ウソの言語行動が話し方と 生理反応に及ぼす影響 ○平 伸二(福山大学人間文化学部) 濱本有希(福山大学大学院人間科学研究科) 【謝辞】 本研究は平成19年度科学研究費補助金( 基盤研究( B) ,課題番号18330143) の 助成を受けて行った。また,本研究の実施にあたり,福山大学人間文化学部心理学科 上野慶子さん,光戸利奈さんの協力を得た。 ウソをつく時に変化すると思っている 非言語的行動(和田,1993) ² 視覚的チャンネル Ø 瞳の大きさ,視線,まばたき,微笑み,頭の動き,ジェスチャー,身体 操作,足の動き,姿勢変化,うなずき ² 聴覚的チャンネル Ø 発言潜時,発言時間,発言数,話のスピード,会話での言い誤り,口 ごもり,音声の高低,ネガティブな陳述,不適切な情報,自己言及 実験データによる検証 Ø 美しい景色の写真を呈示して,真実かウソの説明をさせたところ,視 線回数とまばたきはウソの説明で多く,発言時間,発言回数,視線 時間は,ウソの説明で少なかった。また,発言潜時,話のスピード, 音声の高低などに有意差が認められた。 ウソと真実の音読時の特徴(平,2006) ² 方法 Ø 血圧と脈波を測定しながら,真実の内容とウソの内容が含まれた2 種類の文章を音読する。文章は実験室で予め行動させた内容を正し く記述した文章とウソを記述した文章である。 ² 結果 Ø 真実の文章を読むのに要した時間は91.1秒,ウソの文章を読むのに 要した時間は93.5秒であり,ウソの文章を読むのに要した時間が有 意に長くなった (p<.05)。生理指標には有意差が認められなかった。 ² 課題 Ø ウソの音読で発言時間が短く,血圧・ 脈拍の増加するという仮説を支 持しなかった。日常的なウソをつく状況に近い,作話や会話中の特 徴を分析する必要性を提起した。 本実験の目的 ² 本実験では,実験室で予め行動させた内容を正しく述 べる真実の作話と異なる内容を述べるウソの作話を行 わせ,血圧と脈波を測定した。 ² 参加者には音声・生理指標・画像の分析によって,真 実とウソの文章が検出されないように教示した。 ² そして,言語行動と生理指標の比較から,真実とウソ の作話中の発言速度とウソにともなう感情や時間評価 への影響を検討した。 方 法 1 1. 実験参加者 Ø Ø 大学生18名( 女性7名,男性11名,平均年齢21.2歳) 実験中にウソをつく場面があることを説明し実験参加に同意した者 2. 装置 Ø Ø Ø 音声録音:ICレコーダ(ICD-SX66) 血圧・脈波測定:携帯型自動血圧脈拍計(TM-2431) 表情測定:デジタルビデオカメラ(HDR-UX7) 3. 予備課題 Ø Ø Ø Ø カード選択: 3枚のカードから1枚選択して数字を記憶 模擬窃盗: ダミーの小切手の抜き取り 商品注文: カタログから商品を選択し注文書に記入 休息: 赤か青の飴を選んで食べながらマンガを読む 方 法 2 4 手続き Ø 参加者はシナリオシートに基づき,机上にあるカードから1 枚を選び封筒へ入れ,レターケースに隠した。次に,ファイ ルの中から小切手を抜き取り,用意してあるバッグかポー チに入れた。そして,カタログから小切手の額面で買える 商品を選び,注文書に書き込んで注文箱に入れた。その 後,赤か青の飴をなめながらマンガを読み待機した。 Ø 安静期間終了後,カフを右上腕部に装着して予備課題に 関する真実かウソの作話を行わせた。真実とウソの作話 の順序は参加者間でカウンターバランスした。参加者には 血圧と脈波,音声分析の結果で,真実とウソの作話が検 出されないように教示した。 真実とウソの作話に要した時間と発言速度 p<.01 n 時間(秒) 100 50 真実の作話に要した時間は 62.1秒,ウソの作話に要した 時間は55.4秒であり,統計 的な有意差が認められた (t(17)=2.976, p<.01)。つまり, ウソの文章を読む時に発言 時間が短くなった。 0 真実 ウソ n 発言速度(語/分) 300 200 100 0 真実 ウソ 各参加者の発語数(すべて の発音をひらがなにしてカ ウント)を求め,1分間当たり の発語数に換算したところ, 真実の作話が214.8語,ウソ の作話が217.8語となり,発 言速度としては統計的な有 意差は認められなかった。 作話時の収縮期血圧と拡張期血圧 真実 vs. ウソ 収縮期血圧(mmHg) 150 n 100 50 収縮期血圧は,真実の作話時 に127.1mmHg,ウソの作話時 に129.9mmHgとなり,ウソの作 話で2.8mmHgの上昇が見られ たが有意差は認められなかっ た。 0 真実 ウソ 拡張期血圧(mmHg) 150 n 100 50 0 真実 ウソ 拡張期血圧は,真実の作話時 に78.4mmHg,ウソの作話時に 76.6mmHgとなり,真実の作話 で1.8mmHgの上昇が見られた が有意差は認められなかった。 作話時の脈波 真実 vs. ウソ n 脈拍(拍/分) 100 50 0 真実 ウソ 脈波は,真実の作話時に 84.6拍,ウソの作話時に84.2 拍となり,真実の作話時に 0.4拍の上昇が見られたが 有意差は認められなかった。 作話時の収縮期血圧と拡張期血圧 休憩期間との比較 収縮期血圧(mmHg) 150 n 収縮期血圧は,作話時の前後の休憩 期間と比較して増加した。作話方法 (真実・ウソ)×期間(休憩・作話・休 憩)による2要因分散分析の結果,期 間要因にのみ主効果が認められた (F(2,34)=21.343, p<.001)。多重比較の 結果,作話と前後の休憩間に有意差 が認められ(p<.05),作話前後の休憩 間には有意差が認められなかった。 n 拡張期血圧は,作話時の前後の休憩 期間と比較して増加した。作話方法 (真実・ウソ)×期間(休憩・作話・休 憩)による2要因分散分析の結果,期 間要因にのみ主効果が認められた (F(2,34)=12.905, p<.001)。多重比較の 結果,作話と前後の休憩間に有意差 が認められ(p<.05),作話前後の休憩 間には有意差が認められなかった。 100 p <.05 p <.05 真実 ウソ 50 0 休憩 作話 休憩 拡張期血圧(mmHg) 150 真実 ウソ 100 50 p <.05 p <.05 0 休憩 作話 休憩 作話時の脈波 休憩期間との比較 n 脈拍(拍/分) 100 50 p <.05 p <.05 真実 ウソ 0 休憩 作話 休憩 脈波は,作話時の前後の休憩期間 と比較して増加した。作話方法(真 実・ウソ)×期間(休憩・作話・休憩) による2要因分散分析の結果,期 間要因にのみ主効果が認められた (F(2,34)=27.325, p<.001)。多重比較 の結果,作話と前後の休憩間に有 意差が認められ(p<.05),作話前後 の休憩間には有意差が認められな かった。 考察と展望 1. 真実の作話に要した時間よりも,ウソの作話に要した時間が有意に短 くなったが,1分間当たりの発語数に換算した結果,ウソの作話の際 に発言速度が速くなるという結果は得られなかった。 2. 真実の作話で時間が長くなった原因として2つの可能性がある。 Ø Ø ストーリー以外の発言前の間投詞(「えーと」など)が有意に多くなっていた ことから(p<.05),直前の行動の記憶を短期記憶へ引き出して,作業記憶の 中央実行系において照合するために時間が費やされた。 間投詞を除いた発語数もウソの作話で有意に減少したことから(p<.05),ウ ソを話していることで時間経過を速く評価したためにウソに要した時間が短 縮した。 3. 作話が休憩期間と比較して血圧・ 脈拍を有意に増加させるという結果 は,言語行動と心臓血管系反応に関する過去の結果と一致しており (Lynch, 1985),感情変化を伴うウソの会話による実験のパラダイムと しての有効性を示唆している。 4. 今後,さらに日常場面に近い,対人場面でのウソの会話を取り入れ, ウソにともなう言語行動と生理状態の変動を検討する予定である。
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