寺沢敏夫・内藤統也 東京大学大学院理学系研究科・地球惑星物理学専攻 平成 年 月 日 概要 はじめに 彗星・太陽風相互作用、 星間起源中性粒子・太陽風相互作用の場合のように、中性粒 子が磁化プラズマ流 風速 の中で電離 光電離、 荷電交換 されると、プラズマ内の 電場によって加速され、磁場の周りの サイクロトロン運動を始める。この電離 →サイクロトロン運動に至る過程をピックアップ過程と呼ぶ。非相対論的な場合、ピッ クアップ後の質量 の粒子の最大エネルギーは であり、このエネルギーをピック アップ・エネルギーと呼ぶ。 太陽風のように流れが超音速・超 な場合には、 イ オンのピックアップ・エネルギーは熱的エネルギーを遙かに越えており、そのまま更に高 エネルギーへの加速過程へ注入 されると考えられる。星間ガス起源のピック アップ・イオン 数 ∼数十 は太陽風内の 衝撃波、終端衝撃波で加速されて十 数∼数十 の宇宙線異常成分となると考えられており、この の好例である。 このピックアップ過程は、他の天体現象、とりわけ相対論的星風中での非熱的粒子の加速 現象において何らかの役割を果たしうるだろうか パルサー風や からのジェットは 流れのローレンツ因子 が よりずっと大きな相対論的なプラズマ 風である。この中に中性粒子が電離されずに入り込み、その奥深くで電離・ピックアップ されると仮定する 。この場合、簡単な考察から、 の時、被加速粒子のローレン ツ因子 は最大値 に達することが判る。 非相対論的に比べ、加速限界が非常に 大きいことが 注目される。これは素粒子におけるビーム衝突実験の場合と同じことであ る。 この加速限界を文字通り取ると、パルサー風のように が にも達する相対論的 風の場合、陽子の加速限界は 、すなわち 程度となって、最高エネルギー 宇宙線の起源を説明してしまうが、もちろんそうは行かない。風の吹いている領域が有限 であるため、粒子はこの限界のはるか前に加速領域を脱出してしまうからである。 例えば昨年のこの研究会で報告した パルサーと 星の連星系 内藤・寺沢 における パルサー・ 星の相互作用領域で、もし 星からのディスク状の質量流に中性成分が含まれることがあれ ば、太陽風・星間物質相互作用と類似の物理過程が期待される。ただし、中性成分が存在するという積極的 証拠はなさそうである。また、初期のガンマ線バースターのモデルで考察されたように、もし彗星状物質が パルサー風の領域に突入する事があれば、彗星から蒸発した中性粒子は電離に当たって必ずピックアップ過 程を経験するだろう。 有限加速領域の効果 一様流における加速限界 の一様な相対論的プラズマ流 方向 が、その流れに垂直な 磁場 方向 を持つとしよう。この時、 電場は 方向に向いている。 図 に 面内における粒子の軌道の計算例 正イオンの場合。電子の場合には縦軸を と 読み替えればよい を示した。座標は特徴的サイクロトロン半径 で規格化してあ る。 は非相対論的なサイクロトロン周波数。また、 と のグラフのスケールは 倍変えてあり、実際の軌道の形状はもっと 方向に伸びたものである。原点 で電離・生成されたイオンは電場によって加速され 方向に動きだし、やがて磁場によっ て 方向に曲げられる。これは非相対論的なサイクロイド運動の開始と定性的に同じで あるのだが、イオン質量の相対論的増加のため、軌道の形状はサイクロイドからずれる。 このずれは の増大とともに大きくなり、 の極限 図 の点 となって際限ない加速が実現する。 線 においては、軌道は放物線的 ただし の場合には、図 の範囲で 座標が極大に達し、そこで粒子の は最大値 に到達している。一方、 の場合、この図の範囲内では は最大値に届かない。 が次第に大きくなる場合、粒子の軌道は点線に漸近するが、電場は一定値 に収束する ので、粒子がこの図の領域 内で獲得するエネルギーは 方向へのシフト量だけ で決まることに注意しよう。 パルサー風 モデルの設定 次に、パルサー風の空間構造を考慮してエネルギーの上限を求めよう。 軸をパルサー の自転軸に平行に取り、系はその軸に対し軸対称であるとする。簡単のため、パルサー風 は動径方向に放射状に吹き、その は緯度 によらず一定であるとする。また、パル サー風磁場の 成分 は赤道面で反転するとし、 なる関数形を仮定しよう 。ここで は磁場反転を担う赤道電流層の厚さであるが計算結 果はこの厚さに でないことが示せるので以下では に固定する。また、 パルサーから十分離れた領域を考える事とし動径成分を無視する。以下では、脚注 に述 べた の連星系のスケールを念頭におき、特徴的半径 とし、そ こでの磁場強度 観測者の系で)を ∼ ! の範囲で変えた結果に基づいて議論する。 また、加速領域の外側の境界 を に置く 。 ランダウの「場の古典論」の演習問題の答えとしてこの 型軌道の解が与えられている。規格化した 座標系で、この軌道は と書ける。従って、規格化していない系では、 となる。風の流れる方向 に だけ動く時、 方向への変位は となるが、獲得するエ ネルギー は に比例するので、 が同じなら、 、すなわち となる。 遠心力風としての性質から、パルサー風の性質は緯度 に依存し、南北高緯度には存在領域の限界が存在 するであろう。以下のモデルにはこの限界をあらわには設定していない、しかし、次の脚注で述べるように被 加速粒子の軌道は緯度方向には限られたものであるのでこの仮定は本質的なモデルの制約とはなっていない。 の正負により、赤道が電場のポテンシャル分布の極大となるか極小となるかが異なるから、ピックアッ プ後の粒子の軌道はこの正負に大きく依存すると思われるかもしれない。しかし、計算結果はほとんど依存 しない。ピックアップ後の粒子の運動はほとんど動径方向であり、緯度方向には僅かしか移動しないからであ る。特に赤道面を横切って磁場の反転を感じる粒子は顕著な加速を受けないので、加速限界の議論には影響 を与えない。 は に比例するので、計算結果には が成り立つ。例えば、 を 、 とし た計算結果は 、 とした結果と変わらない。 パルサー風 粒子軌道の 依存性 図 には の場合に、 でピックアップされた陽子の軌道 を 、、、 の場合について描いた。上段は実空間 面内、下段は位相 空間内 面内座標は についても線形 の軌道である。 の場合にはこの領域 内部で加速限界に到達後、減速・加速のサイクルを繰り返している 磁場が動径方向に減 少することを反映して、軌道の形状も距離とともに変化している。 の場合には 回目の減速過程が終了しないうちにこの領域から脱出してしまう。一方、 ∼ 以上 では、加速過程の終了以前にこの領域から脱出している。一様場の場合と同様、 の場合に、軌道は一定形状に漸近するが、それは図の曲線の太さの範囲内で に 対する軌道と一致する。この漸近軌道に対応する最大到達エネルギーは と なっている。 パルサー風 の磁場・質量依存性 パルサー風内での粒子軌道の解析解は求められていないが、一様場の場合 脚注 参照 と同様の次元解析は可能である。 を一定としたとき、 を飛び出すときの質量 数 の粒子の最大獲得エネルギー は 、従って質量 に比例するだろう。 図 は 、 の場合の計算例であり、期待通り、 乗 の依存性 点線 を示している。ただし荷電数を とした。電子がやや点線の下にあるの は、ここでのパルサー風のパラメタでは で最大エネルギーに到達し、幾分減速 が始まったところで に達したからである。 非相対論的な場合には電子の獲得す るエネルギーはプロトンの 倍となり通常無視できるほど小さいのに対し、相対 論的な場合には ∼ %とかなりのエネルギーが渡ることが注目される。 一方、磁束密度 が変わるとき、電場 とする、 より、最大 獲得エネルギーは に比例する は電場のポテンシャルを横切る距離 の で、結局、 に比例するだろう。この単純な考察により、図 の計算結果 プロトン、 、 が説明できる。 まとめ 前節の議論に示したように、もし相対論的磁化プラズマ流内で中性粒子のピックアップ 過程があれば、非常に効率よく加速が起こる。例えば、パルサーと星間雲が大きな相対速 度で衝突する場合などについて、中性粒子の残存確率を計算しピックアップ粒子のエネル ギースペクトルを計算することを計画中である。 ここでの議論では、ピックアップ粒子のプラズマ流への加速過程の反作用を無視し、与 えられた場の中での軌道計算の問題として扱った。しかし、もともとの中性粒子の密度が 高くなるとピックアップ粒子が獲得するエネルギーの合計がプラズマ流のエネルギーに比 べ無視できず、ピックアップ過程を非線形過程として取り扱わねばならなくなる。太陽風・ 彗星相互作用は非相対論的な非線形ピックアップ過程の例であって、彗星前面に形成され る定在衝撃波はその結果の つである。相対論的ピックアップ過程における非線形効果は プラズマ物理としても大変面白い内容を含むと期待できる。 10∗∗5 γw (linear scale) γ →∞ w (Vw → c) 500 200 y 150 0 100 0 x (linear scale) 10∗∗7 Figure 1. Orbits of particles picked-up in a uniform plasma flow FIgure 2. Pickup acceleration in a model pulsar wind 10 5 4 m γmax 10 He 4 4 µ 2 10 O+ + 2 m**(1/3) 3 p 4 e 2 10 2 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 m (mass number) Figure 3. Dependence on mass number 10 5 8 6 4 2 10 4 8 6 γmax 4 2 10 3 8 6 4 2 10 Bo**(2/3) 2 0.001 0.01 0.1 1 B0 at 1 AU Figure 4. Dependence on Bo 10
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