中日新聞2016年2月7日朝刊 高浜で広がる昼食奉仕 生活困窮家庭やひとり親家庭の中学生らの食の一端を地域で支える動きが、高浜市 内で広がっている。拠点は市中心部にある市の福祉施設「いきいき広場」。私も三人 の子の親として無関心ではいられない。活動がある週末、現地を訪ね、関係者の思い を聞いた。 調理器具を備えた「クッキングスタジアム」。エプロン姿の男性らがフライパンを 振り、麺を強火で炒める。ソースが絡みだすと、焼きそばの甘辛い香りが広がった。 男性らは、港小学校区の父親らでつくる「港小おやじの会」の会員。中山諭会長 (47)は「焼きそばは子どもが大好きなメニュー。いっぱい食べてもらいたい」と笑 顔で話す。 ◆困窮の子対象に ごちそうする相手は、施設内の研修室で、ボランティアの大学生らから勉強を教わ る中学生たち。経済的な問題や家庭的な事情を抱える市内の子どもを対象に市が原則、 毎週土曜日に実施する学習支援事業「ステップ」の生徒だ。 昨年7月の事業開始前、課題として浮上したのが生徒の食事。開校時間は午前9時 半~午後4時で、昼食を用意できない生徒が出る恐れもあった。ただ食費に回せる予 算はない。食材の提供と調理の協力を市民に募り、現在は子どもの健全育成や地域お こしなどに関わる15団体が交代で昼食を用意している。 ◆おやじの会協力 献立は焼きそばのほか、港小学校区の女性 有志らが作った大根入りの卵スープやモヤシ ナムル、ミカンゼリーなど。材料はおやじの 会の活動費で購入したり、野菜作りをする地 域住民から提供を受けたりした。 「いただきまーす」。正午すぎ。生徒約15 人は配膳を手伝った後、おやじの会の会員や 大学生らと手を合わせ、盛りだくさんの料理 に舌鼓を打った。母親と二人暮らしの一年女 子(13)は「今日は何が出るのかなってい つも午前中から楽しみ」と笑顔。母親と弟の 三人で暮らす三年男子(14)は「いろんな 人と話しながら食べるのも楽しい」と話す。 中山会長は「苦労している子が地元に予想 以上にいると知り、放っておけなかった。親 身になってくれる大人が身近にいることを伝 えたい」と語る。 (続く) ステップを運営するNPO法人の担当職員、城取洋二さん(33)は「自宅の食事 時間が不規則だったり、栄養が偏っている子は多い。ここでは、バランスよく食べら れる。他の世代と一緒に食事するという環境もいい」と評価する。 ◆100円支払い規則 子どもたちの尊厳にも配慮し、1人100円の食事代を支払うのがルール。「周り が何でもしてあげるでは将来的な自立の妨げになる。施しにしてはならない」。担当 する市の健全育成支援員、高橋正さん(61)はそう語る。 この半年で課題も見えてきた。高橋さんは「打ち上げ花火で終わらず、長く続ける ことが大切。協力団体をさらに開拓し、一団体当たりの負担を軽くしたい」と力を込 めた。 ◆将来自立へ教育も下支え ステップは、生徒が学力を伸ばしたいと思う科目の教科書や参考書を持ち込み、自 習する。大学生らが班ごとに付き、習熟度に合わせて助言する。一限70分で休憩を 挟みながら四限。 主な対象となる生活困窮世帯やひとり親家庭の中学生は市内に約180人。親から 子への貧困の連鎖が社会問題化する中、子どもの将来的な自立に重要な教育を下支え する狙いがある。1月末現在、36人が参加登録している。 事業は、キャリア教育に実績のあるNPO法人「アスクネット」(名古屋市)が、 市の委託を受けて運営する。参加者に開校当日の学習目標や、月ごとの学習計画など を用紙に書かせ、学習する意欲や習慣が身に付くよう工夫している。 県によると、生活困窮者自立支援法に基づき、何らかの学習支援を本年度実施して いるのは県内11市。三河は高浜のほか、碧南、豊橋、岡崎、豊田、安城、新城の6 市。 (片山健生)
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