看護師の仕事意欲に関する分析 ―3 病院の比較検討を中心として― 氏 名 大下美智代 指導教員 北 真収 【研究の動機と目的】 わが国の医療制度は、少子高齢化を背景に医療費負担、医師・看護師不足、救急医療体 制、医療の質などの多くの問題を抱え、医療崩壊が現実の問題となっている。看護師の確 保と定着は看護管理者である筆者の抱える大きな課題である。先行研究で離職意向が組織 特性、看護師の専門性や自律性、キャリア開発の問題に関連しており、看護師の仕事意欲 の低下が離職願望のリスクファクターとなっていることが報告されている。看護師が専門 性を発揮し、自律的に患者ケアができるために看護という仕事そのものから動機づけられ るようマネジメントしなければならない。本研究では、 仕事意欲を高める要因を組織風土、 患者志向、仕事特性、キャリア認識の 4 つの観点から、同じ設立理念をもつ A 病院、B 病 院、C 病院の看護師各 120 名を対象に行ったアンケートと、各病院の看護部長に行ったイ ンタビューをもとに比較検討する。そして看護管理者として関与するマネジメントの優先 順位を把握して、看護師確保と定着のための示唆を得ることを研究の目的とする。 【仮説】 1. 組織の目標を共有し、個々の能力を最大限発揮できるイキイキした組織は、看護師の 仕事意欲を高める。 2. 患者中心のかかわりは、看護師の仕事意欲を高める。 3. 仕事の組み合わせの工夫や仕事に自律性を持たせることは、看護師の仕事意欲を高め る。 4. 明確なキャリア目標があることや、キャリア目標と現在の職務が一致していると自覚 できることは看護師の仕事意欲を高める。 【分析結果】 最も仕事意欲が高かったのは B 病院であった。仕事意欲を高める要因は、①組織が活発 で、合理的な組織管理がなされている組織風土、②仕事に有意義感があること、③キャリ ア目標が明確で、キャリアコミットメントがあり、キャリア目標に現在の職務が近づいて いるという認識があることであった。 【結論】 従来のマネジメント理論は医療のマネジメントに活用できるが、患者の個性、病気の予 後や重症度、看護師の個性が影響することによって従来の画一的な顧客志向のマネジメン トが適用できない場合もある。 筆者が勤務する A 病院では、看護師の仕事意欲を高めるために、個別性を考慮したキャ リア開発、職務再設計、看護に専念できる体制づくりを行わなければならない。また、病 院という特殊性を考慮した顧客志向のマネジメントが必要である。
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