OICE Discussion Paper Series (ODP) HAK-16 フェアトレードという貿易システム 秋山 尚子 1.はじめに フェアトレードという言葉を聞いても、イメージすることは難しいと言える。しかし、私たちの身の回り で探してみると簡単に見つけられることが出来る。例えば、スターバックスの一部のコーヒー豆やイオンが ケニアから輸入をしているバラ、フェアトレードとは少し違うがロッテはガーナチョコレートの売上金の一 部を途上国の支援に充てている。このように見ると、フェアトレード商品は私たちにとって身近である。し かしそれがどんな貿易のシステムを指すのか,いまいちピンと来ないのではないか。本稿では、途上国で暮 らす人々の生活を支援するフェアトレードという貿易システムに注目をする。佐藤(2009)より、2 節では フェアトレードの構造をまとめ、3 節では市場拡大のために導入したフェアトレードラベルについてまとめ る。最後に、フェアトレードラベルの導入は途上国の生産者、企業側にとってプラスに働いているのかを自 分なりに考えてみたいと思う。 2.フェアトレードとは はじめに、途上国と先進国の貿易(普通の貿易)を見ると、先進国の消費者は安い商品を求めるので、仲 介者である多国籍企業は利潤を求め、発展途上国の生産者からなるべく安い金額で商品買い上げを行う。利 潤をほとんど得られない生産者はいつになっても貧困から抜け出せないという仕組みになっている。 例えば,タンザニアコーヒー豆を使用した 1 杯 330 円のコーヒー売上内訳から一般的な貿易構造をみてみ ると、カフェ/小売業者・焙煎業者・輸入業者(日本の儲け)に落ちるお金は 90%(298 円) 、輸出業者・地 元の貿易会社(タンザニアの儲け)に落ちるお金 7%(23 円)、コーヒー農家(農民の儲け)は 1∼3%(3 ∼9 円)の儲けしかない。 このような貿易はフェアではない、生産者の利益が搾取されているような仕組みが存在したままでは途上 国開発はうまくいかない、という考えがフェアトレードの土台となっている。 フェアトレードの貿易構造は、生産者が有利になるように構成されていて、特徴を 3 つに分けることがで きる。①市場価格の暴落に対するセイフティーネットとしての「最低買い上げ価格保証」、②購入側が代金の 一部を生産者団体に「社会開発」の原資としてフィードバックする「プレミアム支払い」、③生産者が収穫期 まで借金をせずに暮らせるための「代金の一部前払い」の 3 点である。 詳しく見ていくと、①十分な買い取り価格の保証とは、市場価格よりも多少高く買い取る保証である。こ の追加的な収入で生活水準が向上する。②プレミアム支払いとは、取引価格以外に農民個人ではなく、 「組合」 に対して割増金を支払う。このお金を「組合」員が話し合いで社会開発に使う。例えば、学校、井戸、病院 などのインフラ建設である。③代金の一部前払いとは、零細農民が仲介人からお金を前借りすることを防止 するためである。多くの零細農民は投入財(種子、肥料など)を買うお金が無く、仲介人などに前借をする。 その結果、収穫した作物を他の人には売れず、仲介人に安く買いたたかれるということになりやすい。さら に、不作の時には土地を取り上げられてしまったりする。それを防ぐために、フェアトレードでは前払いで 1 Copyright Reserved, OICE, 2009 OICE Discussion Paper Series (ODP) HAK-16 支払う保証をしている。 以上のようなシステムでフェアトレード運動は進められているため、普通の商品よりも高い価格でフェア トレード商品は販売されている。 また、現在行われているフェアトレード運動は 2 種類に分けることが出来る。1 つは、もともと発展途上 国で社会開発活動を行っていた NGO などがその生活の一環(派生形)として開始したもの(社会開発系フ ェアトレード)と、もう 1 つは通常のビジネス活動の中に途上国との交易を位置づけ、交易によって生産者 と消費者の双方が満足できるスタイルを模索する(ビジネス系フェアトレード)ものである。この 2 つは、 同じフェアトレード運動ではあるが大きく違う所がある。それは、フェアトレードラベルの導入についての 考え方である。3 節では、フェアトレードラベルについてまとめていく。 3.フェアトレードラベルとは フェアトレードラベルとはフェアトレード団体の国際的ネットワークを基盤とする自発的な「認証組織」 が発行するものである。コーヒー、カカオ、紅茶などの生産品に付与する FLO と商品を取り扱う組織のフ ェアトレード性を認証する IFAT(2009 年 2 月に WFTO と改称)の 2 つの認定団体がある(佐藤 2009)。 FLO とは、Fairtrade Labelling Organizations International の略称で、国際的なフェアトレードラベルの 基準作りや監査の仕組みを構築している。基準に合致した生産団体の商品にはフェアトレードラベルを添付 し、フェアトレード専門店以外のチャネルでフェアトレード商品を差別化し販売することを可能にした(池 ヶ谷 2009)。 ラベルの役割は、①消費者にフェアトレード商品であることを保証する、②フェアトレード商品に対する 理解を広げる、③商品と生産団体にフェアトレード基準の遵守を要請する、④必要に応じてモニタリング、 指導を行う、⑤ラベルからの収益を、生産団体の社会開発に使うことなどがあげられる。フェアトレードラ ベルが出来てから、まだ 10 年足らずではあるが、欧米のフェアトレード市場の拡大に貢献した。ヨーロッ パではフェアトレード商品の 90%にラベルが付いているが、日本ではまだラベルの認知が低く、フェアトレ ード商品の 85%にラベルは付いていない。 ラベルは、フェアトレードの市場を広げることには貢献したが、社会開発系フェアトレードとビジネス系 フェアトレードのラベルに対する考えは対立している。まず 1 つは大企業がフェアトレードのラベルをもつ 効果について考えが対立する。社会開発系は,ラベルがネスレやスターバックスという企業のイメージアッ プの道具に利用される、と主張している。一方,ビジネス系は,ラベルの導入によって市場が広がり、ラベ ルの収益が上がると主張している。また、大企業参入により消費者の手近なところにフェアトレード商品が 届くことに対しても考えは対立する。社会開発系は大企業のブランドが先立ってしまい,途上国の生産者の 情報が消費者に届きにくくなると主張しているが、ビジネス系はラベルが身近になることで多くの人の目に 留まると主張をしている。 フェアトレードラベルの導入は、途上国の生産者支援の追い風となって働くのか、それとも結局は大企業 のイメージアップと利潤だけにつながっていくのだろうか。4 節で少し考えてみたい。 2 Copyright Reserved, OICE, 2009 OICE Discussion Paper Series (ODP) HAK-16 4.おわりに 本稿では、途上国の生産者の貧困削減方法として、注目をされているフェアトレードという貿易システム についてまとめた。フェアトレードとは、佐藤(2009)が会議の中でも述べていたように、簡単に言ってし まえば「途上国の生産者たちをえこひいきすること」である。通常の価格よりも高い価格で消費者が商品を 購入することで、生産者の生活水準を向上させる仕組みになっている。 最後にフェアトレードラベルの導入について少し考えてみたい。社会開発系のフェアトレード団体はラベ ルの導入について反対の立場に立っているようだが、私はラベルは必要であると考える。実際に私がフェア トレード商品を知ったきっかけは、偶然入った雑貨屋さんだからである。ラベルがなければ、フェアトレー ド商品であることに気づかなかっただろうし、商品に関心を持つこともなかったかもしれない。だから消費 者の関心を引く認証ラベルは必要であると考える。 もちろん社会開発系のフェアトレード団体が言うように、企業のイメージアップの道具として使用された り、途上国の生産者の情報が消費者には届かないという問題もあるかもしれない。しかし、フェアトレード とは公正な取引である。途上国の生産者だけでなく、企業側の双方に利潤がなければ公正な取引とは言えな いだろう。また、途上国の生産者の情報が消費者には届かないという指摘も、 「物語つき販売」を実施するこ とで解決されるはずだ。 「物語つき販売」とは、フェアトレード商品のタグに生産者の顔写真や売上金の使い 道を貼り付けて、お店で販売することである(佐藤 2009)。例えば、身近な例で言えば CM で放送されてい るボルヴィックの「1L for 10L プロジェクト」があげられる。これは、ボルヴィックの水を1L 買うとアフ リカに清潔で安全な水が井戸を作ったり、メンテナンスを行うことで 10L 生まれるというプロジェクトであ る(1L for 10L プログラム)。 フェアトレードという貧困削減方法は、ラベルを導入することで特に欧米での市場を拡大することに成功 している。今後、日本においてフェアトレードの市場拡大が成功すればさらに途上国の生産者の生活向上に つながっていくと思われる。 <参考文献リスト> ・池ヶ谷二美子(2009)「国際フェアトレード組織の戦略」『アジ研ワールド・トレンド』NO.163 2009 年 4 月号 P.6 ・佐藤寛(2009)「フェアトレードと貧困削減」『アジ研ワールド・トレンド』NO.163 2009 年 4 月号 pp.2−3 ・佐藤寛(2009)「社会開発系フェアトレードとビジネス系フェアトレード」『フェアトレードと貧困削減』 2009 年 ジェトロ・アジア経済研究所夏期公開講座・コース 3 資料,7 月 10 日 ・「1L for 10L プログラム」(http://www.volvic.co.jp/1Lfor10L/about/index.html,2009/7/23 アクセス) 3 Copyright Reserved, OICE, 2009 OICE Discussion Paper Series (ODP) 補足 HAK-16 フェアトレード商品 ケニア産「フェアトレード」のバラ(イオンのフェアトレード商品) (http://www.aeon.info/news/newsrelease/200610/1010-3.html,2009/07/19 ア クセス) 公正な価格の取引を保証するフェアトレードラベル国際組織が認 定したラテンアメリカ産コーヒーとアフリカ産コーヒーのブレン ド。(スターバックスのフェアトレード商品¥1,300 (250g)) (出所:http://www.starbucks.co.jp/beans/multi_region/ftn.html,2009/07/19 アクセス) ロッテのガーナチョコレート チョコレートの売上げの一部を JOICFP という団体に寄付をして いる。JOICFP から、ガーナへ自 転車を寄贈するという支援を行っ ている。 4 Copyright Reserved, OICE, 2009 OICE Discussion Paper Series (ODP) (出所:http://www.joicfp.or.jp/jpn/ghana.html,2009/07/19 アクセス) フェアトレード認証ラベル(FLO) (商品認証) (出所:http://www.wakachiai.com/shop/fairtrade.html,2009/7/21 アクセス) 5 Copyright 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