネスパーソンはすでに
「知識社会」に足を踏み入れている。この知識社会では、様々な専門分野、特に
ビジネス以外の分野から得られる有効な知識を吸収し、ビジネスに応用するとい
う、多くの企業において未だ開拓の進んでいない経営能力が競争優位の源泉とな
る。ドラッカーによれば、アメリカの大企業では「過去10年間に就任したCEOの
多くが、就任後1、2年のうちにその職を追われた」という。ドラッカーはその
理由の1つとして、彼らCEOが多様な分野から知識を吸収し、応用する経営能
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力を十分に構築することができなかったことを挙げている 。彼らの失敗の元凶
には、変化の著しい経営環境において全く誤ったパラダイム――世界がどのよう
な仕組みで動いているかについての主観的な世界観――にしがみついていたこと
がある。それは、まさにタイタニック号が陥った状況に似ている。特に、マーケ
ティング担当者の多くが抱いてきた従来のマーケティング・パラダイムは、消費
者を十分に理解し、顧客の要求に効果的に応えることを妨げてしまっている。
ニューヨークに本拠を置くカスタマー・ストラテジー・ワールドワイドの
CEOであるエリオット・エッテンバーグは、
『エコノミスト』誌の記事の中でこ
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の状況を、
「流通システム、新製品開発プロセス、サプライ・チェーン・マネジ
メントなど、経営活動はあらゆる分野において大きく様変わりした。しかし、マ
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ーケティングだけは旧態依然としている」と表現している。さらに、この記事の
中で彼は、消費者をより深くより詳しく理解することは、
「製品の特徴を詳細に
説明することよりもはるかに難しいことである。消費者はマーケターの想像を超
えて大きな変貌を遂げているにもかかわらず、マーケティングの手法は全くその
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変化についていっていない」と続けている。こうした消費者の変化の例としては、
彼らがビジネス、特にマーケティングに対して、これまで以上に懐疑的になった
ことや、はっきりと自己主張をするようになったこと、彼らの嗜好がより洗練さ
れたこと、個々の企業やブランドに対するロイヤルティが減少したこと、そして
プライバシーやセキュリティなどの問題に対してより敏感になったこと、などが
挙げられる。
消費者が大きく変わったにもかかわらず、消費者を理解するためのリサーチ手
法は変わっていない。我々は、もはや効果的ではなくなってもなお、これまで慣
れ親しんできたリサーチ手法に頼り続け、その結果として、消費者の行動や考え
を十分に理解できないでいる。そうした従来の手法に基づいて開発した製品や広
告は、消費者の心に訴えられなくなっている。
この知識社会において、従来のマーケティング手法が露呈する限界はますます
明らかになりつつある。従来のマーケティング・パラダイムの根底にある様々な
仮定、もしくは前提条件は、そもそも西洋的な考え方を色濃く反映したものであ
るが、それはまた、西洋以外の地域におけるマーケティング手法にも影を落とし
ている。なぜかと言えば、非西洋文化圏の企業がこぞって西洋的なマーケティン
グ手法を輸入する一方で、西洋文化圏の企業も海外における経営活動を通じて西
洋的なマーケティング手法を輸出してきたからである。
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消費者の変化がもたらす挑戦
それならば、既存のパラダイムを新しいものに転換してしまえばよいのだが、
なぜそうしないのか。それは、深く根ざしたパラダイムほど、それを変えようと
するには勇気と忍耐が必要となるからである。歴史が示すように、従来とは異な
る世界観を受け入れることができない者は、必死になって現状を維持しようとす
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る 。たとえば、カトリック教会は天動説を受け入れようとはせず、むしろガリ
レオに地動説を否定するように強制した。だれかが従来の考え方に挑戦した場合、
我々はまずそれに抵抗しようとする。さらに、思考の中身(what)が挑戦を受
けた場合よりも、思考様式それ自体(how)が挑戦を受けた場合に、我々はより
いっそうの抵抗を試みる。たとえば、消費者の思考プロセスは言語に基づいて行
われるわけではない、ということが新たにわかった場合、その新たな事実を受け
入れ、かつ消費者へのコミュニケーション手法も一新する必要がある。しかし、
「マネ
ゼネラル・モーターズ(GM)のビンセント P. バラッバが述べるように、
ジャーの多くは、ある問題に直面した際に、その問題のとらえ方を見直そうとは
せずに、問題それ自体に多額の金を投じようとする」
。既存のパラダイムを転換
するためには、我々が公式、非公式に抱く仮定や予想、意思決定方法など、我々
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「パラ
の思考や行動を規定する要因を変える必要がある 。しかし残念なことに、
ダイム・シフト」という言葉がすでにあまりにも広く使い古されてしまったがた
めに、それを口にした途端、また新手の経営手法か何かだろうという誤解を受け
るだけで、今度こそ思考様式を根本から改めなければならないのだとは受け止め
てはもらえない。
さらにもう1つの問題として、我々は新しいアイデアに直面した際に、早々と
それを否定してしまう傾向がある。マネジャーの多くは、新しいアイデアを客観
的に吟味することなく、早々と否定してしまいがちである。また、新しいことを
学ぼうとするその取り組み自体を否定してしまっていることが多い。たとえば、
ネスレの副会長兼CEOであるピーター・ブラベック・レトメ−ズは、ハーバー
ド・ビジネススクールで開催されたアグリ・ビジネスの国際コンファレンスの場
序章
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で目にした光景について、
「マーケティング担当者というのは、自然科学に裏づ
けられた知識や、人文科学から導き出された示唆よりも、自分自信が常識として
疑わない主観の方を重視するようだ」と語ったことがある。ちなみにネスレは、
脳機能の理解を積極的に追究し、組織的学習の重要性を強調している会社である。
また、ある国際的な消費者パッケージ製品企業のCEOによる批判はより痛烈で、
「マーケティング担当者の多くは、ビジネス雑誌を読むことでビジネスの最前線
にいるような気分に浸っている。それ以外のものはすべて否定してかかる。こう
した態度は、マーケティング以外の分野では通用しない」と語る。こうした批評
は酷かもしれないが、だれしもこのようなマーケティング担当者を周囲に見つけ
ることができるだろう。
新しいアイデアだからといって安易に受け入れようとしないこと、それ自体は
よいことである。しかし、新しいアイデアが単に我々の常識を超えている、とい
う理由だけで抵抗するのはよくない。むしろ、新しいアイデアに直面した時に
「も
我々がやるべきことは、そのアイデアの真価について判断を急ぐのではなく、
し、この新しいアイデアが真実だとすれば、果たしてこれは我々の役に立つだろ
うか」と、まず自問してみることである。そして、その答えがイエスであるなら
ば、そのアイデアの真価をさらに詳細に吟味してみることである。そうした作業
を進めるには、本書に付した注が役に立つだろう。注で紹介した参考文献をひも
解くことによって、本書で紹介する様々な新しいアイデアについて、長所につい
ても短所についても知ることができるほか、そのアイデアに関する多彩な分野の
知識に触れることができる。さらに、顧客をよりよく理解する手段として全く新
しい手法を取り入れるようになり、その新たな手法によって得られるデータをど
う解釈したらいいか、その分析結果をどのように実際のマーケティング活動に活
かしたらいいかが、わかるようになるだろう。
従来のマーケティング・パラダイムにはらむ、最も深刻な問題は、人間の心
、体(body)
、そして社会(society)といった重要な要素
(mind)や、脳(brain)
を人為的に分断してとらえてしまっていることである。実社会においてこれらの
要素が相互に関連し合っていることは、システム理論を持ち出すまでもなく明白
であるが、マーケティング担当者が顧客について考える場合や、マーケティング
活動の現場では、それが反映されていない。消費者のニーズをより的確に把握し、
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効果的に満たすためには、こうした重要な構成要素を相互につなぎ直すことが重
要であり、それこそが、競争と変化の激しい今日のビジネス環境の中で生き残る
術である。
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分野を超えたつながり
専門分野というものは、その分野が発展するにつれて専門化と細分化が進むも
のである。結果として、企業のマーケティング担当者は2つの課題に直面する。
第1の課題は、専門領域の分化や発展が、実社会における我々の生活を反映した
形で進むわけではないことを認識することである。実際、我々の生活は、企業や
大学において専門分野が発展するのに呼応して変化するわけではない。第2の課
題は、複数の専門領域を超えてその内容に通じる必要があることである。これは、
往々にして新たな知識というものが、分化の進んだ専門分野をまたいだ領域で生
み出されることが多いからである。
本書は、次に挙げるように複数の専門分野をまたいだ内容となっている。
¡神経科学、言語学、人類学、進化心理学などの複数の専門分野
¡新しいアイデアと、それによって必要となる新しい思考プロセス
¡意識と無意識
¡マネジャーの心と顧客の心
¡ニューロンとニューラル・クラスター
¡人間の心、脳、体、社会
¡メタファーの効果と人間の思考におけるその役割
¡人間の記憶の変幻自在性
¡感情と理性
¡言語表現と非言語表現
¡全人類に共通した認識と価値観
序章
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このように様々な専門分野をまたいだ視点でとらえ直した消費者像は、マネジ
ャーがこれまで前提としてきた消費者像とは似ても似つかないものになるだろう。
こうした違いは、本書を読み進めるうちに、より明らかになるだろう。なお、本
書の内容は、いくつかのテーマにまとめることができる。
¡消費者およびマネジャーの行動に影響を与える思考や感情のほとんどは、無
意識のうちに作動する
¡消費者の思考や行動を分析し、実践に役立つ結果を得るためには、消費者の
心がどのように作動するかを理解する必要がある
¡消費者の日常生活は、大学や企業において発展した専門分野のように分化し
てはいない
¡消費者の心は、脳の動きや体の状態、社会の構造などと独立して存在するわ
けではない
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¡マネジャーの心(意識と無意識の両方の要素を含む)は、消費者の心(意識と無
意識の両方の要素を含む)
と相互に関連し合い、
「市場の心」
(mind of the market)
を構成する
我々の思考システムは、従来のままでもある程度まで新しいアイデアを受け止
めることができる。しかし、新たな知識や変化が一定量を超えると、パラダイ
ム・シフトが必要となる。毛虫が変態して蝶になるように、今までにない全く新
しい仮定や予想、意思決定方法が重要となる。万華鏡をゆっくりと回した時に見
える図柄のように、小さな変化が積み重なった結果、大きな変化となって現れる
のである。
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本書の構成および要旨
本書は第Ⅰ∼ⅠⅤ部で構成されている。第Ⅰ部「旅立つ前の準備」では、今日の
マーケティングを取り巻く状況について考察する。まず、第1章「慣れ親しんだ
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マーケティングからの脱却」では、顧客中心主義を目指す多くの企業が困難に直
面する現状を描く。こうした困難の根底には、消費者に対する誤った考え方が存
在し、マーケターはそのような考え方を捨て去ることから始めなければならない。
そして、消費者をよりよく理解するために、消費者に対する考え方それ自体を一
新するための準備を始める。まさに、新しいマーケティング・パラダイムへの転
換に向けての準備とも言える。
第2章「新しいフロンティアへの旅立ち」では、新しいマーケティング・パラ
ダイムについて、より詳細に見ていく。学際的なアプローチの重要性を検討し、
新しいパラダイムがマーケティングにもたらす含意について考える。ここでは、
多くの読者が驚くべき事実に直面することだろう。たとえば、消費者の思考内容
の95%が無意識のうちに起こっているという事実や、その思考内容の多くはメタ
ファーを通じて掘り起こすことが可能であること、消費者の記憶は我々が通常考
えている以上に変幻自在であること、マーケターが無意識のうちに考えているこ
とが、意識して考えていることと同様に、消費者の考え方に影響を及ぼすこと、
などである。
第Ⅱ部「市場の心を理解するために」では、新たなマーケティング・パラダイ
ムをすでに実践し、目を見張る成果を上げている企業の実例を見ていく。第3章
「顧客の無意識を分析する」では、顧客が無意識のうちに考えていることを説明
し、マーケターがそれを調査分析の対象とすることの重要性について議論する。
無意識の思考は(それを意識的に考えてみないとわからない点で皮肉ではあるが)、
人間の意思決定に影響を与える重要な要素である。我々の認知活動の、まさに
95%を超える部分が無意識のうちに行われている。
第4章「メタファーを介して心脳に語りかける:ZMET調査」は、新たなマー
ケティング・パラダイムにふさわしいリサーチ手法として、ZMET調査を紹介す
る。この章では、メタファーに焦点をあてる。メタファーは、表現方法として頻
繁に使用されるがゆえに、消費者の心の深層における思考や感情を理解するため
には欠かすことができない手段である。マーケターは、この革新的なインタビュ
ー手法に基づいた調査法を用いることによって、メタファーを通じて消費者の思
考を掘り起こすことができる。この新たな調査法は、従来の調査法とは比較にな
らないほど、深く洞察に富んだ分析結果を導き出すことができる。さらに、第4
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章の付論では、ZMET調査のプロセスを詳細に解説する。
第5章「先端複合領域から心脳を読み解く:レスポンス・レイテンシー調査と
ニューロ・イメージング調査」では、人間の無意識を調査対象とする、2つの新
しい手法を紹介する。そして、その分析結果をどう解釈するべきかを議論する。
これら2つの調査法はまだ比較的新しく、発展途上段階にあるが、ZMET調査を
補完する役割を果たす。また、消費者の心に語りかける手法としてこれまでマネ
ジャーが多用し、有効であると信じてきた調査法であるフォーカス・グループの
限界についても言及する。
第6章「思考の本質に迫る:コンセンサス・マップの概念」では、人間の思考
の特徴について検討し、意識と無意識が相互に関連し合う様子について議論する。
この章では、あるテーマについて複数の消費者が共有する思考様式を見つけ出す
ことの重要性を、
「コンセンサス・マップ」というツールを紹介しながら解説す
る。また、コンセンサス・マップ上では、複数のコンストラクトがある程度まと
まって、より大きなコンセプトを形成する「クラスター」を見つけ出すことがで
きることにも触れ、それがマーケターにとってなぜ重要であるかについて説明す
る。さらに、コンセンサス・マップを実際にどのように使って、マーケティング
活動に役立てることができるかについて解説する。
第7章「市場の心を理解する:コンセンサス・マップの活用」では、同一セグ
メント内で複数の消費者が共有するメンタル・モデルとしてのコンセンサス・マ
ップに変化を加えること、特に、マーケティング活動を通して、コンセンサス・
マップを変化させることができることに焦点をあてる。たとえば、新しいコンセ
プトを導入する、既存のコンセプトを強調する、あるいは逆に抑制する、といっ
たことによって、コンセンサス・マップの構造を変えることができる。また、コ
ンセンサス・マップ上にすでに存在する複数のコンセプト間のつながり方を変え
てみる、あるいはつながりの強弱に変化を加える、などによってコンセンサス・
マップの構造を変えることも可能である。さらに、複数のコンセンサス・マップ
が互いに関連し合うことについても議論する。
第Ⅲ部「分野を超えた新たな知識に挑む」では、人間の心や脳の仕組みと市場
の関わりをさらに掘り下げる。第8章「壊れやすい記憶」では、人間の記憶の構
造について、特に記憶の再構築に関して議論する。消費者の記憶は常に変化して
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おり、多くの場合、その変化は無意識のうちに進行している。消費者は、自らの
記憶をたどろうとするたびに、記憶内容に大なり小なり何らかの変化を加える。
マーケターとしては、消費経験に関して消費者が記憶を再構築するプロセスに働
きかけることによって、その内容に影響を及ぼすことが可能となる。
第9章「記憶・メタファー・物語」では、前章までの内容を統合し、記憶、メ
タファー、物語がどのように関連し合うかを議論する。記憶内容はある物語に沿
って構築される。消費者は、過去の記憶をたどるたびにそれを再構築し、過去の
経験を表現するために記憶内容を物語として語る。同時に、記憶はメタファーと
しての機能も果たす。つまり、記憶を介して、その背後にある思考様式や経験内
容を表現することもある。したがって、消費に関する記憶、メタファー、物語は
相互に関連し合いながら、消費経験や消費行動を左右する。たとえば、マーケタ
ーは特定のメタファーを市場に投げかけることによって、消費者が過去、現在、
将来の経験について物語を紡ぐプロセスに働きかけることができる。
第10章「物語とブランド」では、消費者の記憶、メタファー、物語がブランド
の構築にどのように貢献するかを論じる。この章では、ブランドを、コンセンサ
ス・マップ上に表現されるコンストラクトの集合体としてとらえる。コンストラ
クトの集合体は、消費者が企業のマーケティング活動をどのように心理的にとら
え、その内容を消化し、それに対してどう反応するかを表したものである。換言
すれば、ブランドとは、このコンセンサス・マップの持つ意味を体現したメタフ
ァーであるとも言える。第10章では、市場において消費者とマーケターがブラン
ドの意味をともにつくり出していくことを議論する。
第ⅠⅤ部「より独創的、より深遠な思考に向けて」では、議論の対象を消費者や
顧客以外の分野に移す。第11章「創造的思考のための10の方策」では、マネジャ
ーに向けて、マーケティングや消費者に関する型破りな発想をするための10の方
法を紹介する。また、同様の思考方法を職場の同僚の間に浸透させる方法につい
ても論じる。この章では、思考方法を根底から覆すことが難しい場合に、すぐに
でも着手できる方法を紹介する。これらの方法は、様々な専門分野から導き出さ
れたもので、顧客関係の効果的な構築や管理にも役立つだろう。
第12章「優れた質問が、優れた答えを生む」は、第11章で紹介した10の方法に
共通する1つのテーマを扱う。それは、新たなマーケティング・パラダイムはま
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ず良質の質問を投げかけることから始まる、というものである。この章では、問
題の核心を突くような質問をするにはどうしたらいいか、8つの具体的なガイド
ラインを提供する。このガイドラインは、調査法のいかんに関わりなく通用する
ものである。良質の質問に対する答えはすべて、次なる良質の質問につながる。
マーケターが消費者に投げかける質問の内容や、質問を投げかける方法それ自体
が、その結果として得られる答えの質を左右する。
終章「新しいマーケティング・パラダイムの構築に向けて」は、現状を維持し
ようとする態度や行動に対して警鐘を鳴らす章である。タイタニック号沈没の根
本原因は、同号の乗組員たちがそれまで25年間にわたって蓄積してきた船舶知識
に安住し、それを問い直す作業を怠ったことにある。その結果、彼らは進路変更
の必要性を示唆する新たな情報が入ってきてもそれを無視してしまった。氷山が
そこにあったこと、また船舶デザインの一部に欠陥があったことなどは、すでに
彼らの頭の中に存在していた間違った思考回路を作動させるきっかけにすぎなか
った。同様のことが今日のマーケティングを取り巻く環境についても言える。マ
ーケティング担当者がマーケティングのあり方を問い直すことを怠れば、その結
末は明らかである。本書で紹介した新しいアイデアは、市場の心を理解するため
の第一歩である。芸術家や科学者と同様にマーケターも、既存のパラダイムを振
りかざす者に対してひるまずに挑戦しなければならない。
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本書で紹介したアイデアの源泉
本書で紹介する新しいアイデアは、様々な専門分野における最新の研究成果を
拠り所としている。一見したところ互いに関連がなさそうな複数の分野から導き
出された、これらの新しいアイデアは、顧客を深く理解し、顧客関係を効果的に
構築するために欠かせない知識である。本書が拠り所とする専門分野の多くは、
マーケティングとは直接的な関係はないが、本書にはマーケティングに関連のあ
るものだけを選択してまとめた。本書をまとめるにあたり、以下の4つの活動が
アイデアの源泉となった。
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