入ゼミレポート11 - 経済学部研究会WWWサーバ

「日本の環境問題」
∼中央新幹線建設の引き起こす環境問題∼
細田衛士研究会入ゼミ課題
序論
1987年から、JR東海が率先して進めている計画が中央新幹線建設計画である。
この中央新幹線とは、リニアモーターカーの技術を利用した物であり、既存の新幹
線とは異なるという点で未来の乗り物として人々の期待を集めていると言える。
しかし、中央新幹線は、民衆の思っているような理想的な未来の輸送機関なのだろ
うか、建設による弊害は無いのだろうか。仮に在るならば、これからの日本にとっ
て大きな環境問題に発展する可能性があるのではないだろうか。という事について
このレポートで述べていく。
第一章では、建設計画の現状を、第二章では、主に環境面から見た建設の問題点
を、第三章では、これからの課題を述べていく。
第1章 現状分析
この章では、中央新幹線建設計画の現状について述べていく。
1,1リニアモーターカーの技術
リニアモーターカーは、端的に言えば電磁石による反発を利用し、浮上した電車
を走らせる技術である。
今までの電車との違いは、送電線が車体の上に無い事、車体が10cm地面から浮い
ている事、速度が圧倒的に速い事が主に挙げられる。
1,2リニアモーターカーの通るルート
2010年10月20日、交通政策審議会中央新幹線小委員会の試算発表により、南ア
ルプスを通過するCルートを採択する事が事実上決定した。
以下の図に記されている赤い線が、現時点でのおおまかなCルートである。
図1: 中央新幹線Cルート予想図
出典:ケンプラッツ
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/news/20081022/527324/
また、Cルート以外に審議されていたルートは、Aルート(木曽谷を経て名古屋へ
抜けるルート)Bルート(伊那谷を経て名古屋へ抜けるルート)が案として挙げられ
ていた。
小委員会、およびJR東海がCルートを採択した主な理由は、費用対効果、環境面、
技術面が挙げられる。
図を参照するとわかるように、Cルートを開通する為には、南アルプスを貫通する
必要がある。
1,3リニアモーターカー実験の現状
本節ではリニアモーターカー実験の現状について述べていく。
1996年に宮崎実験線での走行試験が終了した後、山梨実験センターが発足した。
そして2009年7月28日には実用可能な段階まで実験が終了したとの評価を実用技術
評価委員会より受けている。
また、隣国である中国の、上海では2002年に浦東国際空港と、上海郊外を繋ぐ線
として上海トランスラピッドという名でリニアモーターカーを利用した鉄道が開通
している。
以上より、リニアモーターカーの技術自体は実用可能な段階に達しており技術面で
の問題は無いと考えられる。
1,4 中央新幹線開通の利点
本節では中央新幹線開通の利点について述べていく。
まず、最大の利点として挙げられる物が、経済効果である。リニア中央エクスプレ
ス建設促進期成同盟会の試算によれば、中央新幹線の実現により、開通後50年間
で見込まれる便益(効用、効果)は15兆円から21兆円にのぼるとされている。
次に同盟会が挙げている利点はCO2の削減である。これは、中央新幹線によって東
京、大阪間が1時間で結ばれることにより、飛行機の使用を減らすことが出来、飛
行機によるCO2排出が抑えられるというものである。
1,5 今後の中央新幹線建設の予定
現在、実験が終わりつつあり、実現へ近付きつつあるが、JR東海の予定では今
後どのような計画がされているかを以下に挙げる。
2013年 山梨リニア実験線の延伸工事完成
2014∼2015年 着工
2020年 相模原市内-甲府市間開業
2027年 東京都内-名古屋間開業
2045年 名古屋-大阪間開業
このように、中央新幹線建設は、かなり長期的な計画である。よって景気変動や災
害等で続行が困難となる可能性がある事も念頭に置かなければならないのである。
第2章 環境面からの問題
1章では、中央新幹線建設計画の現状を述べた。次に本章では、現状を踏まえた
上で、環境面からの問題を見ていく。
2,1 自然保全の観点から
南アルプスには、未だなお、破壊されていない自然が多く、様々な動植物の生息
地となっている。また、特別天然記念物であるライチョウの生息圏でもあるため、
現在最有力となっているCルートを開通させるならば、南アルプスを横断するトン
ネルを掘る事は避けられず、多くの自然環境を破壊してしまう事となる。
さらに、南アルプスは現在、世界自然遺産への登録が進められているが、もしトン
ネルが掘られたならば、世界自然遺産への認定は困難となる。登録基準として、地
質、生態系、自然景観、生物多様性の四項目があり、Cルートを開通されるとなる
と全ての項目に悪影響を与えてしまう為である。
また、補足としてだが、南アルプスには中央構造線が通っており、地殻変動の懸念
が大きな地域である為、トンネルを掘る事は、リスクが高いと考えられる。
2,2 エネルギーの観点から
500km/hという圧倒的な速度で運行される予定である中央新幹線だが、動力の
面から見ると果たして環境に良いと言えるのだろうか。
JR東海によるとCO2の排出量は、飛行機の使用に比べると一座席あたり三分の一
まで抑えることが出来るという。これは、燃料を使わず、電気を動力として動いて
いる為である。しかし、既存の新幹線であるのぞみの3倍という事もJR東海は発表
している。
では、中央新幹線を動かす為に必要な電力はどれ程だろうか。
公式には発表されていないが、リニアモーターカーの提唱者である川端俊夫氏によ
ると、1989年時の試算で従来の新幹線の40倍とされている。
また、ドイツで開発されたリニアモーターカーであるトランスラピッドを参考に、
必要な電力を試算すると、総電力容量は544万KWとなり、原発5発に相当すると
言われている。将来的に原発に頼る必要が無くなる可能性が無いと言えないが、現
状から考えると試算が正しいならば、リニアモーターカーを動かす為には原発を増
やさざるを得ないと考えられる。よって、環境への負荷を考える時、中央新幹線が
通る地域の環境破壊、エネルギー消費の増加に加え、発電所開発による環境破壊も
問題となると考えられる。
2,3 水資源の観点から
近年、多くの人々の関心を集めているものとして水資源があげられるが、南アル
プスは、生態系の豊富さに加え、地下に豊かな水脈を抱えており、水資源の宝庫と
言えよう。現在のトンネル掘削計画は、地下水脈を貫通する可能性が高く、南アル
プスの豊富な水資源が失われる事が危惧されている。リニア実験線が建設された山
梨県笛吹市でも民家の井戸が枯れてしまうという事例が既に起きている。
2,4 2章まとめ
以上に挙げたように、中央新幹線が、環境、人間共に負荷を与える可能性は大い
にあり得ると言えるだろう。また、2,2で指摘した原子力発電所についてだが、東
日本大震災により原子力への人々の不安が高まっている事を考慮すると、新たな原
発を建設し、電力を確保する事は難しいと考えられる。
第3章 これからの課題
この章では、中央新幹線建設が考慮すべき環境問題と踏まえた上で、これからど
のような課題が残っているかを述べる。
3,1 ルートの再検討
2章で挙げた問題の中で最も考慮すべき物は、南アルプスの環境破壊と考えられ
る。JR東海は、Cルートを採択した理由として費用対効果と環境を挙げているが、
現状では詳しい資料は一般公開されておらず、費用対効果を優先したと考えられて
も反論の余地が無い。ルート採択については相当な物議を醸した事は記憶に新しい
が、環境保全を考えると、再び検討する必要が有ると言える。よって、環境面での
資料を現在よりも広く公開し、地域住民、自治体、専門家と話し合った上でルート
を再検討すべきだ。この問題については、慶應義塾大学文学部教授であり、また
『リニア市民ネット』代表を務める川村晃生氏が積極的に取り組んでいる。
3,2 柔軟性のある計画
現在、技術や代替エネルギーの開発は日々進歩しており、環境への配慮のある物
が増えてきている。そして中央新幹線完成予定の2045年までも技術は進歩し続け
ると考えられる。よって環境に配慮した新技術を取り入れ易いよう、広く意見を取
り入れる事も今後の課題である。
3,3 必要性の再確認
リニアモーターカーは、未来の乗り物として愛知万博やリニア実験線での試乗会
において人々を魅了したが、この先必要な技術であるかを再確認する必要がある。
中央新幹線、リニアモーターカーの魅力ばかりではなく、建設によって失われる資
源等を世間に知らせ、本当に必要な物なのか意見を取り入れるべきだ。また、少子
化の進む日本からさらに30年後、リニアモーターカーという大量輸送機関を要す
るのか等、再考すべき課題は多いのである。
結論
本レポートでは「日本の環境問題」をテーマとし、中央新幹線建設の環境への影
響を述べた。現代社会は、開発無くしては成り立たないと言っても過言ではない。
だが、人間が環境を好きに破壊して良いのかというと勿論答えは否である。我々人
間は、環境への影響を配慮し、持続可能な開発を続けていかなければならない。
そして、本レポートを通して述べたように、中央新幹線建設も持続可能な開発を考
える上で避けては通れないこれからの「日本の環境問題」である。
今後、ルートの再検討、新たなエコエネルギーの開発によって、より環境負荷を減
らした中央新幹線建設が可能となる事を期待したい。
参考文献等
リニア市民ネット http://www.gsn.jp/linear/index.html
リニア中央新幹線建設促進期成同盟会 http://www.linear-chuo-shinkansencpf.gr.jp/index.html
月刊チャージャー http://promotion.yahoo.co.jp/charger/201001/contents03/
vol39.php
JR リニアエクスプレス http://linear.jr-central.co.jp/index.html
南アルプス国立公園 http://www.env.go.jp/park/minamialps/index.html
wikipedia-中央新幹線 http://ja.wikipedia.org/wiki/中央新幹線