地理A、地理B

地理A、地理B
地理A、地理B
第1 高等学校教科担当教員の意見・評価
地 理 A
1 前
文
「地理A」は国際化の進展等社会の変化に伴って現代世界が抱えている課題を地理的に考察する
ことに重点が置かれている。そのために、作業的、体験的な学習を重視し地理的技能を高めること
や、今日的課題を日常生活と関連付けて取り扱い、生徒の興味・関心に配慮した内容や方法を工夫
したところに特徴がある。
平成 26 年度の大学入試センター試験(以下「センター試験」という。)は、人口減少に伴い志願
者数、受験者数とも昨年度より減少した。地理歴史科の受験者数も同様に減少し、375, 266 人(追・
再試験受験者を含む)となった。教科全体としては 6, 957 人減少している。地理歴史科から2科目
の選択者を含む延受験者数は昨年度より 7, 531 人減少し、391, 912 人となっている。地理歴史科・
公民科からの2科目受験者数も 11, 177 人減少し、145, 640 人となっている。
また、A科目全体では 330 人、B科目全体では 7, 201 人減少している。中でも「地理A」の延受
験者数は 2, 030 人で、昨年度に比べ 224 人の減少となり、増加率で見ると「地理B」2. 3%、「日本
史A」- 1. 4%、
「日本史B」- 4. 0%、
「世界史A」- 4. 6%、
「世界史B」- 4. 6%、
「地理A」- 9. 9%、
となっており、地理歴史科の科目中最も減少率が高かった。
A科目の受験者は 6, 069 人で、「地理A」の割合は 33. 4%を占めており、「日本史A」の 43. 0%に
次ぐ選択率であった。また、「地理A」の2科目受験者が組み合わせた科目として、「現代社会」が
61. 4%と最も割合が高く、次いで「政治・経済」が 13. 2%と割合が高かった。
本試験の平均点については、「地理A」51. 76 点、「地理B」69. 68 点と、昨年度と比較して「地
理A」は 1. 67 点上がり、「地理B」は 7. 80 点上がった。A科目の中では「地理A」が最も高く、B
科目の中では「地理B」が最も高い平均点となっている。また、「地理A」と「地理B」の平均点
の差は、昨年度の 11. 79 点から 17. 92 点に広がっているが、その幅は「世界史A」と「世界史B」
との差(20. 60 点)や、「日本史A」と「日本史B」との差(18. 62 点)より小さくなっている。A
科目においては、最高の「地理A」と最低の「日本史A」の平均点の差が 4. 06 点であり、昨年度
の最高の「日本史A」と最低の「世界史A」の平均点の差 8. 45 点より小さくなった。地理歴史科、
公民科の2科目受験が多い現状の中で、地理歴史科はもとより公民科の科目も含めて、平均点の差
により受験者の有利不利が生じないように、さらなる配慮をお願いしたい。
また、地理歴史科の科目の中で最高点が 100 点に達していないのは「地理A」のみであり(最高
点 94 点)、この部分に関してもさらなる配慮をお願いしたい。
なお、試験問題の具体的な検討に当たっては、例年どおり次の視点から行った。
⑴ 高等学校学習指導要領の目標、内容等を踏まえているか。
⑵ 教科書や学習状況を踏まえた内容になっているか。
―73―
⑶ 基礎的な知識や事項の解説並びに地図や統計資料などを分析、考察して処理する能力を測定
し、地理的な見方や考え方を問うことのできる内容になっているか。
⑷ 特定の分野や地域に偏ることなく、総合的な理解力を問う内容になっているか。
⑸ 問題文や選択肢の表現、難易度、形式、配点、正答率等に問題点や偏りがないように配慮され
ているか。
2 試験問題の内容・範囲等
今年度は平成 11 年告示高等学校学習指導要領による9回目の試験である。全般的に同要領の目
標や内容に沿った問題であり、総合的な学力を問う問題が多かった。
今年度の問題は、昨年度と同様に複雑な図表の読み取りは少なかったが、一部に「地理A」の学
習範囲で取り上げることが一般的でない事項からの出題も見られる。出題分野については、昨年度
と同様に、全般的に地理的な見方や考え方および地理的技能を活用させる問題を中心に出題されて
いる。ただ、写真との関連性が弱い問題や、写真の提示の仕方に工夫が必要な問題も見られた。
⑴ 出 題 分 野
第1問 地理の基礎的事項
第2問 国境を越えた様々な世界の結びつき
第3問 東南アジア
第4問 地球的課題と国際協力
第5問 鹿児島県の地域調査
⑵ 内
容
第1問 地理の基礎的事項に関する問題。図法、大地形、気候、農業、地形図などの基礎的事項
が幅広く問われている。「地理A」の学習内容にも配慮された基礎的な設問が多かった。しか
し、一部に「地理A」の学習状況では取り扱うことが少ない出題が見られた。問1から問3に
かけては図1を用いた設問であり、問4以降と区別して中問で分けるなどの工夫が欲しい。
問1 図法の特徴についての問題。メルカトル図法の特徴を理解していれば解答できる、標準
的な設問である。
問2 4つの山脈についての問題。造山帯やプレートについての知識が必要であり、「地理A」
の学習内容では、やや難易度が高いと思われる。
問3 4つの地域の土壌についての問題。気候と成帯土壌の知識を問う設問である。「地理A」
の学習内容では、やや難易度が高いと思われる。
問4 3つの気候要素についての問題。地球全体の気候に対する知識と、図を読み取る技能を
問う設問である。良問である。
問5 作物の栽培限界についての問題。作物の分布に関する知識を問う、標準的な設問であ
る。
問6 主題図の表現方法についての問題。主題図の特徴とその用途を問う、基礎的な設問であ
る。ただし、図を合わせて思考させるなどの工夫が必要である。
問7 地形図の読図についての問題。等高線から、土地の起伏を読み取り集水域を判断する、
標準的な設問である。
―74―
地理A、地理B
問8 人工衛星の活用についての問題。通信技術についての基礎的な知識を問う、標準的な設
問である。選択肢の文章を工夫することで、より地理的な視点を取り入れることができる。
第2問 国境を越えた世界の様々な結びつきに関する問題。「地理A」の学習では大きく取り扱
われる分野である。全般的に「地理A」の学習範囲を踏まえた貿易や交通に関する設問であっ
た。しかし、一部に「地理A」の学習状況では取り扱うことが少ない内容の出題が見られた。
また、交通の分野からの出題が多く、設問の内容について偏りが見られた。
問1 4か国の日本への輸出品についての問題。それぞれの国の産業の特徴から判断できる、
標準的な設問である。
問2 国際的な人の移動についての問題。国際的な人の移動についての知識を問う、基礎的な
設問である。しかし、移動時期の説明がないために正誤の判断に迷うことも考えられる。
問3 3か国の留学先と留学者数についての問題。国際的な関係を、地球上の位置関係や歴史
的背景、政治・経済的結びつきなどから考察し推察させる、標準的な設問である。
問4 ブラジルからの日本への労働者の流入についての問題。日系ブラジル人についての知識
のみで判断できる。写真から考察させるなど、資料の提示方法に工夫が必要である。
問5 ヨーロッパ6か国の鉄道旅客輸送についての問題。6か国の規模や他国との位置関係か
ら考察する必要がある。地図や人口規模などのデータを示すなど、出題方法の工夫が必要で
ある。難問である。
問6 東京ロンドン間の移動経路についての問題。移動手段と経路の変遷の知識を問う設問で
ある。個々の事項についての知識が必要であり、やや難易度が高かったと思われる。
問7 東京と4つの都市の航空交通についての問題。日本との社会的・経済的結びつきと実距
離を合わせて考察させる、標準的な設問である。
第3問 東南アジアの自然環境、産業、文化、日常生活などに関する問題。資料等を活用して地
理的な思考力を問う設問である。ただし、一部に「地理A」の学習範囲で取り上げることが一
般的でない事項の出題が見られた。
問1 4地点の気温と降水量についての問題。気候の成り立ちを考察すれば、容易にDは判断
できる。ただし、A・B・Cの区別は難しく、設定する地点の工夫が必要である。
問2 3つの地域の自然災害の特徴についての問題。自然災害の発生要因を、地形の構造と気
候の特徴から考察させる設問である。選択肢の文が、特定の災害事例を示すのではなく、そ
の地域の自然災害の特徴を示す必要がある。難問である。
問3 4か国の産業についての問題。それぞれの国について、詳細な地誌的な知識が必要な設
問である。「地理A」の学習内容では、やや難易度が高いと思われる。
問4 ラオスの農業・環境・文化とその背景についての問題。写真が小さく鮮明度に欠けるた
め、内容を読み取ることが難しい。写真の提示の仕方に工夫が必要である。
問5 4か国の宗教についての問題。図表を読み取り、各国の文化的特徴を合わせて考察させ
る設問である。良問である。
問6 東南アジアの工業化にともなう生活の変化についての問題。東南アジアの全般的な工業
化の特徴を理解していれば判断できる、標準的な設問である。
問7 3か国の日常生活の様子についての問題。多方面から考察する必要があり、やや難易度
―75―
が高いと思われる。また、写真から得られる情報が解答に結びくけにくい。写真の提示の仕
方に工夫が必要である。
第4問 地球的課題と国際協力に関する問題。人口、水資源、都市問題、食料問題、NGO(非
政府組織)の活動など幅広いテーマが出題されている。図表、地図、写真を使用し、「地理A」
の学習で培われた地理的な見方や考え方を問う設問が多い。しかし、一部に「地理A」の学習
内容から見て、取り上げることが一般的でない事項の出題が見られた。
問1 9か国の出生率と死亡率についての問題。図を読み取る技能と、各国の社会的な状況に
関する知識を組み合わせて考察させる、標準的な設問である。
問2 3つの地域の水の利用と管理についての問題。地図で位置を確認させ、それぞれの地域
の特徴を問う、標準的な設問である。
問3 写真を読み取り都市を判断する問題。写真から、スラムの存在、水上家屋、熱帯性植物
などに着目させるねらいがあると思われるが、「地理A」の学習状況では、判断することが
難しい。大判の写真を用いたことは評価できるが、それをもとに判断させるには着目点を絞
り込みにくい。着目点を明確に示すなど、提示する資料の工夫が必要である。
問4 世界の食料問題についての問題。食料の生産や供給について問う、標準的な設問であ
る。
問5 NGO(非政府組織)の活動についての問題。NGO の具体的な活動についての知識が必
要であり、「地理A」の学習ではここまで詳しく取り上げない場合が多い。難問である。
第5問 鹿児島県に関する地域調査についての問題。問題の構成は全問「地理B」との共通問題
となっているが、「地理A」の学習内容にも十分配慮したものであった。内容としては、地勢
図、写真、地形図、主題図の読み取りなどをとおして、地理的な見方や考え方および地理的技
能の習熟度を測るとともに、自然環境や地域の変容を考察させる、標準的な設問が多い。
問1 鹿児島湾に面する地域の地勢図についての問題。地勢図を読み取り景観をとらえる技能
を問う、基礎的な設問である。地勢図・写真ともに単色印刷のため鮮明さに欠け、読み取り
にくかったと思われる。
問2 新旧の地形図による景観の変化の読み取りについての問題。地域の変化を新旧地形図か
ら読み取らせる、標準的な設問である。ただし、本試験「地理A」第5問図4のように、読
み取らせる地名を囲みで示すなど、提示する資料の工夫が必要である。
問3 桜島南岳の降灰量を示す主題図の読み取りについての問題。方位に注意し、図を丁寧に
読み取れば容易に判断できる、基礎的な設問である。
問4 桜島周辺の市民生活についての問題。受験者の居住地域により、解答が左右されやすい
設問である。写真と地図を合わせて考察させるなど、出題方法の工夫が必要である。
問5 鹿児島県の農業についての問題。主題図を正確に読み取り、農業に関する知識と合わせ
て考察させる設問である。良問である。
問6 地域調査の目的と方法についての問題。地域調査を実施するための、基本的な知識があ
れば容易に判断できる。基礎的な設問である。
―76―
地理A、地理B
3 分 量・程 度
⑴ 問題の程度
全般的には「地理A」の学習の成果をもとに解答できる問題であった。単純に知識の有無を問
う設問も見られたが、昨年度と同様に、図表や資料を活用し地理的な思考力や地理的技能を測る
設問が多かった。一部取り組みにくいと考えられる設問があった。その要因として、次のような
ことが考えられる。
① 「地理A」の学習の中では取り上げられることが少ない事項や国・地域がみられた。
② 図表を読み取るのに細かい知識を必要とする設問があった。(第2問図1、第3問図1)
③ 解答するにあたって写真の着目点がわかりにくく、判断するのが難しい設問があった。(第
3問写真1・写真2、第4問写真1)
⑵ 解
答
数
大問数は5問、設問数は 33 問、解答数は 36 問であった。解答数は昨年に比べ3問増加したが、
60 分の試験時間の中で解答できる内容であった。
4 表 現 ・形 式
⑴ 形式・配点
小問の出題形式と解答方法は、下のグラフのとおりである。今年度については「文章のみによ
る出題」が大幅に増加した。また、写真を使用して問う設問が増加した。
7
7
文章のみによる出題
地図と写真の使用
地図と図表の使用
画像(写真)使用
1
1
11
2
2
昨年度
今年度
2
2
一昨年度
3
3
5
図表使用
10
10
8
9
地図使用
9
10
グラフ1 出題形式
組み合わせて選択
文の選択
8
11
一昨年度
9
9
9
昨年度
11
語句・事項の選択
グラフ2 解答方法
―77―
今年度
11
16
18
なお、大問の形式については、地図を用いてテーマを示したもの(第1問・第3問)、地図と
図表を中心としたもの(第2問・第4問)、地域調査において地図や写真を用いてテーマを示し
たもの(第5問)とバランスよく構成されている。昨年まで小問集合の形式であった第1問が、
本試験と同様に、地図を用いてある程度のつながりを持たせる形式となった。
配点については、2点配点のものが8問、その他は全て3点であった。基礎的な学力を測るセ
ンター試験の趣旨をふまえた出題といえる。昨年まであった高配点(4点)の設問がなくなっ
た。
⑵ 表
現
地図にあまり不適切なものは見られなかったが、写真の提示の仕方に課題があった。第3問写
真1と写真2、第5問写真1については、情報を読み取らせる目的があるならば、より大きくよ
り鮮明に示す必要がある。第4問写真1は、判断させるには着目点を絞り込みにくい。画像資料
から情報を読み取り考察させる形態の設問は「地理A」の特徴である。判断するための情報を明
確に提示することは、その設問の質を左右する大きな要素である。写真の内容や大きさ・鮮明度
などを工夫することで、良問になりえた設問が多かった。また、第5問問2では設問がページの
裏表に配置されている。このような配置は解答しにくい。見開きにするなど、レイアウトの工夫
をお願いしたい。
5 要
約
「地理A」は受験者が少ない上に、幅広い層の生徒が受験するため、難易度の調整についてはか
なり難しいと考えられるが、今後とも適当な難易度の問題と、基礎的な出題内容、範囲、形式の作
問をお願いしたい。
今年度の追・再試験でも、本試験と同様「地理A」の高等学校学習指導要領で事項や事例を選択
して扱うとされている内容からの出題が見られた。センター試験でこのような出題があると、それ
に対応するため、項目間選択や事例学習の趣旨が生かされなくなる。以上のことから、出題につい
ては、特定の学習事項や地域の知識・理解だけを問うのではない出題をお願いしたい。
今年度の追・再試験では、本試験に比べ学習の成果を単純な形で問う設問や、地理的な見方や考
え方にもとづく思考と判断が必要なく単純に解答できる設問が見られた。また、図表中の指標の読
み取りが「地理A」の学習内容では難しすぎる設問が一部見られた。
回を重ねるごとに、工夫された出題が増加しているものの、さらなる改善に向けて、次の点を踏
まえた作問を今後とも求めたい。
① 「地理A」では作業的、体験的な学習を重視し地理的技能を高めることが学習のねらいの一
つである。「地理A」の履修者にとって、学習の範囲を超えるような細かな知識を問う設問は
避け、「地理A」のねらいや学習状況を踏まえた問題作成をお願いしたい。
② 単調な出題形式や単純な図表の読み取りにならないような工夫や、図表との関連性が薄く文
章だけで解答できる設問にならないような工夫などをお願いしたい。特に、事項や事例を選択
して扱う内容に関しては、学習していない生徒でも他の地域や地理的事象から推察して解答で
きるよう、問い方の工夫をお願いしたい。また、「地理A」で身に付けた学力の高い生徒が高
得点を得られるような工夫をお願いしたい。
―78―
地理A、地理B
③ 「地理A」・「地理B」の共通問題は、今年度は大問一つ(第5問)で出題された。昨年度と
同様「地理A」の受験者に対しても配慮がなされており、来年度以降も共通問題とした場合に
おいても、大問および小問について「地理A」にも配慮した内容や問い方にしてほしい。
センター試験が高校現場に与える影響は大きく、センター試験が知識偏重から思考力、判断力を
求める出題を増やしたことで授業が変わってきている。また、一昨年度から受験の形態が変更され
たこともあり、「国際社会に主体的に生きる日本人としての自覚と資質を養う」ことにつながる、
「地理A」独自の学習内容を強く意識した、質の高い出題をお願いしたい。一方では、公民科の科
目との2科目受験が可能なことから、公民科との差異を明確に示した出題が求められる。最後に、
今年度作問に当たられた諸先生方の御努力に敬意を表したい。
―79―
地 理 B
1 前
文
平成 26 年度の大学入試センター試験(以下「センター試験」という。)の受験者は、昨年度と比
べ 10, 921 人減少した。地理歴史科から2科目受験が可能であるが、地理歴史科受験者数は昨年度
に比べ 6, 957 人の減少となった。しかし、本年度の「地理B」受験者数は 146, 472 人で、昨年度よ
り 3, 239 人の増加となった。
試験問題の評価については、昨年度と同様、次の7視点から行った。
⑴ 高等学校学習指導要領の目標・内容に合致し、教科書及び学習活動の実態を踏まえた内容に
なっているか。
⑵ 地図や図表・統計資料等を分析・考察し、処理する能力を測定する内容になっているか。
⑶ 特定の分野に偏らず、総合的に「地理的な見方や考え方」を問う内容になっているか。
⑷ 問題の分量や程度などに配慮しているか。
⑸ 問題文の表現や形式、配点などに配慮しているか。
⑹ 問題の難易度や得点のちらばりなどが適正となるように配慮されているか。
⑺ 過去の問題に対する意見・評価などを考慮して出題されているか。
2 試験問題の内容・範囲等
本年度の追・再試験は、本試験と同様に高等学校学習指導要領の目的や内容にそった出題であっ
た。出題分野は昨年度と同様に自然環境、資源と産業、都市・村落と生活文化、地誌、世界の諸課
題及び地域調査からバランス良く出題された。
また、いずれも基本的な知識や理解を問う内容を中心に、図表や地図、画像(写真)、統計資料
などを活用した「地理的な見方や考え方」や「地理的技能」を問う設問も多く見られた。このよう
に、知識のみではなく地理情報の分析や思考、判断の能力を求める出題が定着している。なお、本
年度もエネルギー、都市圏や生活圏、出稼ぎや社会経済状況など日常生活に密着し、歴史的背景を
考慮して思考させる設問が出題され、平成 21 年告示の高等学校学習指導要領の教育内容改善事項
等に配慮した形となった。
出題分野は次のとおりである。大問数は6題、小問数 36 題で昨年度から1題増加した。なお、
「地理A」との共通問題は「地域調査」のみの小問6題となっている。
⑴ 出 題 分 野
第1問 世界の自然環境
第2問 エネルギーと産業
第3問 都市と村落、生活文化
第4問 太平洋を中心とした地域
第5問 現代世界の諸課題
第6問 鹿児島県の地域調査
なお、過去8ヶ年度の出題分野(学習指導要領の内容による)については次のとおりである。
―80―
地理A、地理B
出題分野
平成 19 年度
平成 20 年度
平成 21 年度
平成 22 年度
自然環境
イタリア、日本、
ニュージーランド
の自然環境
南アメリカと
その周辺の自然環境
世界の自然環境
世界の自然環境
資源、産業
世界の産業や資源
世界の農牧業
世界の鉱工業
世界の第1次産業
都市・村落、生活文化
世界の都市の
空間的な構造と生活
世界の生活文化
世界と日本の都市
世界と日本の都市
地域調査
富山県砺波市(北陸)
石川県輪島市(北陸)
奈良県橿原市
(近畿)
世界地誌
ヨーロッパ東部
西アジア
信濃川流域と新潟市
(北陸)
ロシアと
その周辺地域
現代世界の諸課題
現代世界の諸課題
地球環境問題
現代世界の諸課題
現代世界の諸問題
出題分野
平成 23 年度
平成 24 年度
平成 25 年度
平成 26 年度
自然環境
世界の自然環境
世界の自然環境
世界の自然環境
世界の自然環境
資源と産業
エネルギーと産業
生活文化と都市
都市と村落、
生活文化
世界の農水産物の
世界の資源や産業
生産や供給
世界の村落・都市と 都市と消費・観光・
都市・村落、生活文化
生活文化
余暇活動
鹿児島県の大島
滋賀県長浜市
地域調査
(九州)
(近畿)
資源、産業
石川県金沢市
(北陸)
世界地誌
オセアニア
東南アジア
中国
現代世界の諸課題
現代世界の諸課題
現代世界の諸課題
世界遺産にかかわる
現代世界の諸課題
⑵ 内
中央・南アメリカ
鹿児島県(九州)
太平洋を中心とした
地域
現代世界の諸課題
容
第1問 世界の自然環境に関する大問である。世界の植生帯と土壌帯、河川の月平均流量の変
化、熱帯低気圧の発生地域、大地形、氷河地形・海岸地形、マングローブ面積の減少といった
気候や地形を中心とした自然環境全般からの出題であった。全体的には自然環境についての基
本的な知識があれば容易に解答できる問題が多かったが、地理的事象の丁寧な理解と思考を要
する選択肢も見られた。
問1 低緯度から高緯度にかけての4つの線に沿って出現する植生帯と土壌帯と、その変化を
示した模式図に関する選択問題である。地図中に示された地域の気候の特徴や土壌について
の基礎的な知識をもとに、地図上で思考させる良問である。
問2 地図に示された4つの河川の下流部における月平均流量の年変化を示した図に関する選
択問題である。河川流域の降水量の季節変化と、雪解けや凍結した河川の融解についての知
識があれば解答できる。
問3 熱帯低気圧の発生が多く見られる南半球の海域に関する選択問題である。熱帯低気圧に
ついての知識があれば解答できるが、海水温との関連に気づかせるという点での思考力を問
う良問である。
問4 世界の大地形について述べた文に関する正誤問題である。大地形についての基本的な知
識があれば容易に解答できる。
問5 氷河の融解によって生じた過去2万年の海面変化を示した図について、関連することが
―81―
らを述べた文に関する正誤問題である。氷河地形や海岸地形に関する基本的な知識と図を正
確に読み取る技能があれば解答できるが、大陸棚や三角江などについての正しい理解がない
受験者は戸惑ったと思われる。
問6 アジアにおけるマングロ-ブ分布面積の減少を引き起こした主な要因に関する選択問題
である。アジアにおいて、マングローブ分布地域で養殖池や農地の開発が行われてきたこと
についての知識があれば容易に解答できる。
第2問 エネルギーと産業に関する大問である。地図や表、グラフを読み取る技能や国際経済を
反映した時事問題との関連が求められており、幅広い分野からの出題であった。一部に教科書
では扱われない指標があり、該当国や該当品目を類推する思考力が試され、戸惑った受験者が
いたと思われる。
問1 アメリカ合衆国、イギリス、イラン、ロシアの原油生産量の推移を示した図から読み取
れることがらとその背景について述べた文に関する正誤問題である。各国の石油産出の増減
の背景についての基本的な知識があれば容易に解答できる。
問2 太陽光、地熱、風力の発電施設容量について上位4か国とそれらが世界全体に占める割
合を示した表に関する組合せ問題である。再生可能エネルギーの立地条件と各国の自然環境
とをそれぞれ比較することで解答できる。
問3 日本における農家1戸当たりの耕地面積、耕地面積当たりの農業産出額、農業産出額当
たりのエネルギー使用量について都道府県ごとに示した図に関する組合せ問題である。各都
道府県の農業経営の特徴について考察し、指標の高低から都道府県が類推できれば解答でき
る。ただし、農業産出額当たりのエネルギー使用量という教科書であまり扱われない指標が
使用されたため、戸惑った受験者も多かったであろう。難問である。
問4 バイオマスエネルギーについて説明した文に関する正誤問題である。時事問題との関連
も深いが、バイオマスエネルギーの基本的な知識・理解があれば解答できる。
問5 ブラジル、ロシア、インド、中国の製造業雇用者数の業種別構成比を示した表に関する
組合せ問題である。BRICs 各国の産業構造の特徴についての知識があっても、それぞれの国
の機械、食料・飲料、繊維の指標から該当国を類推できず、戸惑った受験者が多かったであ
ろう。難問である。
問6 1990 年代後半以降の日本企業の立地の変化について述べた文に関する正誤問題である。
自動車メーカーのアジア進出については周知の受験者も多く、容易なレベルであった。
第3問 都市と村落、生活文化に関する大問である。都市と村落では都市の立地条件、交通事
情、近年の都市の人口に関する諸問題、地形図の読図、生活文化では都市と農村の関係を扱う
など、バランスよく広く出題された。基本的な知識があれば容易に解答できる問題が多く、取
り組みやすかったであろう。
問1 ドイツ、トルコ、メキシコのそれぞれの国の人口上位3都市の人口と標高を示した図に
関する組合せ問題である。3か国の地形的な特徴と上位3都市についての知識があれば、容
易に解答できるが、都市の人口による判別にやや戸惑った受験者もいたであろう。
問2 アムステルダム、シカゴ、東京における人々の利用交通手段を示した図に関する組合せ
問題である。各国の交通事情や地形的な特徴についての基本的な知識があれば容易に解答で
―82―
地理A、地理B
きる。
問3 東京圏の各市町村に占める 1946~1950 年生まれの各年次の人口の割合を示した図から
読み取れることがらとその背景について述べた文に関する正誤問題である。第一次ベビー
ブーム以降の東京圏の人口の集中と移動の特徴についての基本的な知識・理解と図を読み取
る技能があれば容易に解答できる。
問4 都市の居住環境について述べた文に関する正誤問題である。各国の代表的な都市の特徴
についての細かな知識が必要とされ、解答に悩んだ受験者も多かったであろう。
問5 秋田県大潟村の集落とその周辺を示す地形図から読み取れることがらとその背景につい
て述べた文に関する正誤問題である。地形図を正確に読み取る技能があれば容易に解答でき
る。
問6 先進国における都市と農村との新しい関係や交流に関して述べた文に関する正誤問題で
ある。都市に住む人々と農村との関わり方についての基本的な知識・理解があれば解答でき
る。
第4問 太平洋を中心とした地域に関する大問である。自然環境、人々の生活、経済状況、人々
の国際移動、貿易など幅広い分野がバランスよく出題された。一部に細かな知識が求められた
が、全体的には基本的な知識や理解を問う標準的な問題であった。
問1 太平洋の環流の向きについて示した図に関する組合せ問題である。大気の大循環や地球
の自転の向きなど基本的な知識があれば、容易に解答できる。
問2 地図中のオークランド、グアム、サンフランシスコ、ラパスについて示したハイサーグ
ラフに関する選択問題である。地図をもとに各都市の気候要素や気候因子を考慮しハイサー
グラフをそれぞれ判断すれば解答できる。
問3 地図中の3地域における食文化の特徴について述べた文に関する組合せ問題である。各
気候区における食生活の基本的な知識をもとに比較・考察すれば容易に解答できる。
問4 太平洋の島々の社会経済状況について述べた文に関する正誤問題である。教科書での扱
いの少ない国土の小さな島嶼国やハワイの出題で戸惑った受験者も多かったと思われる。
問5 外国生まれのオーストラリア在住者の推移を示した図から読み取れることがらとその背
景について述べた文に関する正誤問題である。図と選択肢から類推できる問題であるが、白
豪主義政策の撤廃された年代についての知識がなかった受験者は戸惑ったと思われる。
問6 カナダ、ニュージーランド、マレーシアから日本への輸出について、その総額と金額の
上位3品目を示した図に関する組合せ問題である。それぞれの国の自然環境・社会環境と輸
出品目との関連、また日本との経済的な関係を考慮すれば解答できる。ただし、それぞれに
原材料・燃料・食料品がみられ、戸惑った受験者もいたと思われる。
第5問 現代世界の諸課題に関する大問である。難民や海外出稼ぎ労働など、政治的・経済的な
理由で起こる国際間移動を幅広く取り扱った設問である。全体的に基本的な知識を問う設問が
多く、標準的な問題である。
問1 難民の主な発生国・地域について示された図から読み取れることがらとその背景につい
て述べた文に関する正誤問題である。砂漠化や地域紛争についての基本的な知識と図を読み
取る技能があれば容易に解答できる。
―83―
問2 コロンビア、セルビア、ベトナムについて、難民が発生した状況とその背景について述
べた文に関する組合せ問題である。世界の主な難民発生地域についての政治的な背景や生活
の様子についての知識があれば容易に解答できる。
問3 人の移動に関することがらについて述べた文に関する正誤問題である。国際間および国
内の人の移動についての歴史的な背景や近年の特徴についての知識があれば容易に解答でき
る。
問4 インド、スペイン、ナイジェリア、日本の海外送金受取額と海外送金支払額について示
した表に関する選択問題である。教科書にはあまり記述の見られない指標を使用した問題で
あり、戸惑った受験者も多かったと思われる。しかし問題文の注釈をきちんと理解し、それ
ぞれの国の特徴を考えれば解答できる。
問5 フィリピン人の海外出稼ぎ労働者の男女別の特徴について示した表から読み取れること
がらとその背景について述べた文に関する正誤問題である。出稼ぎ先であるアジア地域につ
いての基本的な知識があれば容易に解答できる。
第6問 鹿児島県の自然環境と人々の生活について行った地域調査についての大問である。この
出題分野は昨年度と同様に「地理A」との共通問題である。グラフ、景観写真、地勢図、地形
図、統計地図などの地域調査で使う多種多様な資料を用い、それらを読み取る能力や、分析し
考察する能力が試された。全体的に標準的な問題である。
問1 鹿児島湾周辺の地図から読み取れる地理情報と景観写真に関する組合せ問題である。景
観写真から地形や海岸線の特徴を読み取らせる良問である。読図に関する基本的な知識があ
れば容易に解答できる。
問2 鹿児島市桜島地区における 1902 年の地形図と、2005 年の地形図の比較から読み取れる
ことがらを述べた文に関する正誤問題である。1902 年の地図に示された凡例の位置を現在
の地形図に当てはめさせる良問であり、地形図を正確に読み取る技能があれば解答できる。
問3 桜島地区の各観測地点の2月と9月の降灰量を示した地図から読み取れることがらにつ
いて述べた文にする正誤問題である。選択肢の文の内容ををきちんと理解しながら、統計地
図を読みとる基本的な技能があれば容易に解答できる。
問4 桜島からの降灰や噴石への被害対策のために設けられた施設を撮影した写真と説明に関
する選択問題である。茶畑に設置される防霜ファンを知らない地域に居住する受験者もお
り、解答に戸惑ったと思われる。
問5 鹿児島県内のシラスの分布と、稲、イモ類、野菜類についてそれぞれの農作物の栽培面
積が農作物栽培面積全体に占める割合を示した図についての組合せ問題である。シラスの分
布図と稲、イモ類、野菜類をそれぞれの栽培条件から比較、考察することで、解答できる。
問6 観光資源への注目や交通機関の整備により観光客の動きが活発化している可能性を想定
し、観光客の行動を明らかにするための調査について述べた文に関する正誤問題である。地
域調査の目的とその方法についての基本的な知識・理解があれば容易に解答できる。
―84―
地理A、地理B
3 要
約
⑴ 問題の程度
本年度も、基礎的・基本的な教科書レベルの問題から、地理的知識や考察力・思考力を必要と
する問題まで、幅広く出題されている。また、地形図、表、グラフなどの資料も昨年度と同様に
数多く用いられており、「地理的な見方や考え方」および「地理的技能」を活用する設問が多く
みられる。
また、全体として標準レベルの問題が多く、地図・図表を使っての選択問題が増加した。
今後の高等学校の授業においては基本的な地理的知識の習得をさせながら、「地理的な見方や
考え方」および「地理的技能」を身につけることが重要である。さらに、リード文など与えられ
た条件を把握する力や「現代社会」をはじめ他の教科・科目と関連づけて、多様な視点から地域
や世界を考察させる取り組みが求められる。
⑵ 設問数・配点・形式等
設問数は大問数6問であった。本試験
と同じく第1問から第6問まで六つの小
問で構成されており、全解答数は昨年度
から1題増え 36 題であった。
配点および設問数も本試験と同じであ
り、第1問、第5問で3点が四つと2点
が二つで 16 点満点、第2問、第3問、
設問形式による分類
文章の正誤
平成 26 年
平成 25 年
18
17
選 択
7
5
組合せ
11
13
出題形式による分類
文章のみ
平成 26 年
平成 25 年
10
11
地図使用
5
6
つで 17 点満点であった。
図表使用
11
7
画像使用
1
1
地図と図表
8
8
設問形式と出題形式は右の表のとおり
である。文章の正誤問題が 18 題、選択
問題が7題、組合せ問題が 11 題であり、
地理的技能
第4問、第6問は3点が五つと2点が一
地図と画像
1
2
昨年度より選択問題の割合が高くなって
図表と画像
0
0
いる。
地図と図表と画像
0
0
出題形式としては、地図、図表、画像
(写真)を用いて判断する問題が 36 題中
※ 衛星画像を地図(地勢図)と判断した。
また、画像には写真を含む。
26 題と増加しているおり、全般的に地
理的知識を用いて多角的な思考力を問う出題意図を読み取ることができる。資源と産業、地誌、
現代世界の諸課題に関する分野では、現代世界の新しい動向をふまえて解答するものもあり、工
夫されたものであった。
⑶ お
わ
り
に
本年度の追・再試験は、昨年度と同様に高等学校での学習内容が反映され、しかも幅広い分野
から出題されている。昨年度までの意見や評価を考慮した出題となっていることに感謝したい。
基礎的・基本的な内容を大切にしながらも、地理的な思考力を問う総合的な出題は、高等学校の
授業に対してもよい影響を与えている。
―85―
一般に追・再試験は本試験よりもやや難易度が高いと言われる。本年度は、本試験と比べると
図表から読み取ったり考察したりして解答する文章の正誤問題が多く、時間がかかり難易度がや
や増したと考えられる。本試験と追・再試験の難易差が、本試験受験者を含めた全受験者にとっ
て不利なものとならないよう、今後とも御配慮をお願いしたい。
「地理B」の学習は「地理的な見方や考え方」及び「地理的技能」の習得を目指しており、セ
ンター試験が高等学校における学習成果を測る物差しである以上、その力を問う出題でなければ
ならない。このような考え方に立って、様々に創意工夫を凝らして考察力・分析力を問う作問に
より、今後とも受験者の地道な努力が報われるような出題をお願いしたい。
―86―