環境低負荷手法を利用した新規多糖材料の創製

鹿児島大学工学部研究報告
第 52 号(2010 年)
鹿児島大学大学院理工学研究科
学位論文
博士(工学)
理工研第 324 号
環境低負荷手法を利用した新規多糖材料の創製
Preparation of Novel Polysaccharide Materials by Means of Environmentally Benign
Methodologies
井澤
浩則
Hironori IZAWA
1.はじめに
近年、石油資源の枯渇や地球環境問題の悪化から、
再生可能資源である天然多糖に注目が集まってい
る。天然多糖は地球上に最も豊富に存在する有機資
源であり、材料素材として用いることで高機能な材
料の創製が期待できる。しかし、それには人体に有
害な有機溶媒や酸、塩基などを大量に用いる必要が
あり、環境低負荷な手法での機能性多糖材料の創製
が望まれている。これらの背景から、本研究では酵
素触媒及びイオン液体を用いる低環境負荷手法を
利用した新規多糖材料の創製を検討した。
2.解析・実験方法及び結果
グリコーゲンからホスホリラーゼによる酵素的
糖鎖伸長反応が進行し、反応液が柔軟なヒドロゲル
に変換されることが分かった。また、得られたヒド
ロゲルは、凍結乾燥を行うことで、キセロゲルに変
換できることも分かった。さらに、ホスホリラー
ゼを用いる新規多糖材料の創製を指向した新規酵
素反応の開発について検討したところ、この酵素
がキシロース 1-リン酸、グルコサミン 1-リン酸を
基質として認識し、プライマーの非還元末端への 1
学位授与日
2010 年 3 月 25 日
鹿児島大学大学院理工学研究科
ユニットのみの糖転移反応を触媒することが明ら
かになった。
一方、グアーガムを用いるイオン液体ゲルの創製
とフィルム材料への変換について検討した。グアー
ガ ム を 塩 化 1- ブ チ ル -3- メ チ ル イ ミ ダ ゾ リ ウ ム
(BMIMCl)中で加熱-冷却し、アセトン、エタノ
ールで処理することで、グアーガム/BMIMCl ゲル
が得られることが分かった。また、得られたゲルを
エタノールに漬浸し、さらに適当な条件下で圧縮す
ることでフィルム状に加工できた。さらに、キサン
タンガムを BMIMCl 中で加熱-冷却することで、
10-100 % w/w のキサンタンガム/BMIMCl ゲルが得
られることが分かった。ゲルの引っ張り試験から、
低濃度(10 % w/w)ゲルは優れた柔軟性を示し、
高濃度(100 % w/w)ゲルは優れた強度を示すこと
が分かった。
3.まとめ
本論文は環境低負荷手法による新規多糖材料の
創製に関する研究を扱っており、酵素触媒及びイオ
ン液体を用いることで、これまでに例のないユニー
クな多糖材料の創製に成功した。