静岡県立科学技術高等学校 国際化推進室 月報 第 4 巻 1 号 発行 2013 年 5 月 2 日 巻頭言 「進取の気持ち」 校長 田中克己 江戸から明治に移行する明治維新については、歴史の 授業で学ぶのは勿論のこと、書籍や TV 等、多くのマスメ ディアでも取り上げられ、報道されている。武家社会か ら近代国家への大転換、そこで活躍したのは 20 代、30 代 の若者である。坂本龍馬、西郷隆盛、勝海舟、高杉晋作 等々、名前を挙げていくと切りがない。その中でも、私 が特に興味を持っている人物は、吉田松陰である。その 理由は沢山あるが、一つには、松下村塾を開塾し、歴史 上、名を遺すこととなる多くの弟子達を育てたこと。人 間的な魅力があり、その中で、弟子達は大きく育ったの であろう。そしてもう一つが、黒船を目の当たりにする ことで西洋文明に驚愕し、ぜひ西洋を自分の目で見たい との思いから、脱藩してまで密航をしようとした気持ち に、魅せられるからである。人間の心の中には、未知な ものへの恐怖心と共に、それを探求したい、自分で見て みたい、自分で発見したいという気持ちも備わっている。 例えば、小惑星探査機「はやぶさ」による宇宙への挑戦、 深海探査船「しんかい」による深海底の調査等、未知の 世界に挑んでいる多くの人達がいる。特に若者には、弾 けんばかりの知的好奇心・挑戦心が働くのだろうが、吉 田松陰も若干 23 歳、血潮が騒いだのだろう。命を懸けて の行動であった。 最近、日本の若者は、海外へ出なくなっていると言わ れているが、スポーツ界やボランティア活動などでは、 海外での活躍を耳にすることは多い。本校の生徒達にも、 「求めよう」とする姿を沢山目にする。また、本校の学 校案内の表紙には「自分を『拓く』ために」と書かれて いる。「拓く」とは、多くの困難や難問に挑戦し、自分 の持っている未知の能力を、見つけ育んでいくことであ る。是非、若者には未知のものに挑戦する気持ち、自ら 進んで得ようとする進取の精神をもって、日々取り組ん でいただきたい。科学技術創造立国を牽引する使命を 持った本校生には、特に期待する。私自身も若い気を持 ち、まだまだ未知なる力を拓いていきたいと思っている。 第1号 目次 頁 巻頭言 「進取の気持ち」 校長 1 田中 克己 産業レポート 2 「エレクトロニクス産業の現 ~ 状」 3 電子工学科 教諭 新間正巳 Let's 異文化理解 ー「握手」についてー 国際化推進室 4 校内レポート 平成24年度英検結果 国際化推進室 4 (写真:昨年度本校を訪問した台 湾の高校生。本校正門前で生徒会 役員と一緒に記念撮影)昨年度は 静岡県が友好を進めているモンゴ ル・ドルノゴビ県からも本校訪問 があり、生徒が交流する機会を持 つことができた。 静岡県立科学技術高等学校 国際化推進室 月報 第4巻 1号 2013 年 5月 2日 p2 エレクトロニクス産業の現状 電子工学科 教諭 新間正巳 国内のエレクトロニクス産業の現状 エレクトロニクス産業は、経産省の2009 年の統計によると国内の全製造品出荷額 の13%(45兆円)を占める主要産業です。 昨年はエルピーダメモリの経営破綻やル ネサスエレクトロニクスの大規模なリストラ などがあり国内のエレクトロニクス産業の 衰退を感じる年でもありました。聞き慣れ ない社名かもしれませんがどちらの会社も 半導体製造では国内最大手です。これら のメーカの経営者などは、日本の不況や 円高などの影響が大きく利益を上げるの が難しいと述べているようです。しかし、 様々な記事に目を向けると他にも様々な要因があるようです。 製品の「コモディティ化」と「モジュール化」 エレクトロニクス産業に関わらず、製品はいずれ「コモディティ(Commodity)化」します。コモディティとは日 用品という意味ですが、製品のコモディティ化とは製造技術が確立されメーカ間の差がなく標準的な製品 が作られるようになることです。日本のエレクトロニクス製品もコモディティ化の傾向があり、海外メーカも日 本と同様な製品を作ることが可能になりシェアを奪われているようです。エレクトロニクス製品のコモディティ 化は製品の「モジュール化」によってさら加速しています。モジュール化とは、その製品を作る過程や必要 な機能が明確化されそれぞれが部品として作られるようになることです。それにより、個別の部品を製造す る高い技術を持たないメーカでもそれぞれの部品(モジュール)を購入し組み合わせることによって、高性 能のエレクトロニクス製品を製造することが可能となりました。 経済からみた国際化とは 国内のエレクトロニクス産業の衰退についてはコモディ ティ化の影響があります。コモディティ化した製品について は安いものが売れるということになります。経済からみた国 際化とは人材やモノや情報そしてお金などが国家間を自 由に移動できるようになることです。国際化が進むと、消費 者は海外で生産された安いものを購入しやすくなり、企業 は人件費が安い海外に生産拠点を移しはじめます。国際 エルピーダメモリの主要な製品であるDRAM(写真 化した社会においては、製品がコモディティ化した時点で はパソコン用のメモリ)1980年代に米国のシェアを 人件費の高い日本で製造することがリスクとなるようです。 日本メーカが奪いました。しかし、今は韓国などの メーカにシェアを奪われる形となってしまいました。 かつては日本もコモディティ化した製品をコピーして安く作 ることで米国などのシェアを奪ってきましたが、日本がシェアを奪われていく立場となりました。半導体を生 産するには、高い技術が必要で完全にコモディティ化とまでは言えませんがそれに近い流れがありエレクト ロニクス産業が影響を受けているのは確かなようです。エルピーダメモリの製造するDRA M はこのような影 響もあり海外メーカにシェアを奪われる形となったと言われています。 静岡県立科学技術高校 国際化推進室月報報 第4巻 1号 p3 米国のエレクトロニクス産業 米国のエレクトロニクス産業においては、最先端技術が必要とされるコンピュータのプロセッサを製造し、 現在でも大きなシェアを維持しているIntel社などがあります。Intel社はエルピーダメモリが製造しているD RAMメモリの生産から1985年に撤退してプロセッサに生産軸を移行しました。またipadやiphoneでおな じみのApple社などはものづくりの「つくり」部分の生産技術は二の次で、どんな「もの」を作るのかを大事に して製品を開発しています。独自の「もの」設計が多くの人にとって魅力の製品となっているようです。この ようにエレクトロニクス製品のコモディティ化が進んでも勝ち残っている企業があります。iphone以外の多く のスマートフォンは、同じ基本ソフト(OS)を使用しています。これはメーカを問わず機能や操作がほぼ同じ であることを示すので、いずれはコモディティ化してもおかしくない製品といえます。 国際的に勢いのある韓国エレクトロニクス産業 国際化の観点からいうとエレクトロニクス産業におい ては韓国のサムスン電子の製品が取り上げられることが よくあります。インターネットなどでは有名な話ですが、 こんな記事を目にしました。アラブの富裕層に対して日 本製の冷蔵庫と韓国製の冷蔵庫を同じ価格帯で売り出 したそうです。結果的には、韓国製の冷蔵庫は売り切り 日本製は売れ残ったそうです。勝敗の分かれ目は、韓 国製の冷蔵庫には鍵がついておりメイドのつまみ食い を防止できるからだそうです。韓国製の製品は、使う人 の生活背景をしっかり把握して製品を作ったということ です。海外に展開するには、その国のことをよく知った 上で製品を開発するという熱心さが韓国メーカにはあっ たということです。サムスンの世界に製品を売る姿勢は 韓国のサムスン電子広報館 すばらしいものがあると言えます。私自身も韓国の製品 サムスン電子の最新の家電やデジタル機器が展示されて がなぜ売れるのかということが気になっており、修学旅 おり、実際に触れて体験することもできます。 行の際にサムスン電子広報館を見学してきました。家電 などの製品は必要な機能がコンパクトにまとめられておりました。ユーザ目線での開発を重視しているという 印象を受けました。しかし韓国企業については述べておかなければならないことがあります。韓国には株式 の大半を外国人が持っている企業が多く存在するという点です。実際にサムスン電子も2012年の時点で 株式の54%を外国人が保有しているそうです(サムスンWebサイトより)。これは企業が利益を上げてもそ れが必ずその国の利益にはならないということを示しています。このような現象も国際化が進んだことによっ て起きていることと言えるでしょう。国際化により企業が利益を上げてもその国の国民に十分利益が還元さ れないことがあるということも知っておいてほしいことだと思います。 今後の日本のエレクトロニクス産業 各国のエレクトロニクス産業は、世界に目を向け様々な製品を作っています。日本のエレクトロニクス産業 の衰退については、不況や円高が主たる要因だと思いますが、それ以外の要因が見えてきました。景気が 良くなり、円高が是正されたとしたも、世界に目を向けた製品開発が必要であるということはエレクトロニクス 産業だけでなく製造業全体にいえることだと思います。これからの日本の製造業を支える若者が、国際化と は何かということを考え、世界で活躍できるエンジニアに成長してほしいと願っております。 【参考文献】 経済産業省 工業統計調査2009 経済産業省 産業構造ビジョン2010 (社)日本リサーチ総合研究所 金融経済リポート No.40 静岡県立科学技術高等学校 国際化推進室 月報 第4巻 1号 2013 年5月2日 p4 Let's 異文化理解 --「握手」について-- 国際化推進室 春は異動の季節で、さまざまな人達と出会い挨拶をする機会が多い。日本では、欧米人は挨拶する とき常に握手すると思っている人がいるようだが、そうとは限らない。本校ALTでイギリス人の ジョニー先生に尋ねたところ、握手は極めて”formal”(フォーマル、正式な)な感覚なので、ビジネ スの際の挨拶に使われるが、個人的な挨拶の場面で握手をするかどうかはその人次第ということであ る。特に若者は、初対面でも”Hi”と笑顔で言い交わすだけで握手はしないことが多いそうだ。 また最近、日本人や韓国人が握手をする際、一方が相手の手を包み込むような「両手で握手」の光 景が見られるようになった。しかし元来、握手は利き手の右手に武器は持っていない友好の印を示す という起源があるため、片手で充分であり、両手で握手した方がさらに丁寧になるいうことはない。 最近韓国を訪れたマイクロソフトのビル・ゲイツ氏が大統領と握手する際、右手だけで握手しておま けに左手をズボンのポケットに入れたままにしておいたということで、非難されている。これはアメ リカ文化においては、やや”casual”(気軽)に過ぎたかもしれないが、けっして”rude”(無礼な) ではないと考えられる。握手をするときには、その手が一本か二本か、ということよりむしろ、相手 の目をしっかり見ながら握手するということが大切だと言われている。 平成24年度英検結果 英検合格生徒数の推移 人 昨年度、本校を一次試験準会場に英検 140 を3回実施した。基礎を固めるため3級 12 からの受検を一昨年度より開始したこと 120 もあり、英検受験者・合格者は大幅に増 38 100 加した。 6 特筆すべき点として、難関の2級合格 2級 80 準2級 者数が倍増したこと、また工業科生徒の 39 60 3級 3級および準2級受検者数が増大してい る点が挙げられる。昨年度準2級は合格 83 40 数は前年比横ばいであったが、その中で 3 46 20 0 工業科1年生が準2級に4名合格と健闘 27 16 した点が注目される。 0 0 0 このように3級から受検し英検の問題 H21 H22 H23 H24 形式に慣れた生徒が増加しているので、 年度 引き続き準2級へのチャレンジを奨励し、 工業科生徒の英検準2級の合格者数の増 加を図りたい。今年度は土曜講座で英語科に英検過去問を教材に取り上げてもらう等の連携指導を強 化しており、本校全体の英検取得者数をさらに増やしていきたいと考えている。(国際化推進室) 編集後記:国際化推進室では、本校教職員・生徒の「国際化」をめぐる様々な体験や知見を発信し ていきたいと考えています。感想をお寄せいただければ幸いです。 (国際化推進室 竹内美芳) 国際化推進室月報 第 4 巻 1 号 発行: 2013 年 5 月 2 日 問い合わせ先: 〒420-0886 静岡市葵区長沼 500 番地の 1 静岡県立科学技術高校(国際化推進室) 電話 054(267)1100 FAX 054(267)1123
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