木工用接着剤について - 木工教室・家具製作 Moku(モク)

木工用接着剤について
Moku 當間 孝
木工用接着剤には、いろいろな種類があります。
趣味の木工であれば、酢ビ(白ボンド)だけでほとんど問題ないと思いますが、仕事としての木工の場合は
いろいろな状況に応じて接着剤を使い分けなければなりません。
以下の用途に応じた条件で書いてみたいと思います。
① 一般的な接着に使用する合成接着剤
② 安全性を重視した天然系接着剤
③ テーブル等に使用する合成接着剤
④ 耐水を要求される場合に使用する合成接着
⑤ 特殊材に使用する合成接着剤
⑥ 製作時のちょっとした工夫
*今回書くにあたり参考にした文献
・木工の伝統技法 梅田総太郎 著 (主に続飯、膠、麦漆について)
・接着剤 本山卓彦/永田宏二 著
・家具の事典
・木工用接着剤 小西信 著
・木工材料 職業訓練研究センター編
*インターネットのホームページで ” 接着の基礎 (株)札幌ゴム PDF12枚”という資料が入手
できます。接着剤全般について簡潔にまとめられています。興味ある方はどうぞ。
① 一般的な接着に使用する合成接着剤
合成接着剤にはいろいろな種類があります。用途に応じて使い分けていきたいものです。また有名な
ボンドでも地域によっては、代理店等の関係から販売されていないものもあります。沖縄では水性ビニル
ウレタンはコニシやアイカのものが多く、私自身光洋産業のKRボンドやオーシカのピーアイボンドを最近
まで知りませんでした。
以下主な合成接着剤について説明していきます。
a) 酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤 (白ボンド)
木同士の接着に関しては万能型 の接着剤。樹脂分40~50%、水分50~55%、少々の可塑剤等を
混ぜ合わせたもの。白ボンドは硬化後は若干軟らかい。このことは耐衝撃性には+ですが、ペーパーに絡む
ことまた後述するテーブルの天板の板はぎには-です。
(欠点)
・耐熱性が弱く60~80℃に熱すると接着層が軟化し接着力が低下する。
・耐水性は著しく弱い。
・室温が5℃以下になると白化現象 を起こし接着しない。
・酸性のため直接金属に接するとさびるので注意する。
* 酢○○○○エマルジョンとは樹脂分が水に溶けているのではなく、非常に細かい粒状で水 に混ざって
いる状態。そのため必要以上に水で薄めると問題が起きる場合がある。また水性ウレタン塗料なども同様
であり同塗料が塗装乾燥後水に溶けないのはそのためである。
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b) 水性ビニルウレタン接着剤
接着力、耐水性に非常にすぐれた接着剤。また難着木材(硬材、チーク等)の接着にも有効である。
2液を使用直前に混ぜて使うのが一般的である。
(欠点)
・2液混合後は、保存ができないので使い切らなければならない。
・使用時の堆積時間が短かいので枚数が多い板はぎには注意を要する。
(堆積時間とは・・・木材に接着剤を塗布してから圧締 するまでの時間 5~10分程度)
・少量入手が、難しい。
(メーカー)
・光洋産業株式会社(光洋ウェブショップ)KRボンド 600g、5kgセット等
・株式会社オーシカ ピーアイボンド (1キロセットで購入可能)
・コニシ株式会社 CU50等 (20キロセットしかない)
*参考ホームページ
・鯛工房→家具製作資料室→木工関連資料→水性ビニルウレタン系接着剤
・宮本家具工房→木工通販カタログ→鹿印ピーアイボンド (1キロ単位で購入可能)
・Woody.joe(ネットショップ) 鹿印ピーアイボンドが1キロ単位で購入可能
c) ハネムーン型接着剤(コニシHB10等)
接着したい材料の片面にプライマー(水溶性液)を塗りもう片方に主剤を塗って接着すると圧締時間が
短時間で初期接着力が出るので、長時間締め付けられないものに対して有効な接着剤。
・コニシHB10が有名ですが、光洋のKRーE6等も同様だと思います(使用したことがないので・・)
・コニシHB10には耐水性を増す硬化剤Cというのが別売されておりこれを添加すると水ビほどではない
が、耐水性が得られる。
*性能比表
参考に上記3種類について 性能比較表を掲載します。ただしそれぞれの数値は同一の資料からではなく
寄せ集めなので多少の誤差はあります。
それぞれ、常態強度は同等ですが、耐温水性 の項目で特徴が出ています。また前述のように硬化剤C
を添加するとHB10は耐水性能がよくなります。
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*性能比表
HB10・・・コニシのハネムーン型接着剤
CU50・・・コニシの水性ビニルウレタン接着剤
d) エポキシ樹脂接着剤
木材と異種材との接着にも有効な万能型の接着剤。また硬化後の体積の収縮がないので隙間のあるものの
接着にも有効である。
(注意)
・材料の表面の汚れや油分、水分を取り除いておく。
・混合比を正確に行いまたよくかき混ぜる。
・はみ出たものは白ボンドのように水では除けないので注意する。
e) 外国製のボンド(タイトボンド等)
アメリカ等でポピュラーな接着剤。1液性であるが耐水性がいい種類もある。また硬化後硬くなるので
ペーパーがかけ易い。(沖縄ではほとんど見かけないので使用した事がありません)
ネット上ではいろいろな情報がありよさそうです。少し高いですが。
f) 合成ゴム系接着剤
速乾型の接着剤でフラッシュ戸のふち張りやメラミン合板の接着等によく用いられる。適正な使用方法を
守らないといけない。
(使用上の注意点)
・両面に均一に塗付しオープンタイム(5~30分くらい)を守る。
・張り直しがきかないので正確に位置を決めてから張り合わせる。
・はみ出た部分の掃除が難しいので注意する。
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② 安全性を重視した天然系接着剤について
近年は、科学物質過敏症など合成化学物質に過敏に反応してしまう人が増え、そういうお客さんに対して
100%天然材料を使用して製品を作らなければならない場合があります。そういう場合に使用される接
着剤が天然系接着剤で、木工用に用いられるのが主に続飯(”そくい” ご飯に水を加えて練ったもの)と
膠です。また特殊用途として麦漆というのがあります。
私自身、続飯は本で読むだけで実際に使用したことはありませんでした。今回これを書くにあたり強度試
験を行ってみました。驚いたことに想像以上の強度を確認できました。(詳細は後述)
合成接着剤が登場するまでは、家具は膠や続飯で接着されていました。耐水性に少し問題がありますが、
たいていのものはこれらだけでOKでした。安全性にこだわるのであればこの2つの接着剤について使用を
検討することも重要だと思います。
実際これらにこだわって作品を製作している工房や会社があります。検索してみてください。
・ 家具工房旅する木
・ 香椎建設株式会社
a) 続飯について
作り方 ・・・・ご飯を粒が残らないようにしっかり練り水を加えて粘度を調整する。防虫効果を出すには
臭素を練りこむ。(安全性?)
強度についてですが昔から桐箪笥に用いられており軟材については問題ないと思われる。実際に杉材と
メラピー材について接着強度試験を行ってみました。
下の写真のように両端に桟木をかまして接着部分を玄翁で叩いてどのように割れるかを試験してみた。
(少し大雑把な方法ですが)
・白ボンド ・・・杉材 1個 、メラピー材 1個
・続飯 ・・・杉材 3個 、メラピー材 3個
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結果は予想以上によかったです。メラピー材は木部破断率100%杉材は75%くらいでした。メラピー
材のほうが結果がよかったの予想外でした。(白ボンドは両方とも100%でした)
*いろいろな文献、ネットで試験データを探したのですが 白ボンドと数値比較できる数値を見つけきれま
せんでした。
b) 膠について
膠は動物の皮、骨または魚などから取れる蛋白質を原料とした接着剤。60度程度で液状になり常温で固
まる性質を利用したもので速乾性がある。ただ下準備に時間がかかり使いたいときにすぐに使うというわけ
にはいきません。以前いた会社では、速乾ボンドとして使用していました。膠は高温で溶けるという性質を
利用して分解修理が必要なバイオリンなどにいまでも利用されています。またその適度な硬さは音にもいい
ほうに影響するようです。
使用方法はまず数時間水に浸しそれから60度ほどを保ちながら湯せんで溶かしていく。決して直火にか
けてはいけない。沸騰させると粘着力が低下する。また長時間加熱し続けると膠が加水分解をおこして、
粘度が下がり接着性能が低下するので、その日のうちに使い切るほうがよい。
強度についてはある文献による白ボンドに比べ3割程度強いが、耐水性は1/3程度であった。膠の耐水性
を増すにはホルマリンを使用する。片面に同液を塗付しもう片側に膠を塗付して接着する。このとき速乾性
も増すので2~3回すり合わせただちに圧締する。
c) 麦漆について
漆の接着剤としての利用として麦漆というのがある。生漆に小麦粉を混ぜたもの(割合例 4:6)で
接着性能は非常によいが接着部分が黒くなる場合があるので注意を要する。利用の代表例として割れた陶磁
器の補修があります。”金継”とよばれるものです。(補修部分に金粉をつける場合が多いです)漆器などの
補修にも使われるので知識として知っておくとよいと思います。
麦漆の強度について インターネットで ” 漆の接着性能 その2 圧縮荷重による「ゆるめ」のせん
断強 PDF6枚 ”という資料があります。
③ テーブルの天板等に使用する合成接着剤
テーブル天板に使用する接着剤は強度、ある程度の耐水性はもちろんですが、はいだ板のそれぞれの微妙
な伸び縮みに、はぎ口が耐えることが重要です。②で白ボンドの軟らかさには±があると書きましたが、そ
の少しの軟らかさが-として働きます。そのほんの少しのそれぞれの動きに対して白ボンド部分がはがれて
はいないがその柔らかさの分少しずれてしまいます。ウレタン塗装など塗膜のできる塗装だと光の加減で目
だってしまいます。
そのためテーブルの天板の接着剤は刃物を傷めない程度程度の硬さが必要です。その必要な性能(強度、
耐水性、硬さ)を総て満たすのが水性ビニルウレタン接着剤です。ただし実際の使用においては、少量入手
の問題、堆積時間、可使時間の問題があります。
そこで私のお勧めは、コニシのHB10(ハネムーン型接着剤)です。これは、本来は瞬間接着剤的な
使用をするのですが、先週書いたように硬化剤を混ぜるとある程度の耐水性がでます。
(利点をまとめると)
・4キロセットしかないないので瞬間接着剤の用途だけでは量が多くて購入できない人にお勧め。
・混ぜて後の可使時間が4~5時間あり白ボンドと同じ感覚で使用できる。
・もちろん硬化後は刃物を傷めない程度に硬くなる。
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・ある程度の耐水性がある。(前述の性能比較表を参照)
*参考に簡易実験結果を書きます。(少し雑ですみません)
いろいろな接着剤を水に浸漬してその後の強度を比較してみました。
(結果)
・白ボンド、HB10単体(硬化剤なし)は浸漬12時間後、手で簡単に外れた。
・写真②③は 水性ビニルウレタン、④はHB10(硬化剤C2.5%混入)で48時間浸漬後写真のよ
うに20キロの重さを、はぎ面にのせてみた。(写左)3種類とも問題なし。
・48時間浸漬後の同部材を玄翁による破壊実験をした結果3種類とも木部破壊率約50%でした。
このようにHB10は硬化剤Cを添加するとある程度耐水性があるので、瞬間接着剤的な利用との併用、
混合後の可使時間等使い易さなどを考えると非常に有効だと思います。
*天板はぎ時の注意
板はぎ後に、はぎ面の水分が抜けるのに4~7日かかります。あまり日数を置かずに仕上げてしまうと、
塗装終了後に、はぎ面が凹んでしまいます。板はぎ後は4~7日養生して十分にはぎ面の水分を抜いてから
仕上げてください。
④ 耐水性を要求される場合に使用する合成接着剤
耐水性の非常にいい接着剤として、水性ビニルウレタン、エポキシ樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤等
があるが市販品として手に入りやすいのは、水ビとエポキシでしょう。エポキシはいろいろな種類、メーカーが
あるので必要に応じて調べてください。
⑤ 特殊材に使用する合成接着剤
1)硬材に有効な接着剤
水性ビニルウレタンとエポキシ樹脂接着剤が接着性能がいいようです。
イペ材(比重0.9~1.2)による独自の試験結果(破壊試験)によると
・白ボンド ・・・木部破断率 0%
・水性ビニルウレタン・・ ・ 同 80%
・エポキシ樹脂・・・ 同 70%
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2)チーク材に有効な接着剤
チークは油分が多く難接着な材料ですが、これには、水性ビニルウレタン系接着剤が有効です。エポキシ
については油分が問題を起こすようです。
”家具の事典 ”の実験結果によると(試験材 インドネシアチーク)
・水性ビニルウレタン ・・・ せん断接着力約140kg/cm2 木部破断率90%
・白ボンド ・・・ 同 50kg/cm2 同 0%
⑥ 製作時のちょっとした工夫
写真①(ホゾ間隔が狭く多いとき)や写真②(幅が広い小穴追入れ継ぎ)のようなとき白ボンドを使用
する場合は、ボンドの水分による木の膨張を考慮しないと組むのに非常に苦労します。
・写①の場合は思ったより抵抗が強くなるのでホゾを少しゆるめにします。自分は普通のホゾは0.5ミリ
くらい締めしろをとりますがこのように部材が近い場合は手で入る程度(少し強め)にします。
・写②の場合は板幅が広く真ん中が締めにくいのですべりをよくするために、小穴部分はエポキシ樹脂
接着剤を使用するときがあります。ただ胴付き部分は掃除の問題から白ボンドを使用します。
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