特集に寄せて

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特集に寄せて
スポーツはさまざまな起源と役割を持つ。宗教行事として、軍事
訓練として、生活のための身体訓練として、あるいは遊びとして生
まれ、その形はさまざまな変容を重ねてきた。スポーツは文化の所
産であると同時に、スポーツが文化を生み出す。スポーツは社会と
国家に強い影響を及ぼし、社会と国家からも影響を受けてきたと言
えよう。
本特集では、このように複雑なスポーツの社会的意味を念頭にお
きながら、スポーツと社会との関係、スポーツと国家との関係を考
えたい。政治的には、スポーツで卓越すること、愛国心、国家の威
信は、いかに相互に結びつくのか。国際政治における戦略として、
スポーツはいかなる意味と力を持ちうるのか。その顕著な例が、オ
リンピックをめぐる政治の動き、経済効果の計算であろう。オリン
ピックは開催国の社会を変貌させるが、企業宣伝のひとつの形とし
てのノン・プロスポーツも社会的な影響をもつ。
また、スポーツの文化的な価値は、芸術や学問に比してどう評価
されてきたのか。歴史的には、多くの国では、貴族階級や富裕層の
子弟にスポーツが奨励された。気晴らしとしてアマチュアが楽しむ
スポーツと、高度な競技能力を追求するプロの競技者に競わせて、
賞金を賭けるという形式も生まれた。20世紀の大衆消費社会では、
ますます選手と観客の分離が進行し、プロスポーツ選手の競技に多
くの観客が熱狂するようになった。こうした状況は社会をどのよう
に変えていくのだろうか。
以上のような問題意識のもとで、スポーツの持つ可能性と社会
的・文化的な問題、隠れた政治的な意味を吟味したい。
特集は5本の論考から成る。政治学と社会学の視点からスポー
ツの意味を社会科学的に検討する論考を2本、米国、英国、日本
について、具体的にスポーツの位置と役割を考える論考3本で構
成される。
(
『学際』編集委員 猪木 武徳)
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