[ケモメトリクス] 混合植物油脂の油種推定 No.Q003C 【はじめに】 分子イオンスペクトルを得ることができるIAMSでは、測定者はマススペクトルパターンの違いから比較的容易に 異同識別を行うことができますが、主成分分析(PCA)やクラスター分析等の多変量解析技術を用いることでさらに 識別精度を向上させることが可能で、目視では判別し難い試料であっても識別することが可能となります。また、こ のような解析技術の適用はユーザーの恣意的な判断を排除し、客観的なデータ解析を可能とします。 アプリケーションノートNo.Q002Cでは、9種類の植物油脂を例に、PCAとクラスター分析を行い、これらの植物油 脂を容易に識別できる例を示しましたが、先の方法では、下の樹状図に示すように2種以上の植物油脂が混合して いる場合には、異なる植物油脂として識別されてしまいます。本アプリケ ションシ トでは、改重回帰分析(DCR) いる場合には、異なる植物油脂として識別されてしまいます。本アプリケーションシートでは、改重回帰分析(DCR) による混合植物油脂の油種推定を行なった例を示します。 <未知試料> オリーブ油/大豆油(50:50) 図1 混合植物油脂のクラスター分析結果 【解析手順】 解析に使用するデータはアプリケーションシートNo.Q001に記載の測定条件で、各植物油脂の測定を行いました。 植物油脂のデ タベ スとしては、アプリケ 植物油脂のデータベースとしては アプリケーションシートNo ションシ トNo.Q002Cと同様のものを用いています。 Q002Cと同様のものを用いています 解析に際しては、内部標準ガス由来のシグナルを除去した後に、各植物油脂・混合油脂のマススペクトル毎に最 大値を1として規格化を行なうことで、異なる測定日の感度変化の影響を除外しています。ノイズ除去等の他の前処 理は行なわず、0分から約8分30秒までの領域の平均マススペクトルデータ(m/z:50~1,000)を解析に使用しました。 植物油脂データベース 照合 未知試料 オリーブ油 混合油1/ オリーブ油:スイートアーモンド油(50:50) 胡麻油 混合油2/ オリーブ油:スイートアーモンド油(20:80) 大豆油 混合油3/ オリーブ油:スイートアーモンド油(5:95) 菜種油 混合油4/ オリーブ油:大豆油(50:50) ぶどう種子油 混合油5/ オリーブ油:大豆油(20:80) ジアシルグリセロール油 混合油6/ オリーブ油:大豆油(5:95) スイートアーモンド油 植物油1/ オリーブ油 アルガン油 植物油2/ オリーブ油(ココナッツ油が微量混入) ココナッツ油 【解析結果】 DCRによる解析結果を下表にまとめています。ここでは各植物油脂間での感度補正を行なっていないため、油種 の混合比までは分かりませんが、混合油中に含まれている油種を効果的に絞り込めることができました(絞込みの 精度は推定される植物油脂を含めて再測定することで向上します。混合比の推定については別途感度補正を行な うことで可能となります。【No.Q004C参照】)。また、解析結果よりマススペクトルのシグナル残差を解析することで、 微量成分の確認が可能となる場合もあります。下図は、オリーブ油測定時に前測定のココナッツ油がごく微量残留 しており、それがマススペクトル上で僅かに観察される場合の例です。目視ではほとんど判別できませんが、DCR で主要な植物油脂成分を同定し、その合成スペクトルにより測定データの残差を評価することで、オリーブ油中に 埋もれていた微量のシグナルを効果的に抽出できていることが分かります。 なお、図2ではDCR解析結果より、合成スペクトルをオリーブ油/スイートアーモンド油(98.5:1.5)の比率で作成し ていますが、オリーブ油100%としても、ほぼ同様の結果が得られます。マトリックスの影響軽減のためにDCRによ るマトリックス同定・識別を行なう場合には、数%程度の誤差は許容範囲と考えて良いと思われます。 No. 未知試料 解析結果 1 混合油1 オリーブ油/スイートアーモンド油 (49.4%, 50.6%) 2 混合油2 オリ ブ油/スイ トア モンド油/ぶどう種子油 (18.4%:80.0%:1.6%) オリーブ油/スイートアーモンド油/ぶどう種子油 (18 4% 80 0% 1 6%) 3 混合油3 オリーブ油/スイートアーモンド油 (5.3%:94.7%) 4 混合油4 オリーブ油/大豆油/菜種油 (66.4%:31.9%:1.7%) 5 混合油5 オリーブ油/大豆油 (32.8%:67.2%) 6 混合油6 オリーブ油/大豆油 (7.3%:92.7%) 7 植物油1 オリーブ油/菜種油/ココナッツ油 (99.1%:0.5%:0.4%) 8 植物油2 オリーブ油/スイートアーモンド油 (98.5%:1.5%) 2.5 マススペクトル 589 残差(変化量) 残 20 2.0 1.5 シグナル強度 200 100 617 ? 50 0 1.0 ココナッツ油成分 150 50 150 250 350 450 550 m/z 650 750 850 950 561 646 674 0.5 0.0 -0.5 50 150 250 271 263 -1.0 350345 450 289 317 417 550 609 601 650 750 627 892 866 850 950 840 921 2.0 1.8 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 m/z 図2 データ解析後の植物油脂2試料の残差スペクトル 2010年8月作成 無断転記禁止 ※本アプリケーションシートのデータ解析において数値解析研究所・三井氏の ご指導をいただきました。DCRの詳細は同氏の関連文献を参照下さい。 ツルイ化学株式会社 オリーブ油:スイートアーモンド油 油 ペクトル(98.5:1.5) 合成スペ 表1 混合油のDCR解析結果
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