取消訴訟の訴訟要件(1)$ 違 法 な 行 政 活 動

取消訴訟の訴訟要件(1)
取消訴訟の流れ
取消訴訟とは?
行政が行った処分や裁決に不服がある場合、その取消を求める訴訟
しかし
この取消が認められるにはハードルが高く、訴えが一定の条件を備えていることが必要になる。
それが
訴訟要件 である。
要件審理
違
法
行
政
活
動
本案審理
訴えに理由あり
①処分性
②訴えの利益
要件が認められる
③出訴機関
④被告適格
⑤不服申立前置
⑥裁判管轄
⑦訴えの形式
要件が認められない
判決の種類
①認容判決
②事情判決
③棄却判決
④却下判決
処分性
取消訴訟の訴訟要件の1つとして処分性がある。
では、
処分性とは?
公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を
形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている行為のこと。(判例)
ほとんど
行政行為(2章1節参照)であると思ってよい。
特別区過去問 ○か×か。
取消訴訟の対象となる行政庁の処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、
その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められ
ているものをいう。○
◎処分性が認められた判例
輸入禁止製品該当の通知の「処分性」 (最判昭54.12.25)
A
①女性ヌード写真集392冊につき、輸入申告
B
横浜税関長
輸入業者
②輸入禁制品たる「風俗を害すべき」物品にあたる旨の通知
AはBのした通知の取消を求めて出訴した
判例
税関長による通知は処分性があるか?
この点
税関長の通知がなされた場合、
「当該貨物につき輸入の許可の得られるべくもないことが明らかにとなったものということができ」、
貨物を適法に輸入する道を閉ざされるという法律上の効果を及ぼすものというべきである。
したがって
処分性がある。
※更に処分性を肯定したものとして食品衛生法に基づき食品の輸入届出をした者に対して検疫所長が行う通知がある。
医療法事件(行政指導の処分性) (最判平17.7.15)
A
①病院開設中止の勧告
B
病院を開設しようとする私人
富山県知事
①の勧告は、抗告訴訟の対象になるのか
判例
病院開設中止の勧告は処分性があるか?
この点
医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は行政指導として定めている。
なので、
権力的な行為ではないので処分性がないかのように思える。
しかし、
Aは、この勧告に従わないと、保険医療機関の指定を拒否するとした。
保険医療機関の指定を受けられないと、
保険適用がなくなり、患者は全て自己負担になる。
その結果、
患者が病院に来なくなり、実質この病院は倒産してしまう。
よって、
病院開設中止の勧告は処分性がある。
土地区画整理事業計画(4章3節「行政計画」と同じ事例) (最大判平20.9.10)
①駅周辺の土地区画整理事業を計画
A
浜松市
③事業計画の決定
B
静岡県知事
②認可
④取消しを求めて訴訟を提起した
X
土地区画整理事業の施行地域区内に土地を所有
判例
事業計画の決定には処分性があるか?
この点、
土地区画整理事業の事業計画については、いったんその決定がされると、特段の事情がない限り、具体的な事業
がそのまま進められ、その後の手段として、施行区域内の宅地について換地処分が当然に行われる。
すると
施行地区内の宅地所有者等、換地処分の公告がある日まで、事業計画による制限を継続的に課され続ける。
よって
施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、最終的に換地処分を受けるべき処分
に立たされ、その法的地位に直接的な影響が生ずるので、一般的・抽象的なものにすぎないとはいえない。
したがって
事業計画の決定には処分性がある。
土地改良事業計画(4章3節「行政計画」参照)(最判昭61.2.13)
土地改良事業に関する法律によって、土地改良事業計画に対する不服申し立てが許されると規定されていた。
このため
法律が取消訴訟を特に許したものと考えられ、処分性も認められた
条例の制定行為 (最判平21.11.26)
B
A
市
市営保育所
①2つを民営化するため市保育所条例の一部を改正し廃止させた
C
市営保育所
各保育所に通っていた児童の保護者が、本件改正条例に対して取り消し訴訟を提起した。
判例
条例の制定は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから、一般的には、抗告訴訟の対象となる行政
処分にあたるものではない。
しかし
本件改正条例は、各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行によ
り各保育所廃止の効果を発生させ、保育を受ける法的地位を奪う結果を生じさせる。
よって
条例制定行為は行政庁の処分と実質的に同視しうる(処分性ありとした)
供託物取戻請求の却下 (最大判昭35.7.12)
A
供託官
①供託金取戻請求
②理由がないとして却下
B
弁済者
却下処分は処分性があるのか。
判例
却下処分は処分性があるか?
この点、
供託官が供託物取戻請求を却下すると、弁済者は当該却下行為が権限のある機関によって
取り消されるまでは供託物を取り戻す事が出来なくなる。
なので
供託関係が民法上の寄託関係であることを理由に当該却下行為が
民法上の履行拒絶にすぎないとはいえない。
よって
当該却下処分は処分性がある。
道路指定による「処分性」 (最判14.1.17)
A①みなし道路としての指定(道路とみなす)
知事
判例
幅4m未満の道
建築基準法43条1項によると建築物の敷
地は道路(幅4m以上が必要)に接するこ
とが必要とされている。みなし道路とする
と、幅4m未満の道でも「道路」と見なすこ
とができ、これが救済される。
みなし道路の指定は処分性があるか?
この点、
この指定には、一定の要件を定め一括して指定する一括指定の方式と
地番等により個別具体的に道を指定して行う個別指定の方式とがある。
みなし道路に指定されると、敷地部分の建築等が制限されるため
当該道路の敷地所有者に私権の制限が加わる。
そのため
個別指定に関しては処分性が認められる
一括指定の場合はどうか?
一括指定でも、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものである。
そのため
個人の権利義務に対して直接影響を与えるものである。
従って
一括指定に関しても処分性が認められる
労災就学援助費の支給の決定による「処分性」 (最判平15.9.4)
①労災就学援助費の支給又は不支給の決定
A
被災労働者
(その遺族も)
B
労働基準監督署長
労災就学援助費とは業務災害または通
勤災害によって亡くなられた方のご遺族
や、重度障害を被った方、あるいは長期
療養を余儀なくされた方で、その子供等
に係る学費等の支弁が困難であると認
められる方に、支給されるもの
判例
労災就学援助費の支給又は不支給の決定は処分性があるか?
この点、
労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援助費の支給請求権が取得される。
つまり
労働基準監督署長の行う労災就学援助費の支給又は不支給の決定は、
法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使である。
従って
処分性がある。
◎処分性が認められなかった判例
・行政庁の行為でも非権力的行為である契約その他私法上の法律行為や行政行為などは処分性がない。
・訓令・通達や後段などに対する監督庁の設置などは対内的行為だから処分性がない。
・行政立法や行政計画のうち個別・具体性がない計画は処分性がない。
等
通達 (最判昭43.12.24)
A①異教徒の埋没拒否を許さない旨を通達
厚生省
判例
C
B
墓地の経営者
都道府県の衛生局長
②墓地の経営には直接影響を与えない
異教徒の埋没を許さないとした通達は、内部行為なので、処分には当たらない
成田新幹線訴訟 (最判昭53.12.8)
A
①新幹線の工事実施計画を申請
B
日本鉄道建設公団
厚生省
②認可
新幹線通過予定地の住民が、この認可に対して取消訴訟を提起した。
判例
新幹線建設計画に対する監督庁の認可は内部行為なので「処分」に当たらない
土地計画法上の地域指定の「処分性」(4章3節「行政計画」の事例と同じ)
A
県知事
①工業地域に指定
②地域指定の無効確認ないし
取消しを求める訴訟を提起した。
X
精神病院
工業地域に指定されると、建築基準法及び
同法施行令の規定より、当該地域内では病院、
学校等の建築が禁じられたりする。すでに存
在する場合は、増築に際して制限がされる。
甲地区
判例
工業地域に指定する知事の処分は処分性があるか?
用途地域指定による利用制限は不特定多数の者に対する一般的抽象的なものにすぎない。
すなわち
建築制限は処分性が認められる具体的な権利制限ではない。
よって
用途地域指定については処分性がない。
ごみ焼却場設置行為 (最判昭39.10.29)
ごみ焼却場という公共施設の設置行為は「処分」にあたらない
反則金の納付通告の「処分性」 (最判昭57.7.15)
A
①反則金納付通告
B
大阪府警本部長
駐車違反者
Aは駐車違反者の誤認があることを理由に反則金通告処分の取消を求めて出訴した。
判例
反則金納付通告には処分性があるか?
この点
反則金の納付の通知は反則金を納付すべき法律上の義務が生ずる訳ではない。
では、法律上の義務が生じるのはいつか?
もし納付しなければ、検察官の公訴の提起によって刑事手続が開始され、
反則行為となるべき事実の有無が審判される。
反則金通告処分に「処分性」はなく、取消訴訟は許されない
国有財産の払下げ (最判昭35.7.12)
A
国
判例
B
①国の普通財産の払下げ
私人
国の普通財産の売払許可処分は処分性があるか?
この点
国有財産の払下げは、私法上の売買と解すべきである。
たとえ売渡申請書の提出、これに対する払下許可という形式をとっても、私法上の売買となる。
よって
国の普通財産の払下げは行政処分には含まれない
公務員の採用内定通知 (最判昭57.5.27)
A
国
判例
B
①公務員の採用内定通知の取消
私人
採用内定通知の取消は処分性があるか?
この点
公務員の採用内定通知は単に採用発令の手続きを支障無く行うための準備行為としてされる
事実上の行為にすぎず、採用内定通知によって公務員たる地位を取得するものではない。
なので
採用内定の取消自体は、採用内定を受けた者の法律上の地位ないし
権利関係に影響を及ぼすものではないとする。
したがって
採用内定の取消自体は行政処分の対象とはならない
確認問題
行政事件訴訟法に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当なのはどれか。
1.墓地の管理者に異教徒の埋没を拒否することを認めないことを命ずる通達は、その内容が法令の解釈
や取扱いに関するものであり、国民の権利義務に重大な影響を及ぼすおそれがあることから、抗告訴訟
の対象となる行政処分に当たる。
2.国の普通財産の売払許可処分は、一般の私法上の売買と異なり、国有財産法で定められた手続きに
より、国が優越的地位に立って私人との法律関係を定めるものであることから、抗告訴訟の対象となる行
政処分に当たる。
3.関税定率法の規定に基づく輸入禁製品に該当する貨物と認めるのに相当な理由がある旨の税関長に
よる通知は、いわゆる観念の通知とみるべきものであるが、当該通知があった場合には、輸入申告者は
貨物を適法に輸入する道を閉ざされるのであって、これは当該通知によって生ずるに至った法律上の効
果とみるのが相当であり、当該通知は行政庁の処分にあたる。
4.公務員の採用内定通知は、採用発令の準備手続きとして行われるものであるが、内定の取消しは採用
内定を受けた者の法律上の地位ないし権利関係に重大な影響を及ぼす行為であるから、抗告訴訟の対
象となる行政処分にあたる。
5.都市計画法に基づく工業地域指定は、その地域内の土地所有者等に建築基準法の新たな制約を課し、
その限度で一定の法状態の変動を生じさせるものであることから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあ
たる。