最近導入されたブルーベリー品種の特性 県南果樹研究センター 山道和子 ブルーベリーは、視覚機能改善効果や抗酸化作用などの健康機能性が高く評価 され、樹が小さく栽培管理がしやすいうえ、観光園にも適していること、また、 生食だけでなくジャムやワインなど加工品にも利用できるという用途の広さか ら、本県でも栽培面積が増加している。 近年、原産地であるアメリカを中心に品種育成が活発に行われ、国内でも多く の品種の苗木販売が行われている。 そこで、今回は平成13年度から県南果樹研究センターで試作した品種のうち、 果実の特性が明らかとなったものについて紹介する。 1.最近のブルーベリー品種の動向 ブルーベリーの品種育成が最も進んでいるのは原産地のアメリカだが、ニュ ージーランド、オーストラリアでも品種育成が行われ、我が国にも導入されて いる。日本国内では、群馬県が3品種を育成している他、民間の苗木業者でも 品種を育成しており(表1)、最近の品種は、大粒で玉揃いが良いこと、日持ち 性が優れていること、収穫期間が短いこと、などの特性を持つものが多い傾向 にある。 表1 日本国内で導入・栽培されているハイブッシュブルーベリーの品種 タイプ ノーザンハイブッシュ 育成国 日本 品種数 6 品種の例 群馬県:おおつぶ星、あまつぶ星、はやばや星 民間:じんば青、うつぎ青、えぼし青 アメリカ 42 ブルークロップ、スパルタン、チャンドラー、パトリオットなど ニュージーランド 3 プル、ヌイ、レカ オーストラリア 3 ブリジッタブルー、カロラインブルー、デニーズブルー ハーフハイハイブッシュ アメリカ 10 ノースランド、ノースブルー、ポラリス、チッペワなど サザンハイブッシュ アメリカ 25 オニール、パルメットー、フロリダサファイア、カミールなど ニュージーランド 1 ホルトブルーペティット 注)日本ブルーベリー協会 編 ブルーベリー全書 年度までに品種登録された品種を追加して作成 網掛けは種苗法登録品種 61ページを参考に、平成20 これらの多くの品種から数品種を選定するためには、自園の生産の目的を明 確にすることが大切である。今後ブルーベリーは他の果樹同様、品種ごとに流 通され、販売されるのが主流となると見込まれる。 市場出荷向けでは、7月中旬のお中元時期など、市場有利性の高い時期の熟 期の品種に絞り、果実が大きく、外観の良い品種の導入が求められる。また、 果肉が硬く、果柄痕が小さく乾くといった、日持ち性・輸送性に優れているこ とや、収穫期間が短いことも重要である。 一方で、摘み取り園向けでは、夏休みやお祭りなどの集客時期に合わせた熟 期の品種で、果実の大きさにあまりこだわらず、食味が優れた品種で、さらに 抗酸化物質の含有量が高いなど話題性のある品種の導入が求められる。 2.当センターで検討している品種の特性 当センターでは、平成13年度よりブルーベリーの優良品種選定に本格的に取 り組んできており、平成18年度に一度それらの途中経過を紹介したが、その後 のデータの蓄積によって、より正確な特性が明らかとなった9品種の特性につ いて改めて紹介することとし、表2及び表3に示した。 表2 ブルーベリー供試品種の特性(平成18年∼20年) 品種名 開花期 (月/日) 5/20∼6/ 6 収穫期 (月/日) 7/16∼8/ 2 樹勢 樹姿 デューク 熟期 調査時 樹齢 早生 5∼7 やや強 中間 パトリオット 早生 5∼7 5/12∼5/28 7/18∼8/ 2 やや弱 やや 開帳 ブルーレカ 早生 6∼8 5/14∼6/ 1 7/18∼8/ 7 プル 早生 7∼9 5/17∼6/ 3 7/20∼8/ 7 ブルージェイ 早生 5∼7 5/15∼6/ 1 7/20∼8/10 強 やや 直立 1.63 ヌイ 早生 7∼9 5/19∼6/ 5 7/22∼8/ 7 やや強 開帳 1.02 ミーダー 早生 5∼7 5/15∼5/30 7/22∼8/12 強 やや 直立 1.67 ブルーゴールド 中生 5∼7 5/16∼6/ 3 7/29∼8/13 やや弱 やや 直立 1.68 ネルソン 中生 5∼7 5/22∼6/ 5 7/31∼8/16 強 直立 1.24 * 早生 24∼26 5/14∼5/29 7/18∼8/ 2 強 直立 4.29 コリンズ 中 収穫量 (kg/樹) 2.96 1.07 やや 直立 3.21 やや弱 やや 直立 1.00 * ブルークロップ 中生 〃 5/19∼6/ 4 7/25∼8/20 中 直立 6.60 * バークレイ 中生 〃 5/18∼6/ 3 7/29∼8/13 強 開帳 4.06 晩生 〃 5/20∼6/ 6 8/ 6∼8/28 強 直立 5.70 * コビル 注)耕種概要:平成15年6月定植、栽植距離2m×4m、1品種3樹 *印:対照品種、1品種2樹 熟期:「コリンズ」を早生、 「ブルークロップ」を中生、 「コビル」を晩生とし て比較 開花期及び収穫期:平成18∼20年の平均 収穫量:平成20年のデータ 表3 ブルーベリー供試品種の果実品質(平成18年∼20年) 品種名 デューク 果実重 横径 (g) (㎝) 3.3 1.9 果皮色 果形 明青 扁円 果柄痕 大きさ 状態 小 乾 糖度 (%) 10.7 酸度 (%) 0.47 食味 (1∼5) 3.7 パトリオット 3.3 2.0 青∼明青 扁円 小∼中 乾 11.9 0.76 3.0 ブルーレカ 2.7 1.7 暗青∼青 扁円 小∼中 乾 11.5 0.62 3.3 プル 3.1 1.9 明青 扁円 小 乾∼湿 11.6 0.85 3.7 ブルージェイ 2.6 1.7 明青 球∼扁円 小 乾∼湿 12.9 0.63 4.0 ヌイ 4.0 2.1 明青 扁平 小 乾∼湿 11.0 1.11 2.3 ミーダー 3.2 1.9 明青 扁円 小 乾 10.4 0.55 2.7 ブルーゴールド 2.9 1.9 明青 扁円 小 乾∼湿 12.4 0.87 3.3 ネルソン 3.2 1.9 明青 扁円 小 乾∼湿 12.1 0.57 3.0 * 3.2 1.9 明青 扁円 小 乾 12.5 0.59 3.3 コリンズ * ブルークロップ 3.5 2.0 明青 扁円 小 乾 10.7 0.77 3.0 * バークレイ 2.6 1.8 明青 扁円 小 乾 11.0 0.68 3.7 2.9 1.9 明青 扁円 小 乾 11.5 1.18 3.0 * コビル 注)*印:対照品種 果実品質:平成18∼20年の平均、横径は平成19∼20年の平均 ただし「ネルソン」は平成19∼20年の平均 調査は各年の収穫始めまたは2回目の収穫時に実施 果柄痕:大きさ(大・中・小)と状態(乾・湿)を観察により評価 糖度及び酸度:30∼100果を搾汁して測定、なお、酸度はクエン酸換算 食味:1(不良)∼5(良好) 3.各品種の特性 1)デューク(Duke) (1)来歴 アメリカ農務省とニュージャージー州立農業試験場の共同育成で、1987年 に発表された。交雑組み合わせは、 (「アイバンホー」×「アーリーブルー」) ×系統番号192-8である。 (2)特性及び栽培上の留意点 早生で、果実は大きい。果肉が硬いので市場 出荷に向いている。着色の揃いが良く、1回の 収穫で多く収穫できる。樹勢が強く樹形が整う。 果実がやや密に着くため、収穫適期を確認し づらいので注意する。 写真1 「 デューク」の果そう 2)パトリオット(Patriot) (1)来歴 アメリカ農務省とメイン州立農業試験場との共同研究により育成され、 1976年に発表された。交雑組み合わせは、系統番号US3×「アーリーブル ー」である。 (2)特性と栽培上の留意点 早生で、果実は大きく、さわやかな香気があり、酸味はやや強いが、食味 良好である。開花期は他の品種より早く、収穫始めも早い。収穫始めで果冠 からの裂果がみられ、収穫後半で果実が小さくなりやすい。 写真2 「パトリオット」の果そう 写真3 「パトリオット」の裂果 3)ブルーレカ(Reka) (1)来歴 ニュージーランドのルアクラ農業研究センターの育成で1988年に発表され た。交雑組み合わせは、系統番号E118(「アッシ ュワース」×「アーリーブルー 」)×「ブルーク ロップ」である。 (2)特性及び栽培上の留意点 早生で、果実の大きさは中程度、食味良好で ある。樹勢は中程度で、樹形形成が早く、若木 での収穫量は多い。凍害がやや発生しやすい。 写真4 「ブルーレカ」の果そう 4)プル(Puru) (1)来歴 ニュージーランドのルアクラ農業研究センタ ーの育成で1985年に発表された。交雑組み合わ せは、系統番号E118(「アッシュワース」×「ア ーリーブルー」)×「ブルークロップ」である。 写真5 「プル」の果そう (2)特性及び栽培上の留意点 早生で、果実は大きく、食味良好である。収穫量はやや少ない。若木のう ちは特に、地際から細い新梢が多く発生し、主軸枝の候補として残すべき強 い新梢の発生が少ないので、樹形形成が難しい。凍害はやや発生しやすい。 5)ブルージェイ(Bluejay) (1)来歴 アメリカのミシガン州立農業試験場育成で1978年に発表された。交雑組み 合わせは「バークレイ」×系統番号ミシガン241である。 (2)特性及び栽培上の留意点 早生で、果実は大きさが中程度で、丸みを帯 びている。糖度が高く甘味が強い。食味良好で ある。果梗が長く、果実が下垂するので、収穫 適期を確認しやすい。樹の生育は旺盛であるが、 収穫量はやや少ない。凍害は発生しにくい。 写真6 「ブルージェイ」の果そう 6)ヌイ(Nui) (1)来歴 ニュージーランドのルアクラ農業研究センターの育成で1988年に発表され た。交雑組み合わせは、系統番号E118(「アッシュワース」×「アーリーブル ー」)×「ブルークロップ」である。 (2)特性及び栽培上の留意点 早生で、果実は特に大きく、扁平で五角形を呈する。酸味が強く食味は中 程度である。果梗から離れやすく未熟な果実が落果しやすい。樹勢はやや強 いが、開帳性で結果枝が下垂しやすいため、支柱へ誘引するなど対策が必要 である。例年凍害が発生しており、耐寒性が弱いとみられる。 写真7 「ヌイ」の果そう 写真8「ヌイ」の果実 7)ミーダー(Meader) (1)来歴 アメリカのニューハンプシャー州立大学で育成され、1971年に発表された。 交雑組み合わせは「アーリーブルー」×「ブルークロップ」である。 (2)特性及び栽培上の留意点 早生で、果実は大きい。果粉がやや少なく、 まばらに着くため、外観はやや不良である。食 味は中程度である。果梗が長いので収穫適期を 確認しやすい。樹の生育は旺盛である。 写真9 「ミーダー」の果そう 8)ブルーゴールド(Bluegold) (1)来歴 アメリカのニュージャージー州立農業試験場の育成で1988年に発表され た。交雑組み合わせは、「ブルーヘブン」×系統番号ME-US-5である。 (2)特性及び栽培上の留意点 中生で、果実の大きさは中程度である。果 実はやや軟らかいが、食味は良い。果実は成 熟途中で赤みを帯びないので、収穫適期の判 断がやや難しい。他の品種より樹高がやや低 く、コンパクトな樹形である。 写真10 「ブルーゴールド」の果そう 9)ネルソン(Nelson) (1)来歴 アメリカ農務省とニュージャージー州立農業試験場の育成で、1988年に発 表された。交雑組み合わせは、 「ブルークロップ」×系統番号G107(F-72×「バ ークレイ」)である。 (2)特性及び栽培上の留意点 中生で、果実は大きく、食味良好である。果 梗が長いため収穫適期を確認しやすい。開花期 が他の品種よりやや遅い。花弁が淡桃色を帯び る。樹は直立性で、生育は旺盛である。 写真11 「 ネルソン」の果そう
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