この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. Viewpoint 拡張期血圧は二つある 高沢謙二(東京医科大学八王子医療センター循環器内科教授) 2005 年に著者が出版した「血圧革命」1)のなかで述べた 【収縮期血圧は二つある】に関しては中心血圧という言葉 の登場でだいぶ知られるようになった。内容的にはすで に 1995 年ならびに 1998 年の Hypertension2 ,3)にすべて 血圧と拡張期血圧ではなく、平均血圧と脈圧であるとい う考えから出発する必要がある。 平均血圧 記載したものであるが、大規模試験の結果あるいは機器 平均血圧とは血流の定常成分(定常流:拍動のない血 の改良と普及により最近急速に広まりつつある。こちら 流成分)によって発生する圧である。人体において拍動 はもう放っておいてもそれなりの方向に進むからよいと のない定常流となっているのは細動脈から先の末梢血管 して、今回は血圧革命のもう一つのテーマについて述べ である 4 ,5)。したがってこれらの血管の肥厚や狭小化によ る。実は今年の日本循環器学会総会で臨床試験における り総末梢血管抵抗が増すと平均血圧が上昇する。これは 拡張期血圧の評価に対するコメントを求められたが、こ 30 歳代から 50 歳代にみられる高血圧のパターンであり、 のことを知らないとまったく議論にならないという感を この年代では脈圧の増大を伴わずに平均血圧だけが上昇 強くしたので述べておく。 するので、収縮期血圧も拡張期血圧も両方とも上昇する。 これに対して 50 歳を過ぎて、動脈硬化が進んできて大き 拡張期血圧は二つある な血管が硬くなると脈圧が増大してくる。 図 1 は加齢に伴う血圧の変化である 4)。収縮期血圧は年 脈圧は基本的には 1 回心拍出量と脈波伝播速度(pulse を取るほど高くなって行く。しかし拡張期血圧は最初上 wave velocity;PWV)の積で表される 4 ,5)。通常成人にお がって行くが、50 歳代から 60 歳代に向かうあたりから下 いて、加齢に伴う 1 回心拍出量の変化はほとんどないから、 がりはじめてきて 70 歳代さらに 80 歳代と低下している。 PWV が速いか遅いかが脈圧を決定する主要因となる。つ この加齢に伴う血圧変化を理解するためには本質的な血 まり大動脈の伸展性(コンプライアンス)が低下すると、 圧の成り立ち、つまり血圧を構成している成分は収縮期 言い換えれば大きな血管が硬くなると、脈圧は増大する。 図 1 ● 加齢に伴う血圧の変化 A B 180 血圧(mmHg) 160 140 脈圧 120 100 平均血圧 80 60 0 収縮期血圧 0 20 40 年齢(歳) 拡張期血圧 60 80 0 20 40 年齢(歳) 60 80 収縮期血圧は加齢とともに上昇を続けるが、拡張期血圧は 50 歳を過ぎると低値となってゆく。しかしながら平均血圧と脈圧で考えると両者とも加齢ととも に上昇していることがわかる。 4 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. Viewpoint その結果として拡張期血圧は下のほうに移動するのであ C が ま っ た く 同 じ 拡 張 期 血 圧 な の だ。 拡 張 期 血 圧 が る。この状態は拡張期血圧が低下した、すなわち血圧が 70 mmHg で正常ですといって、実は平均血圧も脈圧もべ 下がったと考えるのではなく、脈圧が大きくなった、つ らぼうに高い高血圧の状態もあるのだ。この二つのまっ まり血圧が上がったと考えなくてはいけない状態なので たく正反対のAと C が同じ 70 mmHg の拡張期血圧として ある(図 2)。図 3 で A は 120 /70 mmHg で平均血圧も脈圧 心血管系リスクの評価としてプロットされたグラフを想 も異常のない正常血圧である。そして C は 170 /70 mmHg 像してみていただきたい。しかも拡張期血圧が下に移動 で平均血圧も脈圧も高い状態である。ところが拡張期血 した時は「血圧が下がった場合」もあれば、「血圧が上がっ 圧はまったく同じ値である。まったく正常な血管である A た場合」もあるのだ。拡張期血圧の値だけを単独で用いる と末梢血管も中枢動脈も両方とも硬化している血管である ことがいかに危険であるかおわかりいただけたであろう。 図 2 ● 平均血圧上昇と脈圧増大のメカニズム 脈圧 平均血圧 平均血圧の上昇 A 脈圧の増大 B C 総末梢血管抵抗の増大 大動脈伸展性の低下 末梢血管抵抗の上昇により平均血圧が上昇すると収縮期血圧、拡張期血圧とも上昇する。大きな血管の伸展性が低下すると脈圧が増大するため、拡張期血圧 は下方に押し下げられることになる。この状態は血圧が低いのではなく、きわめて高い状態と認識しなければならない。 図 3 ● 二つの拡張期血圧 A B C 170 120 70 70 A の 70 mmHg は平均血圧も正常で脈圧も正常な拡張期血圧である。C の 70 mmHg は平均血圧も高くさらに脈圧もきわめて大きな拡張期血圧である。しかし ながらどちらも同じ 70 mmHg の拡張期血圧である。単独の指標として拡張期血圧を X 軸にプロットしたら両者は同じリスクの状態として扱われてしまうの である。 文献 1) 高沢謙二 . 血圧革命 . 東京 : 講談社 ; 2005 . 2) Takazawa K, Tanaka N, Takeda K, Kurosu F, Ibukiyama C. Underestimation of vasodilator effects of nitroglycerin by upper limb blood pressure. Hypertension 1995 ; 26 : 520 -3 . 3) Takazawa K, Tanaka N, Fujita M, Matsuoka O, Saiki T, Aikawa M, Tamura S, Ibukiyama C. Assessment of vasoactive agents and vascular aging by the second derivative of photoplethysmogram waveform. Hypertension 1998 ; 32 : 365 -70 . 4) O'Rourke MF. Introduction. In: Arterial function in health and disease. Edinbugh: Churchil Livingstone; 1982 . p3 -10 . 5) Nicols W, O'Rourke MF. In: McDonald's blood flow in arteries: Theoretical, experimental and clinical principles. 4 th ed. London: Arnold; 1998 . 5
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