メタル導線間の誘導特性と遮蔽特性 九州東海大学 大学院工学研究科 情報工学専攻 井手口 健 目次 5. メタル導線間の誘導特性と遮蔽特性・・・・・・・・・・・2 5.1 2本のメタル導線間の誘導諸問題・・・・・・・・・・2 5.2 静電結合およびその遮蔽のメカニズム・・・・・・・・5 5.3 電磁結合およびその遮蔽のメカニズム・・・・・・・・8 5.4 電磁誘導遮蔽ケーブルの構造としくみ・・・・・・・・13 5.5 その他の電磁誘導対策・・・・・・・・・・・・・・・20 5.6 静電結合と電磁結合の見分け方・・・・・・・・・・・21 5.7 高周波での誘導現象(分布定数回路間の誘導現象) ・・ 23 5.8 高周波での誘導現象を利用したノイズ対策・・・・・・26 1 5.メタル導線間の誘導特性と遮蔽特性 5.1 2本のメタル導線間の誘導諸問題 [質問5.1] 2本のメタル導線間の誘導問題とは何ですか? [回答] 2つの大地帰路回路間での誘導を扱う問題と考えて良いでし ょう。 図5.1に示すように、一方の導線と電 #1 起誘導線 流帰路からなる回路にあらかじめ電圧電流 が発生している場合、この回路を起誘導回 路とし、もう一方の導線と電流帰路からな #2 被誘導線 る回路にどのような電圧電流が誘導される 図5.1 メタル導線間の誘導モデル かを扱う問題である。 前章で説明されているメタル通信ケーブ ル内の通信回線間の漏話現象も誘導問題の1種であるが、 ここでは一般の電磁ノ イズの誘導問題として一般的に考えると、 ほとんどが屋外の場合はメタル導線の 大地帰路回路間の誘導現象、屋内の場合は、メタル導線と鉄筋など構造体からな る回路間の誘導現象を扱うことになる。 [質問5.2] メタル導線間での電磁ノイズ誘導現象としてはどういう ものがあるのですか? [回答] 多くは強電設備である電源線から弱電設備である通信線への 誘導問題です。 2 古くから採り上げられている問題として、 商用周波の送電線や配電線から商用 周波やその高調波が、併設されているメタル通信線への誘導がある。 送配電線 の相線と大地間からなる回路が起誘導回路となり、 側に張られているメタル通信 線と大地からなる回路に静電誘導、電磁誘導を発生させる問題である。この問題 には、AC送配電線の常時運転時に発生する常時誘導と、送配電線が地絡事故を 起こした時に発生する異常時危険電圧誘導がある。 前者はメタル通信線に接続さ れる交換機や電話機の通話品質を悪くするように働き、後者はメタル通信線を 触って働く作業者が感電する問題となる。 また、図5.2に示すように、蛍光灯など家電品の接続されているAC配電線 とメタル通信線が屋内で併設されている場合に、蛍光灯のスイッチのon、of f時にAC電源線と建物鉄筋間にインパルス性の電磁ノイズが発生し、 メタル通 信線に−建物鉄筋間に誘導し、 ディジタル伝送信号に誤りを発生させることがあ る。 最近ではビルディング内におけるインバー 十∼百KHz付近での電源線伝導ノイズが 400 電圧(V) タ電源内蔵型の電気機器から発生した数 200 0 −200 併設通信線に誘導し通信機器の通話品質劣 20μsec 化や誤動作を引き起こすケースが増えてき (a)電源線−大地間 ている。 線間での誘導現象は、ほとんど強電力設備 疑似電源回路網 スイッチ 100 電圧(V) 以上のべたように、考慮すべきメタル導 0 20μsec (b)通信線−大地間 (両端開放) 電源線 蛍光灯 電圧(V) 通信線 10m 100 0 20μsec (c)通信線−大地間(片端1kΩ終端) 図5.2 スイッチ動作時 のノイズ測定回路 図5.3 スイッチ動作時に電源線、 通信線に発生するノイズ波形例 3 であるAC電源線と弱電設備であるメタル通信線との間の問題であるが、 大きな 電流が流れる接地線とメタル通信線との間の誘導、 さらには高周波電圧電流が発 生しているメタル通信線とそれに併設されているメタル通信線間の誘導などの問 題も考えられる。 [質問5.3] 誘導現象を分かり易く理解できる方法はありますか? [回答] 低周波の誘導と高周波の誘導を分けて考えると便利です。 低周波誘導では2つの回路間の結合を集中定数回路で表現でき、 結合も大きく 分けて、静電結合と電磁結合を考えれば良い。 高周波誘導になると2つの回路 間の結合は分布定数回路で表現する必要があり、 この場合は複雑な電圧電流分布 となる。 それでは低周波誘導、 高周波誘導とは何を基準に考えればよいのだろうか?メ タル導線の長さと関係してくる。 目安としては、メタル導線の長さが扱ってい る電圧電流の波長より一桁近く小さい場合を低周波領域、 それより大きくなると 高周波領域と考えれば良い。 だから、50∼60Hzの商用電源やその高調波 は数百kmの波長になるので、 数十kmもの長い送配電線とメタル通信線間の 誘導は集中回路で考えてよい。 また、AC配電線に発生する蛍光灯スイッチo n、off時のインパルス性ノイズは1MHz程度までの周波数領域となるた め、数十mの屋内での誘導も集中定数回路として考えられる。 低周波誘導では静電結合、電磁結合、抵抗結合という3種類 の結合メカニズムを理解すれば良い。 静電結合は2つの回路間の静電容量を介して結合が発生し、 電磁結合は2つの 回路間の相互インダクタンスを介して結合が発生し、 抵抗結合は2つの回路間に 共通抵抗があればこの抵抗を介して結合が発生するのである。 通常はこの3つ 4 の結合の和として総合の誘導現象をとらえることになる。 5.2 静電結合およびその遮蔽のメカニズム [質問5.4] 静電結合とはどのような場合に発生するのか?メカニズムを 簡単に説明するとどのように言えば良いのか? [回答] 基本的に起誘導線とアース間に電圧が発生しておれば隣接し た被誘導線に必ず発生する。すなわち、起誘導線、被誘導線間 には必ず静電容量が存在するため、この容量を介して電圧が被 誘導線とアース間に伝達するのである。 図5.4に示すように、#1導線が大地に対して電圧V1を給電され、併設導 線との間に静電容量C12が存在する場合を解いてみる。 図5.4には等価 回路も示しているが、簡単にキルヒホッフの法則を用いれば、#2導線に誘導す る電圧は次式で求めることができる。 VN= jωC 12 jω(C 12 +C 2G )+ #1 1 R V1 #2 C12 C2G C1G (5.1) VN R V1 ここでポイントとなるのが#2導線が大地 に対してどのような状態になっているかで 等価回路 ある。全く大地から浮いている場合、R= C12 ∞であるため、5.1式は C 12 V = V 1 (5.2) N C 12 +C 2G V1 となり、周波数とは関係なく、#1導線、# 5 C1G C2G R 図5.4 静電結合モデル VN 2導線間の静電容量と#2導線−大 地間の静電容量による分圧比、すな VN わち一定値となる。 図のように# 2導線の一端が抵抗Rで大地に接続 されていると事情は異なる。通常、 ほとんどの場合、R≪1/jω(C +C2G)であるため、式4.1は、 12 V N ≒jωC 12 RV 1 で近似でき C12 VN= C12+C2G V1 VN=jωRC12V1 ω= 1 R(C12+C2G) ω 図5.5 静電結合特性 る。 この式は、静電結合が周波数 が高くなるほど大きくなることを示 しているが、周波数が十分高くなると上記近似は成立せず、最終的には式5.2 で表せ一定値に落ち着くことになる。 この様子を図5.5に示す。 まとめる と、静電結合による誘導は、高周波になるほど行われやすくなるが、数百MHz やGHzを越えるとそれが無限に大きくなり大変なことに成るわけではなく、 あ る値に落ち着くという特性を有しているのである。 [質問5.5] 静電結合導を軽減するために、被誘導線をアルミホイールな どで覆い、片端を大地に接地すると良いと聞くが、アルミホ イールで覆うだけではだめなのか? また、接地をしたほう が良いのであれば両端接地すると効果が増すのではないのか? [回答] アルミホイールなど良導電体で覆うだけでも全く効果が無い とは言えないが、接地することにより、劇的に軽減効果が発生 する。ただし、接地の本数を増しても効果はそんなに変わらない。 図5.6に、#2導線が金属遮蔽層に完全に囲まれているモデルを示してい る。 ここでは金属遮蔽層が大地に接地されていない状態を示している。 等価 回路からも解るように、金属遮蔽層に発生する電圧Vsは、先の図5.4に示し た関係と全く同じとなり、キルヒホッフの法則を用いると、 6 V s = C 1s V 1 (5.3) C 1s +C sG #1 #2 C1S で求めることができる。 ここで、# 2導線と金属遮蔽層間の静電容量C2s を介して流れる電流はゼロであるため、 #2導線と大地間に発生する電圧VNは Vsと等しくなる。 したがって、結論 から言うとアルミホイールなど良導体 で覆うだけでも起誘導線とアルミホ イール間の静電容量、およびアルミホ イールと大地間の静電容量による分圧 比による効果が得られることになる。 金属遮蔽層を大地に接地した場合に 金属遮蔽層に発生する電圧Vsは、同じ く先の図5.4に示した関係と同じで あり、 C1G VS V1 C2S CSG 等価回路 C1S C2S ● ● #2 ● V1 C1G VS VN CSG 図5.6 静電結合モデル (金属遮蔽層がある場合) V s ≒jωC 1s RV 1 (5.4) となる。 この場合も#2導線と金属遮蔽層間の静電容量C2sを介して流れる 電流はゼロであるため、#2導線と大地間に発生する電圧V NはVsと等しくな る。 通常、低周波で金属遮蔽層を接地した場合、jωC1sRは1より十分小さ くなりVsほとんどゼロになり、劇的な遮蔽効果を得ることになる。また、この 状態で接地の本数を増やしてRを小さくしようとしてもほとんど無駄であること は理解できよう。 しかしこのように接地をしていても周波数が高くなるとV1 の影響が出てくることが式から解る。 [質問5.6] アルミホイールで覆う場合、覆いきれずにむき出しになって いるところが存在する場合効果は下がるのですか? [回答] 遮蔽効果は下がる。しかも、むき出しの部分が多ければ多い ほど遮蔽効果は下がる。 7 むき出しのない状態というのは、 #1 VN C1G しまう状態であり、被誘導線の端部 が遮蔽層からはみ出したり、遮蔽層 C12 V1 C2S を起誘導線と被誘導線の間に入れる CSG だけの場合は遮蔽効果が下がってい 等価回路 くことになる。 C12 ● 図5.7に被誘導線を金属遮蔽層 で被い遮蔽層の外側に被誘導線が出 #2 C1S 被誘導線を金属遮蔽層で全く覆って C1S C1G V1 C2S ● #2 ● ● VN CSG C2G ているモデルを示している。この場 合、先の完全に金属遮蔽層で被われ た図5.6に示しモデルと異なるの は、#2導線と#1導線間に静電容 図5.7 静電結合モデル(金属遮 蔽層があり、被誘導がむ き出している線場合) 量C 12を考える必要があることであ る。 この等価回路をキルヒホッフの法則を用いて解くと、 V N = C 12 V 1 (5.5) C 12 +C 2G +C 2s となり、C12が大きくなるほどVNが大きくなることが解る。従って、金属遮蔽 層の外に出ている中心導体の長さを短くすると遮蔽効果は落ちないことになる。 5.3 電磁結合およびその遮蔽のメカニズム [質問5.7] 電磁結合とはどのような場合に発生するのですか?メカニ ズムを簡単に説明するとどのように言えばよいのですか? [回答] 低周波における2回路間の結合において、起誘導回路に流れ る電流が大きい場合に支配的となる結合である。すなわち、起 誘導回路に流れる電流によって発生した磁束が被誘導回路に鎖 8 交することによって電圧を誘起する現象のことである。 #1 図5.8に電磁結合の概念図を示 I1 した。 起誘導回路#1に交流電流 #2 R1 I1が流れると電流I 1が流れる導線 M の周りに磁束が発生する。この磁束 R2 が併設されている被誘導回路に鎖交 するとこの回路に電圧が誘起される。 VN=jωMI1 V1 従って、磁束の鎖交が電磁結合のポ R イントとなる。1次側と2次側の回 路の磁束の鎖交を応用したものとし て電圧トランスをご存知であろう。 等価回路 ここで説明する2回路間の電磁結合 数が1ターン、2次側回路のコイル R2 M 現象は、1次側回路のコイルの巻き V1 VN の巻き数が1ターンの電圧トランス と見立てればよいのである。 R1 VN=jωMI1 R 電磁結合の大きさを決めるのは相 互インダクタンスMという量である。 被誘導回路との鎖交磁束を起誘導回 #1 #3 I1 図5.8 電磁結合モデル #4 #2 端末の影響が出ないように 十分長い線を考える。 VN I1 #1 #3 #4 #2 ・ a a b 図5.9 相互インダクタンスMの導出モデル 9 路電流の電流値で除した値が相互インダクタンスである。 相互インダクタンス に対して自己インダクタンスというものがある。 これは、ある回路に流れる電 流によって発生した磁束をこの電流値で除したものである。 電磁結合では他の 回路に鎖交する磁束はその内の一部であるから相互インダクタンスは決して自己 インダクタンスより大きくならない。 しかし併設導線が接近してくると限りな く自己インダクタンスに近い値になってくるのである。 それではAC電源線や メタル通信線、 接地線のように長手方向に長い独立した回路間での相互インダク タンスはどのようにして求めればよいのだろうか。 図5.9は起誘導回路の内 側に被誘導回路があるモデルを示しており、それぞれ、往路が#1,#3、帰路 が#2、#4であり、往路帰路ともに離隔がaである。 端末の影響が出ないよ うに往路および帰路の線長が十分長いと仮定する。 起誘導回路の往路#1を流 れる電流I1によって#3,#4で作られる被誘導回路を鎖交する磁束は、 b µ・I 1 Φ 12= 2πr dr = µ・I 1 a 2π ln b (5.6) a となる。 起誘導回路の帰路#2を流れる電流I1によっても同じ方向の同じ量 の磁束が被誘導回路に鎖交するため、 起誘導回路から被誘導回路への総合鎖交磁 束は、 Φ 12'= µ・I 1 π ln b =M・I 1 (5.7) a となる。したがって、このモデルにおける起誘導回路と被誘導回路間の相互イン ダクタンスは、 b (5.8) a -7 M=4×10 ln となる。 ここで、起誘導回路電流によって被誘導回路に発生する誘導電圧は、鎖交磁束の 時間微分となり、 10 V N = dΦ 12' dt =M dI 1 dt (5.9) と表せる。 電気回路の世界では、扱っている電圧、電流が正弦波であれば、記 号法により、時間微分はjωで表すので、結局 V N =j ωM・I 1 (5.10) ということになる。 [質問5.8] 電磁誘導を軽減するために用いられる電磁遮蔽の原理を教え てください。 [回答] 起誘導線と被誘導線の間に第3の接地導線(遮蔽導線)を設 け、これを流れる電流による磁束によって被誘導線の誘導電圧 を軽減する方法が一般的にとられる。 遮蔽導線にはできるだけ遮蔽用の磁束を発生するように大きな電流を流すこ と、さらにそれを可能な限り被誘 M12 導回路あるいは起誘導回路に接近 させることが必要である。 M1s I1 #1 起誘導線 図5.10に電磁遮蔽の原理を 説明するためのモデルを示す。 遮蔽線は積極的に電流を流す役割 +V − s Rs Ms2 Ls を持つため、低周波において電流 遮蔽線 + 値の決定に大きく寄与する抵抗と − + Vc 自己インダクタンスを回路上に記 − V2 #2 被誘導線 述している。 起誘導線#1に電流I1が流れる 図5.10 電磁誘導遮蔽モデル と、起誘導線#1と被誘導線#2 11 の間の相互インダクタンスM12を介して被誘導線#2に電圧V2が誘起し、その 値は、 V 2 =j ωM 12・I 1 (5.11) となる。 一方、遮蔽線があると被誘導線#2には遮蔽線に流れる電流Isによ り、遮蔽線と被誘導線#2の間の相互インダクタンスMs2を介して、 V C =j ωM s2 ・I s (5.12) という電圧が誘起する。したがって被誘導線に誘起する電圧VNは、 V N =V 2 - V C (5.13) となる。 一方、起誘導線に流れる電流により遮蔽線に発生する誘起電圧Vsは、 V s =j ωM 1s ・I 1 (5.14) となる。ここで、遮蔽導線の被誘導線#2の距離が十分近い場合、相互インダク タンスM12と相互インダクタンスM1sがほぼ等しくなり、 V s ≒j ωM 12 ・I 1 (5.15) となる。したがって、遮蔽線に流れる電流Isは、 I s = j ωM 12・I 1 R s +j ωL s (5.16) となる。その結果、遮蔽線がある場合の被誘導線#2に発生する誘起電圧は、 V N =j ωM 12・I 1 1- j ωM s2 R s +j ωL s (5.17) となり、項内の第2項が誘起電圧の減少に関係してくることがわかる。 ここで、遮蔽線と被誘導線#2が極めて近い場合、遮蔽線の自己インダクタンス Lsはほとんど外部インダクタンスとなり、そのほとんどが相互インダクタンス となるため、 L s ≒M s2 (5.18) が成り立つ。したがって〔5.17)式は 12 V N ≒j ωM 12・I 1 Rs VN 遮蔽されていない導線 VN=jωM12・I1 R s +j ωL s (5.19) VN=M12・I1 Rs 遮蔽効果 Ls と表すことができる。 周波数が低い、すなわち角周波 数ωが小さいと Rs R s +j ωL s ω=Rs/Ls ≒1 (5.20) ω 図5.11 電磁結合特性 となり、遮蔽が無い場合と同じになる。 一方、角周波数ωが大きいと V N ≒M 12・I 1 Rs Ls (5.21) となり、遮蔽線の抵抗が小さく、自己インダクタンスが大きいほど遮蔽効果が現 れる結果となる。 図5.11は横軸を角周波数ω、縦軸を被誘導線での誘起電 圧VNを表したものである。 ある周波数以上では被誘導線に発生する誘導電圧 は増加しなくなり一定値に落ち着く。 一方遮蔽線が無い場合周波数に比例して 誘導電圧が大きくなる。したがって遮蔽効果が発生してくることが解る。 この 遮蔽効果が発生してくる目安は、ω=Rs/Lsであり、この周波数のことをシー ルド遮断周波数という。 5.4 電磁誘導遮蔽ケーブルの構造としくみ [質問5.9] 送配電線からの電磁誘導対策として用いられている電磁誘導遮 蔽ケーブルは上述した電磁遮蔽の原理を活用したものですか? [回答] その通りです。メタル通信線束を円筒アルミニウムで覆いそ 13 の上を電磁軟鉄テープ螺旋巻きした外被構造を有する通信ケー ブルのことです。 被誘導線をアルミ円筒で包み円筒両端を低抵抗で大地に接地することにより、 できるだけ大きな遮蔽用磁束を発生するように大きな電流が流れるようにして、 さらに電磁軟鉄層でその遮蔽用磁束を増す工夫がなされたものである。 言い換 えれば、遮蔽効果が効いてくるシールド遮断周波数ω=Rs/Lsが、商用周波数 (50Hzあるいは60Hz)付近になるようにするため、Lsを飛躍的に大きく しているのである。 ただし、ここで注意すべきことは、遮蔽体の両端で大地に 接地する必要があるが、この接地抵抗をRsに含ませなければならないというこ とである。 8節でも述べたように、遮蔽導線と被誘導線の距離が十分近い場合、遮蔽係数 ηを遮蔽線が無い場合の被誘導線への誘導電圧と遮蔽線がある場合の被誘導線の 誘導電圧の比として定義すると、(5.17) 式より、 η=1- j ωM s2 R s +j ωL s (5.22) となる。 ここで、遮蔽線と被誘導線が十分接近しているとすると、遮蔽線の外 部インダクタンスはほとんど相互インダクタンスになるため、 Ls≒Ms2となり、 η= Rs R s +j ωL s (5.23) 磁性体層 となり遮蔽線の外部インダクタン スL sによるインピーダンスjω 導電体層 LsとRsの値が遮蔽効果を決める ことになる。 大地上に架設され た2本の導線間の相互インダクタ ンスは、実測やカーソンとポラ チェックによる計算によりほぼ2 図5.12 電磁誘導遮蔽ケーブル の金属遮蔽層 mmH/kmであり、例えば商用 14 周波である50Hzでは0.628Ω/kmとなる。 接地抵抗を含めた遮蔽導 線の抵抗分は数Ω/kmあり、(5.23) 式からも明らかなように、商用周波では遮 蔽効果はほとんど得られないことになる。 遮蔽線と被誘導線の究極の接近状態 として考えられるのがが円筒状金属シースとして被誘導線を包んでいる場合であ り、この場合も同様である。 (5.17)式に示す遮蔽係数ηをさらに一般的に表現 すると η=1− Z 23 Z 33 (5.24) となる。Z23は円筒状金属シースと被誘導線間の相互インピーダンス、Z33は 円筒状金属シースの自己インピーダンスである。そこで、商用周波のような低周 波においても円筒状金属シースと被誘導線間の相互インダクタンスを増加する手 段を考える必要がある。 考えられる方法としては、図5.12に示す内装をア ルミや銅のような導電層、 外層を強磁性体層とする2層構造の円筒状金属シース である。 低周波において、シース電流はほぼ導電層のみに流れると仮定できる ため、円筒状金属シース・大地帰路回路の自己インピーダンスZ33は次式で表せ る。 Z 33=R 0 +r i +j X i +j X e +R e (5.25) ここで、R 0は導電層の直流抵抗、j Xeはシース−大地帰路回路の外部イン ピーダンス、Reは単位長当たりの接地抵抗、ri+jXiは強磁性体層による付 加インピーダンスである。 外部インピーダンスはシースを流れる電流により発 生する磁束が、 円筒状シースと大地からなる回路を鎖交することにより得られる インピーダンスであり、 カーソンとポラチェックにより次式で近似できること が得られている。 ここで、 γ はオイラー定数、 |κ| は大地の伝搬定数、h1は 円筒状金属シースの地上高、ρは金属シースの円筒断面半径である。 j X e =j ω(2log 2 γ|κ|ρ +1− jπ 2 − 8j κh 1 3 )×10 -7 Ω/m (5.26) さらに付加インピーダンスは磁性体層中の全磁束をΦ、 導電層の電流をIとす 15 ると、r i+jX i=jωΦ/I の 心線 関係により得られる値である。 アルミ円筒 (コルゲート構造) これに対し、シース−大地帰路回 ポリエチレン座床 路と、 心線−大地帰路回路(被誘導 回路)との間の相互インピーダンス 電磁軟鉄テープ (2枚螺旋巻き) Z23は、シース−大地帰路回路に電 流が流れた場合に、心線−大地帰路 回路と鎖交する磁束によって発生す ポリエチレン外被 るインピーダンス分であることから、 (5.25) 式においてR0+Reを減じた 図5.13 電磁誘導遮蔽ケーブルの構造 次式となる。 Z 23=r i +j( X i +X e ) (5.27) したがって (5.24) 式に示した遮蔽係数ηは、 η= R 0 +R e R 0 +R e +r i +j( X i +X e ) (5.28) となり、Re、Xeは大地の条件に依 インピーダンス (Ω/km) 存するものであり、R0、ri+jX 14 アルミ円筒外径:20 mm 12 がシース構造に依存する量である。 i したがって、遮蔽効果をより大きく するためには、内層導電層の直流抵 抗R 0をできるだけ小さくし、外層 10 付加インピーダンスri 8 Xi 6 強磁性体層による付加インピーダン スr i+jX iの絶対値をR 0より十 4 分大きくすれば良いことがわかる。 接地抵抗 Re 2 一般的な電磁遮蔽係数である アルミ円筒の直流抵抗 R0 外部インピーダンス Xe η= Rs R s +j ωL s 0 との関係は、 10 20 30 40 50 シース電流 (A) 図5.14 各種インピーダンス特性例 R0+ReがRsに対応し、 16 ri+j(Xi+Xe)がjωLsに 0.5 対応している。 0.4 高圧送電線とメタル通信線が併 絡事故時に流れる大電流によりメ 遮蔽係数 走している区間では、送電線の地 接地抵抗: 4Ω/km 0.3 2Ω/km 0.2 タル通信線へ誘導する電圧が人体 0Ω/km の危険電圧に達しないように、本 0.1 節で述べた誘導遮蔽ケーブルが用 0 いられる。代表的な構造を図に示 100 200 300 400 500 単位長当たりの誘導電圧 (V/km) す。この構造のケーブルが地上高 5mに架渉されている場合、 図5.15 電磁誘導遮蔽ケーブルの 遮蔽特性例 (5.27) 式における各インピーダン ス値を図5.14に示す。 電磁軟鉄テープ巻き層(例:0.8mm厚2枚)に よる付加インピーダンスの実部riと虚部Xiがアルミ円筒(例:0.8mm厚) の直流抵抗R0、 およびケーブル−大地帰路回路の外部インピーダンスXeより 一桁以上大きな値になっている。 図からもわかるように付加インピーダンス値 は磁性体層がさらされる磁界の強さにより変化している。 このことは、対策す る区間の単位長あたりの誘導電圧の大きさによって遮蔽効果が異なることを意味 している。 したがってこのケーブルを1km架渉した場合に得られる遮蔽効果 は、アルミ被両端の接地抵抗を低くすればするほど良好となり、例えば両端の接 地抵抗の和を2オームとすると単位長あたりの誘導電圧が200V/kmあたり で0.2∼0.3程度と最良値を示す特性となることが図5.15よりわかる。 [質問5.10] 磁性体層は円筒ではなく磁性体テープのらせん巻きになって いますが、円周方向の磁路を考えると空気層を通過することに なり磁束を増す効果がほとんどなくなり遮蔽効果が無くなるの ではないですか? [回答] 17 いいえ。磁路はほぼテープ巻き方向に沿って生じ、結果として ほとんど円筒磁性体層と同様の磁束を増す効果があり、遮蔽効果 が発生します。 磁性体層は実際は磁性体テープをアルミ円筒の上にらせん巻きされている。 ケーブル自体のかとう性を悪化させないことと、製造の容易にするためである。 円周方向の磁路をとってみると空気層が存在するため本当に磁束を増やして付 加インピーダンスを増加できる構造なのかどうか疑問を感じる読者もいらっしゃ るであろう。 らせん巻きであっても十分磁束を増やして付加インピーダンスを 増大できることを次に解説しよう。 図5.16は外層磁性体層を縦割りにして開いた状態である。強磁性体テープ のらせん角をψ、ギャップ長をg、テープ幅をb、ギャップでの磁界の強さ、磁 束密度をHg、Bg、テープ内での磁界の強さ、磁束密度をHt、Bt、境界面に 対するHg、Htの入射角(法線方向からの角度)をβ、αとする。 まず、磁界 の強さの境界面の接線成分と磁束密度の境界面の法線成分は連続であるという条 件より次式が成立する。 H t sin α=H g sin β (5.29) g b B t cosα=B g cosβ (5.30) α πD B g =µ g H g (5.31) Ht β Hg ψ B t =µ t H t (5.32) 次に、図5.16に示したa点よ りケーブルの軸方向に沿ってテープ a b d c 図5.16 外層磁性体層の縦割り図 内を通り、1ピッチ分進んでb点に 至り、c点、d点を通る閉ループの磁界の強さの周回積分がゼロである条件より 次式が成立する。 gH g sin( ϕ−β)−bH t sin( α−ϕ)=0 (5.33) 次に円周方向の磁界の強さの周回積分は、それの鎖交電流、すなわち内層導電層 の電流に等しく等しくなることから次式が成立する。 18 H t cos(α−ϕ){πD− g cosϕ }+H g cos(ϕ−β) g cosϕ =i (5.34) 以上 (5.29) ∼ (5.34) 式から、μt≫μgを考慮すると、Hg、Htの近似式と して次式が求まる。 Hg = i sin β sin α cos(α−ϕ)(πD− cosϕ )+ g cosϕ )cos(ϕ−β) (5.35) i Ht = g cos(α−ϕ)(πD− g cosϕ )+ sin α sin β • g cosϕ cos(ϕ−β) (5.36) したがって、遮蔽効果に寄与する磁性体層の円周方向の磁束Φは次式となる。 Φ= t•i b+g ≒ bµ t { πD+ g cosϕ • b+g 2 gtan ϕ gµ g + g 2 tan ϕ b+g g 1 πD + • g cos ϕ 1+ g 1+ tan 2 ϕ b+g b+g t•i •b•µ t sin 2 ϕ (b+g){πDsin 2 ϕ+(b+g)cosϕ} (5.37) したがってらせん巻きテープ状の場合のインダクタンスLは次式となる。 L= t•b•µ t sin 2 ϕ (b+g){πDsin 2 ϕ+(b+g)cosϕ} (5.38) 一方、厚さtが十分小さい場合の平滑円筒磁性体のインダクタンスL’は、 19 } L'= t•µ t πD (5.39) となるため、LとL’の比をλとすると次式が導出される。 bsin 2 ϕ L λ= = (5.40) L' b+g この結果、 付加インピーダンスはテープ巻きらせん角が大きいほど大きくなるこ とがわかる。また、テープ巻きにより生ずるギャップの存在による影響は、b/ (b+g) に依存するのみである。 5.5 その他の電磁誘導対策 [質問5.11] 電磁誘導遮蔽では遮蔽ケーブルの金属シールド層の両端を 必ず接地しないと効果がないのですか? [回答] いいえ、片端接地だけでも効果が期待できる場合があります。 むしろ一般の高周波での金属シールド層では片端を大地に接地 する方法がよく採られます。 被誘導線の両端が大地に接続されている場合について、 今まで述べた電磁遮蔽 の理論が適用される。しかし、この金属層をうまく活用すれば、被誘導線への誘 導電圧低減効果を引き出すことができる。 図5.17に示すように被誘導線の 片端を金属シールド層に接続し、 金属シールド層の反対側の片端を接地する方法 である。 これは、先に説明したような金属シースの遮蔽効果を期待しているの ではなく、 被誘導線の帰路ループの面積をできるだけ小さくして起誘導線による 誘導電圧を軽減する方法である。つまり、被誘導線の帰路が大地帰路回路ではな く金属シールド層帰路回路となり、 起誘導線による磁束の鎖交面積が極めて小さ くなるのである。ベル研のW.Ott等が50kHzでの誘導実験を行った結果、 20 起誘導線 起誘導線 被誘導線 被誘導線 1MΩ 100Ω 金属シールド層 (1)シールドなし 起誘導線 図5.17 被誘導線の片端を金属シー ルド層に接続する方法 被誘導線 図5.18のように起誘導線の両端をグ 金属シールド層 1MΩ 100Ω ラウンドに接続し、金属シールド層の両 端を接地した場合27dBの誘導電圧低 (2)シールド層両端接地 減効果が得られたのに対し、80dBの 起誘導線 低減効果が報告されている。 被誘導回 路が両端でグラウンドされなければなら 被誘導線 100Ω ない場合は、金属シールド層の両端接地 金属シールド層 1MΩ を用いる必要があるが、そうでなければ このような金属シールド層の使い方が有 効である。 (3)シールド層片端接地 図5.18 シールド層の接地の違い による遮蔽効果実験 5.6 静電結合と電磁結合の見分け方 [質問5.12] ある導線で誘導電圧を検出したとき、それが起誘導線との間 の静電結合によるものなのか、電磁結合によるものなのか、 どのように見分ければよいのでしょうか? [回答] 被誘導回路の片端R 2 を変化させてもう一端のR れる電圧の変化を見ればよいのです。 21 1 で測定さ R 2を小さくした時にR 1端子電 V1 オープン 圧が大きくなる場合は電磁結合が支 配的であり、逆にR2を小さくした R1 時にR1端子電圧が小さくなる場合 VN は静電結合が支配的になる。 R2 (1)静電結合のケース 図5.19に示すモデルで考えて I1 みよう。導線長に比べて波長が十分 ショート 大きい周波数、すなわち低周波を考 える。先に述べたように、静電結合 VN R1 R2 は起誘導回路の終端をオープンにし (2)電磁結合のケース た場合に、電磁結合は起誘導回路の 図5.19 静電、電磁結合モデル 終端をショートにした場合に支配的 になる。被誘導線の両端末にそれぞ れR1ΩとR2Ωが接続されており、 これらが比較的低抵抗でアースに落ちている 場合、アースからの電圧V1を有する起誘導線からの静電結合によって被誘導 線ーアース間に発生する電圧VNは、 VN= jωRC12V1 (5.41) で表せ、VN/Rの電流源としてモデル化できる。Rはこの場合、R1とR2の並 列抵抗である。 一方電磁結合によって被誘導線ーアース間に発生する電圧VN は、起誘導線を流れる電流I 1に よって発生するものであり、 V VN=jωM12I1 (5.42) R1 IN=jωC12V1 R2 で表せ、被誘導回路ではこの起電 図5.20 静電結合を受けた等価回路 力を持った電圧源としてモデル化 できる。 静電結合と電磁結合を受けたとき V の被誘導回路の等価回路を各々図 R1 VN=jωM12I1 5.20,図5.21に示す。 実 図5.21 電磁結合を受けた等価回路 際の誘導現象はこの両方が重畳さ 22 R2 れたモデルになるのである。しかし、被誘導線が静電結合、電磁結合のどちらが 支配的であるのかを知ることは対策を施す上からも極めて重要である。図5.1 9、図5.20の等価回路を見ると判別法の意味がよくわかる。 つまり、静電結合の場合は、被誘導回路の片端R2を小さくすると、定電流源 からR2に流れる電流が大きくなりR1を流れる電流が減る。その結果としてR1 端子電圧が小さくなるのである。一方、電磁結合の場合はR2を小さくした時に 被誘導回路でのR2部分での分圧比が小さくなり、 その結果R1端子電圧が大きく なるわけである。 5.7 高周波での誘導現象(分布定数回路間の誘導現象) [質問5.13] 高周波での併設導線間の誘導現象の特徴は何ですか? [回答] 起誘導回路も被誘導回路も両方とも分布定数回路となり、各 回路の電圧、電流分布は大変複雑になります。 そこで有効電力に着目すると次のような規則的な特徴が抽出できます。 起誘 導回路と被誘導回路の有効電力の総和は給電端から終端方向に向 かって単調に減少する特性を保ちながらも、起誘導回路と被誘導回 路間で回路長手方向に対して有効電力の授受現象が見られます。 この特徴はマイクロ波伝送回路では方向性結合器や結合型フィルタとして利用さ れています。 扱う電磁波の波長が伝送線路 x 長程度に短くなる、すなわち高 Zs 周波になると、伝送線路での伝 搬を分布定数回路で考える必要 起誘導線 被誘導線 Zl E δx がある。ここでは、高周波におけ る複数の伝送線路間の結合問題 図5.22 結合・伝搬モデル 23 Zl' Zs' を考えてみよう。 δx このような分布定数回路間の 結合問題は、メタルペア通信線 起誘導線 I1(x) V1(x) I2(x) 被誘導線 間の漏話問題として古くから解 V2(x) Y12 Z22 Y13 Y23 ● Zii:自己インピーダンス Zij:相互インピーダンス 圧特性がいろいろと示されてい る。ここでは、 「一本の伝送線路 を伝搬する有効電力は単調減少 Z12 ● 接地 かれており、遠端や近端での電 Z11 ● Yij:相互アドミタンス 図5.23 起誘導線、被誘導線の結合等価回路 する」というあたりまえの分かりやすい現象との対比の下で、複数の伝送線路が 接近している場合の有効電力の伝搬現象を見てみよう。 図5.22に示すように、遠方地点で給電された異常電圧を伝搬している導線 1に対し、導線2が併設されている場合について、導線併設区間における起誘導 線と被誘導線の有効電力の線路上での空間分布を計算により求めてみる。 図 5.23はこの結合・伝搬モデルの微小区間を取り出しており、このようにアー スを1本の導線と見なした3導体モデルを用いると、(5.43) ∼ (5.46) 式に示す 3導体伝送線路方程式 [4] を導くことができる。ここでZ11は起誘導線−アー ス導線間回路の単位長当たりの自己インピーダンス、 Z22は被誘導線−アース導 線間回路の自己インピーダンス、 Z12は起誘導線−アース線間回路と被誘導線− アース線回路間の相互インピーダンス、 Y12は起誘導線−被誘導線間回路の自己 アドミタンス、Y13は起誘導線−アース導線間回路の自己アドミタンス、Y23 は被誘導線−アース導線間回路の自己アドミタンスである。 − − − − d V1 (x) dx d V2 (x) dx d I1 (x) dx d I2 (x) dx = Z 11 ・I 1 (x) + Z 12 ・I 2 (x) (5.43) = Z 12 ・I 1 (x) + Z 22 ・I 2 (x) (5.44) = Y 12 ・{V1 (x) −V2 (x) }+ Y 13 ・V1 (x) (5.45) = Y 12 ・{V2 (x) −V1 (x) }+Y 23 ・V2 (x) (5.46) 24 この連立微分方程式の一般解は通信回線の漏話計算で小林等により与えられて おり [4]、この一般解に図5.22に示す回路の端末条件、すなわち、 V1(0) = E − Zs・I1(0) (5.47) V2(0) = −Zl・I2(0) (5.48) V1(l) = Zs’・I1(l) (5.49) V2(l) = Zl’・I2(l) (5.50) を与えて、導線1−アース間の電圧V1(x) 、電流I1(x) 、及び導線2−アース 間の電圧V2(x)、電流I2(x)を求めることができる。このようにして求めた 電圧、電流を用いて、線路長手方向の有効電力の分布を計算してみる。有効電力 は次式で求めている [5]。 Pi(x)={Vi(x)・Ii(x)+Vi(x)・Ii(x)}/2 (5.51) 図5.22において導線1、導線 Effective power 2が高さ15cm、長さ20m、離 (W) 0.008 隔2mmで併設されている場合の 0.004 有効電力を計算し、周波数と長さ 0 0 0.1 1 10 Longitudinal position(m) 方向の空間分布特性として表した 線1の近端で1Vを給電し、導線 (W) 0.004 1、導線2ともに近端、遠端を75 0 Effective power 10 Frequency (MHz) (1) Inducing line 例をを図5.24に示す。なお、導 オームで終端している。有効電力は 20 0.1 1 0 10 Longitudinal position(m) 20 低周波数から数MHz においては導 10 Frequency (MHz) (2) Induced line 線1、導線2ともに長手方向には Effective power 単調減少、あるいは単調増加する のみであるが、それ以上の高周波 になるとともに大きく増減を繰り (W) 0.004 0.002 0 0 返す特性になる。両者の有効電力 10 Longitudinal position(m) 20 1 10 Frequency (MHz) (3) Inducing line + Induced line の和は、いかなる周波数において も単調減少になっていることから、 0..1 図5.24 有効電力伝搬特性の計算例 25 導線1と導線2において有効電力はお互いに授受を行いながら伝搬してい ることになる。 5.8 高周波での誘導現象を利用したノイズ対策 [質問5.14] 高周波での誘導現象をノイズ対策に利用できませんか? [回答] 被誘導線に有効電力を吸収させることにより、起誘導線を伝 とができます。 Effective power (W) Effective power (W) 搬する不要誘導による有効電力を周波数選択的に低減させるこ (1)27MHz 0.004 Inducing line (with Induced line) 図5.25は20mの被誘導線 0.002 (特性インピーダンス終端)を起誘 Inducing line (without Induced line) 0 導線から2mmの離隔で併設した 0 Induced line 0.00 1 -0.001 の導線長手方向分布を計算した例 である。27MHzについて見て 0 10 20 Longitudinal position (m) みると、起誘導線の有効電力はハ Effective power (W) Effective power (W) 20 0.003 場合と併設しない場合の有効電力 (2)200MHz ンプを打ちながら徐々に被誘導線 0.004 に吸収されていき、20mの遠端 0.002 付近では大きく減衰している。単 0 調に減少している「被誘導線の無 -0.002 い」起誘導線に比べてかなり小さ 0.004 な値になっている。このことは、 0.002 Inducing line (with Induced line) (without Induced line) 0 10 20 Induced line 0 起誘導線の遠端側に侵入する有効 電力が、被誘導線に受け渡された 10 . -0.002 0 10 20 Longitudinal position (m) 分だけ小さくなり、対策効果が期 図5.25 線路長手方向の有効電力 分布計算例 待できることを意味している。さ 26 0 端末の有効電力(W) らに高周波である200MHz について見てみると、被誘導線 に大きく有効電力が受け渡され、 起誘導線の有効電力が大きく減 衰する長手方向地点が周期的に 10 20 - 被誘導線なし 40 - 被誘導(5m)あり 50 0.1 現れることが確認できる。この ことは、全ての高周波領域で被 離隔 2mm 30 - 1 10 100 1000 周波数(MHZ) 図5.26 起誘導線の有効電力伝搬特性 誘導線による有効電力吸収効果 10 Reduction effect(dB) が得られるのではなく、線路長 0 と周波数を選べば効果が得られる ことを示唆している。 -10 Measured values そこで、被誘導線を併設するこ -20 とによる起誘導線遠端での有効電 -30 Calculated values 0.1 1 10 100 1000 Frequency(MHz) 力低減特性を実験により把握し上 図5.27 併設導線を敷設した場合の 起誘導線の有効電力低減効果 述した理論計算値と比較すること とした。 図5.26は2m×8mの銅板上 に高さ15cmで長さ5mの導線を架渉し、 その導線の近端に0dBmの電力を 給電した時、 2mmの離隔で同じく5mの被誘導線を併設した場合としない場合 の遠端における有効電力の周波数特性の測定結果である。 併設導線の両端は5 0オームで銅板に接地をしている。被誘導線を併設した場合、100MHz付近 及び500MHz付近で有効電力が大きく減衰していることが解る。図5.27 の灰色の実線は図5.26で示した両グラフの差、すなわち併設導線を敷設した 場合の起誘導線終端での有効電力 低減量の周波数特性を示してい Zs る。 黒い実線は上述した理論計 算によって求めた有効電力低減量 E 併設導線 Zs' の周波数特性である。両者を比較 すると100 MHz 付近及び50 図5.28 併設導線による有効電力 低減効果実験系 27 0MHz付近で15dB以上の低減 5 500 効果が得られている等の傾向が良 1000 0 く合っている。この結果から、特定 有効電力低減効果(dB) -5 の周波数に対しては必要線路長、 -10 接地抵抗等を設計できると考えら れる。 -15 -20 また、図5.28は併設導線の両 0.375m 0.75m 端を接地せずオープンにしている -25 場合の低減効果実験系である。起 図5.29 併設導線による有効電力 低減特性(計算値) 誘導線の全長を3m、銅板からの 高さを10cmとし、長さ75c 有効電力低減効果(dB) m、37.5cmの併設導線を離隔 0.375m 5 0.75m 1mmで併設した場合低減効果の 実験系である。 図5.29に実測 0 結果、図5.30に計算結果を示 −5 す。両者の結果はよく合っており、 併設線長に応じて周波数選択的に 低減効果が得られていることがわ かる。すなわち併設線長が2倍の 長さになると低減効果のある周波 −10 200 400 600 800 1000 周波数(MHz) 図5.30 併設導線による有効電力 低減特性(実測値) 数の周期が1/2になっている。 [回答] 金属蒸着シートを起誘導線に接近させることによっても、 起誘導線を伝搬する不要誘導による有効電力を広帯域にわた り低減させることができます。 上記の現象は、併設導線を金属板に拡張しても発生すると考えられる。 金属 板を併設することにより、 起誘導線端末での有効電力減衰特性がどのようになる のかを実験的に検討した結果を以下に示す。3m長のメタル導線を銅板面(アー 28 ス面)上10cmに布設し、こ のメタル導線−銅板帰路回路を 伝搬して終端に発生する有効電 Zs 金属板 Zs' E 力が、金属板を遠端部分で近接 した場合に減衰する程度をネッ 金属板 実験系の側断面図 ⇒ トワークアナライザを用いてd メタル導線 Bで測定している。測定系を図 5.31に示す。金属板の寸法 アース面 図5.31 金属板による有効電力低減効果実験系 は横10cm、長さ36cmで あり、 近接時の導線外表面と金属板表面との離隔は導線被覆を介して約1mmと している。 図5.32は金属板の種類を変えた時の有効電力低減特性である。 銅板やアルミホイールのような肉厚の厚い金属板に比べて、アルミ蒸着 シートのような肉厚の薄い金属箔シートの方が100MHzを超える周波 数領域で圧倒的に低減効果が大きくなっている。 しかも周波数選択的で 表皮厚より十分薄く、 はなく、広帯域に亘って低減効果が発生している。 金属板の単位長さあたりの抵抗が十分大きくなると低減効果が大きくなる模様で ある。 したがって、建物内に配線されたメタル通信線などから電子回路や 機器に侵入する高周波の伝導ノイズを軽減する方法として、 金属蒸着シー トを併設する方法は簡易で有効な方法となりうる。 10cm 【金属板の種類】 36cm (1)銅板 0.1mm厚 (2)アルミホイール 16μm (3)蒸着アルミシート (4)蒸着アルミシート(半透明) 有効電力低減効果(dB) 5 0 周波数(MHz) 500 1000 -5 -10 -15 -20 図5.32 金属板による有効電力 低減効果 (金属板種類依存性) 29 1300
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