平成22年度鳥取工業高等学校 ものづくり講演会 ~鳥取生まれの技術と技能のアンサンブル~ - 家電製品製作 - 三洋電機コンシューマエレクトロニクス家電事業部製造統括部技術三部 技術一課課長 保木本明雄 氏 1966年鳥取市生まれ。幼少よりプラモデルなどものづくりが大好きで、 鳥取工業高校機械科に進学。高校時代は水泳部に所属し、部活のために学校へ 通う毎日を過ごした。高校卒業後、学校の近くにあった鳥取三洋電機㈱に入社。入社当時から炊 飯器の開発グループに属し、炊飯実験、設計、ソフト開発と担当し、業界初の圧力IHジャー炊 飯器やおどり炊きの開発に携わった。ジャー炊飯器のベテラン技術者として、かまどを超える炊 飯器を追求している。 炊飯器の役割は、農家の方々が一年間かけて大切に育てたお米の本来のおいしさを引き出すこ とだ、と保木本氏はいう。保木本氏はおいしい炊き方を追求するために、鳥取のある寿司屋に注 目した。この寿司屋のおばあさんが炊くご飯は非常に甘みがあって、粒が大きくおいしい。ビデ オカメラとストップウォッチを持って、このおばあさんの炊き方を研究した。また、お米をよく 知るために、田んぼでの作業を手伝い、米の生育の過程も学んだ。 普通の炊飯器の問題点は、ヒーターとなる鍋からの距離に応じて炊き加減が異なるため、炊き ムラを生じ食味が低下する。しかし、おどり炊きではかき混ぜてお米の位置を変えながら加熱す るため、一粒一粒を均一に炊きあげ炊きムラを防ぐことができる。またおどり炊きの副産物とし て、お米から泡になって引き出されたうまみ成分が、お米の一粒一粒をコーティングし、甘み、 粘り、つやが増しておいしくなる。甘みは実に40%もアップした。 しかし、ヒット商品を開発するまでには苦しい時代もあった。入社後数年間は、毎日10回ご 飯を炊くのが仕事であり、「食堂に就職したのか」と揶揄されることもあった。やがて業界初の 圧力IHジャー炊飯器を開発するものの販売台数は伸びなかった。思案に暮れていたある日の飲 み会で、ビールをグラスに注いでも泡が噴きこぼれず、飲んでも最後まで細かい泡が残っている のに気がついた。缶の中から直径約3cmのプラスティックボールが出てきた。ビールの缶を開け ると缶内の圧力が一気に解放され、このプラスティックボールが激しく動いてビールを泡立て、 クリーミーな泡を作っていたのだ。保木本氏は炊飯にこの原理を用いた。おどり炊きの誕生の瞬 間であった。 おどり炊きの仕組みは、突沸現象を利用したものだ。釜の中を瞬間的に減圧することで大沸騰 が生じ、このパワーでお米とお湯をかき混ぜて炊くのがおどり炊きの技術。おどり炊きの重要な ポイントは、沸騰した直後に減圧すること。釜の中にまだお湯がある間にお米を踊らせ、均一に かき混ぜるのだ。 商品開発には約15ヶ月を費やす。最初に開発商品に関するざっくばらんなアイディア会議を 開催する。ここでのアイディアを基にデザインを検討し、設計の達人とソフト開発の達人が連携 し、手作りの試作品でアイディアを具現化し的を射ているのかを検証する。次に金型を設計し、 試作品によるアイディア会議での目標効果の検証を行う。さらに量産のための生産のラインの検 討、品質の検証、資材の調達、商談会の開催と、アイディア会議から販売まで様々な達人が携わ り、力を一つに集めて商品が生み出されている。 こうして仲間達と製品を作り上げた達成感は開発の長い苦労を忘れさせてくれる。それにも増 してうれしいのは、お客様からSANYOの炊飯器は本当においしかったと喜んでいただけたと きだと保木本氏はいう。おどり炊きの販売累計は200万台に達した。しかし、まだ5、000 万世帯の日本の家庭や一店でも多くのお店においしい炊飯のお米を提供したい。目指すのは、 「か まどを超える」炊飯だ。 最後に保木本氏は後輩に伝えた。「仕事で必要とされるスキルは学校で学ぶレベルではとうて い及ばない。先輩の仕事を見よう見まねで取り組んで5年から10年はかかる。続けることが大 切だ。 」
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