過敏性腸症候群の患者に対する鍼灸治療の効果 ―条件反転法による検討

56
全日本鍼灸学会雑誌,
2005年第55巻 1号 , 56-67
( 56 )
原
著
過敏性腸症候群の患者に対する鍼灸治療の効果
―条件反転法による検討―
松本
淳 1)2)、石崎直人 3)、苗村健治 4)、山村義治 4)、矢野 忠 1)
1)明治鍼灸大学健康鍼灸医学教室
2)岐阜大学大学院医学研究科東洋医学講座
3)明治鍼灸大学臨床鍼灸医学Ⅰ教室
4)明治鍼灸大学内科学教室
要
旨
【目的】過敏性腸症候群(IBS)を始めとする便通異常は、有病率が高い。また、心理的
異常を伴うことが多く、従来の治療に抵抗するものも多い。今回、IBS 患者に対し鍼灸
治療を行い、反転法により臨床効果を検討した。
【対象及び方法】罹病期間 4 年以上で半年以上の投薬によっても症状が十分に改善しな
かった IBS 患者 4 例に対し、中医学的な弁証に従い鍼灸治療を行った。治療期間(B 期間)
は 10 回ないし 20 回を 1 クールとし、無治療期間(A 期間)と交互に繰り返した。便通異
常の評価は、排便日誌をもとに、腹痛・腹部膨満感の程度、排便回数、便性状を記録し
た。また心理状態、quality of life(Q 0 L)についても評価した。
【結果及び考察】4 例中 3 例において腹痛、腹部膨満感、QOL が B 期間中は軽減し、2 例
で服薬量が減少した。心理状態には一定の傾向は見られなかった。今回の治療及び無治
療期間の経過から、鍼灸治療が IBS 患者の腹痛等の症状および QOL 改善に有効な治療と
なる可能性が示唆された。
キーワード:過敏性腸症候群、腹痛、鍼灸治療、便通異常、反転法
Ⅰ. はじめに
による経済的損失など社会的な問題も大きく、今
腹痛や腹部不快感を伴う慢性の機能性の便通異
常を呈する過敏性腸症候群(以下、IBS と表記)
後消化器科領域における最も重要な治療対象にな
ると考えられている 1-3)。
は、先進国における有病率がおおむね一般人口の
一方、鍼刺激が消化器に及ぼす効果に関しては
10∼15%であり、消化器病の中で最も多い疾患と
様々な報告がある 7,8)が、IBS に対する鍼灸治療の
もいわれる
。IBS 患者の quality of life(以下、
1-3)
臨床的な有効性を示した報告 9,10)は少ない。
QOL) 低下も重要であり 4-6)、 透析患者よりも低
今回、我々は IBS 患者 4 例に対し鍼灸治療を行
いとの報告もある 6)。治療にかかる医療費、休職
い、 条件反転法 11) を用いて腹部症状および心理
(代表連絡先)松本 淳 〒501-1194 岐阜市柳戸 1-1 岐阜大学大学院医学研究科 東洋医学講座
Matsumoto Jun, Department of Oriental Medicine, Graduate School of Medicine, Gifu University,
1-1 Yanagido, Gifu city 501-1194, Japan
受付日;平成 16 年 8 月 24 日 受理日;平成 17 年 1 月 11 日
松本
2005.2.1
状態、QOL に対する効果を検討した。
淳、他
( 57 )
57
2.鍼灸治療
鍼灸の治療穴は、各患者を中医学的に弁証し、
Ⅱ. 対象と方法
証に基づき穴性 33)を考慮して随時配穴した。弁
1.対
証と主な治療内容、治療回数を表 2 に示した。使
象
対象の条件は、腹痛や腹部不快感を伴う便通異
用した鍼は、40 mm 16 号・ステンレス製ディスポー
常を訴えて明治鍼灸大学附属病院内科外来を受診
ザブル鍼とした。刺鍼後、得気を確認した後に 10
し、IBS と診断された患者で、更に罹病期間 1 年
分間の置鍼術を行い、 雀啄や捻鍼などの手技は
以上で半年以上の薬物治療でも症状の改善が得ら
特に行わなかった。灸治療は、陽虚証が存在する
れなかった者とした。IBS の診断は、下部消化管
場合に、 脾や腎に対する温陽作用を有する経
内視鏡検査や血液学的検査により器質的疾患を除
穴 33) で、 触診により軟弱感と冷感を認めた経穴
外し、ローマⅡ基準
に対して行った。灸治療の方法は、火傷を避ける
に基づいて行った。
1,2)
検討した症例は 4 名で、男性 2 例、女性 2 例、
ため米粒大の七分灸とし、連続して施灸して治療
平均年齢は 53±23 歳 (平均±標準偏差)であっ
穴に温感を感じるまで続け、壮数は概ね 10∼20
た。4 名の患者のプロフィールを表 1 に示した。
壮程度となった。
IBS 罹病期間は 4 年が 3 名、8 年が 1 名であった。
本研究を行うにあたり全患者に対し、研究の趣旨
3.研究デザイン
とプロトコールを説明し、また研究への参加及び
研究デザインは、1 事例研究法の反転法を用い
離脱は患者の自由意志によることを説明した上で
た 11)。即ち、鍼灸治療を行わない期間(無治療期
文書により同意を得た。本研究計画は、明治鍼灸
間、A 期間)と鍼灸治療期間(治療期間、B 期間)
大学研究倫理委員会の承認を得て行った。
とを設け、これを交互に繰り返し、少なくとも 2
表 1 対象患者一覧
症例
年齢
/性別 病
態
罹病
期間
腹部症状
服
排便回数
便性状
(平均/日)
内
薬
容
期間
(か月)
1
38/F
IBS
4年
腹 痛
腹部膨満感
7
軟便∼
水様便
臭化メペンゾラート
乳酸菌製剤
臭化ブチルスコポラミン
2
44/F
IBS
4年
腹 痛
腹部膨満感
1.6
軟便∼
水様便
ポリカルボフィル
11
0.6
軟便∼
水様便
マレイン酸トリメブチン
酸化マグネシウム
センノシド
メトクロプラミド
15
96
14
8
9.4
軟便
ポリカルボフィル
塩酸ロペラミド
12
36
3
88/M
IBS
8年
腹 痛
腹部膨満感
4
45/M
IBS
4年
腹 痛
腹部膨満感
表2
8
8
頓用
各症例の弁証・治療内容・治療回数
症例
弁
証
1
肝脾不調
脾腎陽虚
2
脾腎陽虚
気滞
3
脾腎陽虚
4
肝脾不和
陽虚
治療穴
陰虚
1期間の治療回数
足三里、肝兪、脾兪、照海、肺兪、関元(灸)
20 回
足三里、脾兪、腎兪、肝兪、百会、関元(灸)
10 回
足三里、脾兪、関元(灸)、太谿(灸)
10 回
足三里、肝兪、脾兪、腎兪、大腸兪、次
関元(灸)
、四神総、
20 回
58
( 58 )
原
著
全日本鍼灸学会雑誌55巻1号
回目の治療期間の終りまでを観察期間と定めた
る 15 項目の消化器症状による日常生活へ及ぼす
(ABAB 法)。 鍼灸治療の頻度は 1 週間に 1 回∼2
影響(悪影響)に関する質問表で、
「酸逆流」
「腹
回とし、1 期間あたり 20 回の治療を原則とした。
痛(上腹部)
」「消化不良」「下痢」「便秘」の 5 つ
但し、患者の都合により来院困難な場合は 10 回
の下位尺度に関する QOL を評価できる。今回は、
を 1 期間とした。一方、2 回の治療期間の間に設
便通異常に関係するものとして下位尺度の「下痢」
ける無治療期間は、治療期間と同等以上の日数を
と「便秘」の尺度を抽出して評価した。下位尺度
設けることを基本とした。但し、無治療期間中に
の「下痢」の尺度は、軟便、排便回数の多さ(下
症状が顕著に増悪して患者からの要望があった場
痢)、便意切迫感の 3 項目の平均値から構成され、
合は、その時点より治療期間を開始することとし
「便秘」は、便を出し切れない状態(便秘)
、硬便、
た。また、無治療期間も、少なくとも 2 週間に1
残便感の 3 項目の平均値から構成される。GSRS
度は患者と面接し、鍼灸治療以外の問診や触診な
のスコアは 1∼7 で構成され、 スコア 1 は消化器
どの診察を行い、治療期間に対し鍼灸の施術以外
症状が患者の日常生活に全く影響していないこと
はできるだけ条件を一定にした。
を示し、スコア 7 は容認できないほどの悪影響を
観察期間中の内科主治医による対象患者の診察
与えていることを示す。
は、本研究への参加前と同様とし、2 週間から 1
か月に 1 回の頻度で継続した。観察期間中、便通
(3)心理状態
異常に関する投薬内容は一定とする事を原則とし
Profile of mood states(以下、 POMS) 日本語
たが、症状の軽減ないし増悪が顕著に見られた場
版 13)の 5 つの尺度から抑うつ・落ち込みと緊張・不
合は、主治医の判断で投薬内容を変更する事とし
安の 2 つの尺度を抽出して評価した。
た。鍼灸治療外来及び内科外来において、食事内
容など日常生活に関する指導は、特に行わなかっ
た。
5.効果の検討
毎日記録した腹痛、腹部膨満、排便回数、便性
状は、1 週間毎のデータから 1 日あたりの平均値
4.評価項目
を算出し、無治療期間及び治療期間の最後の一週
(1)排便日誌
間を比較した。GSRS と POMS は治療期間の開始
独自に作成した排便日誌を用いて、腹痛(下腹
時と終了時に過去 1 週間の状態を聴取して比較し
部痛)、腹部膨満感、排便回数、便性状を患者に
た。2 回の鍼灸治療期間毎に少しでも各評価項目
毎日記入させた。 腹痛の程度は、 0∼4 の5段階
の数値の減少がみられ、さらに 2 回の治療期間を
(0:痛みなし、1:あっても軽い、2:中等度、3:
経て初診時より各項目の数値の減少がみられた場
かなり痛むが耐えられる、4:非常に強くて耐え
合、その項目は鍼灸治療に伴い改善したとみなし
がたい痛み)
、腹部膨満感は、0∼2 の3段階(0:
て鍼灸治療が有効であったと捉えた。
膨満感なし、1:軽い、2:強い)とした。便性状
は、水様便、軟便、普通便、硬くて太い便、兎糞
状便の 5 種類とし、排便のたびに記入させた。
また、その他の随伴症状や食事内容の大きな変
化、日常生活での出来事など特記事項があれば備
考欄に自由に記述させた。
Ⅲ. 結
果
4 例全例の治療期間、無治療期間毎の変化を以
下に示した。
1.腹痛、腹部膨満感
症例 1、2、3 の 3 例は、鍼灸治療期間毎に腹痛
と腹部膨満感の減少がみられ、無治療期間には増
(2)QOL
加した(図 1 a,b)
。
消化器症状の QOL 評価表である Gastrointestinal
Symptoms Rating Scale(以下、GSRS)日本語版 12)
を用いて評価した。GSRS は、過去 1 週間におけ
2.排便状態(排便回数、排便日数、便性状)
排便状態のうち、排便回数、便性状の変化につ
松本
2005.2.1
淳、他
( 59 )
a.腹痛
×
■
■
↑ 2
×
▲
▲
症例1
悪化
×
2
■
b.腹部膨張感
59
症例2
■
■
■
×
■
×
■
▲
症例3
×
■
1
■
1
×
▲
治療
無治療
無治療
治療
▲
0
治療
■
無治療
治療
▲
×
症例4
×
▲
▲
■
■
▲
■
無治療
■
軽減
0
■
■
■
↓
図 1 腹部症状の変化
期間毎に a.腹痛、b.腹部膨満感の推移を示した。縦軸は日誌上の平均値を示した。横軸は時間軸を示し、鍼灸治療期間
を治療(期間)、鍼灸治療を行わない期間を無治療(期間)として示した。
■
■
×
■
▲
症例3
4
■
3
25
■
▲
■
▲
■
▲
×
×
×
▲
■
×
0
0
無治療
治療
無治療
治療
無治療
治療
無治療
治療
×
症例4
1
■
50
症例2
×
■
5
■
75
■
■
6
2
▲
×
8
7
▲
症例1
▲
■
▲
■
100
b.便性状
(軟便+水様便の割合)
■
×
%
■
9
a.排便回数
(回/日)
■
回/日
10
図 2 排便回数、便性状の変化
期間毎の a.排便回数の変化、b.便性状(水様便+軟便)の変化を示した。
a.の縦軸は排便回数、b.の縦軸は 1 日の排便の中で水様便と軟便の占める割合(%)を示した。横軸は時間軸を示し、鍼
灸治療期間を治療(期間)
、鍼灸治療を行わない期間を無治療(期間)として示した。
いて図 3 に示した。平均排便回数について、症例
軟便と水様便を併せた回数の割合を示したが、症
2 は、 2 回の治療期間中にそれぞれ 1.6 回/日から
例 1 と3においては、 100%のまま変化しなかっ
0.9 回/日、1.7 回/日から 1.1 回/日と減少し、無治療
た(図 2 b)
。
期間には増加したがその他の症例では、 2 回の治
療期間に共通する一定の傾向はみられなかった
(図 2 a)。便性状として、1 日の排便回数に対する
3.QOL
GSRS の軟便、排便回数の多さ、便意切迫感で
60
原
( 60 )
著
全日本鍼灸学会雑誌55巻1号
10
7
■
▲
9
6
6
■
×
■
6
×
4
×
■
3
3
■
■
×
4
▲
3
▲
×
▲
▲
■
1
無治療 治療 無治療 治療
無治療 治療 無治療 治療
■
無治療 治療 無治療 治療
■
▲
2
▲
■
1
■
▲
■
▲
2
■
▲
■
1
■
×
症例4
2
■
▲
症例3
5
■
■
×
×
■
×
7
×
■
■
■
4
▲
■
症例2
5
×
■
■
5
×
×
8
▲
症例1
7
■
(下痢と便秘の尺度の和)
b.GSRS
(便秘に関する尺度) c.GSRS
a.GSRS
(下痢に関する尺度)
図 3 QOL の変化
GSRS の a.下痢に関する尺度、b.便秘に関する尺度、c.便秘に関する尺度と下痢に関する尺度の和の変化を示した。グ
ラフ縦軸は GSRS のスコアを、横軸は時間軸を示し、鍼灸治療期間を治療(期間)、鍼灸治療を行わない期間を無治療(期
間)として示した。GSRS のスコア1は各消化器症状が患者の日常生活に全く影響していないことを示し、スコア 7 は日常
生活に容認できないほどの悪影響を与えていることを示す。
a.POMS
(抑うつ)
症例1
■
■
×
80
■
80
70
▲
■
■
60
×
▲
50
■
▲
▲
■
▲
■
■
■
30
40
▲
■
■
30
無治療
治療
無治療
治療
×
症例4
40
▲
症例3
▲
×
×
×
×
■
■
60
T得点
■
T得点
▲
■
症例2
70
■
×
×
50
■
b.POMS
(緊張・不安)
無治療
治療
無治療
治療
図 4 心理状態の変化
POMS の a.抑うつ状態、b.不安緊張状態の変化を示した。グラフの縦軸は POMS の T 得点を、横軸は時間軸を示し、鍼灸
治療期間を治療(期間)、鍼灸治療を行わない期間を無治療(期間)として示した。T 得点は各尺度が 85 点満点で、75 点
以上は専門医の受診の考慮を必要とする状態とされる。
構 成 さ れる 下 痢 に 関 す る尺 度 に お い て、 症 例
2、3 の 3 例は、治療期間毎に減少し、無治療期間
1∼4 の値は、 鍼灸治療開始前の無治療期間は、
中に増悪した (図 3 a)。 さらに同様の 3 例は、 2
それぞれ 6.7、2.7、4.3、4.0 であったが、症例 1、
回の治療期間を経てそれぞれ 4.3、 1.7、 1.0 とな
松本
2005.2.1
淳、他
( 61 )
61
り、初診時に比べ低値を示した。便秘の尺度にお
態が 2 回目の無治療期間と治療期間に、症例 4 の
ける症例 1∼4 の値は、鍼灸治療開始前の無治療
緊張・不安状態が 1 回目の治療期間に、それぞれ
期間は、それぞれ 1.3、4.7、5.3、4.7 であったが、
85 点を示した。
症例 2、3 の 2 例は治療期間毎に減少し、症例 2 は
無治療期間に増悪した。症例 1、2、3 の 3 例は、2
5.投薬内容の変化
回の鍼灸治療期間を経てそれぞれ 1.0、1.7、1.3、
2 回の治療期間を経て、症例 1、3 の 2 例では便
2.7 となり初診時に比べて低値を示した(図 3 b)。
通異常に関する服薬量が減少し、中止となった投
下痢と便秘に関する尺度の和の値は、症例 1、2、
薬もあった。症例 4 のみ、投薬の追加・増量がみ
3 の 3 例で、治療期間毎に減少して無治療期間中
られた。
(表 3)
に増悪し、2 回の治療期間を経て、それぞれ初診
時より低値を示した(図 3 c)。症例 4 の下痢の尺
6.備考欄
度及び下痢と便秘に関する尺度の和の値は1回目
症例 1 が 1 回目の治療期間終了後の無治療期間
の治療期間中に悪化し、投薬が増量された無治療
と 2 回目の治療期間中に、症例 4 が 1 回目の治療
期間中に改善した。
期間中に、それぞれ事故や家族の入院などの出来
事があり、それを契機とした不安感やイライラ感
等の精神状態の不良を訴えた。また、症例 4 は、
4.心理状態
POMS の抑うつ状態、緊張不安状態は、治療期
腹痛や腹部膨満感以外に便意を伴う肛門部の不快
間に軽減したものもあるが不変ないし悪化したも
感を訴える事が多かった。食事習慣の大きな変化
のもあり、2 回の鍼灸治療期間中に共通する一定
などはみられなかった。
の傾向はみられなかった(図 4)
。POMS は、T 得
点 75 点以上が専門医の受診を考慮する必要があ
り 13)、85 点が最高値であるが、症例 1 の抑うつ状
表3
Ⅳ. 考
察
IBS の国際的な診断基準であるローマⅡ基準で
投薬内容の変化
症例
投薬内容
観察期間前
観察期間後
1
臭化メペンゾラート
乳酸菌製剤
臭化ブチルスコポラミン
塩酸ロペラミド
(mg/日)
(g/日)
(mg/週)
(mg/週)
45
3
80 (頓服)
2∼3(頓服) *
45
3
不要
不要
2
ポリカルボフィル
(mg/日)
3000
3000
3
マレイン酸トリメブチン
酸化マグネシウム
センノシド
メトクロプラミド
(mg/日)
(mg/日)
(mg/週)
(mg/日)
600
2
48 (頓服)
15
300
不要
不要
不要
4
ポリカルボフィル
(mg/日)
塩酸ロペラミド
(mg/週)
ロキソプロフェンナトリウム(mg/日)
マレイン酸トリメブチン
(mg/日)
エチゾラム
(mg/日)
マレイン酸フルボキサミン (mg/日)
人参湯
(g/日)
2500
2∼4 (頓服)
180
300*
3*
0*
7.5*
3000
14
180
300
3
50
不要
*2 回目治療期間開始前に追加したものを示す.
各患者の観察期間前後における投薬内容の変化を示す。
62
原
( 62 )
著
全日本鍼灸学会雑誌55巻1号
は、「腹痛あるいは腹部不快感が 12 か月の中の連
2.今回の IBS 患者に対する鍼灸の効果について
続とは限らない 12 週間以上を占め、 その腹痛あ
(1)腹部症状及び排便状態
るいは腹部不快感が、①排便によって軽快する、
腹痛や腹部不快感の存在は、前述の診断基準に
②排便頻度の変化で始まる、③便性状の変化で始
もあるように IBS の前提条件であり、治療上もこ
まる、の 3 つの便通異常のうち 2 つ以上を伴うも
れらの是正が重要である。近年明らかになりつつ
の」と定義されている 3)。IBS の主要な病態とし
ある IBS の病態に基づく新薬の開発もこの方向に
ては、消化管運動の異常、消化管知覚閾値の低下、
沿って行われているものが多い 3)。
心理的異常の脳腸相関を介した悪循環
が挙げ
今回の症例の腹痛及び腹部膨満感は、4 例中 3
られる。一般的な治療法としては、抗コリン薬、
例において 1 回目の鍼灸治療期間に軽減し、治療
消化管運動調整薬、下剤、整腸剤、抗うつ薬、抗
を中止すると増加し、治療を再開すると軽減した
不安薬等を投与し、それらに抵抗する患者に対し
ため、鍼灸治療はこれらの症例の腹痛及び腹部膨
ては心理療法なども行われる
1,3,14)
。 近年ポリカル
満感の軽減に有効であったと考えられた。排便回
ボフィルカルシウムを始めとする新薬も使用され
数は、2 回の鍼灸治療期間に共通するような一定
ている が、治療法は確立されていない。我々は、
の傾向はみられなかった。
1,3)
3)
IBS 患者に対する鍼灸治療の有効性を検討するた
めに本研究を行った。
(2)QOL
IBS は、明確な客観的指標が確立されておらず
1.研究デザインについて
重症度の判定が困難だが、患者の自己評価による
IBS 治療法の種々の研究によると、IBS 患者は
重症度は、腹部症状そのものよりも QOL の障害
プラセボ反応が様々で、プラセボ効果は全体の
の程度と関係する 5)。更に消化器症状は一般的健
40 ∼ 70%に上るとの報告もある 15,16)。プラセボ効
康状態あるいは社会生活機能にも様々な影響を与
果の特徴は、すばやい反応、変化の強さ、長期的
えること、IBS 患者の QOL は一般人のみならず、
に投与すれば次第に効果が減少すること等にあり、
透析患者よりも低値を示す場合があることなどか
プラセボ効果を排除するには、ダブルブラインド
ら、IBS の治療効果の評価として QOL の改善が重
の RCT を用いることや、 Run-in period の設定、
要視されている 4,6)。
一定期間以上(少なくとも 8∼12 週間)に治療期
今回は、消化器症状に関する QOL を評価でき
間を設けること、フォローアップ期間の設定など
る GSRS を用いて、便通異常に関係する下痢の尺
が必要とされる 15,16)。
度と便秘の尺度を抽出して評価した。スウェーデ
本研究では、我々の施設でまとまった症例数を
ンの健康成人を対象にして行われた調査によると、
得ることが困難なこと及び、偽鍼やダブルブライ
GSRS の下痢に関する尺度は、平均値(95%信頼
ンドの設定が困難であるという鍼灸治療そのもの
区間)が 1.38(1.35‐1.41)であり、性別や年齢
の特性により、対照群の設定や盲検法の採用は困
による有意な差はないことが報告され、同様に便
難と判断し、反転法 11)を用いて 1 症例ごとの鍼灸
秘に関する尺度に関しては、性別や年齢により若
治療の有効性を検討することとした。また、罹病
干の差はあるものの、平均値(95%信頼区間)は
期間が長く現代医学的な投薬を半年以上受けてい
1.55(1.51‐1.58)と報告されている 27)。
るが症状の改善がみられない患者を本研究の対象
鍼灸治療開始前は、下痢に関する尺度に関して、
とし、無治療期間をはさんで 2 回の治療期間を設
4 例全例が平均を上回る値を呈し、便秘に関する
けた。観察期間は、6 か月から 13 か月(平均 8.2
尺度に関しては症例 2∼4 の 3 例が平均を上回る
か月)となった。
値を示した。そのため便通異常による QOL の低
下が全例に認められたと考えられた。下痢の尺度
は、 症例 1∼3 の 3 例で治療期間毎に減少し、 終
了時には症例 3 は 1.0 と最小値を示し、 症例 2 は
松本
2005.2.1
淳、他
( 63 )
63
1.7 と減少して健常人の平均値に近づいた。症例 1
や、後述する治療期間中の心理状態の増悪、腹部
も 4.3 となり、依然として高値ではあるが、初診
膨満感の増悪が影響した可能性や、その他今回は
時と比較すると減少した。便秘の尺度は、症例 2、
数値的な評価を行わなかった肛門部の不快感など
3 が治療期間毎に減少を示し、症例1の値は開始
が影響した可能性が考えられたが、明確ではなかっ
時点で 1.3 と健康成人の平均値を下回っていたが、
た。
1 回目の鍼灸治療期間は不変であり、2 回目の鍼
灸治療期間に減少して 1.0 と最小値を示した。IBS
3.心理状態と IBS の症状との関連について
では下痢と便秘が交代性あるいはほぼ同時に起
消化器は心理的ストレスの影響を受け易く、ス
こり下痢型や便秘型を明確に区別できない場合が
トレス-脳-消化器という軸は、脳腸相関と呼ばれ、
あるため、 QOL 評価としても便通異常全体とし
近年 IBS の病態として重要視されている 1,3,14)。IBS
て両者を併せて行うことが重要であると考えられ、
の消化器症状が抑うつを代表とする精神症状の
下痢に関する尺度と便秘に関する尺度の和の変化
増悪とともに増悪し、心理状態の改善とともに改
を併せて検討した。その結果、下痢・便秘の尺度
善することは日常的に経験され 14,28)、心理社会的
の和も同様に症例 1∼3 において治療期間毎に減
刺激(ストレス)による腹痛や便通異常の発症・
少し、さらに 2 回の治療期間終了後には初診時よ
増悪は典型的な IBS の特徴的病態の一つとされて
り低値を示した。そのため、これらの症例では、
いる 14,29,30)。近年の研究でも IBS 患者では心理スト
鍼灸治療が QOL の改善に有効であったと考えら
レス負荷による十二指腸の運動異常が認められ、
れた。
腹部症状の出現と関連すること 31)、IBS 患者では、
症例 1、3 は、便性状として軟便・水様便の割
ス ト レ ス 反 応 の common
mediator で あ る
合は 100%のままで観察期間を通して不変であっ
corticotropin - releasing hormone (CRH) の静注に
たが、GSRS の軟便・排便回数の多さ・便意切迫
より、健常者に比し、adrenocorticotropic hormone
感から構成される下痢に関する尺度は鍼灸治療期
の過剰な分泌と同時に腹痛を伴う消化管運動の
間に減少を示した。GSRS のスコアは、各項目が
亢進や異常がみられる 32)ことなど、IBS 患者にお
日常生活に及ぼす支障について聴取するものであ
いては、ストレスに対する消化管の過剰反応がみ
るため、症状の頻度や程度に関連はしているが、
られることが報告されている 14)。さらに IBS 患者
必ずしも頻度や程度と同一とはならない 。症例
の心理傾向として抑うつ状態や不安神経症を示す
1、3 は、GSRS の結果が便通日誌上の腹痛(下腹
ものが多い 14)。そこで、 POMS の抑うつ・落ち込
部痛) と腹部膨満感の改善と同様に推移した。
みと緊張・不安の尺度を用いて心理状態の変化を
GSRS の項目には下腹部痛に関する評価項目はな
評価した。
12)
いため明確ではないが、これらの症例では腹痛や
今回の症例の POMS の値は、治療期間に軽減し
腹部膨満感が改善したことが、患者の自覚する便
たものもあるが、不変ないし悪化した症例もあり、
性状や排便回数における日常生活への支障の減少
2 回の鍼灸治療期間に共通する一定の傾向は認め
にも影響して QOL 改善に関与した可能性が考え
られなかった。
られた。また、便性状に著変がなくても、IBS の
心理状態の変化は、便通異常の原因でなく、結
治療として重要である QOL の改善が認められた
果としても起こりうるため一概には論じられない。
ため、鍼灸治療はこれらの患者の IBS に対する治
しかし、症例 1、4 は、心理状態が不良であった
療として有効であったと考えられた。
期間にそれぞれ本人や家族の事故や病気などの精
症例 4 は、便秘に関する尺度は、治療期間毎に
神的ストレスの原因となる出来事を新たに抱えて
減少を認めたものの、下痢に関する尺度や、便通
おり、便通日誌でもそれらの出来事を契機として
異常全体の評価としての下痢と便秘の尺度の和は、
心理状態の不良を訴えていたことから、症例 1、4
無治療期間中に減少がみられ、治療期間に増加し
における POMS の増悪は、 便通異常自体に起因
た。無治療期間中に新たに投与された投薬の影響
したというよりも、それらの出来事が関与した可
64
( 64 )
原
能性が大きいと考えられた。
著
全日本鍼灸学会雑誌55巻1号
ら 9)や Fireman ら 10)の IBS に対する鍼治療の効果
症例 1 は、抑うつ・不安緊張状態ともに減少し
を検討した報告でも治効機序は明確でなく、今回
た1回目の鍼灸治療期間には、腹部症状も大きく
のような腸管由来の慢性の内臓痛に対し、長期的
減少した。しかし抑うつ・不安緊張状態ともに無
な鍼灸治療の治効機序を明確に示す報告はない。
治療期間に増悪し、抑うつ状態が最高点である
Xing ら 24)は、経穴に対する経皮的電気刺激が IBS
85 点を示したまま不変であった 2 回目の鍼灸治療
患者の直腸の知覚閾値を増加させることを示し、
期間前後では、1 回目の治療期間ほど大きな腹痛
さらにこの効果は直腸の生物力学的な変化により
や GSRS 値の減少は得られなかった。症例 4 の心
調節されるものではないことを報告した。 Xiao
理状態は、1 回目の鍼灸治療期間中に増悪を示し、
ら 25)も、経穴に対する経皮的電気刺激(acupoint
特に緊張・不安状態が専門医の診察の考慮が必要
TENS) が、 短期の効果として下痢症 状優位の
とされる 75 点を上回って最高点である 85 点まで
IBS 患者の直腸知覚閾値を増加させ、さらに長期
大きく増加した。この期間は、腹痛や排便回数の
的な効果として 2 か月間の acupoint TENS treat-
軽減がみられず、GSRS の値も増悪したが、 1 回目
ment の後に、直腸の知覚閾値の有意な増加と、
の治療期間終了後に抗不安薬および抗うつ薬の処
排便回数と腹痛の強度の有意な減少がみられたこ
方で値が減少し、 2 回目の鍼灸治療期間前後では
とを報告した。経穴への鍼灸刺激においても類似
POMS の緊張・不安状態の初診時の値への復帰と
の機序が存在する可能性が推察されるが明確では
ともに、排便回数や腹痛等の値の減少がみられた。
ない。本研究の症例 1 と症例 3 は鍼灸治療期間に
今回の症例では、鍼灸治療に抵抗する要因として、
腹痛と腹部膨満感が軽減したが、腸管の輸送時間
これらの心理的異常が関与した可能性が考えられ
を反映する 26) とされる便性状の割合に変化は認
た。
められず、心理状態にも 2 回の治療期間に共通す
る明確な反応はみられなかった。そのため、これ
4.鍼灸治療の治効機序について
らの症例の腹痛や腹部膨満感の改善は知覚閾値を
IBS の病態の中心は、大腸だけでなく小腸をも
中心に影響した可能性が推察されるが、今回の研
含む消化管の運動異常、消化管の知覚閾値異常、
究方法及び結果からは鍼灸治療の効果の機序は明
心理的異常が脳腸相関を介し悪循環を形成して症
確にできず、今後の検討課題であると考えられた。
状を助長している事が考えられる 14)。
以上、各評価項目について、鍼灸治療期間と無
鍼灸による腸管運動への影響に関しては、これ
治療期間を反転させながら比較検討してきた。そ
までに、ヒトのグル音やラットの腸管運動を指標
の結果、3 例において IBS の治療として重要であ
に鍼灸刺激や鍼通電刺激による腸管運動への影響
る腹痛及び腹部膨満感、 QOL が治療期間毎に改
を示した報告等 9,17-20)がある。 また、腸管運動に
善し、なおかつ、2 回の治療期間終了後には、鍼
対する長期の鍼灸治療の効果としては慢性便秘の
灸治療開始時よりも低値を示した。そのため、こ
患者において鍼通電刺激や鍼治療を数週間行い、
れらの項目で鍼灸治療が有効であったと考えられ
放射線非透過性マーカーの結腸輸送時間や血漿中
た。今後、より詳細な検討が必要だが、鍼灸治療
のオピオイド活性を指標に効果と機序を検討した
は IBS 患者の有効な治療法となることが示唆され
報告 21,22)があるが、長期の鍼灸治療の効果に関す
た。
る機序は明確にはされていない。
次に、消化管の知覚閾値への影響に関して、麻
Ⅵ. 結
語
酔下ラットの顔面部への鍼の強い回旋刺激により
1. 内科的な薬物治療の奏効がみられなかった
腸管由来の内臓痛が抑制されることを示す報
IBS 患者 4 例に対し条件反転法に基づき鍼灸治療
告 23) を始め動物実験では幾つか機序に迫る報告
を行った。
もある 7)が、今回用いた置鍼のような軽微な刺激
で は 変 化 が 起 こ ら な い 23) と も い わ れ る 。 Chan
2.4 例中 3 例で、服薬の増量なく鍼灸治療期間毎
松本
2005.2.1
淳、他
( 65 )
65
に腹痛及び腹部膨満感、 QOL が改善し、鍼灸治
double-blind controlled study . Digestion. 2001;
療を中止すると増悪した。
64: 100-3.
11) 桑田
3.2 例では、2 回の鍼灸治療期間を経て服薬量が
減少した。
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松本
2005.2.1
淳、他
( 67 )
67
Original Research
Effect of Acupuncture Treatment in Patients
with Irritable Bowel Syndrome
―A Series of Single Case Study―
MATSUMOTO Jun 1)2),ISHIZAKI Naoto 3),NAMURA Kenji 4),
YMAMURA Yoshiharu 4),YANO Tadashi 1)
1) Department of Health Promoting Acupuncture and Moxibustion,Meiji University of Oriental Medicine
2) Department of Oriental Medicine,Graduate School of Medicine,Gifu University
3) Department of Clinical Acupuncture and Moxibustion I,Meiji University of Oriental Medicine.
4) Department of Internal Medicine,Meiji University of Oriental Medicine
Abstract
[Background/aim] Irritable bowel syndrome (IBS) is one of the most common gastrointestinal disorders, affecting more than 15%of Western populations. It is characterized by a wide variety of persistent symptoms (abdominal pain or discomfort,bloating,transit disorders) without any clear organic causes. Because medical
treatments are sometimes ineffective,some patients with IBS seek alternative therapies to manage the condition. The aim of the present study was to investigate the clinical effect of acupuncture treatment in patients
with IBS.
[Method] Four patients with IBS were treated with acupuncture according to the way of Traditional Chinese
Medicine. We employed reversal single-case study design in which an acupuncture treatment period (''period
B") was alternated with no treatment period (''period A"). Ten or twenty times acupuncture therapies were performed during the "period B" and the length of the "period A" was comparable with the "period B" GSRS,
frequency of defecation, softness of the stool, intensity of abdominal pain or abdominal fullness, and POMS
were recorded over the periods.
[Results] During the "period B", three patients showed a remarkable improvement in lower abdominal pain,
abdominal fullness and QOL evaluated with GSRS, while the psychological condition evaluated with POMS
showed inconsistent changes without a remarkable improvement.
[Conclusion] The result of our study indicated that acupuncture might be useful for the management of IBS.
Zen Nippon Shinkyu Gakkai Zasshi (Journal of the Japan Society of Acupuncture and Moxibustion: JJSAM).
2005; 55(1): 65-76. Received August 24, 2004; Accepted January 11, 2005
Key words: irritable bowel syndrome,abdominal pain,acupuncture and moxibustion,single case study,
reversal design