高3数 γ No. 104 テイラーの定理,関数のべき級数展開 (夏期講習

高3数 γ
No. 104
テイラーの定理,関数のべき級数展開
(夏期講習/柳生)
2014/7/19
備考:この節の内容は高校数学の範囲外 である.登場する定理を答案中で証明無しに用いた場合は採
点されないかもしれない.また,試験時間中に答案中で証明を与えることも難しい.しかし,テイラー
展開を「背景」とした問題が出題されることはけっこうよくあるので,余裕のある人は一度ざっと眺め
ておくとよいと思う.
定義 1
(テイラー近似式)
f (x) を開区間 I で定義された n 回微分可能な関数とし,a ∈ I とする.また,m ! n とする.f (x)
の x = a での m 次テイラー近似式 pm (x) を以下の式で定義する.
(x − a)2
(x − a)3
(x − a)m
pm (x) = f (a) + f ! (a)(x − a) + f !! (a)
+ f (3) (a)
+ · · · + f (m)
2!
3!
m!
(例)
!
nπ"
・ f (x) = sin x は任意の実数 x で何回でも微分可能であり,f (n) (x) = sin x +
である.
2
nπ
したがって f (n) (0) = sin であり,つまり n = 0, 1, 2, 3, · · · に対して f (n) (0) は 0, 1, 0, −1 を繰り
2
返しとる.よって,f (x) = sin x の x = 0 における (2m − 1) 次テイラー近似式は
x−
x 3 x5
x2m−1
+ − · · · + (−1)m−1
3! 5!
(2m − 1)!
と表される.
・ f (x) = ex は任意の実数 x で何回でも微分可能であり,f (n) = ex である.
したがって f (n) (0) = 1 であり,f (x) = ex の x = 0 における m 次テイラー近似式は
1+x+
x2 x3
xm
+ + ··· +
2
6
m!
と表される.
また,f (n) (1) = e であり,x = 1 における m 次テイラー近似式は
e + e(x − 1) +
e(x − 1)2 e(x − 1)3
e(x − 1)m
+
+ ··· +
2
6
m!
である.
関数 f (x) とそのテイラー近似式 pm (x) との誤差を評価することで,場合によっては関数を多項式に
よって近似することが可能になる.両者の誤差はある一定の範囲に収まることを主張するのが次のテイ
ラーの定理である.
定理 6
(テイラーの定理)
n を自然数とする.f (x) は閉区間 I で n 回微分可能かつ f (n) (x) は I で連続であるとする.a ∈ I
とし,pn−1 (x) を f (x) の x = a での n − 1 次テイラー近似式とするとき,次が成り立つ.
(1) 0 以上の実数 M が存在して x ∈ I で常に |f (n) (x)| ! M であり,x ∈ I で
|f (x) − pn−1 (x)| ! M
|x − a|n
n!
が成り立つ.
(2) x ∈ I で
f (x) = pn−1 (x) +
が成り立つ.
#
x
a
(x − t)n−1
f (n) (t)
dt
(n − 1)!
備考:本当は「f (n) (x) は I で連続である」の仮定がなくても「0 以上の実数 M が存在して x ∈ I で常
に |f (n) (x)| ! M 」だけを仮定すれば (1) が成り立つ.しかしその証明は現時点で理解可能ではあるが
難しいので,仮定を強めて f (n) (x) の連続性を要請した.
(証明) (2) から先に証明する.
(2) の証明:
数学的帰納法で示す.
(i) n = 1 のとき f (x) − f (a) =
(ii) n = k (k " 1) において
#
x
f ! (t)dt であるから,成り立つ.
a
f (x) = pk−1 (x) +
#
x
f (k) (t)
a
(x − t)k−1
dt
(k − 1)!
が成り立つと仮定する.この右辺の定積分は部分積分により
#
x
f
(k)
a
# x
$
(x − t)k−1
(x − t)k %x
(x − t)k
(k)
(t)
dt = − f (t)
+
f (k+1) (t)
dt
(k − 1)!
k!
k!
a
a
=f
である.また
(k)
(x − a)k
(a)
+
k!
#
x
a
(x − t)k
f (k+1) (t)
dx
k!
(x − a)k
pk−1 (x) + f (k) (a)
= pk (x) だから
k!
# x
(x − t)k
f (x) = pk (x) +
f (k+1) (t)
dx
k!
a
が成り立ち,n = k + 1 のときも成り立つ.これで示された.
(証明終)
(1) の証明:
f (n) (x) は閉区間 I で連続だから,I において最大最小値が存在する.したがってある 0 以上の実数 M
が存在して |f (n) (x)| ! M である.
(2) と積分の単調性より
&#
&
|f (x)−pn−1 (x)| = &
x
f
a
が成り立つ.
(証明終)
(n)
# x
# x
(x − t)n−1 &&
|x − t|n−1
M
M |x − a|n
(n)
(t)
dt& !
|f (t)|·
dt !
|x−t|n−1 dt =
(n − 1)!
(n − 1)!
(n − 1)! a
n!
a
(例)
・f (x) = ex , a = 0 にテイラーの定理を適用する.任意の n について f (n) (x) = ex で,閉区間 [0, 1] で
|ex | ! e < 3 だから
&
'
(&
&
& e · 113
1
1
1
1
3
&e − 1 + + + + · · · +
&!
<
&
1 2! 3!
12! &
13!
13!
1 1 1
1
3
1+ + + +···+
= 2.71828182828617 · · · ,
= 4.81 · · · × 10−10 なので,e = 2.71828182 · · · で
1 2! 3!
12!
13!
ある.
・f (x) = sin x, a = 0 にテイラーの定理を適用する.任意の n について f (n) (x) ! 1 だから
1−
&
'
(&
&
&
&sin 1 − 1 − 1 + 1 − 1 + 1 & ! 1
&
3! 5! 7! 9! & 10!
1 1 1 1
1
+ − + = 0.84147100 · · · .
= 2.75 · · · × 10−7 なので,sin 1 = 0.84147 · · · である.
3! 5! 7! 9!
10!
・同じく f (x) = sin x, a = 0 にテイラーの定理を適用すると,x $= 0 のとき
&
&
&
'
(&
3 &
4
&
& x − sin x 1 & |x|
x
x
&sin x − x −
&!
⇐⇒ &&
− && !
&
6 & 24
x3
6
24
|x|
x − sin x 1
= 0 だから,はさみうちの原理より lim
=
x→0 24
x→0
x3
6
lim
x3 x4
x3 x4
− ! sin x ! x − + であり,x が十分小さい正の実数のとき各辺は正である
6 24
6 24
(なぜか?)から,各辺を二乗して
また, x −
x4
x4
2
2
x − + p1 (x) ! sin x ! x − + p2 (x)
3
3
2
(x は十分小さい正の実数, p1 (x), p2 (x) は最低次の項が 5 次以上の多項式)
が成り立つ.したがって,x が十分小さい正の数であるとき
x4
x4
− p2 (x) ! x2 − sin2 x ! − p1 (x)
3
3
x2
p2 (x)
x2 − sin2 x
1
1
x2
p1 (x)
−
!
=
−
!
2
2
2
2
2 − 2
2
2
2
3 sin x x sin x
x sin x
sin x x
3 sin x x sin2 x
1
が成り立つ.p1 (x), p2 (x) の最低次の項が 5 次以上だから,両端の式はともに に収束する.はさみう
3
ちの原理より
'
(
1
1
1
lim
− 2 =
2
x→+0 sin x
x
3
⇐⇒
である.この式は偶関数だから,x → −0 としても同じ極限値に収束する.したがって
'
(
1
1
1
lim
− 2 =
2
x→0 sin x
x
3
である.
テイラーの定理を応用して,指数関数や三角関数を以下のようにべき級数展開することができる。
定理 7
任意の実数 x に対して
ex =
∞
)
xn
n=0
sin x =
∞
)
n!
=1+x+
x 2 x3
xk
+ + ··· + + ···
2
6
k!
x2n+1
x3 x 5
x2k+1
(−1)n
=x− +
− · · · + (−1)k
+ ···
(2n + 1)!
6 120
(2k + 1)!
n=0
cos x =
である.
∞
)
x2n
x2 x 4
x2k
(−1)n
= 1 − + − · · · + (−1)k
+ ···
(2n)!
2
24
(2k)!
n=0
(証明)
x2 x3
xn
実数 x を 1 つ固定し,pn (x) = 1 + x + + + · · · + とおく.
2
6
n!
dn t
t
x < 0 のとき,t ∈ [x, 0] において n(e ) = e ! 1 である.また,x > 0 のとき,t ∈ [0, x] において
dt
et ! ex である.よって,1 と ex のうち大きい方を M とすると,テイラーの定理より
|x|n+1
0 ! |e − pn (x)| ! M
(n + 1)!
x
が成り立つ.x = 0 のとき最右辺は 0 に等しく,そうでないとき,|x| を下回らない最小の整数を k (> 0)
とおくと
|x|n+1
k n+1
kk · k · k · · · k
!M
=M
(n + 1)!
(n + 1)!
k!(k + 1)(k + 2) · · · (n + 1)
'
('
( '
(
'
(n+1−k
kk
k
k
k
kk
k
=M
···
!M
−→(n→∞) 0
k! k + 1
k+2
n+1
k! k + 1
M
が成り立つ.ゆえに,はさみうちの原理より lim |e − pn (x)| = 0 ⇐⇒ e =
x
n→∞
x は任意であったから,これで示された.
(証明終)
x
∞
)
xn
n=0
n!
が成り立つ.
sin x, cos x についての証明も,同様にしてできる.
備考:定理 7 のような,a = 0 における関数のべき級数表示を,マクローリン展開という.
問 20
定理 7 の sin x, cos x についての主張を証明せよ.
問 21
自然数 n に対し,多項式 fn (x) を以下の式で定義する.
fn (x) = 1 +
x x2
xn
+ + ··· +
1! 2!
n!
以下のことを示せ.
・n が偶数のとき,方程式 fn (x) = 0 は実数解を持たない.
・n が奇数のとき,方程式 fn (x) = 0 はただ 1 つの実数解を持つ.
問 22
(1) x " 0 のとき,次の不等式を示せ.
x3
x3 x5
x − ! sin x ! x − +
3!
3! 5!
(2) 曲線 y = sin x (0 ! x ! π) と x 軸で囲まれた図形を x 軸のまわりに 1 回転してできる立体を考え
る.この立体を x 軸に垂直な 2n − 1 個の平面によって体積が等しい 2n 個の部分に分割する.ただし n
は 2 以上の自然数である.
2n − 1 個の平面と x 軸との交点の x 座標のうち最も小さいものを bn とする.数列 {np bn } が n → ∞ のと
き 0 でない有限の値に収束するような実数 p の値を求めよ.また,p をそのようにとったとき lim np bn
n→∞
を求めよ.(平成 15 年 東京大 後期)
1
とする.
+1
(−1)n n! (x + i)n+1 − (x − i)n+1
(1) f (n) (x) = 2
·
と表されることを数学的帰納法で示せ.ただし i は虚
(x + 1)n+1
2i
数単位である.
問 23
f (x) =
x2
(2) |x| < 1 の範囲で,f (x) は以下のべき級数表示を持つことを示せ.
f (x) =
∞
)
n=0
(−x2 )n = 1 − x2 + x4 − x6 + · · ·