P C erformance 118 活 躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス hemicals エンジンオイル用 高性能粘度指数向上剤 潤滑油添加剤事業本部研究部 ユニットマネージャー 中田 繁邦 [紹介製品の問い合わせ先] 潤滑油添加剤事業本部営業部 近年、地球温暖化防止の観点 の燃焼効率向上などが進められ 温で粘度が高くなる性質を示す から、CO2 の排出量削減や省エ ており、その 1 つが潤滑油の高 が、潤滑油は粘度変化が小さい ネルギーへの取り組みが行われ 性能化である。この潤滑油の高 ことが望まれる。高速走行時の て い る。2013 年 度 国 内 CO2 排 性能化に、その役割を急速に高 ような高温時に粘度が低すぎる 出 量 を 見 る と[図 1]、16% を めているのが粘度指数向上剤 と、金属上での潤滑油の油膜が 占める運輸部門の中で自動車の (Viscosity Index Improver、 薄くなることで潤滑性が低下 排出量が約 9 割を占めており、 以下 VII)である。本稿では VII し、摩耗や焼き付きなどの問題 自動車の燃費向上などに対する の種類、動向、作用機構と当社 を起こす。また冬場の始動時の 関連法案の改正などが実施され のエンジンオイル用高性能VII ような低温時に粘度が高すぎる ている。燃費基準については、 『アクルーブ』について紹介する。 と、粘性抵抗によるエネルギー 国土交通省と経済産業省主催の 分科会で目標が取りまとめら ロスが大きくなり燃費が悪化す VII とは るのである。 れ、企業単位の乗用車の燃費基 潤滑油はエンジンオイルや駆 この温度による粘度変化を小 準が 2020 年には 20.3 ㎞ /ℓ (2015 動油などであり、低温から高温 さくするために潤滑油に添加さ 年は17.0㎞/ℓ)まで引き上げら (おおよそ−30∼150℃)の広い れるのが VII であり、粘度変化 れる予定である。この対応策と 温度領域で使用される。液体は が小さい(粘度指数が高い)ほ して、車両の軽量化、エンジン 一般的に高温で粘度は低く、低 ど燃費向上への効果が高い。 家庭部門 4% 工業プロセス 4% 表1 VIIの種類 ポリマーの種類 化学構造 廃棄物 2% 業務その他部門 5% オレフィンコポリマー (略称OCP) CH2 運輸部門 16% 直接排出量 約 ポリメタクリレート (略称PMA) CH2 CH3 n C n COOR CH3 ポリイソブチレン (略称PIB) CH2 C n CH3 27% 日本の部門別CO 2排出量(2013年度) 出典)温室効果ガスインベントリオフィス CH CH3 13億1100万トン 産業部門 CH2 m エネルギー転換部門 41% 図1 CH2 スチレン/イソプレン 共重合体の水添物 (略称SCP) CH2 CH2 CH2 ❶ 2015 冬 No.493 CH CH3 m 三洋化成ニュース CH2 CH2 n は省燃費化のニーズとともに、 量が 1∼50 万程度の鎖状の油溶 改定されるごとに基準が強化さ 性ポリマーである。その作用機 VII は、化 学 組 成 か ら オ レ れてきた。省燃費性は、高温高 構は、潤滑油中での VII の溶解 フィンコポリマー(OCP)系、 せん断粘度(HTHS 粘度)の 80 状態の変化を利用している。高 ポリメタクリレート(PMA)系、 ∼100℃測定値が低いほど良く 温ではポリマーの潤滑油への溶 ポリイソブチレン(PIB)系な なるといわれている。省燃費化 解性は上がり、分子鎖は伸びて ど に 分 類 さ れ、現 在 の 主 流 は に伴い、基本性能である 150℃ 広がった状態をとることで潤滑 OCP系とPMA系である[表1] 。 の高温高せん断下での最低粘度 油の粘度を大幅に増加させる。 PMA 系は、OCP 系に比べて粘 を保証しながら、80∼100℃に 逆に低温ではポリマーの溶解性 度指数向上性能に優れるため、 おける粘度をより下げることが が下がり、分子鎖は糸まり状に 近年使用例が増えている。 求められている。これに大きく 丸まった状態となり、潤滑油の 寄与するのが VII である。 粘度はそれほど上昇しないとさ VII の種類 エンジンオイル用 VII の動向 これまでエンジンオイル用 れている。つまり、VIIの働きは、 VII としては安価かつ少量の添 適正な範囲内で潤滑油の粘度を 加で SAE 粘度分類の規格を満 保持させることである[図 2] 。 ばれる鉱物油に各種の添加剤 たす OCP 系が主流であったが、 温度による潤滑油の粘度変化の を 加 え た も の で、ピ ス ト ン の ILSAC /API 規 格 の 省 燃 費 性 大きさは粘度指数で示し、粘度 往 復 で 生 じ る 摩 擦 の 低 減、エ が厳しくなってきたことから、 指数が高いほど温度による粘度 ン ジ ン 内 部 の 清 浄 化、気 化 室 OCP 系よりも粘度指数向上性 変化が小さく、潤滑油には好ま の気密保持など種々の役割を 能に優れる PMA 系が使用され しい。 果たす。その性能は、SAE(米 るようになってきた。 エンジンオイルは、基油と呼 国自動車技術者協会)粘度分類 と ILSAC(国際潤滑油標準化認 定委員会)/ API(米国石油協 PMA 系は温度変化による分 子鎖の広がり、収縮の差が大き VII の働き いことから粘度指数向上性能に 優れている。 VII の主成分は重量平均分子 会)規格によって分類されてい る。SAE 粘 度 分 類 は マ ル チ グ レード規格で、低温、高温の粘 ポリマーの溶解状態 度特性などを示し、ユーザーが 自分の車に最適なオイルを選択 高粘度の鉱油-B (VIIなし) できるようにしている。日本の 低燃費自動車の多くは 0W−20 低粘度鉱油-A (VIIあり) 動粘度 グレード(0W は低温粘度、20 は高温粘度を示し、どちらも数 適正粘度範囲 字が小さいほど燃費特性に優れ る)である。 (VIIなし) 低粘度の鉱油-A ILSAC /API 規 格 は、エ ン ジン試験における各粘度グレー ドの省燃費性を規定した規格で あり、基準を満足したオイルに 低温 図2 温度 VIIの溶解状態、粘度挙動の模式図 対し認定が行われる。この規格 三洋化成ニュース ❷ 2015 冬 No.493 高温 が っ た ま ま で あ る。一方、SP 下することから、潤滑油の長寿 値差の大きい PMA 系(SP 値= 命化のためにはせん断による粘 VII に 求 め ら れ る 主 な 性 能 9.0∼9.2)は、溶解性が適度に低 度低下が小さい(せん断安定性 は、粘度指数向上性能とせん断 いため低温では収縮し、高温で が高い)方がよい[図 4] 。せん 安定性である。 の広がりとの差が大きくなるた 断は分子量が大きいほど強く受 め、粘度指数向上能に優れる。 ける。分子量が小さくなれば、 ②分子量 せん断安定性は向上するが、粘 VII への要求性能 [粘度指数向上性能] 前述のとおり粘度指数向上性 能は温度変化に伴うポリマーの VII の 分 子 量と VII を 添 加 し 度指数は低くなるため、分子量 挙動変化を利用しており、①潤 た潤滑油の粘度指数との関係を は目標性能に応じて最適化さ 滑油への溶解性、②分子量の影 図 4 に示す。分子量が大きいほ れる。 響を受ける。 ど粘度指数が高くなる。これは ①潤滑油への溶解性 分子量が大きいほど温度変化に 対する分子鎖の広がりの変化が 溶解性の指標として溶解度パ 大きいためである。 ラ メ ー タ ー(SP 値)が 用 い ら [せん断安定性] れる。SP 値とは溶媒への溶質 エンジンオイル用 高性能 PMA 系 VII 『アクルーブ V−5000』 シリーズ の溶解のしやすさを示し、SP ポリマーである VII は、使用 粘度指数向上性能に優れる 値差が小さいほど溶解性が高い するほど機械のしゅう動部分 PMA 系において、さらなる省 ことを示す。VII の SP 値と VII (エンジン内のピストンとシリ 燃費性向上を可能にしたエンジ を添加した潤滑油の粘度指数 ンダー壁のすり合わせ部分な ン オ イ ル 用 高 性 能 PMA 系 VII と の 関 係 を 図 3 に 示 す。PMA ど)で生じる摩擦などの大きな 『アクルーブ』シリーズについ 系の粘度指数向上性能が OCP 力(せん断力)によって、徐々 系 よ り も 優 れ て い る の は、溶 に分子鎖が切断される。せん断 『アクルーブV−5000』シリー 媒である基油と溶質となる VII 安定性は分子鎖切断による潤滑 ズは、独自の技術で設計した特 の SP 値差に起因する。基油の 油の粘度低下の割合で評価さ 殊な長鎖アルキル基を有する当 SP 値(約 8.2)との差が小さい れ、粘度低下率が低いほど優れ 社オリジナルの特殊モノマーと OCP 系(SP 値=約 8.2)は、溶 ている。切断により分子量が低 従来のモノマーを共重合したポ 解性が高く低温でも分子鎖が広 下すると粘度指数向上性能が低 リ マ ー で あ る。こ の ポ リ マ ー 230 300 基油のSP値 PMA系 VIIのSP値 200 不溶 190 7.5 8 8.5 9 30 せん断安定性 180 20 (%) 粘度低下率 (右目盛) 1 10 VIIの分子量 (Mw) 9.5 10 高 0 100 (万) VIIを添加して潤滑油の100℃粘度を7mm2/sに調整した せん断条件:JASO M347-95 VIIのSP値 図3 VIIのSP値と潤滑油の粘度指数との関係 図4 三洋化成ニュース 50 40 220 100 160 150 粘度指数 (左目盛) 260 140 OCP系VIIの SP値 170 低 VIIの分子量(Mw) と潤滑油の粘度指数および、 せん断安定性との関係 ❸ 2015 冬 No.493 粘度低下率 潤滑油の粘度指数 210 潤滑油の粘度指数 220 180 て、以下に説明する。 『アクルーブ V−5000』 シリーズ 粘度指数 従来品 想定して行った。150℃ オイル用以外の『アクルーブ』 HTHS 粘度を保証粘度の シリーズも保有しており、より 2.6mPa・s に 設 定 し た 場 厳しいせん断安定性と粘度指数 合、100℃、80℃ HTHS 向上性能が要求される自動車用 粘 度 は OCP 系 従 来 品 に 潤 滑 油 添 加 剤 と し て、幅 広 い 比 べ 約 30% 低 減、PMA ニーズに対応している。 系 従 来 品 に 比 べ 約 15% 低 高 せん断安定性 今後の展望 低減できている。『アク ルーブ V−5000』シリー 2018年3月 を め ど に、ILSAC ズは自動車の燃費向上に はさらなる省燃費性に対応した 大きく貢献し、日本車を 次世代規格(GF−6)への改定 は、従来技術では困難であった 中心に省燃費対応エンジンオイ が行われる予定であり、VIIの 高い SP 値でも基油に溶解する ルへの採用が進んでいる。使用 粘度指数向上性能に対する期待 ことができ、かつ低温域で VII される潤滑油の種類や処方に もますます高まっている。当社 がより収縮しやすくなる構造を よって異なるさまざまなニーズ はさらに技術を深化させ、さら 有するため、従来の PMA 系に に対応して、せん断安定性は従 なる製品の高性能化によって、 比べて、高いせん断安定性を維 来品と同等で粘度指数向上性能 地球温暖化防止に貢献していく。 持しながらより高い粘度指数を に優れるもの( 『V−5110』 ) 、よ 実 現 し て い る[図 5]。粘 度 指 りせん断安定性が求められるも 数が同じ場合では、潤滑油の寿 の( 『V−5090』や『V−5130』 ) 、 命を延ばすことができる。表 2 エンジンオイルの清浄化のた に当社のエンジンオイル用高性 め、発生するスラッジの分散性 能 PMA 系 VII『アクルーブ V− を 付 与 し た も の( 『V−5130』) 5000』シリーズを添加した潤滑 などをラインアップしている。 油と従来品を添加した潤滑油の また、エンジンオイルだけでな 性能を示す。性能評価は、日本 く、CVTF、ATF、ギヤ油など 車の主流グレードの 0W−20 を の自動車駆動油など、エンジン 図5 『アクルーブ V−5000』 シリーズと 従来品との性能比較 参考文献 1)狩野美雄、松家英彦「粘度指数向上 剤(VII)の 機 能 と 用 途」潤 滑 経 済 No.383 p.12(1998) 2)中 西 秀 男「粘 度 指 数 向 上 剤 の 動 向」 トライボロジスト No.48 p.890(2003) 3)由岐剛「低粘度潤滑油における粘度 指数向上剤の潤滑性向上技術」トラ イボロジスト No.53 p.449(2008) 4)阿尾信博「潤滑油の低粘度化と粘度 指 数 向 上 剤 の 動 向」潤 滑 経 済 No.560p.30(2012) 表2 『アクルーブ V−5000』 シリーズと従来品の性能比較 性能項目*1 単位 アクルーブ V−5090 アクルーブ V−5110 アクルーブ V−5130 従来品 (PMA系) 従来品 (OCP系) − 非分散 非分散 分散 非分散 非分散 HTHS粘度 (150℃) mPa・s 2.6 2.6 2.6 2.6 2.6 HTHS粘度 (100℃) mPa・s 4.9 5.2 5.1 5.7 7.5 HTHS粘度 (80℃) mPa・s 7.8 8.1 7.7 8.8 11.6 動粘度 (100℃) mm2/s 7.32 7.87 7.18 8.70 8.05 動粘度 (40℃) mm /s 31.8 32.7 30.6 39.3 41.8 CCS粘度 (−35℃) mPa・s 5,500 5,050 5,100 5,800 5,500 MRV粘度 (−40℃) mPa・s 10,200 13,200 14,000 15,800 15,000 Yield Stress − None None None None None Bosch SSI*2 % 29.8 32.7 25.0 35.0 22.0 三洋化成ニュース ❹ 2015 冬 No.493 非分散/分散 2 *1 パッケージ入り基油:100℃動粘度=5.7mm2/s *2 せん断安定性の指標
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