第3 問題作成部会の見解 地 理 A 1 問題作成の方針 平成 26 年度大学入試センター試験は、現行の高等学校学習指導要領による9回目の入試に当た る。平成 25 年度問題の指摘を踏まえ、大問の構成や問題内容など慎重な検討を行った。作題上の 留意点は、以下のとおりである。 ⑴ 高等学校学習指導要領への対応 高等学校学習指導要領の「地理A」における目標は、現代世界の諸課題を地理的に考察するこ とに重点を置いて追究し、現代世界の地理的認識を深めさせるとともに地理的な見方や考え方な どを身に付けさせることにある。この科目の目標の基本的な趣旨を作題方針とした。 ⑵ 出題内容と出題地域 現代世界の特色や課題に関わる地理的事象を、多面的、多角的に幅広く取り上げた。 大問レ ベルでは、「世界の諸地域」としてアフリカ諸国を、「身近な地域」として愛知県知多半島を取り 上げた。小問レベルでは、現代世界の特色や課題に関わる問題を、系統地理的、地誌的な考察の 方法を取り入れる形で構成し、出題内容とした。また高等学校学習指導要領に留意しつつ、世界 各地の問題を万遍なく出題した。 ⑶ 出題構成 高等学校学習指導要領の趣旨、教科書の学習内容に準拠して作題に当たった。出題構成は、以 下のとおりである。 第1問 地理の基礎的事項 第2問 国境を越えた様々な結び付き 第3問 アフリカ諸国の自然環境と生活 第4問 地球環境問題と国際協力 第5問 愛知県知多半島の地域調査 ⑷ 出題内容の工夫 昨年度に引き続き、高等学校学習指導要領を踏まえた作問を行った。作業的、体験的な学習を 通して地理的技能を身に付けられるよう、地図や写真、統計など各種資料を活用しつつ、地理的 に考察することに重点を置いた出題をするよう努めた。また、出題内容のマンネリ化を防ぐため に、問い方や作図等にも工夫した。 ⑸ 大問の設問構成 大問数は昨年度と同様に5題であったが、小問数は 36 問に増加させた。「地理B」との共通問 題である「地理的技能と地域調査」に関わる大問を、今年度も第5問として配置した。全体とし て、文章の正誤問題、選択問題、組合せ問題をバランス良く配置し、さらに地図・図表・写真を 用いた多様な問題を出題することにより、地理的技能や地理的な見方・考え方を総合的に培う設 問構成とした。 ―112― 地理A、地理B 2 各問題の出題意図と解答結果 第1問 高等学校学習指導要領を逸脱せず、かつ「地理A」に関する基礎的事項ができるだけ網 羅できること、また、単に地理用語や技能が断片的に覚えられるのではなく、実践の場で活用 できる地理学的な知識を確実に身に付けられているか、資料や地形図から地理的事象を考えら れるか、あるいは実践の場で活用できる地理学的な知識を確実に身に付けられているか、を問 えるような作問を心掛けた。「地理A」全体の得点率と比較して、第1問の得点率も「地理A」 全体の平均とほぼ同レベルの得点率であった。 問1 様々な図法によって作成されている世界地図のうち、代表的な図法についての一般的な 知識の理解度を問うた。大圏コースを問うことで、高等学校「地理A」で扱う世界地図の図 法の性質について確認できることを目指した。 問2 経線の本数から2地点間の時差を問う問題である。地球上における時差の存在について 理解ができているかを確認する問いとした。 問3 世界の大地形とそれぞれの地形条件下で産出される鉱産資源の関係についての理解を問 う小問とした。単に大地形の分布を問うのではなく、複数の要素の関係を問うことで、体系 的な理解ができているかを確認することを目的としている。 問4 アタカマ砂漠に代表される南米大陸太平洋岸の砂漠について気候や植生の基本的事項の 理解を確認させる問いとした。 問5 国家・領域に関する基本事項を問う小問である。近年の領土問題についての理解にもつ ながる事項である。 問6 地域の景観について、農地の様子を題材に写真を用いることで判断できるかを問う小問 とした。本問では熱帯地域において営農されているアグロフォレストリー、プランテーショ ン、焼畑農業についての特徴を写真から判読できるかをみている。 問7 地形図読図に欠かすことのできない地形図の読み取りについて、谷線・尾根線の分布図 から谷線・尾根線の一般的な性質を読み取る小問とした。地形としては谷と尾根が比較的密 に描かれる山地を扱い、谷線と尾根線の様態から、その地域の地形的特徴について理解でき る力を持ち合わせているかを問えるように考えた。 問8 自然環境と人間生活の関係が地形図から読み取ることができるかを確認するために、沖 積地における微地形とその土地利用形態について問うた。 第2問 高等学校学習指導要領の「結び付く現代世界」について、「国際貿易」「交通・通信の発 達」 「人や物の国際間の移動」 「国家間の結合」の各要素について、網羅的かつ体系的に問うた。 「地理A」の学習実態に即し、日本や東アジアにウエイトを置きつつ、国名を問う際にも学習 頻度が高い国を取り上げるよう配慮を行った。全体を通して、主題図や統計を読み取る能力を 問うことで受験者の主体的な作業・学習の到達度を図ることを目指した。 問1 日本の貿易構造の変化について、貿易相手国の推移を理解しているかをみる。近年、中 国が最大の貿易相手となったこと、それまではアメリカ合衆国が第1位であったことを問う ている。 問2 身近な農水産物の輸入にみる、日本と諸外国との関係についての基本的理解を問うた。 ―113― 定型的な設問であるが、教科書でも作業学習の事例として掲げられており、「地理A」の設 問として必要不可欠な問いである。正答率は6割程度であった。 問3 船舶による貨物輸送についての問題。経済活動と交通との関係について、地理的な観点 から考えさせる問題。交通分野では頻出の「航空交通」 「正誤文」以外からの出題とした。 問4 国境を越える企業活動と資本の移動に関して、輸送機器製造業、農林漁業、繊維製造業 の国際分業を取り上げ、その理解を問うた。業種の種別による海外進出の違いを判別させ る。 問5 東アジア3カ国における相互のヒトの動きに関する設問。「地理A」での学習が比較的 充実している東アジアから出題するように配慮した。近年、変化が激しいことがニュースな どで報道されているが、統計年次を明示していることで問いとして成立していると考える。 問6 国境を越えたヒトの移動と身近な地域の国際化に関する設問。国境を越えたヒトの移動 の結果、日本においても様々な国籍の人々が生活するようになった。「地理A」では身近な 地域の国際化は、地域調査と関連付けて学習されることが多いが、地域調査の大問での出題 は容易ではない状況も考慮して、本問を出題した。 問7 国家間の結び付きの変化に関する設問。国家間の結び付きの動態とその要因を問う形と した。 第3問 アフリカの地誌に関する問題である。高等学校学習指導要領⑵のア-ア「諸地域の生 活・文化と環境」に相当する大問として、「世界諸地域の生活・文化を地理的環境や民族性と 関連付けて追求し、生活・文化を地理的に考察する視点や方法を身に付け」ていることを、ア フリカの生活・文化を地理的環境や民族性と関連付けて問うた。地誌的内容を扱う大問として 地域の特色に関する学習成果を測るべく、問1で河川流域の自然環境、問2で地形、問3で農 牧業、問4で言語・文化、問5で都市、問6で産業と資源開発、問7で旧宗主国との結び付き と、満遍なく問うよう心掛けた。また、教科書の他の箇所で取り扱われている事項も絡めた問 いになるよう配慮した。受験者にとってなじみの薄い地域でもあり、大問全体の得点率はやや 低かったものの、受験者の学力測定を適切に測定できる問題になったものと考えている。 問1 アフリカ大陸を流れる三つの代表的な河川の流域における自然環境を題材に、各々の流 域の気候、植生(景観)、土地利用などの特徴が把握できているかを問うた。地理的情報の 活用能力を測る問題でもある。正答率がやや低く、ナイルとニジェールを間違う受験者が多 かった。しかし、識別力は高かったものと考えられる。 問2 アフリカ大陸の地形的特徴において重要と思われる、北部のアトラス山脈、サハラ、地 溝帯、カラハリ砂漠付近に関して高度についての理解度を、断面図によって問う設問とし た。正答率はやや低かっただが、識別力の高さはかなり明瞭であり、識別力の高い良問だっ たと考えられる。 問3 アフリカにおける農牧業の地域的特徴を、特に気候条件と関連付けながら理解できてい るかを問うた。正答率は低く、オアシス農業の特徴を捉えていない受験者が多かった。 問4 東アフリカ・スワヒリ文化圏での伝統的な布(カンガ)を素材に、スワヒリという独自 の文化の形成に関する理解を問うた。正答率は比較的高く、また識別力の高い問題であった と考えている。 ―114― 地理A、地理B 問5 アフリカ大陸の異なる地点に位置する三つの都市を取り上げ、各々の写真とそれに関す る説明文を手掛かりに、アフリカ都市の系譜(成立の背景)や景観の違いを判別できるかを 問うた。難易度は比較的平易だろうと予想していたが、実際の正答率は低めだった。識別力 は確保されていた。 問6 アフリカの産業・資源開発からみた経済・社会の特徴、特にモノカルチャー経済の構造 とその課題について問うた。正答率はやや高かった。 問7 ODA では、拠出国側の経済力や戦略に加えて、歴史的背景による結び付きなどが重要 である点を問う。ここでは、主に、経済大国であるアメリカ合衆国が最大の拠出国である 点、旧宗主国との関係を理解できているかを問うた。正答率は極めて高かく、識別力も確保 された問題であった。 第4問 高等学校学習指導要領が示している地球的課題と国際協力に関して、地域を越えた課題 と地域によって現れ方が異なることの理解、課題解決に当たって国際協力が必要であることを 踏まえた作題を行った。特に世界共通の問題である地球環境問題に主眼を置き、発生している 問題と地域ごとの発生内容の違いやその原因、これを克服するための自然エネルギーの活用、 地球環境問題解決に向けた国際的な取り組み、及び日本の取り組み内容についての正確な理解 を問う問題とした。 問1 この小問は、地球温暖化の原因物質の一つである二酸化炭素排出量の国別時系列変化を 問う問いである。ドイツ統合後に排出量が減少したドイツ、経済発展が日本を追って発展し た韓国、近年の発展が著しいタイについて、経済発展の時期や環境への取り組みの進展に応 じて、CO2 排出量が変化していることを問う問題とした。 問2 ここでは、地球温暖化の原因物質の一つである二酸化炭素排出量削減を目的とした、自 然エネルギー活用の様々な形態について、その利用内容に関して、正確な理解を問う問いで ある。実際の写真と知識の結び付きを問うた。 問3 地球環境の変化や自然災害は原因や地域によってその発現形態が異なる。諸地域におい てどんな問題が起こっているのか、その原因も含めた内容について問う問題とした。 問4 地球環境問題の解決には国際的な協力関係が不可欠である。世界の国々がどのような取 り決めを行って、課題克服のために努力を重ねてきたのかについて、正しい理解を問うこと を目指している。 問5 世界的な水の利活用や災害などを含む課題について、その内容に関する正しい理解を問 う問題とした。河川の役割など世界的にみられるものである。 第5問 愛知県の知多半島を事例とし、主題図や統計地図、地形図の読図、写真や文献・統計資 料などの収集、現地での調査と調査結果の考察など、地域調査に求められる地理的な見方と技 能について問うた。高校生が地域調査を行うというテーマを設定し、受験者が解答を通じて 「地域調査の疑似体験」をできるようにストーリー性を重視し、地域をみる視線(俯瞰から始 める)や調査法に流れと変化をもたせて、大問を構成した。 問1 数値標高データを用いた陰影図から、事例地域の地勢の特徴を把握する地理的技能を問 うた。 問2 事例地域(知多半島全域)の市町別人口構成から地域の性格を考えさせた。特に大都市 ―115― との距離をイメージできるかどうかが重要になる。 問3 新旧5万分の1地形図の比較から、読図の地理的技能を問うた。地形や土地利用が劇的 に変化した常滑市中心部を選定し、地域の変化要因として欠かせないトピックを幅広く取り 上げた。 問4 事例地域を代表する中部国際空港と名古屋港の輸出入品目構成から、日本における資源 の在り方と、航空/船舶輸送の性格に関する基礎的知識を問うた。中部地方の産業の特徴も 想起させつつ、地元有利の不公平性を排せるように工夫した。 問5 景観写真を手掛かりに調査方法と得られる情報とを問うた。窯業製品が建築資材として 再利用されている景観を事例にして、実際の調査を想定した順序に選択肢を配置し、地域調 査の臨場感を得られるように工夫した。 問6 工業統計から、対象地域の地場産業の特徴を問うた。聞き取り調査と資料読解という地 域調査の基本技術を組合せ、工業統計から読み取れる地域の産業構造の特徴と、景観に現れ た様相とを関連させて考えさせた。地理最終問題でもあることから、事例地域の現実と将来 に希望を抱けるような印象になるよう心掛けた。 3 出題に対する反響・意見についての見解 第1問 地理の基礎的事項について、幅広く取り上げ、さらにある程度の系統性がみられるよう になったとの評価を受けた。また、図や図等の資料も読み取りやすく、取り組みやすい設問で あったとの評価を受けた。一方で、一部に写真が読み取りにくかったとの意見があり、この点 は見やすい、読みやすい写真を選択していくことを今後も検討していく必要がある。 問1 正距方位図法の特性を理解していなくても、図上で示されている2地点間の長さのみで 判断できてしまうため、図法の特性を問う出題方法の工夫が必要であるとの意見をいただい た。この点については今後の課題としたい。 問2 時差について地理的技能を問う、良問であるとの評価を得た。 問3 地理学の学習では頻出事項であり、標準的な設問であるとの評価を受けた。命題ウにつ いては、ボーキサイト鉱床の説明について違和感がある、また、ボーキサイトの産出される 場所について、今回問うた場所はほとんど学習しない場所であるとの意見をいただいた。今 後、設問を理解しやすいものに整えるとともに、場所の選択にしても再検討したい。 問4 チリ北部の乾燥地域は、地理の学習において必修箇所であり、地理的思考力を問う設問 であるとの評価を受けた。また、「地理A」では今回の問いほど詳細には取り上げないとの 意見をいただいた。この点については、再検討したい。 問5 国家や領域に関する基礎的事項の知識を問う、標準的な設問であるとの評価を受けた。 「高潮時の海岸線」、「海底ケーブルの敷設」などの知識はやや難しいとのご意見をいただい た。これらについては教科書の文章及び図の中で取り上げられているが、今後、模式図など を用いるなど設問方法を工夫したい。 問6 写真が鮮明さにかけるとの意見があった。今後、写真問題に関しては、より明瞭な写真 を使うようにしたい。一方、アグロフォレストリーについての短文は意欲的出題との評価を 得た。 ―116― 地理A、地理B 問7 地理的技能を問う、あるいは読図問題として良問との評価を得た。一方、地性線の意味 や作成方法を理解していなければ、解答には至らないことや各短文の正誤判定ではなく、読 み取れるかどうかをきいているので、出題のレベルは高いとの意見もいただいた。地理的基 礎の大問の中での扱いに関しては今後の課題としたい。 問8 断面図から森林と畑地の区別は、海岸沿いに防風林に気付くかどうかであるためやや難 しいという意見があった。しかし、平面図や地形断面から地形や土地利用を推定することは 基礎的な技能であり、良問との評価も得た。 第2問 国境を越えた様々な結び付きは、「地理A」の学習では大きく取り扱われる分野である。 難易度に改善を要する設問や詳細な知識を必要とする設問も見受けられたが、全般的に学習範 囲を踏まえた出題であり、標準的な設問が多かったとの評価を受けた。さらに、統計資料、 図、グラフを用いて、多面的に地理的事象を読み取らせようとする姿勢も評価していただい た。 問1 日本の貿易相手国の変化についての知識があれば判断でき、グラフの読み取りに関する 標準的な設問であるとの評価であった。 問2 日本における食料品輸入の基礎的知識を問う標準的な設問であり、各輸入品は上位国の 特徴がはっきりしているため解答は難しくないだろうとの評価であった。問1も含め定型的 かつ基礎的な出題内容・形式となったが、受験者の基礎学力を把握する上でこういった問題 も必要だと考えている。 問3 表を正確に読み取り、各国の特徴から考察すれば判断できる設問で、良問との評価を受 けた。一方で、高校の学習内容からみると難易度の高い問題で、日本ではなく、シンガポー ルを問うてほしかったとの意見もいただいた。国の選択によって難易度が変化するため、今 後留意していきたい。 問4 教科書レベルの標準的な問題であり、解答は容易であろうとの指摘を受けた。 問5 「地理A」の学習内容では判断することが難しいとの評価であった。特に、日本を判別 できても、韓国と中国の判別に迷った受験者がいたかもしれない、との指摘を受けた。正答 率も低かったため、難易度について更なる考慮が必要と考えている。 問6 人口ピラミッドの形から各国との関係を考えることができる興味深い出題であるとの評 価をいただいたが、国ごとに横軸の数値も読み取る必要がある点、「地理A」において人口 ピラミッドの型から国籍を判断させる点はやや難しいとの指摘があった。難易度を下げるた めに横軸に数値を入れたが、このような処置が必要かどうかを検討していきたい。 問7 国際組織について知識を問う、基礎的設問で、難易度は標準との評価であった。選択肢 の正誤を単純に問うていることや、選択肢が「政治・経済」「現代社会」的な内容となって いることに関して工夫が求められた。出題形式については今後の検討課題としたい。 第3問 「地理A」において地域を選択して取り扱うアフリカを対象としているにもかかわらず、 細かい知識を必要とする設問がいくつか出題されていたとの指摘や、写真・地図の活用に関す る問題点などの指摘が見られた。一方、地図や写真などを使用し、多角的に捉えさせようとし ている点は好意的に評価されていた。建設的な問題点の中にもおおむね好意的な評価が下され ていた。 ―117― 問1 各選択肢に流域に関するキーワードが書かれているため、容易な問題、または標準的な 問題、との評価をいただいた。実際の正答率は高くなかったものの、学習の成果が素直に反 映される識別力の高い良問と自己評価している。 問2 アフリカの地形は「地理A」では詳しく取り上げることが少ないため、やや難易度が高 かったとの評価がある一方、ケニア周辺の大地溝帯の特徴が分かれば、判別は容易であると の指摘を受けた。正答率はやや低かっただが、識別力の高いオーソドックスな設問だったと 自己評価する。 問3 各地域の気候と農業に関する知識が必要であり、難問との指摘がある一方、天然ゴムに 関する知識があれば容易に答えられるとの意見をいただいた。正答率が低く、識別力がやや 低めであった点は残念である。また、地図の活用についての課題も指摘されたが、判別の重 要なヒントとなっている。 問4 写真を十分に活用できていないという出題方法に関する課題をご指摘いただいた。他の 資料との組合せなどを用いることも考えられるが、内容・難易度にとの関連から利用が困難 であった。一方で、正答率は高く、識別力の高い良問と判断する。 問5 個々の都市が「地理A」の学習で取り扱われることが少ないとの指摘や、都市の選定や 出題方法の課題に関するご指摘を受けた。写真と説明文を丁寧に読み取り、イスラーム都市 や植民地との関連などの地理的基礎事項が理解できれば解答にたどり着ける。識別力は確保 しているものの正答率は低めであり、ご指摘の点をはじめ難易度は今後の課題としたい。 問6 図1に各国の位置を示していることから、その位置から各国の輸出産品とそれぞれの特 徴をある程度類推できる点を評価いただいた。正答率はやや高く、オーソドックな問題と自 己評価する。 問7 問うた国のODA出資総額を合わせて提示するなど、出題方法の工夫や、問うた国の選 択に関する意見が見られたが、旧宗主国や拠出国の経済規模、拠出国からの距離などの知識 を基に判別する問いとして好意的に評価していただいた。正答率は極めて高かく、識別力も 確保された問題であった。 第4問 地図や図表を使いながら、地理的な見方や考え方を問おうとしているが、一部の設問に 地理的視点に欠けるものが見られたとの指摘を受けていた。一方で難易度のバランスについて は、取れているとの評価を受けた。 問1 二酸化炭素排出量の推移についての問題で、標準的な設問であるとの評価をいただい た。学習の結果が反映される問題であったと自己評価している。 問2 日本の自然エネルギーについての問題である。発電方法の特徴から容易に判断できる が、分布図を示すなどすれば、より地理的な視点を問うことができるとの指摘をいただい た。標準的な問題ということで、この点今後の課題としたい。 問3 六つの地域・海域における自然環境についての問題で、選択肢の文章中に、「地理A」 の学習であまり取り扱わない知識が含まれていること、また、難易度がやや高いとの意見を いただいた。やや低めであった点は今後の課題としたい。 問4 地球環境問題の国際協力についての問題で、難易度が高いとのご意見をいただいた。 「地理A」の学習内容では判断するのが難しいということであった。実際に正答率はそれほ ―118― 地理A、地理B ど高くはなく、識別には対応しているものの、難易度の点は今後の課題としたい。 問5 水利用に関わる課題についての問題で、基礎的な設問であるとのご意見をいただいた。 正答率も高く、識別力はあったと自己評価している。 第5問 全問が「地理B」との共通問題であるが、「『地理A』の学習内容にも十分配慮したもの であった」との評価を受けた。内容については、「知多半島という一つのまとまりある地域を 取り上げ、自然から人文にわたり様々な地理的内容をたずね」 「作問のためのトピックも豊富」 「優れた地域選定」「全体として良問に仕上がっている」との評価をいただいた。一部ではやや 平易な問題があるとの指摘もあり、今後の課題としたい。 問1 数値データを用いた地図の読み取り問題で基礎的設問であるが、「間違わせ方が単純で やや平易」との意見を得た。地域調査問題の課題である地元有利を回避しつつ、地域の空間 的まとまりを俯瞰的に把握する視点を重視したが、目立った地勢的特徴に少ない地域である ため、「地理A」の内容で問う知識には苦慮した。 問2 問題のストーリー性と出題テーマとの整合性を重視した結果、人文的事象の主題図から 地域の特徴を読み取らせる設問となったが、「統計地図をきちんと読み取ることができれば、 解答することができ、やや平易な問題」との指摘を受けた。一方で「統計地図を正確に読み 取ることは重要な技能であり、今後も出題を続けてほしい」との評価もある。地元有利を避 けるためには「平易」にならざるを得ない面もあるが、扱う指標の精査を含めて、適切な難 易度となるように今後の作問において十分に留意していきたい。 問3 短くまとめた選択肢から、新旧地形図を丁寧に読図しなければ解答へと至れない点(直 観的な地図記号判読問題ではない点か)が好意的に評価されたのだろう。新旧地形図読図に 関する技能問題として今後も工夫を心掛けたい。 問4 我が国の空港・港湾と輸出入品目の基礎的知識について「ステップを踏んで考察させて おり、良問」との評価を得た。 問5 「フィールドワーク中に感じた『疑問』を大切にしてほしいというメッセージが込めら れており、好感が持てる」「良問」「このような地域調査の手法に関する問は今後も続けてほ しい」との評価を得た。社会科系科目全体において高校地理が発揮しうる強み(地域調査問 題の存在意義)を示せたように思う。ただ、解答を選ぶ際の訴求点を「地形図からの判読可 否」に置いたことについては「オーソドックスとなっているのが残念」との指摘もある。今 後の作問において留意したい。 問6 工業立地の詳細を問う場合には「地理A」の学習内容から逸脱するが、本問は「会話内 容から解答が推定可能」であるため、問題としては「可」との評価を得た。出題の形式につ いては「市役所職員との会話文を素材とした設問であり、フィールドワークをイメージさせ ようとした点で、出題者の努力がうかがわれる」と出題意図を反映した評価をいただいた。 4 今後の問題作成に当たっての留意点又はまとめ ⑴ 外部評価委員会・団体等からは地図・図表・写真(画像)を多く用い、全体として地理的な思 考力・判断力を必要とする設問が多いとの評価を得た。一方で、写真が鮮明でないために読み取 りにくいこと、「地理A」の学習範囲で取り上げることが一般的でない事項や地域からの出題が ―119― あることなどの指摘があった。高校教育への影響に鑑み、なお一層作問時に留意したい。 ⑵ 難易度については、平均点が 51. 76 点で、昨年度より 1. 67 点上昇した。「地理B」の平均点と の比較では、「地理A」の方が 17. 92 点低くなり、昨年度よりも「地理B」との点差は拡大した。 「日本史A」や「世界史A」との難易度調整にも配慮しつつ、引き続き「地理A」の平均点が上 昇するような適正な難易度の作問を目指したい。 ⑶ 小問の総数は昨年と同様より3問増やし 36 問とした。ただし、外部評価団体からは、この問 数でも時間的に余裕があったことも指摘されている。各大問・小問の難易度調整を慎重に行いな がら、適切なレベルになるように、受験者の解答時間にも十分配慮した出題を心掛けたい。 ⑷ 配点は 36 問中 28 問を3点、8問を2点とし、4点問題は設定しなかった。この点については、 高配点の問題を1問配置するよりは、低配点の基礎的な問題を2題配置する方が望ましいとする 過年度の意見を踏まえたものであった。 ⑸ 地図・写真等の表現については適切で分かりやすいものであったとの評価を得たが、図表を読 み取るだけで地理的な知識がなくても容易に解答できる問題や、写真の提示の仕方に工夫が必要 な問題もみられたとの指摘もあった。これらの貴重な意見に耳を傾けつつ、今後も引き続きより 完成度の高い作問を心掛けていきたい。また、前述の写真の解像度を上げる努力を今後とも続け ていかねばならない。 ⑹ 全体として、高等学校学習指導要領の趣旨に沿った作問であるとの評価を受けたが、今後とも 「地理A」らしい作問への努力が求められている。「地理A」では、作業的・体験的な学習を重視 し地理的技能を高めることが学習の狙いの一つとされている。高等学校学習指導要領で事項や事 例を選択して扱うとされている内容からの出題に際して、学習していない受験者でも他の地域や 地理的事象から推察して回答できるような工夫が必要であるとの意見がみられた。あわせて図表 や写真を十分に生かすための問い方や、地図作成など現実の技術的な環境が変化しつつある事項 について十分に考慮すべきである、との指摘もあった。作成部会としてもこれらの貴重な意見に 留意し、次年度以降の作問に活かしていきたいと考える。 ―120― 地理A、地理B 地 理 B 1 問題作成の方針 平成 26 年度大学入試センター試験は、現行の高等学校学習指導要領に基づく9回目の入試に当 たる。平成 25 年度問題の指摘を踏まえ、大問の構成や問題内容などについて慎重な検討を行った。 作題上の留意点は、以下のとおりである。 ⑴ 高等学校学習指導要領への対応 高等学校学習指導要領の「地理B」における目標は、現代世界の地理的事象を体系立てて地理 的に考察することに重点を置いて追究し、現代世界の地理的認識を深めさせるとともに地理的な 見方や考え方などを身に付けさせることにある。この科目の目標の基本的な趣旨を作題方針とし た。 ⑵ 出題内容と出題地域 世界の地理的事象を主な対象として、現代世界の地理的な認識に関わる地理的事象を、多面 的、多角的に幅広く取り上げた。 大問レベルでは、地誌的な考察地域として西アジア地域を、 「身近な地域」として愛知県知多半島を取り上げた。小問レベルでは、日本を含めた世界の諸地 域から万遍なく出題し、出題内容・出題地域ともに、偏りのない出題を心掛けた。 ⑶ 出題構成 高等学校学習指導要領の趣旨、教科書の学習内容に準拠して作題に当たった。出題構成は、以 下のとおりである。 第1問 世界の自然環境 第2問 世界の資源と産業 第3問 都市と生活文化 第4問 西アジアの地誌 第5問 現代世界の諸問題 第6問 愛知県知多半島の地域調査 ⑷ 出題内容の工夫 高等学校学習指導要領に沿って、「地理B」で問うべき基本的な学習内容を出題するように努 めた。地理の特色である地図を活用し、グラフや表、写真(画像)の読み取りも含め、出題内容 や問いかけ方において、多様な出題をするように心掛けた。同時に単なる受験上の知識を問うの ではなく、世界の諸地域に関わる地理的認識とその背景に関する理解を問うように努力した。 ⑸ 大問の設問構成 大問数は、昨年度と同様の6題とし、小問数も昨年度より1問増加させて 36 問とした。「地理 A」との共通問題である「地理的技能と地域調査」に関わる大問を、今年度も第6問として配置 した。全体として、文章の正誤問題、選択問題、組合せ問題をバランス良く配置し、さらに地 図・図表・写真を用いた多様な形式の問題を出題することにより、地理的技能や地理的な見方・ 考え方を総合的に培う設問構成とした。 ―121― 2 各問題の出題意図と解答結果 第1問 自然地理分野の大問として、自然環境のそれぞれの要素が関連していることをテーマと し、プレートの活動にともなう海底や海洋への影響、土壌の生成と気候・植生との関係、気候 因子としての地形などを問うことにした。 問1 特徴的な海底地形が見られる各海域を取り上げ、成因を含めたそれらの地形の特徴を、 プレートの活動と関連させて問うた。 問2 環太平洋地域の狭まる境界において、地震の活動が活発であることを理解しているかど うかを問うた。 問3 世界の特徴的な湖を取り上げ、自然環境の様々な要素との関連を考慮に入れながら、そ れぞれの成因を問うた。 問4 気候・植生の影響を受ける成帯土壌の分布と特徴について理解しているかどうかを問う た。 問5 様々な気候因子の影響が及ぶ気温という気候要素について、海抜高度や緯度、大気大循 環や海流などの影響を問うた。 問6 地形や海流などの気候因子の影響を受ける降水量という気候要素について、モンスーン の影響や大規模山脈の影響、大気大循環の南北変位に基づく問である。正答率は6割を下 回った。 第2問 高等学校学習指導要領では「資源、産業」の単元では、「世界の資源・エネルギーや農 業、工業、流通などから系統地理的に捉える視点や方法を学習」することになっている。本問 では、農業、鉱業、工業、金融業などを取り上げ、基本的な知識から時事的な動向まで幅広く 考察する力を試そうとした。ややオムニバス的な体裁となったが、リード文を置くことで第1 次産業から第2次産業、第3次産業、更にはグローバリゼーション下における金融資本主義へ と、移り変わる産業の歴史的発展過程を意識した配列としている。難易度は例年に比べてやや 平易であった。 問1 世界各地の特色ある農業地域の形成について、歴史的背景を尋ねる問題である。取り上 げたのは、カリブ海地域(西インド諸島)におけるサトウキビ・プランテーション、南米パ ンパなど白人入植地域における企業的牧畜、ナイル川流域の灌漑と綿花生産の三つで、いず れも「世界システム」の歴史的展開と密接な関係を持つ点で重要な事例である。地理の学習 においても歴史的視点から理解することは重要と考える。識別力は高かった。 問2 米はもともとアジアの自給作物であったが、近年は国際貿易商品としての性格が強まっ ている。今日、TPP 参加による貿易自由化が日本農業に与える影響が懸念されるなど、米 の生産や貿易に対する国民の関心は高いと思われる。ここでは、米の生産量と輸出量(いず れも世界計に対するシェア)を散布図に示し、主要生産国(輸出国)を問うている。アメリ カ合衆国は米の生産量の3割にあたる量を輸出しているが(純輸出)、生産量のランキング は 10 位前後であることから、判別は容易と思われる。識別力は高かった。 問3 センター試験では定番とも言える、円面積統計地図から内容を判定する出題である。受 験者にとっては取り組みやすい形式であったと考えられる。本問では、鉱産資源の中で重要 ―122― 地理A、地理B な項目の一つである鉄鉱石を取り上げ、金鉱や銀鉱の産出国と比較させた。一定の識別力が あった。 問4 工業化の段階が異なるアジアの2カ国を取り上げ、その主要輸出品の変化から品目を判 別する問題である。急速な経済成長を経て先進国の仲間入りをした韓国、輸出指向型の工業 発展が著しいフィリピンを対比している。正答率は高く、平易な小問であった。韓国の自動 車、フィリピンの木材など、分かりやすい輸出品を出題したためと考えられる。 問5 近年の産業構造の変化についての出題である。 1 アメリカ西海岸のコンテンツ産業、 2 インドのコールセンター、 4 日本のサイエンスパークと、代表的な事例を取り上げた。オー ストラリアはウラン埋蔵量が世界最大であるが、商業用ウラン濃縮は行われていない(誤 文)。 問6 グローバル化する世界では、国境を越えたヒト、モノ、カネの移動が活発化しており、 多国籍企業の中枢機能や資本・情報が集中する「世界都市」の重要性がクローズアップされ ている。本問は、ニューヨーク、ロンドン、東京を取り上げ、株式市場の規模から世界の経 済動向や格差問題について問う出題である。 第3問 高等学校学習指導要領では、世界の都市・村落、生活文化について、事例を通じて、分 布図などを用いながら、地域の多様性を理解することを目標としている。本問ではまず「都 市・村落」について、国内外の都市を事例に、グローバル/リージョナル/ローカルそれぞれ のレベルにおいて、都市の構造や特徴を分布図なども用いて問うた(問1~4)。続いて「生 活文化」については、都市に関する問いからの流れを重視し、都市における生活文化の多様性 について問うた(問4~6)。問4は、都市と生活文化の両者がクロスオーバーする位置づけ となっている。大問全体の得点率、標準偏差ともに例年と比べて標準的であり、受験者の学力 を適切に測定できる問題になったものと考えている。 問1 冒頭の問いとして、まずグローバルなスケールで都市人口の分布を大づかみに理解して いるかを問うた問題である。先進国と発展途上国の違い、同じ先進国・途上国間でも地域に よる偏在がみられることを理解しているかどうかがポイントとなる。正答率は標準的であ り、識別力の高い問いであったと考えられる。 問2 都市の形成について、そのプロセスを時系列で理解しているかを問うた問題である。教 科書でも多く扱われているロンドンを事例に、都市への人口流入による生活環境の問題化~ 都市のスプロール~インナーシティ問題及び再開発という流れが理解できているかどうかが ポイントとなる。正答率は低く、大ロンドン計画と田園都市構想の順序を間違える受験者が 多かった。識別力がやや低く、目新しい出題形式に戸惑ったと考えられる。 問3 京阪神大都市圏を事例に、都市圏内部の地域的多様性について問うた問題である。都心 から郊外に向けて、距離帯ごとに都市景観や人口構造が異なること、通勤流動などを通じた 中心と周辺の関係性が理解できているかどうかがポイントとなる。正答率はやや高めであ り、若干差のつきにくい問いであったと言える。 問4 長野市を事例に、都市施設の分布図を用いて、都市内部構造について問うた問題であ る。モータリゼーションの進展によって、郊外へ消費行動が拡大したこと、行政機関や銀行 などから中心業務地区が形成されていることなどが理解できているかどうかがポイントとな ―123― る。銀行と大型小売店を取り違える誤答が多くみられたため、正答率は低めであったが、学 力の識別力は高い問いであった。 問5 生活文化の中でも住居に関する指標の地域的な差異について問うた問題である。住居は 気候条件や都市化の度合いなどを反映して、地域的に多様になることが理解できているかど うかがポイントとなる。正答率は標準的であり、識別力の高い良問であった。 問6 都市における余暇・消費活動について問うた問題である。経済発展の度合いや社会・文 化・歴史的背景によって、都市の消費・余暇活動が地域的に多様になることを理解できてい るかどうかがポイントとなる。高い正答率となり、識別力は低かった。 第4問 高等学校学習指導要領⑵「現代世界の地誌的考察」に相当する大問として、西アジア及 びその周辺諸国における環境と人々の生活に関する問題を作成した。各問の設定に際しては、 この地域を特徴づけている要素として、資源(水と石油) 、地理的位置(東西文明の交差点、 地政学上の要衝) 、宗教・民族(イスラーム、アラブなど)というキーワードに注目すること で、受験者がこの地域の成り立ちや特色を多面的・多角的に捉えられるように留意した。つま り、これらのキーワードについて、受験者の知識をストレートに問うのではなく、これらの要 素が西アジアとその周辺地域の在り方をいかに規定しているのか、その背景や要因を考察させ るような問いとなるように配慮した。 問1 西アジアにおける分布原理の異なる四つのエリアの集落分布図を示し、一般に「砂漠」 のイメージの強い西アジアにおいて、どのような場所に集落(都市・村落)が成立・発達し たのかを考察させることを意図した。正答率は低く、この大問の中で最も難易度の高い設問 となった。 問2 西アジアの四つの国(イラン、クウェート、サウジアラビア、トルコ)の水資源利用を 題材に、国による水資源の賦存の差異とともに、産油国と非産油国における水資源へのアク セシビリティの違いについても問うことを意図した。問1と同様、この大問の中で正答率の 低い小問の一つであった。 問3 世界の主要産油国について、1人当たりの GDP と GDP に占める石油収入の割合との関 係を示した散布図から、西アジアの三つの産油国(アラブ首長国連邦、イラン、サウジアラ ビア)の経済構造の違いを読み取らせることを意図した。標準的な難易度であったと考えて いる。 問4 オイルマネーがつくりあげた都市の代表的な事例としてドバイを取り上げ、4枚の都市 景観の写真を読み取らせることで、その都市発展のプロセスについて正しく理解できている かを問うことを意図した。標準的な難易度であったと考えている。 問5 西アジアを取り囲む三つの海峡に注目し、この地域が他の世界とどのような結び付きを 形成してきたのかを問うことで、西アジアの地理的位置の重要性について考えさせることを 意図した。基礎的な問題だったため、正答率は高かった。 問6 西アジアにおける政治と民族・宗教の関係について問うなかで、地政学的な視点を取り 入れることで、この地域固有の資源や民族・宗教の問題が、欧米諸国との関係性や国家形成 の過程にいかに関わっているのかを考察させることを意図した。問うた国が比較的容易だっ たのか、正答率は極めて高かった。 ―124― 地理A、地理B 第5問 高等学校学習指導要領⑶「現代世界の諸課題の地理的考察」に相当する大問である。こ の大項目を構成する八つの中項目は、相互に関連する内容を含んでいる。学習の成果が素直に 生かされるように、それらの中からバランス良く出題することにした。なおかつ、「現代世界 の諸課題」にかかわるメッセージを受験者に発せられるよう、ストーリー性にも配慮したつも りである。具体的には、森林破壊の問題を出発点に据えた。森林破壊にまつわる諸課題は世界 に様々あり、それらには相互に関連性があることを強調したつもりである。問1は、環境問題 の地域性について必ず取り上げられる森林破壊の問題に注目し、その現状と要因を問うた。問 2は、植生改変による土地荒廃に着目して、アメリカ合衆国中西部の空中写真から読み取れる 諸課題について問うた。問3は、南北問題に絡んで、富の分配の不平等の原因となる資源開発 と利用にまつわる問題を取り上げた。問4は静脈である廃棄物について取り上げ、教科書に準 拠してその発生と処分の特性を問うた。問5は、「地域区分して捉える現代世界の諸課題」な どで取り上げられることの多い医療に関わる課題を、南北問題に絡めながら出題した。全体と して、天然資源である森林の減少を起点に、環境破壊の問題や南北問題などを人文的要素に絡 めながら取り上げるという構成にし、一定の流れを持たせた。 問1 主に木材伐採に起因する森林資源の減少は、地域環境を激変させ人々のくらしを破壊す るばかりでなく、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の増加をも招く。そのため、環境保護 の観点から木材伐採を制限する国々も、近年は増加している。その一方、森林を計画的に伐 採して農地として利用することによって農村開発を進め、人々の生活水準が大幅に向上する こともある。このように、森林減少がどこでなぜ進んでいるのかを認識することは、地球環 境問題の地域性を考える上で極めて重要であろう。そこで、2000~10 年における森林面積 の変化を国別に提示し、その理由に関わる事象の正誤を問うことにした。 問2 人為的な原因による土地改変は、様々な人文・社会的な現象を引き起こしてきた。そこ で、アメリカ合衆国中西部の特徴ある土地利用パターンを表出している空中写真を題材と し、その土地利用の背景及び環境影響について、教科書記述に準拠してその理解を問うこと にした。 問3 天然資源の開発や利用を、誰がどのように進めているか。このことが、南北間の格差拡 大を助長し、世界的な諸課題を生み出す要因になっている。特に近年は、中国をはじめとす る途上国の経済発展に伴い、鉱産物の需要が急増している。生産サイドにおいては、資本力 のある資源メジャーが鉱産資源を寡占している。その結果、鉱産物価格が急騰しているもの の、その果実が資源国の国民に平等に分配されているとは言い難いのが現状であろう。この 点を題材に、鉱産物の開発と利用に関する事柄についての認識を問うこととした。 問4 廃棄物は近年再利用が進み、都市鉱山という言葉も出現しているように、資源の一つと して捉えられるようになってきている。その発生量や処分方法は、経済発展に伴って変化 し、かつ国土面積などの地理的要因にも影響される。本問では教科書の記述にも準拠して、 今後ますます地球規模で重要になる廃棄物について、発生量や処分方法から国名を問う問題 とした。 問5 いつでも誰でも医療を受けられる国は、世界的にみると稀有な例である。高福祉国家と して知られる北欧諸国などには医療保険制度が整備され、提供されるサービス水準も極めて ―125― 高い。アメリカ合衆国は市場主義に依拠しており、サービス水準は高いものの医療費は極め て高く、医療保険制度も整備されていない。発展途上国においては、十分な医療サービスが 提供されておらず、医療保険制度も整備されていないが多い。こうした説明は、医療の問題 に限らず、あらゆる社会問題に関係する事柄である。そこで、デンマーク・アメリカ合衆 国・インドについて指標を提示し、出題とすることにした。 第6問 愛知県の知多半島を事例とし、主題図や統計地図、地形図の読図、写真や文献・統計資 料などの収集、現地での調査と調査結果の考察など、地域調査に求められる地理的な見方と技 能について問うた。高校生が地域調査を行うというテーマを設定し、受験者が解答を通じて 「地域調査の疑似体験」をできるようにストーリー性を重視し、地域をみる視線(俯瞰から始 める)や調査法に流れと変化をもたせて、大問を構成した。 問1 数値標高データを用いた陰影図から、事例地域の地勢の特徴を把握する地理的技能を問 うた。 問2 事例地域(知多半島全域)の市町別人口構成から地域の性格を考えさせた。特に大都市 との距離をイメージできるかどうかが重要になる。 問3 新旧5万分の1地形図の比較から、読図の地理的技能を問うた。地形や土地利用が劇的 に変化した常滑市中心部を選定し、地域の変化要因として欠かせないトピックを幅広く取り 上げた。 問4 事例地域を代表する中部国際空港と名古屋港の輸出入品目構成から、日本における資源 の在り方と、航空/船舶輸送の性格に関する基礎的知識を問うた。中部地方の産業の特徴も 想起させつつ、地元有利の不公平性を排せるように工夫した。 問5 景観写真を手掛かりに調査方法と得られる情報とを問うた。窯業製品が建築資材として 再利用されている景観を事例にして、実際の調査を想定した順序に選択肢を配置し、地域調 査の臨場感を得られるように工夫した。 問6 工業統計から、対象地域の地場産業の特徴を問うた。聞き取り調査と資料読解という地 域調査の基本技術を組合せ、工業統計から読み取れる地域の産業構造の特徴と、景観に現れ た様相とを関連させて考えさせた。地理最終問題でもあることから、事例地域の現実と将来 に希望を抱けるような印象になるよう心掛けた。 3 出題に対する反響・意見についての見解 第1問 様々な観点から幅広く問うている標準的な問題が多いという指摘の一方で、一部に幅広 い知識と思考力を必要とする問題があり、やや難易度が高いと感じた受験者がいたと思われる という指摘もあった。適切な難易度の問題作成を心掛けるとともに、指摘された点は今後の参 考としたい。 問1 世界の海底地形についての基本的な問題という評価を受けたが、授業で取り上げられる ことの少ない地域の出題があったとの指摘もあり、今後の作題で留意すべき点と考える。 問2 地震発生数の緯度・経度別の分布から地球上のプレート分布を考えさせる良問との評価 を受けた。新しい傾向という指摘もあり、今後も出題の工夫を続けていきたい。 問3 湖の形成要因の理解を問う標準的な問題で基本的な知識があれば容易に解答できるとい ―126― 地理A、地理B う評価を受けた。ただし、受験者を戸惑わせかねない表現があるとの指摘があり、今後の作 題では留意していきたい。 問4 地図上に示された土壌の分布を、気候分布を考慮しながら判断させる良問との評価を受 けた。成帯土壌の分布と特色に関する基本的知識があれば容易に解答できるという評価もあ り、今後も学習内容に即した出題を基本にしていくことを継続したい。 問5 各地の年平均気温と気温の年較差に関する問いであり、気候に関する様々な知識を考慮 に入れながら気温の特徴を考えさせる良問との評価を受けた。基本的な知識を総合して考え ることは重要であり、今後も工夫を重ねていきたい。 問6 緯度の異なる地点における夏と冬の降水量の分布を考えさせる問いであり、気候に関す る様々な知識を考慮に入れて考えるという点で良問との評価を受けた。出題形式に関する指 摘については、今後の作題に生かしていきたい。 第2問 一部の問題に改善すべき点があると指摘もあったが、大問全体に対する評価はおおむね 好意的なものが多かった。問題の設計に当たり特に配慮した点は、①「資源と産業」という大 テーマの全体を俯瞰し幅広い視点に立った出題とすること、②文章、グラフ、表、地図など出 題形式のバランスが取れていること、③取り上げる国・地域や事象が受験者の学習範囲に照ら して適切であることの三つである。こうした出題意図はおおむね理解を得たものと考えてい る。また、「全般的に取り組みやすい問題」という評価を得たが、その反面、難易度がやや平 易となった面はあるかもしれない。 問1 「地理的な見方や考え方」と「歴史的な見方や考え方」は互いに排他的な関係にあるの ではなく、補完的な関係にあると考えられる。世界の特色ある農業地域についても、それが 成立するに至った歴史的な背景について学ぶことは、より深い考察や理解に結び付く。地理 の試験問題にも歴史的要素を取り入れることは、今後も必要であろう。 問2 米の生産と貿易に関する基本的な知識や、グラフを読み取る技能があれば、容易に答え うる問題であった。ただし、統計を用いた出題には注意が必要である。タイでは、政府が高 値で大量の米の買い上げを行ったことから、2012 年には輸出に回る量が激減した。問題文 のグラフに注記したように、作題に用いたデータは FAO 世界農業機関の統計であり、使用 した年次は生産量が 2010 年、輸出量が 2009 年である。したがって、上記の情勢変化は反映 されていない。そのため、普段ニュースに注意を払っている受験者には、かえって混乱を与 えた可能性もある。今後とも、変化の激しい同時代的事象の扱い方には慎重さを期したい。 問3 鉱物資源の生産量に関するオーソドックスな統計地図問題で、出題形式は決して目新し いものではない。上位 10 か国に主要な産出国が含まれることから、受験者にとっては取り 組みやすい問題であったろう。高校教育の現場からは良問との評価を得たことから、こうし た定型的な形式の問題も一定の頻度で取り上げていくのがよいと思われる。 問4 アジア各国の経済発展には「雁行型」モデルが知られ、日本を先頭に韓国、台湾、シン ガポールなどが続いてきた。今回、輸出品にはっきりした特徴が見いだせる韓国とフィリピ ンを取り上げた。結果として正答率が高く、識別力が弱くなった点は、今後検討を要する課 題と考える。 問5 世界4か国における産業立地の新動向に関する問題で、出題は適切であるとの評価を得 ―127― た。ただし、 4 の大都市圏におけるサイエンスパークに関する文章について、成功した事例 ばかりといえないという指摘があった。確かに、個別の事例に見れば様々な事情があるかも しれないが、教科書でも「かながわサイエンスパーク」等が取り上げられていることから、 新しい産業立地の動きとして出題することが妥当であると判断した。 問6 グローバル資本主義の中での「世界都市」や株式市場を取り上げた出題で、評価で言及 されたように「今までにない新しい傾向の問題」が狙いであった。しかし、高校の地理の教 科書では、金融取引や所得格差についてあまり詳しく扱われていない。問いの難易度を抑え る配慮から、イギリスのユーロ導入(誤文)という平易な選択肢を正解としたため、文章だ けで判断できるという指摘があった。出題の意図をさらに掘り下げるような作題を今後も検 討したい。 第3問 大問全体としては、例年と比べて特に良問が多く、解答に際して明確な論理があり良問 として仕上がっているなど、肯定的な評価であった。作問に当たっては、地図や統計を用いて 地理的な思考力を問うことを重視したが、これについても地図と統計で考えさせる思考力を問 う出題がみられたという指摘があり、おおむね出題意図が適切に伝わったと考えられる。 問1 冒頭の問いとして、受験者の戸惑いが少ないオーソドックスな指標と形式にすることを 意図していたが、基本的な知識があれば解ける良問といった評価であり、出題意図がうまく 反映されたと考えられる。 問2 都市開発に関する事象を年代順に並べる形式であり、新しい傾向で戸惑いがあったので はとの評価もあったが、形式のマンネリ化を防ぐ意味でも一石を投じる意義はあったのでは ないかと考える。ただ、選択肢の内容については、大学入試としての知識レベルについて議 論する事例の一つになるという慎重な意見もいただいた。 問3 京阪神大都市圏の3都市を事例にした問いであり、出題に当たっては地域による有利不 利を避けることが課題であったが、一般化された地理的思考で解答できる良問という評価で あった。都市や指標の選択についても、出題者の配慮が行き渡っているという好意的な評価 であった。 問4 問3に続いて地域による有利不利が心配されたが、今回のセンター試験でも特に優れた 良問との評価であった。評価を鑑みると、今後も応用可能な出題形式であると考えられる。 問5 指標はユニークであるが、工夫された出題形式との評価であった。一方で、日本の地域 区分については定まったものがないとの指摘があり、今後、日本の地域区分を出題するに当 たっては配慮が必要であろう。 問6 基本的な知識で容易に解答可能で、文章や下線も適切であるとの評価であったが、文章 の正誤の確実性を高めたことなどから平均正答率が高く、難易度については検討の余地が あった。 第4問 大問全体としては、村落・都市、自然環境、産業、交通、宗教・民族などについて地域 の特徴を総合的・多面的に問う出題であり、地誌の問題として評価できるとの意見をいただい た。一部の設問については、教科書で扱いの少ない指標や基礎的知識から類推して考えさせる 問題で「やや難」との評価を受けると同時に、「地理的思考を要する設問」とのコメントもい ただいた。この点については、地理の設問に対する評価としては好意的なものと受け止めてい ―128― 地理A、地理B る。 問1 解答に際して、首都の位置などの基礎的知識を要すると同時に、西アジアの自然環境を 総観的に理解しておかなければ解答が困難な問題で良問、との高い評価をいただいた。一方 で、こうした地理的思考力が求められるがゆえに「難問」との評価もあった。 問2 各地域の自然環境や灌漑についての基礎的知識から類推すれば解答できる、教科書レベ ルの難易度との評価を受けた。一方で、一部の受験者にとっては、これらの知識と地表水・ 地下水・淡水化水といった統計上の指標や数値とを結び付けて考えるのが難解であったか、 との意見もあった。 問3 西アジアの産油国として、特徴の違いが明瞭で、かつ受験者にとってもイメージがつき やすい国(アラブ首長国連邦、イラン、サウジアラビア)を取り上げたこともあって、各国 についての基本的な知識があれば解答できる、標準的な問いとの評価を受けた。 問4 写真を活用した問題でありながらも、短文選択の設問形式では写真がなくても同都市に 関する知識だけで解答できてしまう問題になっている、との指摘を受けた。この点について は、写真から読み取れる内容をもっとダイレクトに問う形にするなど、設問形式の改善に努 めたい。 問5 西アジアに位置する三つの各海峡についての基本的な知識があれば解答できる、教科書 レベルの難易度との評価を受けた。 問6 各国の政治・宗教についての知識と理解があれば解答できる平易な問題、という評価と 同時に、 (文章選択という)問い方が単純、との厳しい意見もいただいた。この点について は、問う概念を地図化したり、グラフを用いたりなど、より地理らしい問題にするために出 題方法の工夫に努めたい。 第5問 図表を用いて練られた問題との評価がある一方、各問が非常に易しく受験者には解きや すいとの指摘がなされた。実際、問5を除き、正答率が高く、地理全体の平均点の底上げに寄 与してしまっていると言える。図表を活用しながらも、設問自体は容易で常識で判断できる問 が多くなったことは今後の検討課題としたい。地球環境は時事的な要素が強い出題範囲ではあ るが、今後とも教科書に準拠し、地理的理解力を公平に試す出題に留意したい。 問1 地図がなくても文章だけで判別可能だとの指摘があった。世界全図を用いた地球環境分 野の作題について、今後文章との整合性について課題を残す問いとなった。 問2 頻出の問題との指摘を受けたが、しっかり基礎から勉強している受験者には解答が容易 であったものと思われる。 問3 基礎知識があれば容易に解答可能との指摘があった。鉱産資源に関する環境問題を幅広 く聞いているが、それゆえに普段からメディアを通じて時事問題に触れている受験者には容 易であったことは否めない。 問4 廃棄物とリサイクルに関する指標問題については評価する意見があったが、やはり易し すぎるとの見解もあった。環境関係の統計は、廃棄物に限らず、特に途上国のデータが不足 しており、統一指標的な表問題として出題しにくい問題がある。今後とも、確かなデータ ソースの探索努力を継続することが重要であろう。 問5 細かい知識を問うているという指摘があったものの、大問の中では適正な難易度の小問 ―129― であったのではないか。 第6問 全問が「地理A」との共通問題である。内容については、「知多半島という一つのまと まりある地域を取り上げ、自然から人文にわたり様々な地理的内容をたずね」「作問のための トピックも豊富」で、大都市との距離を考えさせるなど「優れた地域選定」「全体として良問 に仕上がっている」との評価をいただいた。「全般的に取り組みやすい問題」であり、一部で はやや平易な問題があるとの指摘もあり、今後の課題としたい。 問1 数値データを用いた地図の読み取り問題で、基礎的設問であるが「間違わせ方が単純で やや平易」との意見を得た。地域調査問題の課題である地元有利を回避しつつ、地域の空間 的まとまりを俯瞰的に把握する視点を重視するとともに、「地理A」の学習内容を踏襲する よう注意したため、「地理B」学習者にとって易しい問題となったことは否めない。目立っ た地勢的特徴が少ない地域であるため、問う知識には苦慮した。 問2 問題のストーリー性と出題テーマとの整合性を重視した結果、人文的事象の主題図から 地域の特徴を読み取らせる設問となったが、「統計地図をきちんと読み取ることができれば、 解答することができ、やや平易な問題」との指摘を受けた。一方で「統計地図を正確に読み 取ることは重要な技能であり、今後も出題を続けてほしい問」との評価もある。地元有利を 避けるためには「平易」にならざるを得ない面もあるが、扱う指標の精査を含めて、適切な 難易度となるように今後の作問において十分に留意していきたい。 問3 短くまとめた選択肢から、新旧地形図を丁寧に読図しなければ解答へと至れない点(直 観的な地図記号判読問題ではない点)が好意的に評価された。新旧地形図読図に関する技能 問題として今後も工夫を心掛けたい。なお、「地理A」を念頭に置いた難易度であったが、 「地理B」においても十分な識別力があった。 問4 我が国の空港・港湾と輸出入品目の基礎的知識について「ステップを踏んで考察させて おり、良問」との評価を得た。ただし、「地理A」を念頭に置いた難易度であったため、「地 理B」においては少々易しかったか。今後、検討したい。 問5 「フィールドワーク中に感じた『疑問』を大切にしてほしいというメッセージが込めら れており、好感が持てる」「良問」「このような地域調査の手法に関する問は今後も続けてほ しい」との評価を得た。社会科系科目全体において高校地理が発揮しうる強み(地域調査問 題の存在意義)を示せたように思う。ただ、解答を選ぶ際の訴求点を「地形図からの判読可 否」においたことについては「オーソドックスとなっているのが残念」との指摘もある。今 後の作問において留意したい。 問6 「『地理B』としては比較的易しい」との指摘を得た。臨場感やストーリー性を意識した 出題の形式については、「市役所職員との会話文を素材とした設問であり、フィールドワー クをイメージさせようとした点で、出題者の努力がうかがわれる」と出題意図を反映した評 価をいただいた。 4 今後の問題作成に当たっての留意点又はまとめ ⑴ 外部評価委員会・団体等からは、本年度の問題も、全般的に現行の高等学校学習指導要領の目 標と内容に沿った出題であるとの評価を得た。さらには、出題範囲や出題地域に関してもバラン ―130― 地理A、地理B ス良く選択されており、地理的な見方・考え方や地理的技能を問う内容が適切に出題され、知識 のみではなく、地理情報の分析や思考、判断の能力を試す出題が定着しているとの評価を得た。 また生活文化や日常生活などを踏まえた出題もあり、平成 21 年告示の高等学校学習指導要領の 教育内容改訂事項等に配慮したという点で評価を得た。 ⑵ 難易度などについてみると、以下のようなことが明確になった。今回の平均点は 69. 68 点であ り、昨年の 61. 88 点よりも大幅に上昇した。また、他科目との平均点と比べると、「世界史B」 よりも 1. 30 点、「日本史B」よりも 3. 36 点ほど高くなり、地理歴史の中では最も高くなった。た だし、「地理B」は「世界史B」、「日本史B」と比べ得点のばらつきは小さい。さらに、「地理 B」は高得点を狙いにくいとの声も強く、この点は、今後改善していく必要があるだろう。な お、主題図・グラフ・統計資料・景観写真等を多用して地理的思考力を試そうという設問形式は 評価されており、今後とも継続していきたい。 ⑶ 小問の総数は昨年より1問増加し、36 問となった。平成 25 年度までの外部評価団体からの指 摘では、むしろ小問数を減らすようにということであったが、平成 26 年度には特に意見はなかっ た。「地理A」では、時間的に余裕があったことが指摘されているので、「地理B」でも大きな違 いはないものと考えられる。 ⑷ 全体として、高等学校学習指導要領に基づいた基礎的・基本的な教科書レベルの問題を中心 に、地理的知識をもとにした考察力や思考力を必要とする問題まで幅広く包含した標準的な問題 だと評価されたと考えている。また、図表や写真を解釈・分析・考察する能力を問う問題など良 問が多かったとの評価を得たことは、問題作成部会として喜びを感じる。このことは「地理的な ものの見方や考え方を問う」という地理の出題方針が定着したものと考えている。一方で、地理 の基礎的な知識が受験者に身に付いていないのではないかという危惧も感じており、旧教育課程 的な「知識問題」も時には必要となるとも考えている。高校現場の状況把握も行いながら、今後 とも大学教育への橋渡しとなりうるような問題作成を追求していきたい。更なる改善に向けたご 意見をお寄せいただければ幸いである。 ―131―
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