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第33回 農業環境シンポジウム 『農業からみた生物多様性、生物多様性からみた農業』
2010年9月4日 ベルサール飯田橋
農業活動による生態系と
ランドスケープの管理
∼生物多様性から見た農業∼
(独)農業環境技術研究所 生物多様性研究領域
水田生物多様性リサーチ・プロジェクト
山本
勝利
地域全体の環境
農村ランドスケープ
さまざまな緑の組み合わせ
筑波山
屋敷林
(集落)
森林(斜面林)
畑(ほ場)
水田(ほ場)
水路
畦とのり面
生物多様性に関する新たな国際的目標
生物多様性条約COP10:2010年10月名古屋開催
2010年目標の失敗
(地球規模生物多様性概況3で検証)
「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」
2020年目標の採択へ!
日本政府からの提案(2010.01.06)
個別目標C: 生物資源を用いる農林水産業などの活動
において、持続可能な方法による生産の比率を高める。
手法C1
生態系に与える影響に配慮した農業生産技術の普
及を図る。
手法C2
生物の生息環境に配慮した農地及びその周辺地域
の環境を創出する。
農地周辺における生物多様性の減少
Farmland biodiversity is declining
UK common bird indicator
農村の生物多様性を巡る今日の情勢
今日、絶滅が危惧されている生物には農村を主な生息地とするものが多い
農地(水田)
里山林
生物多様性の危機
(3+1)
生物多様性の危機(3+1)
草地
<生物多様性国家戦略>
【第1の危機】 【第2の危機】 【第3の危機】 【+α】
人間活動の拡大
人間活動の縮小
新たな問題
温暖化
4つの危機が同時に起こっている!
都市、農地開発
過度の集約化
里山の放置
耕作放棄
化学資材の使用
外来生物の導入
生物分布
の変化
農業と生物多様性の正負の関係
+ 適切かつ持続的な維持管理
生物多様性の危機
+の低下、−の増大
農業
− 化学資材の多投入
− 過度の整備・改良
生物多様性
− 病害虫、鳥獣害
農業技術
+ 有機物生産、水・物質循環
+最大化、−除去
天敵生息数に影響する農法と周辺環境
統計解析によるアシナガグモ属の個体数の予測
水田農業の指標としての
水田農業の指標としての
アシナガグモ属クモ類
アシナガグモ属クモ類
栃木県内4地区での調査結果
スウィーピング調調査個体数
(10回振り×5回調査の合計:2圃場平均値)
20.0
その他のアシナガグモ属
トガリアシナガグモ
15.0
10.0
5.0
0.0
南
中2
有機農法
中1
北
慣行農法
一般化線形モデルによるベストモデル
説明変数
係数
有意水準
農法要因
慣行農法タイプ
-0.233 0.038 *
環境保全型農業タイプ
-0.533 0.000 ***
殺虫剤(箱施用剤-プリンス系)の施用有無
-0.487 0.000 ***
殺虫剤成分回数(箱施用剤-非プリンス系)
-0.603 0.000 ***
殺虫剤成分回数(本田施用剤)
-0.369 0.000 ***
化学肥料の施用有無
-0.557 0.000 ***
有機質肥料の施用有無
-0.120 0.107
環境要因
年平均気温(℃)
-0.499 0.000 ***
年間降水量(mm)
0.001 0.000 ***
暖候期日射量
-0.213 0.000 ***
最大積雪深
-0.025 0.000 ***
起伏量
-0.005 0.000 ***
JOIN数(1997年:水田−林野)
0.018 0.000 ***
JOIN数(1997年:畑・樹園地−林野)
-0.005 0.005 **
JOIN数(1997年:建蔽地−林野)
-0.008 0.127
(定数項)
28.423 0.000 ***
AIC= 2837.1
explained deviance: 62.8 (農法要因28.5,環境要因20.5,共有効果13.7)
農地の周辺環境が持つ意味
農耕地周辺の線的生物生息地(Linear habitat)の研究
フィールドマージン、フールドトリップ、ヘッジロウ、ロードベージ
欧米で多くの研究例
面的生育地を失った草原性生物のレフュージア、
他の生息地への種のソース、残された面的生息
地を結ぶコリドーなどの重要な機能を持つ。エコ
ロジカルインフラストラクチャーとして位置づけ。
Walter et al.(2007)
Tikka, P. M. (2001)
Bakker & Berendse (2000) など
農村は二次的自然の組み合わせ
農村には様々な緑が人間の利用に応じて形成されている。
−生態系(二次的自然)の多様性が種の多様性を形作る
legend
Paddy field
Upland field
Deciduous forest (secondary)
Coniferous forest (plantation)
Bamboo
Bush
Grassland
Marshy grassland
Greenhouse
Other open space
Pond
Channel
House
Pavement & road
多様な二次的自然の混在が持つ意味
農地周辺の鳥類と景観構成要素
天野(NIAES)ら
鳥類の生息地タイプ区分(繁殖期)
チュウサギ(農地性水鳥)
モズ(農地性その他)
オオヨシキリ(草地性)
ホオジロ(林縁性)
周辺土地利用と鳥類のタイプ別個体数との関係
夏季(繁殖期)は、周囲1
km2に水田が多い地区で湿
地性鳥類が、林地が多い
地区で樹林性鳥類が、土
地利用の多様度が高い地
区では草地性鳥類が、そ
れぞれ多く確認された
「土地利用の影響」は回帰分析による。
「土地利用の多様度」は水田、放棄田、樹
林地等が偏りなく存在することを示す
多様な水辺の組み合わせが持つ意味
水田周辺の水域とトンボ類
田中・山中(NIAES)ら
ギンヤンマ
ウチワヤンマ
オニヤンマ
田面
トンボ種によるため池環境の相異
ため池
細水路
種によるため池の内部環境と配置の重要性の相異
グループ2
グループ1
グループ4
里山以外の「第2の危機」 耕作放棄
水田
耕作放棄水田
茨城県 牛久市 遠山地区の「谷津田」
空中写真(1960)
空中写真(1974)
空中写真(2002)
水田(未整備)
放棄(ヨシ、ススキ)
遷移(ヤナギ、ササ)
里山−農業がつくった広大な二次的自然
採草地
雑木林(クヌギ・コナラ)
松林(アカマツ)
複合的な景観
農業による里山利用とその変化
江戸期の主な里山生産物
肥料源
(左図)
草、柴、家畜糞尿
動力源
役畜(牛馬)の餌(まぐさ)
熱源・光源
薪、炭など
食料
山菜、茸、野生動物など
建築・土木資材
丸太、茅など
他の資材
竹、材、蔓など
里山は、様々な物を生産する農林業の場
里山利用価値の喪失
里山利用価値の喪失
エネルギー革命
エネルギー革命
薪炭
薪炭
役畜
役畜
刈敷
刈敷
資材
資材
→
→
→
→
→
→
→
→
電気、石油
電気、石油
車、トラクタ
車、トラクタ
化学肥料
化学肥料
プラスチック
プラスチック
農林業の効率化
農林業の効率化
農林家の減少、高齢化
農林家の減少、高齢化
都市化の進展
都市化の進展
農業による里山利用の変化の影響
普通種の激減!−秋の七草
雄花(ススキ)
撫子(カワラナデシコ)
葛(クズ)
萩(ヤマハギ)
桔梗(キキョウ)
藤袴(フジバカマ)
女郎花(オミナエシ)
農業によるランドスケープ管理の今①
谷津田のすそ刈り草地と植物群集
小柳・楠本(NIAES)ら
すそ刈り草地
水田に隣接する斜面林の
下部で田面(イネ)が日陰
になるのを防ぐ
すそ刈り草地は在来多年生草本植物が多様
種数による比較
60.0
300
現在の草本群落
30.0
木本
多年草
一年草
過去の草
本群落
40.0
200
*
*
*
150
100
20.0
出現種数
(EIG=0.332)
第1軸
(在来種の多様性を表す)
250
帰化率
20.0
10.0
0.0
0.0
*
50
0
C1
C2
C3
P1
C1
C2
C3
P1
谷津型
松林型
平地型
過去の半
自然草地
谷津型
松林型
平地型
過去の半
自然草地
在来種の多様さを表す統計値が谷津
型は松林型や半自然草地と同程度
外来植物が占める割合(帰化率%)
種別生育量による統計的比較
谷津型は松林型と同程度に総種数が多
いが、特に草本が多く、外来種が少ない
谷津田の水田農業が里山の生物相を育む
森林性の種
アキノキリンソウ
ヤブラン
オオミドリシジミ
草原性の種
すそ刈り草地
ワレモコウ
メスグロヒョウモン
湿地性の種
草丈が低く日当たりが良い
ため小さな植物も生育可能。
毎年夏季に数回刈られる
ため、宿根型の多年草に
有利。木は少ない。
ツリガネニンジン
オトギリソウ
コバノギボウシ
ツマキチョウ
農村ランドスケープの多様性と評価
風土に応じて形成されたランドスケープに適した評価・対策が必要
山間部の水田
棚田
扇状地の水田
谷津田
大河川沿いの水田
干拓地
農業景観に関する調査・情報システムRuLIS
1 全国の農村景観(農
業生態系)を類型化
(60タイプ)
風土による景観、生物
相の違いを考慮した調
査・解析を行う
地形、土壌、気象、植生
等の自然立地条件や農
業立地条件を利用した
農業生態系の類型化
(3次メッシュ単位)
legend
64
66
67
68
農業生態系の分類
利根川流域における6つのクラス
・全国の農業生態系を60のクラスに分類 ● 6-e 内陸部の水田景観
● 6-f 下流域低地水田景観
*この地図はレベル3で表示
● 6-g 下流域台地谷津田景観
● 6-h 下流域台地市街地景観
2 関東地方(利根川流
域)の水田景観で生
態系をモニタリング
広域データと詳細デー
タの結びつけと、生態
系の変化の解析を行う
* RuLIS
Rural Landscape Information System
モニタリング地点における土地被覆分類等の調
査手順の汎用化、サンプルプロットにおける調査
手順の汎用化等、調査システムの確立
生態系に関するデータの収集
legend
Monitoring Sites
利根川流域におけるモニタリング地点
1.土地被覆の現況状況
2.土地被覆の変化の把握
3.地区内の植生把握
4.希少種の分布
5.外来種の分布
current land cover
既存の植生調査データ等の収集
水田JOINから見た景観構造変化(RuLIS区分別)
r = 0.980
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
25
50
12.0
r = 0.334
8.0
4.0
0.0
75
0
25
50
12.0
r = 0.654
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
75
0
25
50
75
3次メッシュ内の1/10細分水田率(%) 1976年
3次メッシュ内の1/10細分水田率(%) 1976年
水田-水田JOINの変化
(1976∼1997)
水田−水田JOINの変化
水田-森林JOINの変化
(1976∼1997)
水田−森林JOINの変化
水田-建蔽地JOINの変化
(1976∼1997)
水田−建蔽地JOINの変化
r = -0.858
0.0
25
50
-2.0
-4.0
-6.0
-8.0
-10.0
3次メッシュ内の1/10細分水田率(%) 1976年
75
0.3
r = -0.559
0.0
0
25
50
-0.3
-0.6
-0.9
-1.2
-1.5
3次メッシュ内の1/10細分水田率(%) 1976年
75
水田−建蔽地JOIN/陸域総JOIN数の変化(%)
(1976-1997年)
3次メッシュ内の1/10細分水田率(%) 1976年
2.0
0
水田-建蔽地JOIN(1976)
水田−建蔽地JOIN
水田−建蔽地JOIN/陸域総JOIN数(%) (1976
年)
水田−森林JOIN/陸域総JOIN数(%) (1976年)
60.0
0
水田−水田JOIN/陸域総JOIN数の変化(%)
(1976-1997年)
水田-森林JOIN(1976)
水田−森林JOIN
水田−森林JOIN/陸域総JOIN数の変化(%)
(1976-1997年)
水田−水田JOIN/陸域総JOIN数(%) (1976年)
水田-水田JOIN(1976)
水田−水田JOIN
2.5
r = 0.851
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
0
25
50
-1.0
-1.5
3次メッシュ内の1/10細分水田率(%) 1976年
横軸: 3次メッシュ内の1/10細分土地利用水田率(%) 1976年
75
生物多様性に影響する谷津環境の変化
林を住宅地化
工業団地化
田んぼを住宅地化
【第1の危機】開発
耕作放棄(外来雑草が侵入)
耕作放棄(森林に変化中)
【第2の危機】放棄
農業によるランドスケープ管理の今②
茶生産が維持する里山=茶草場 楠本(NIAES)・稲垣(静岡)
茶葉の味を良くするために茶園
に茅を投入するための茅場
茶草場で維持される里山の植物相
農業による管理の継続を表す指標
草地の環境を指標する3種の草原生植物と
立地の安定度を指標する土壌pHに着目
楠本(NIAES)ら
ワレモコウ
45
3sp.
40
2sp.
Native sp. richness
35
1sp.
P=<0.0001
30
0sp.
25
アキカラマツ
20
15
10
ツリガネニンジン
5
0
4
5
6
7
8
土壌pH(H2O)
南茨城、RuLISモニタリングデータ(茨城、栃木、群馬、埼玉)、宮城、静
岡の植生データから解析
3種を内包する植物群落は種多
様性が高い。土壌酸性も酸性に
傾くほど種多様性が高くなる。
農家による生産のための周辺管理
谷津田の斜面
棚田の法面
田んぼの畦
茶草場
農家は生産のためにほ場(田んぼ)周辺の管理を行ってい
る。これらの管理が生き物に生息空間(ハビタット)を提供
二次的自然のモザイクの再生
EUで進められている「自然的価値の高い農場
(HNVfarmland)」
European Environmental Agency (2004)
HNVfarmlandとは、EUのCAP支援対象選定方法の一つ。基本的な抽出概念は3タイプ。
とは
• Type 1 - Farmland with a high proportion of semi-natural vegetation.
• Type 2 - Farmland with a mosaic of low intensity agriculture and natural and structural elements,
such as field margins, hedgerows, stone walls, patches of woodland or scrub, small rivers etc.
• Type 3 - Farmland supporting rare species or a high proportion of European or World populations.
畦畔−アジアで最も普遍的なField Margin
● 畦畔は、アジアモンスーンに水田農業では
自ずから備わっている Field Margin
● 既往研究は田面、病害虫・雑草管理
● 実態はよくわかっていない
管理法の影響
草刈(5回)
(賦存状況、整備状況、管理状況、生物生息状況)
● 技会プロジェクトで取組開始(集落単位)
整備による畦畔の変化
除草剤
コンクリ
被覆
おわりに!
農業によって農村ランドスケープ全体を利用・管理し、生物多
様性の保全と、それがもたらす生態系サービスの享受を実現
★農家の活動への支援 (生産のための管理を位置づけ)
例えば「農地・水・環境保全向上施策」の場合
周辺管理を共同活動のメニュー化
共同活動と環境保全型農業の連動
★新たな技術の開発
(未利用生物資源を経済的に利用)
・バイオマス活用技術(草資源、木質資源など)
・耕畜連携生産システム(里山を含む未利用地の利用)
★多様な主体の連携
(人口減少、過疎・高齢化への対応)
・都市と農村の連携/特に近隣都市
・異業種との連携