平成22年度原子力人材育成プログラム事業成果報告

平成22年度原子力人材育成プログラム事業成果報告
原子力コア人材育成プログラム(文部科学省事業)
津山工業高等専門学校
情報工学科:岡田
正
<事業タイトル>
地域連携・早期一貫教育による放射線・原子力に関わる実践的コア人材育成
<提案事業概要>
地域高等教育機関である津山工業高等専門学校(以下、津山高専)が、岡山大学、原子力関連研
究機関(日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構))
、地域企業(中国電力(株))と連携し、原
子力および低線量放射線の安全利用を中核とする原子力工学教育を実施するための教育プログラ
ムを開発し検証する。 津山高専においては、本科5年間と専攻科2年間の計7年間一貫教育の特
長を活かし、早期かつ長期的な教育プログラムを展開する。本科において原子力工学導入科目を、
専攻科においては原子力安全工学基礎科目と実習科目を設け、既設(新たに開講する原子力関係科
目以外)科目では、一般科目か専門科目かの別を問わず低学年から使用可能な原子力への興味や理
解を育む多目的に利用可能な教材を活用した早期教育を実施する。これらと現行の原子力機構での
インターンシッププログラムと実験実習科目および本科卒業研究・専攻科特別研究との連携を図り、
7年間の連続性を重視した教育プログラムにより、高度な専門知識と原子力安全工学の基礎知識を
兼ね備えた実践的技術者の育成を行う。さらに、低線量放射線および原子力工学の教育を通じ、技
術の内容を学習するだけでなく、その意味や社会・自然に及ぼす影響を理解するような人材育成を
行う。
1. 目的・背景
津山高専では、既に本科4年と専攻科1年でのインターンシッププログラムにおいて原子力機構
人形峠環境技術センターでの実習を実施している。また平成20年度には岡山大学と人形峠環境技
術センターとそれぞれ包括連携協定を締結し、三者による連携もスタートしている。岡山大学、原
子力機構人形峠環境技術センターは、原子力工学、放射線管理、除染・解体、廃棄物処理処分を専
門とする数多くの研究者・技術者を有するとともに、関連する実験設備を保有している。この背景
を積極活用。
1)原子力早期教育の実施および原子力導入・基礎科目の開設に加える。
2)現行のインターンシップの実習期間と内容の充実。
3)低線量放射線利用、解体技術、廃材利用を視野に入れた、遠隔・自動化技術や材料開発に関
する研究を実施し、これらを有機的に統合した教育プログラムを策定する。これらに加え中
国電力(株)技術者による原子力発電所の安全運転、安全管理に関する実務をベースとした教
材を開発し「低線量放射線」及び「安全・安心」の視点を加え、それぞれを有機的に統合し、
体系化する。
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2. 実施概要
津山高専は、岡山大学、原子力関連研究機関および中国電力と連携し、原子力および低線量放射
線安全利用を中核とする原子力工学の教育を確立し実践する。このために津山高専では本科5年間
に専攻科2年間を加えた、計7年間を視野に入れた連続性のある教育を実施するためのカリキュラ
ム策定と教材開発を行うこととし、以下の目標を設定した。
1)本科に原子力工学導入科目、専攻科に原子力安全工学基礎科目を導入する。さらに、一般科
目・専門科目を問わず低学年から多目的に使用可能な教材を導入し、本科1年生から原子力
への関心を育む。
2)原子力機構人形峠環境技術センター、中国電力の協力を得て、高専における講義科目教材を
開発するとともに、現在実施されている校外実習(インターンシップ)プログラムとカリキ
ュラムとの有機的な結合を促進させ更なる充実を図る。
3)岡山大学、原子力機構人形峠環境技術センターの協力を得て、低線量放射線、解体技術、廃
材利用をキーワードにして、遠隔・自動化技術や材料開発に関する本科卒業研究・専攻科特
別研究を実施し、より高度な専門性と低線量放射線下での安全・安心を担う知識・技能を有
する実践的技術者を育成する。
4)岡山大学が行う海外の低線量放射線安全利用に関する研究教育機関との連携に参加するこ
とで、国際的な視野を広げ、豊かな国際感覚を有する実践的技術者を育成する。
上記の目標達成に向けて以下の 2-1.~2-4.について事業計画どおり実施した。
2-1. 本科原子力工学導入科目、専攻科原子力安全工学基礎科目を導入
1)原子力工学導入教育の充実
平成21年度において整理された津山高専本科で行う原子力工学導入のための講義をさら
に充実させた。講義の中に放射線測定・観察を取り入れたものを開始するために霧箱を整備し
た。
2)原子力安全工学基礎科目の講義開始
平成22年度に同専攻科に原子力安全工学基礎科目を設け、講義を開始した。連携機関をは
じめとして学外から講師を招き、これにより、大学または原子力関連企業・研究機関で将来中
核人材となるための基礎知識を与えた。
3)原子力関連施設の視察と原子力教育の検討
本事業で策定する教育プログラムをより実践的なものにするため、また持続的なカリキュラ
ムの改善を実施するために、引き続き各専門分野の原子力人材育成関連科目担当教員による原
子力発電所など原子力および放射線を利用する実際の現場の調査を行い、教員の原子力・低線
量放射線に関する理解と知識の充実を図るとともに、必要とされる人材像を明らかにし高専に
おける原子力教育のあり方を検討した。
4)原子力資料コーナーの自習環境の充実
高専本科生・専攻科生の自学自習環境を整えるため、原子力や放射線に関する図書を必要最
小限で追加購入した。学生がいつでも使用可能な大型テレビ・DVD プレーヤーが設置されてい
る学生ラウンジに、既に利用されている平成21年度において充実させた書籍や視聴覚教材と
ともに本事業の担当教員の管理のもと原子力資料保管室を整備しいつでも利用可能にした。ま
た、日本原子力文化振興財団が紹介する原子力や放射線に関する図書を必要最小限で追加購入
した。これらのために書棚、雑誌架を整備した。
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5)原子力資料コーナーの資料展示の充実
原子力機構人形峠環境技術センター提供の身の回りの低線量放射線源を、平成21年度より
利用されている放射線やその測定・利用に関する解説や資料とともに学生ラウンジ内の原子力
資料保管室に展示し、放射線の測定装置を前年度に引きつづき積極的に講義においていつでも
利用可能とした。このために、資料を展示するためのショーケースおよび測定用に机を整備し
た。
6)外部評価委員会による評価
本事業によって導入された低学年から使用可能な教材および原子力工学導入科目、原子力安
全工学基礎科目について、委員会および外部の連携機関の協力の下、評価と検証作業を行った。
2-2. インターンシップによる実践教育プログラム
1)人形峠環境技術センターインターンシップの充実
8月に実施している人形峠環境技術センターでのインターンシップ前に、津山高専でこれま
で実習先で実施していた内容を取り込んだ形で予習を行った。そのための、必要な設備の整備
を行った。これにより、インターンシップ期間中にさらに一歩進んだ内容となった。
2)学生実験の充実
4年生の学生実験において、放射線計測の学生実験を開始した。また、測定のみではなく、
霧箱を用いて放射線の観察も実施した。平成23年度からの開始を目指し、原子力工学の基礎
を定着させるための学生実験(新テーマ)の準備を開始し、必要な備品(霧箱、パーティクル
カウンター、ハンディビデオカメラ)を整備した。
3)中国電力技術者との討論会の実施
5年生の原子力導入科目において、中国電力の協力のもと原子力発電施設の調査見学を実施
し、現場技術者との交流によって実務と学内での学習内容との関連を意識付けた。
4)学生実験の新テーマの検討
卒業研究において人形峠でのインターンシップと連携した内容の高専本科・専攻科における
実験・実習教材を大学・原子力機構人形峠環境技術センター・中国電力と共同開発した。その
ために必要な備品(核磁気共鳴装置、NaI(T1)スペクトロスコピ)を整備した。
2-3. 卒業研究・特別研究による実践教育プログラム
1)学生実験の新テーマの検討
原子力機構人形峠環境技術センター・岡山大学と連携して、講義・実験実習・インターンシ
ップとの連続性を考慮に入れた本科卒業研究を始めた。
2)卒業研究、特別研究の実施
連携機関との交流を活発化させ、低線量放射線、解体技術(解体ロボットモデルの計画、設
計等)、廃材利用をキーワードにした本科卒業研究・専攻科特別研究を実施した。また、その
ために必要な、実験環境を整備(シンチレーションサーベイメーター、無線式風向風速雨量屋
外温室度ロガー、パソコン、データロガー)した。
2-4. 国際感覚を有する実践的技術者を育成
1)外国人講師による講演
岡山大学で既に研究協力を行っている UFZ やドレスデン工科大学(独)、ラフボロー大学(英)、
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チェルメルス大学(スウェーデン)更には、スイス放射性廃棄物管理組合 NAGRA 教育訓練セン
ターや PSI、韓国原子力安全技術院 KINS、マギル大学(加)、ハーバード大学(米)など海外
の研究教育機関との連携に津山高専も積極的に参加し、海外機関研究者による英語講義の受講
を通して国際感覚豊かな若手中核技術者を育成した。
3. 成果
3-1. 原子力工学導入科目、専攻科に原子力安全工学基礎科目を導入
1)原子力工学導入教育の充実
1年生の物理Ⅰにおいて、はかる君を用いて放射線測定実験と本事業で導入した大型霧箱を
用いて放射線観察を実施した。はかる君を用いた測定では校内、また放射能を持つ身の回りの
物を使って距離や遮蔽による放射線量の変化などを通じて、物理実験のやり方やデータのまと
め方などの学習を行う。また、大型霧箱を用いた放射線の観察では、普段は目に見えない微小
な粒子の動きを直接観察ができ多くの学生が驚きとともに見入っていた。
2)原子力安全工学基礎科目の講義開始
専攻科において,原子力人材育成基礎科目として環境科学、工学倫理、電気エネルギー工学、
化学探究の講義を開始した。タンペレ大学より外国人講師を招き、専攻科生に対してリスクマ
ネージメントに関する講義を実施した。また、ワーキンググループで専攻科先端技術特別講義
を原子力人材育成関連科目に加えることを検討し、平成23年度から同科目を原子力人材育成
関連科目とし、毎年原子力関連のテーマを1テーマ実施することを決定した。
さらに、これら原子力人材育成関連科目(本科原子力工学導入科目および専攻科原子力安全
基礎科目)は学生生活ガイドブックによって一貫した関連科目であることを学生に公開し周知
しており、教務委員会において実施内容の点検が行われる。
3)原子力関連施設の視察と原子力教育の検討
津山高専における原子力教育の充実およびあり方を検討するため、中国電力上関原子力発電
所、もんじゅ、六ヶ所村、核融合科学研究所へ教員を派遣した。得られた知見を元に環境とリ
サイクル、システム工学、エネルギー工学、電気エネルギー工学の講義内容の更新を行った。
さらに、視察の成果を外部評価委員会で報告しカリキュラムについて継続した議論が必要であ
るとの意見を共有した。平成23年度以降、原子力人材育成ワーキンググループが組織され継
続して議論しカリキュラムの改善が図られることとなった。
4)原子力資料コーナーの自習環境の充実
日本原子力文化振興財団が紹介する原子力や放射線に関する図書を追加購入した。これらに
加えて DVD などの資料についても入手し学生がいつでも利用可能なように整備した。
5)原子力資料コーナーの資料展示の充実
平成21年度より利用されている原子力機構人形峠環境技術センター提供の身の回りの低
線量放射線源とその解説パネルを学生の目に付きやすい学生ラウンジに移設した。放射線の測
定装置を前年度に引きつづき積極的に講義で利用するとともに、低線量放射線源と放射線測定
器を学生が利用しやすいように整備した。
6)外部評価委員会による評価
外部評価委員による2年間の事業の評価を依頼し実施した。評価結果は、新設される原子力
人材育成ワーキンググループによる原子力人材育成プログラムの改善のための資料として活
用される。
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3-2. インターンシップによる実践教育プログラム
1)人形峠環境技術センターインターンシップの充実
夏季休業中に実施する人形峠環境技術センターでのインターンシップをより充実させるた
めに、本校において予備教育を実施した。今年度派遣が決定した専攻科生2名に対して3時間
の講義と実験を実施した。派遣学生にヒアリング調査を行ったところ、派遣先での授業と重複
する部分はあったものの事前に学習できたことで理解が深まったとの感想が得られた。
2)学生実験の充実
4年生の学生実験において、放射線計測の学生実験を開始した。また、平成23年度からの
開始を目指し、測定のみではなく霧箱を用いて放射線の観察も実施した。
3)中国電力技術者との討論会の実施
5年生の環境とリサイクル、エネルギー工学の履修生29名が中国電力島根原子力発電所を
見学し、現場技術者との交流を実施した。交流はパネルディスカッション形式で実施し、原子
力の安全、技術者倫理、原子力およびエネルギーの将来について議論を行った。
4)学生実験の新テーマの検討
原子力工学の基礎を定着させるための学生実験(新テーマ)の準備を開始し、必要な備品を
整備した。平成23年度より3年生チャレンジゼミナールで核磁気共鳴装置を、5年生卒業研
究において NaI(T1)スペクトロスコピを用いた学生実験の作成に関するテーマを始める。
3-3. 卒業研究・特別研究による実践教育プログラム
1)学生実験の新テーマの検討
以下の2テーマについて検討し卒業研究において実験テキストの作成を行った。
テーマ①『応用物理実験の新テーマ検討
-霧箱実験、γ線逆 2 乗テスト-』
テーマ②『電子制御工学実験Ⅰの実験テキスト作成
-放射線量測定
入門-』
実験テーマ①は4年生応用物理実験I、実験テーマ②は電子制御工学科3年生の電子制御工
学実験Iにおいて平成23年度より実施する。
2)卒業研究、特別研究の実施
本年度は以下の卒業研究、特別研究を実施した。
①
「応用物理実験の新テーマ検討
-霧箱実験、γ線逆 2 乗テスト-」
②
「県北地域における降雨とガンマ線量率の上昇に関する研究」
③
「核反応(NRA)を用いた窒化硼素薄膜の組成分析」
④
「電子制御工学実験Ⅰの実験テキスト作成
⑤
「自律型ロボットを用いた放射線計測」
⑥
「核融合に関する実験実習(於:京都大学)」
-放射線量測定
入門-」
①のテーマでは、4年生学生実験で実施する放射線測定の実験テキストの作成を実施した。
②のテーマは人形峠環境技術センターとの共同研究である。同テーマでは、津山高専内に環
境放射線モニタリングポイントの構築も同時並行で実施した。3のテーマでは、高エネルギー
の重水素イオンビームを用いて、11B+2H+→9Be+α等の核反応を活用する内容である。4か
ら6のテーマは、原子力関連技術の習得と興味喚起のために、卒業研究・特別研究のサブプロ
ジェクトとして実施した。なお、5のテーマに関しては、機械学会「中国四国学生会第41回
学生員卒業研究発表講演会(H23年3月)」にて発表済であり、3のテーマは、
「第19回原
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子力関連国際会議(ICONE19、H23年5月、於:千葉)での論文発表が決定済みである。
3-4. 国際感覚を有する実践的技術者を育成
1)外国人講師による講演
岡山大学の協力を得て、フィンランド・タンペレ大学 Heino 教授を招聘し『Decision making
industrial risk management』という題目で、安全・安心工学に関連する講演を実施した。岡
山大学鈴木教授による解説を交えながらの講演で、専攻科生を中心に30名程度の参加があっ
た。講演後には、英語による活発な質疑応答がなされ、その学生の積極的な様子は岡山大学鈴
木教授も驚かれるほどであった。
4. 取組の評価と今後の展開
4-1. 原子力早期教育および原子力導入・基礎科目の実施
本年度でほぼすべての学年において原子力人材育成関連科目を開設することができたこと
は成果である。一方で、カリキュラムの改正が進んでいる最中で一部の原子力人材育成関連
科目がなくなり新カリキュラムにおいて一部の学年に原子力人材育成関連科目が入っていな
いところがあり今後の検討課題である.2年間でカリキュラムの大枠が作成されたので、今
後は内容の充実を図る必要がある。これについては、学内に正式に原子力人材育成ワーキン
ググループが組織されたことで、このワーキンググループにおいて継続してカリキュラムの
改善が図られていく体制が作られたことは大きな成果である。
4-2. インターンシップ、卒業研究・特別研究による実践教育プログラム
本年度より人形峠環境技術センターインターンシップの予備教育を始めることができた。
内容については今後多いに改善する余地があるものの、原子力人材育成WGを中心に内容に
ついても議論されていくものと思われる。卒業研究・特別研究に関しては本年度で6テーマ
の研究がスタートしており大きな成果と言える。
4-3. 事業の今後の展開に関すること
原子力人材育成ワーキンググループではこの2年間の活動を継続、発展させるものである。
5年生の島根原子力発電所や人形峠環境技術センターの見学、専攻科生向けの英語講義のた
め京都大学から講師招聘、教員の近畿大学原子力セミナーへの参加、霧箱を用いる出前授業
などを計画しており、実施のために学内の競争的資金を申請している。また、原子力関係の
出張により得られる知見は原子力人材育成関連科目等の授業内容に反映させるとともに、本
校における原子力人材育成のあり方について議論を継続しカリキュラムの改善を実施する。
以下、検討事項を箇条書きで記載する。
① 原子力早期教育の実施および原子力導入・基礎科目の授業継続と改善
② 原子力関連施設の見学およびインターンシップの継続
③ 低放射線利用、解体技術、廃材利用を視野に入れた遠隔・自動化技術に関する研究
④ 核反応、原子炉、放射線の種類と人体に対する影響、放射能防護などの基礎について、
正しい知識を持ち的確な判断のできる学生の育成
⑤ 岡山大学、原子力機構人形峠環境技術センターとの三者連携を継続し、関連する研究者・
技術者および実験設備の活用
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⑥ 岡山県北部における基礎的な原子力人材育成センターとしての位置付けの検討
5.事業成果の公開事例、関連する文献
1) 原子力コア人材育成研究会
~原子力人材育成教育の今日・未来~、呉高専、事例紹介
2) 19th International Conference On Nuclear Engineering (ICONE19), May 16-19, 2011.
Makuhari, Chiba, Japan(東北地震の影響で学会自体は延期)
3) 全国高専教育フォーラム、平成23年8月23日(火)~25日(木)
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