総合的な学習の時間の授業づくりと展開

総合的な学習の時間の授業づくりと展開
―ポートフォリオ評価を生かした学習指導法の研究―
広島市立原南小学校
問題解決能力の伸長を目指し、評価と一体化した授業実践を提案した。
Ⅰ
学校の実態
されていないのが現状である。具体的には、到達度
評価から個人内評価へという評価観の転換を図り、
児童数 361 名、
評価の目的や方法、観点や規準・基準を明らかにす
学級数 13 名、教職
る必要がある。
員数 30 名
(1)
原南小学校は、昭和
総合的な学習における評価の目的
総合的な学習の時間は、教科の学習と同様に知的
51 年(1974 年)4月に、原小学校と長束小学校の
な成長が求められている。したがって、そこでの評
二校から分離して創設した。学区は、太田川と 54 号
価は、学習の結果として、進歩の状況をとらえたり、
線・安川に囲まれた面積 1.2k ㎡の土地である。かつ
技能や能力の発達を目指したりする評価を基本とす
て、学区は、畑作を中心とした純農村地帯であった
る必要がある。
が、昭和 39 年、国道 54 号線が開通し、広島市街地
(2)
総合的な学習の時間における評価方法
から近いこと、交通の便がよいことなどがあって、
総合的な学習の時間における評価活動として、近
急激に都市化してきた。その後、ベッドタウンとし
年、注目を集めているのがポートフォリオ評価であ
ての住宅、倉庫、小規模の工場が立ち並んできた。
る。しかし、ポートフォリオは、それ自体、ファイ
さらに、市街地と近郊住宅地を結ぶ祗園新道の開通、
リングを意味し、そのままでは評価とは言えない。
平成6年には新交通システムが完成し、周辺の整備
ポートフォリオをどのように評価に生かすかが課題
が進められている。地域には、自然観察の場として
である。そこで、本校では、ポートフォリオを生か
の「太田川・古川」、郷土の歴史を伝える「八木用水」
、
す方法として次の2点に着目した。
さらには、特別養護老人ホームなどがある。
①
学習状況の「確認」と「調整」
本校児童は、昨年度の実践を通し、自ら課題を発
総合的な学習では、子ども自ら課題を見付け、解
見し、追究し、解決していく姿勢は育ちつつあるが、
決していかねばならない。そのためには、常に学習
問題解決のための能力や技能は十分に身に付いてい
の状況を「確認」し、
「調整」することが大切である。
るとは言えない。
こうした「確認」と「調整」は教師と子ども双方に
必要である。子どもにとっての「確認」とは、学習
Ⅱ
実践の内容
に対する振り返りであり、
「調整」とは、振り返った
ことから新たな学習を構想するということである。
1
問題の所在
一方、教師にとっての「確認」とは評価を意味し、
総合的な学習の時間は、地域や学校、子どもたち
「調整」とは評価したことから子どもの学習を指
の実態等に応じて、子どもたちの興味・関心等に基
導・支援することである。こうした学習過程におけ
づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うも
る「確認」と「調整」の機能を十全に果たすために
のである。その教育活動を充実させるためには、学
は、それに必要な情報をポートフォリオに残したり、
校独自の到達度目標や評価基準を設定する必要があ
学習を振り返る時間を確保したりする必要がある。
る。しかし、子どもたちの学びを育むためにどのよ
その際教師が子ども一人一人の技能や能力の発達に
うな目標を立て、どのような評価をするのか明確化
対しておおよその見通し(評価規準)をもっていれ
ば、適切な支援ができる。
②
らい、自己評価する機会をもつ。
学習価値を認める評価活動
総合的な学習では、最終的に、自己の生き方に結
3
総合的な学習の時間の展開
びつけて考えることが求められる。そのため、学習
(1)
第3学年の実践
を通して「どんな力が伸びたのか」
、
「どんな考えを
ア
単元名
もつようになったか」などについて自己の成長を振
り返ることが重要である。その際、教師が、子ども
原南の学習館をつくろう
―原南のすてきなまちづくり―
イ
学習テーマ活動内容
一人一人の学習の良さを積極的に評価すれば、より
学校から地域に出て自らの課題をもち、主体的に
適切な自己評価も可能である。こうした学習価値を
調べたり、自分たちの作品を展示し、お互いの良さ
認める評価は、授業中の様子や面談から直接的に評
を認めあったりする中で、原南に住む人々とのかか
価する場合が多いが、ポートフォリオに残された情
わりを考える学習。
報を手がかりとすることも可能である。
ウ
工夫した点
・
2
研究の手だて
(1)
の聞き取り調査を実施した。
研究仮説
・
本年度は次の2点を研究仮説とした。
○
研究仮説1
研究仮説2
教師が子どもの学習の良さを積極的に評価する
ことで、子どもはより適切な自己評価ができるよ
うになるのではないか。
(2)
ア
子どもたちが見たことや感じたことを引き出
すワークシートの作成した。
評価活動における「確認」と「調整」の機
能を展開すれば、
子ども一人一人の学習がより深
化・発展するのではないか。
○
学習課題を見つけるために、小人数グループ
自分がおもしろいと
思っていることは?
何でこうなっている
のかなと思うことは?
へー、こんなこと
があるんだなと
思うようなこと
は?
こんなことをきいた
けれど、本当かな?
研究の方法
仮説1に対する研究の方法
これはいったいどう
なっているのだろう
と思うことは?
ポートフォリオの時間(「確認」と「調整」の時間)
を設定し、問題解決の状況を的確に評価する。また、
もっとくわしく
知りたいと思っ
ていることは?
不思議だなと思う
ことは?
評価活動の時間を生かした学習過程等を構想し、実
践において検証する(参照資料 P9∼10)。
図1 学習の手引き(例)
また、次の諸点にも配慮する。
①
昨年のポートフォリオを活用した診断的評価
②
評価の観点と評価規準の共有化
③
子どもの探究活動や振り返りを支えるワークシート
の作成。
イ
(2) 第4学年の実践
ア
単元名
太田川・古川研究
―自然環境を中心として―
イ
仮説2に対する研究の方法
学習テーマについて
太田川・古川に住む生き物の生態や植物の観察を
振り返りの場面では、児童が常に「前の自分との
通して、「生き物と生き物の関係」
「生き物と環境と
違い」を意識できるようにする。例えば、「初めて知
の関わり」「生き物と人間との関わり」
「環境の実態
ったこと」「工夫した調べ方」「深く考えたこと」
や問題」を考える学習。
「この学習で自分が変わったなと思うこと」など直
○
工夫した点
接的な観点を設定する。
・
調査活動では、子どもの問題意識が高まるよう
学習の随所でゲストティーチャーから評価しても
に昆虫、魚、鳥に詳しい専門家を招いた。
・
子どもの興味関心が高まるよう、太田川・古川
へは季節を変えて二度、調査に出かけた。
・ 子ども一人一人の追究活動に勢いが出るように、
個々の学習状況をゲストティーチャーに報告し、
(4) 第6学年の実践
単元名
ア
高齢化を考える
―特別養護老人ホーム「菜の華」訪問を通して―
イ
アドバイスをいただいた。
学習テーマについて
本校では、毎年「お年寄りとの交流会」
、敬老会へ
の参加、3世代交流将棋大会、グランドゴルフ大会
表1 第1回太田川・古川環境調査
調査
鳥の行動観察
魚・水辺の生き
物調査
昆虫採集
植物調査
活動内容
太田川・古川の鳥を観察する。
橋の上や水辺で観察する。
太田川・古川にいる昆虫を採取する。
太田川の植物を観察する。観察した植物
や生き物を図鑑で調べる。
等、地域とのお年寄りとの交流が続いている。そう
した経験から、さらに、身近な高齢者と触れ合った
り、地域の福祉施設の見学を通したりすることで高
齢者福祉について考える学習。
ウ
工夫した点
・
高齢者に対する理解を深めるため、特別養護老
人ホームへ少人数ごとに訪問し、聞き取り調査を
表2 第2回太田川・古川環境調査
調査
鳥の行動観察
魚・水辺の生き
物調査
昆虫採集
植物調査
(3)
活動内容
鳥の観察方法を学び太田川の野鳥を観
察する。
魚を網ですくう方法や捕獲する方法を
学び、実際に行う。
専門家に昆虫の種類や性質を学びなが
ら採集活動を行う。
古川の植物の特徴や役割、観察や実験方
法を聞きながら観察する。
第5学年の実践
ア
単元名
食料を考える
−西原の野菜づくりを通して−
イ
学習テーマについて
原南物産展を開くというプロジェクトを通して、
野菜づくり農家の工夫や知恵、我が国の食料生産
の現状や課題について考える学習。
ウ
工夫した点
・
自らの学習を振り返り、深め、広げるために
ポートフォリオの時間を設定した。
・
グループ内交流では子ども達の思考が次第に
深化・拡大していくよう発表順を工夫した。
・
・
子どもたちが自律的に学習できるような学習の
手引きの作成をした。
考えるってどういうこと?
1
何かと比べて 考える
・病院と比べてみる
・自分の家と比べてみる
・他の施設と比べてみる
・友達の考えと比べてみる
・家族の考えと比べてみる
・今まで知っていたことと比べてみる
2 まとめて 考える
・今までの自分の知識
・友達からの情報
・新聞からの情報
・ 見たこと、聞いたこと
・
・最近調べて分かったことのいくつか
3 調べて分かったことから具体的に事例をあげて 考える
……は、………ということが分かった。
・このことについて、もし自分だったら、
・このことについて、今からできることは、
・このことについて、……の場合は、
4 仮定的に考える
もし……だったら、と考える
図2 学習の手引き(例)
中間発表会をグループ内とグループ間の2
度おこなった。
・
実施した。
野菜づくりを専業としておられる地域の方と
JA指導課の方を、ゲストティーチャーとして
招き、長期的な栽培活動をおこなった。
(詳細は「4」を参照)
4
具体的実践例
第5学年の実践から
(1) 単元名 食料を考える
−西原の野菜づくりを通して−
(2) 学習テーマについて
原南学区は、八木用水の末端部に位置し、以前は
広島市の米倉と呼ばれるほど生産量も多く、広い範
囲にわたって稲作が行われていた。しかし、近年は
都市化の影響で、多くの水田が宅地や商業用地とな
り、一部、残された田は、畑として利用されている
せる。
場合が殆どである。
(5) 指導観
しかし、野菜づくり農家の中には、有機農法や無
指導に当たっては、教科との関連を図り、ものづ
農薬野菜に取り組んだり、ホウレン草やパセリ、小
くり、人、ものを媒介とした探究的な学習を行う。
松菜といった葉もので収益をあげたりしている方も
特に、学習の導入段階では社会科の学習を通して知
多い。こうした方と直接触れ合い、プロの野菜づく
り合った農家の人をゲストティーチャーとして招く。
りを体験することによって、生産の工夫や努力、そ
また、野菜づくりや米づくりを体験したり、身近な
れにかける情熱を共感的にとらえることができる。
食料品について調べ学習を行なったりすることで、
第二に、野菜づくりを広い視野で見たとき、近年、
学習意欲を引き出し、課題の発見へ向かってほしい。
外国産の安価な野菜が輸入され、注目を集めている。
一方、自ら課題を設定し、調べる学習に慣れてい
こうした外国からの輸入野菜と近郊の農家の野菜と
ない子どもにとっては、明確な課題を設定できなか
を対比させたり、その安全性や生産性を考えたりす
ったり、解決の糸口が見つからなかったりすること
れば、我が国の食料生産の現状や問題点を考えてい
が予想される。そこで、ポートフォリオの時間を設
く学習へと発展できる。
定し、問題解決の状況を的確に評価する。
(3) 児童の実態
(6) 単元の目標
○
農業に対する関心
5 年生の子どもの多くは、田植えや畑仕事の経験
[自分知]に関する目標
・
もない。しかし、社会科や理科の学習を通して、徐々
自分の関心点、解決の可能性、難易度、時間的
に野菜づくりに対する関心も高まってくると考えら
可能性について振り返る。
・
自分の課題が妥当であるか、問題に対し何が解
れる。実際、米づくり農家の見学の後も、再度、訪
決できて、何が未解決かを明確にする。
問し、聞き取り調査する子どもがいるなど、学習に
[方法知]に関する目標
意欲的であった。また、本校には、一昨年より、浄
・
化槽跡を畑として利用しているが、本年度は5年生
問題解決のための仮説や解決要素、解決方法を
が利用できるなど外的な学習環境も整っている。
考案する。
・
(4) 学習方法に対する実態(
前年度のポートフォリオを
教科で学習した調べ方の基本的事項を活用し、
利用した診断的評価から)
工夫した問題解決を行う。
・
昨年度に行った総合的な学習では、太田川・古川
調査した事実や人の意見との関連を考え、自分
の考えを述べる。
をテーマに、自分たちが発見した問いを追究し、調
[内容知]に関する目標
べたことを発表した。そこで、子どもが作成したポ
・
我が国の食料生産に関する認識を深める。
ートフォリオを手がかりに、課題に対する結論を導
・
めあてや課題に沿った情報を集める。
くことができた子どもと、そうでなかった子どもを
比較すると、学習が深まらなかった子どもには次の
(7) 実践経過
ような問題点あることが分かった。
ア
オリエンテーション場面
・
課題が適切でない
・
解決の見通しが立てられない
・
解決方法が限られている
対して単元のねらいや評価規準を示し、学習を通し
・
調べたことをうまく表現できない
て身につけて欲しい能力や態度について説明した。
本実践では、この点に配慮し「確認」と「調整」
【評価規準の共有】
オリエンテーション場面では、子どもと保護者に
学習の全体の流れと評価の観点については次のとお
を行うようにする。そして、その場その場で指導す
りである。
るとともに、子どもに主な規準を示して自己評価さ
イ
学習全体の流れと評価規準
習意欲を喚起し、課題の発見へと導いた。なお、野
西原の米づくりや野菜づくり農家の工夫や努力につい
※野菜づくりに関心をもち、ゲストチィーチャー
て考える。(1 学期)
やクラスの友達と相談しながら活動しているか。
菜づくりや米づくりは問題発見や探究活動の媒介と
して位置付けた。以下は本実践での体験や活動から
発展した具体的な学習活動である。
野菜づくり、米づくりの体験を通して食料生産に対する
・ 野菜づくり→スーパーマーケットウォッチング→
外国野菜→外国野菜の安さの秘密→外国野菜と島
本農園
・ 野菜づくり→農薬散布→農薬→食品の安全性→遺
伝子組換え
野菜づくり→スーパーマーケットウォッチング→牛
肉の価格→狂牛病
関心を高める。
※消費者の立場から自分たちの食材に目を向けて
いるか。
我が国の食料生産について考えてみたいテーマを設定
なお、収穫した野菜については、個々の学習テー
する。
マをくぐりぬけた後、再度、子どもたちと話し合い、
次のような活動とつなげていった。
自分のテーマについて調べる中で、もっと追究してみた
いことを見つける。
≪商品化≫結束、袋詰→5 年生PTC活動にて販売
≪食する≫ 学校給食〈大根の即席漬け〉→収穫祭
※わたしたちの食べ物から見つけた食料生産の
「?」を見つけようとしているか。
追究してみたい問題に対する仮説を立てたり、研究計画
(調べ計画)を立てたりする。
※課題追究に向けていろいろな仮説を立てたり、
解決方法を探ったりしているか。
エ 問題発見場面
研究計画に沿って追究活動をおこなう。
※集めてきた情報を自分の必要に応じて整理した
調査活動を通して子どもたちが発見した問いは
次のとおりである。
り、選択したりしようとしているか。
中国野菜
問題に照らし合わせて、結果の考察をおこなう。
※調べたり体験したりしたことを、自分なりの解釈や
・
なぜ中国の野菜は安いのか。
・
日本の企業はどのように中国に進出しているのか。
・
中国は農薬をたくさん使用して野菜を作っていると
いうのは本当か?中国野菜は安全なのか。
見解を加えて自分の言葉で考えてまとめようとして
いるか。
ウ
・
夫をしているのか。
学習の導入部(調査・見学)
学習の導入部では、社会科の学習を通してかかわ
った農家の人をゲストティーチャーとして招いた。
また、野菜づくりや米づくりを体験したり、身近な
食料品について調査活動を行ったりすることで、学
中国野菜に対抗するために島本農園はどのような工
遺伝子組換え
・
遺伝子組換え商品とは何か。また、安全なのか。
・
なぜ遺伝子組換え商品を開発するのか。メリットは何
か、また、デメリットは何か。
BSE
・
BSE とは何か。なぜ BSE が発生するのか。
っていること」、「野菜づくりに適した気候条件であ
・ なぜ BSE はヨーロッパで多く発生しているのか。
ること」
、また「野菜の味が日本でつくったものと似
・ 牛肉の価格はどうなっているのか。
ていること」などの仮説も設定できるようになった。
【中間発表会】
「食料を考える」 自分の追究問題をきめよう
1. 追究したい問題を書こう。何こでもよいです。
①
②
③
2. 自分が追究したい問題を一つきめよう。
調べてみたいことに、◎○△をつけよう。
1
2
3
4
5
①②③
日本の農業にかかわる内容ですか。
追究したい気持ちが強いですか。
追究したいことがはっきりしていますか。
問題に対する予想が思いつきますか。
予想を確かめる方法が思いつきますか。
中間発表会はグループ内とグループ間の2度行っ
た。グループ内発表では、児童の思考が次第に深化・
拡大していくように配慮した。具体的には、教師が、
児童の学習状況をポートフォリオや評価テストから
見取り、内容の深まりの程度によって発表する順番
を決めた。なお、図4は、中間発表会に向けて作成
した評価テストである。
中間発表会
原稿づくりについて
3.どうして、その問題にしようと思ったのですか?
中間発表会をします。あなたはどのパターンで原稿を作りま
すか?
4.問題に対する予想を書こう。
5.予想を確かめる方法を考えよう。
図3 問題発見場面 ワークシート
オ 課題づくりと解決の見通し場面
「なぜ」型の問いをもった児童に対しては、すぐ
に結論を求めさせようとするのではなく、仮説を立
て、それを検証していくように指導した。(方法知に
関する目標…問題解決のための仮説や解決要素、解
決方法を考案する。
)しかし、多くの児童は、仮説を
立てることには不慣れであり、それ自体、根拠の薄
いものであり、解決の見通しの立たないものがほと
んどである。
【ポートフォリオの時間①】
そこで、一人一人が発見した問いについてはポー
トフォリオの時間を利用して「確認」と「調整」を
行った。その結果、
「なぜ」型の問いをもった児童の
Aパターン
①私は、
〈スーパーマーケットウォッチング、野菜づくり、米
づくり〉で、
(こんなことが分かりました。
)
(こんな発見があ
りました。
)
(こんなことを思いました。
)そこで、○○につい
て調べていくことにしました。
②調べて分かったことは.........です。
③中でも、特に関心をもったことは、○○についてです。現在
は、そのことをさらに深めるため、○○(本・図鑑・インター
ネット・実験・ファックス)で調べています。
Bパターン
①②はAパターンと同じ
③中でも、特に関心をもったことは、
「なぜ、○○なんだろう」
ということです。その疑問に対しては1.
.
.
.
.
.
.
.
.
2.
.
.
.
.
.
.
.
.
3........という予想を立てました。
④それを確かめるために、○○してみると.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
ということが分かりました。
⑤現在は、○○について調べていこうと思っています。
Cパターン
①②③④はBパターンと同じ
⑤現在は、調べたことから、さらに○○という疑問をもってい
ます。
図4 中間発表原稿づくりのポイント
カ 問題の追究場面
多くは、仮説に気付き、解決の見通しをもつことが
仮説を検証する場面では、児童が教科で学習した
できた。例えば、中国野菜グループのA男は、
「なぜ
調べ方の基本的事項を活用し、工夫した問題解決が
中国野菜は安いのか?」という問いに対し、当初は、
できることを目標として掲げた。
仮説を立てることはできなかったが、以前、学習し
【ポートフォリオの時間②】
た社会科の授業「伝統的な工業
―広島仏壇―」を
実践では、ポートフォリオの時間を利用して、児
想起させることで、
「人件費」の違いにも気付くよう
童一人一人の課題の質と技能のレベルに応じて、今
になった。さらに、中間発表会で、中国の地理的特
後どのような調べ学習を展開すればよいかについて
徴について調べた子どもの発表によって、安さの秘
話し合った。
密は「中国が日本と比べて、非常に広大な土地を持
その結果、調べる方法は以前に比べ、随分と活発
に行うことができるようになった。とりわけ、
「実際
に調査する」という方法を選択した子どもが増えた
発表会に向けて、これまでの学習をふりかえろう
1.自分の問題
ことは大きな成果である。例えば、中国野菜グルー
2.その問題を解決しようと思ったわけ
プのC男とD男は、
「S 農園は中国野菜に対抗できる
3.調べた方法や結果
調べたこと・方法
のか?」という問いに対して、自らフレスタや夢タ
結果・わかったこと
1
2
3
4
ウンなど大手のスーパーに出かけ、S 農園でつくっ
ている野菜と中国野菜とを比較している。その結果、
「S 農園の野菜が並べてあるスーパーとそうでない
4.新しい問題
スーパーがあること。」「中国野菜の殆どは日保ちす
5.調べた方法や結果
るものばかりである。」という事実を発見し、そのこ
調べたこと・方法
結果・わかったこと
1
2
3
4
とから、S 農園は、「独自の販売ルートを持っていて、
直接、スーパーへ野菜を出荷しているのではない
か。」また、「日保ちする野菜はつくらず、葉もの野
6.問題に対する結論
菜を中心に栽培し、新鮮さと味で勝負しているので
図5
問題解決場面
ワークシート
はないか。
」という予想を立てるようになった。その
後、C男とD男は、この予想を確かめるため、S 農
園に聞き取り調査したり、JAにファックスを送っ
たりすることで、自らの問題を解決したのである。
このように、ポートフォリオの時間を学習過程に位
置付け、課題の質と技能のレベルに応じた調査方法
を示すことで、新しい仮説を設定したり、考えを深
めたりすることができるようになったのである。
○
問題解決場面
問題解決場面では、最初の予想と関連させて分
かったことを論じることの大切さについて述べた。
また、プレゼンテーションでは、結果以外にも、
学習を全体的に見直し、学習のよい点や改善点を
述べるよう付け加えた。
【ポートフォリオの時間③】
課題を追究する過程で、その都度、課題が変容
していった児童にとっては、これまで収集したポ
ートフォリオを整理することで思考の流れを整理
ク
実践の成果と課題
前年度のポートフォリオを活用した診断的評価
によると、これまでの学習では、課題の不適切さと、
解決の見通しに問題がある児童が多いことが確認さ
れた。しかし、今回の実践では、課題づくりが苦手
な児童も、ポートフォリオの時間や学習価値を認め
る評価によって、的確に問題解決を行うことができ
るようになった。また、児童の多くは、実際に野菜
を育てるという体験から食料の安全性について真剣
に考えることができた。
一方、「確認」と「調整」を機能させるためには、
児童の思考を見取る材料を数多くもつことが必要で
ある。今回の実践では、ワークシートや振り返りカ
ード、ポートフォリオの時間を利用した面談などを
多く取り入れたが、その他にもイラストや説明文、
製作図、プラン図などの見取りの方法も工夫する必
要があった。
させた。
Ⅲ 実践のまとめ
(1)
仮説に対する考察
<研究仮説1>
評価活動における「評価」と「調整」の機能
を展開すれば、子ども一人一人の学習がより深
化・発展するのではないか。
探究的な学習が苦手な児童にとっては「なぜ」と
いう問いを設定したり、問題解決したりすることは
・ 学習したことの要点を図や表にまとめ、自分の
非常に困難である。しかし、ポートフォリオの時間
や中間発表会を通して、課題を設定することや修正、
考えを相手に分かるように話せる子どもが増えた。
・ 学習を全体的に見直し、学習のよい点や改善点
解決の見通しをもつことも容易になった。これは、
を自覚できるようになった。
課題解決に向けてワークシートを振り返らせたり、
(3)
来年度に向けて
−今後の課題−
振り返りの観点を示したりという評価活動における
ア
「確認」と「調整」の機能の有効性を示すものと考
・ 総合的な学習の時間において、児童に何を学ば
各学年の実践に対する課題
える。
せ、どんな力をつけるのかなどを明らかにするた
<研究仮説2>
めの目標を設定することが必要である。
教師が子どもの学習の良さを積極的に指摘す
ることで、子どもはより適切な自己評価ができ
るようになるのではないか。
問題を追究して行く中でさらに新しい問いを発見
・ 単元開発は、教師、ゲストティーチャー、地域
の方々などと共同作業で行う必要がある。
イ
研究推進に対する課題
したり、検証できる仮説を設定したりできた児童に
総合学習のカリキュラムの内容を子どもの発
対しては、その重要性を評価した。例えば、前年度、
達段階と年間授業時数に照らし合わせて、系統
仮説を立てることができなかったが、今年は、でき
的に構造化する。
るようになったと認められた場合や検証できる仮説
を設定している場合、あるいは、調べる方法が前年
本校では、これまで、研究主題や副題にそって、
度に比べて広がりを見せている場合などである。ま
問題解決にかかわる能力面や技能面、自己評価能力
た、学習の随所で保護者や地域の方、ゲストティー
の向上を目指してきた。しかし、総合的な学習の時
チャーから評価してもらい、学習価値に対する認識
間における確かな学びの高まりや深まり、広がりを
を高めていけるように配慮した。例えば、児童の課
期待するためには、子どもの 6 年間の学びを見据え
題や仮説については、すべてゲストティーチャーに
たカリキュラムの内容を系統的に構造化することが
報告し、内容的、方法的な面からアドバイスして頂
望まれる。
いた。その結果、中間発表後は、次の目的にむかっ
て、何をどのように調べていきたいのかを明らかに
したり、また、調べ活動に勢いが出てきたりした児
参考文献
日本教育評価研究会「指導と評価」2001 年 6 月号
童が多かった。
(2)
子どもの変容
今年度の各学年の実践を振り返って、成果と課題
を整理すると次の通りである。
ア
中学年
・
身近な人や資料から必要な情報を集め、様々な
疑問がもてるようになった。
・ 学習を振り返り、課題や調査の方法を自己決定
し、見通しをもって学習する態度が育ちつつある。
イ
高学年
・ 集めた情報をうまく利用し、自分の考えとして
まとめる子どもが増えた。
・ 既有の知識や概念、経験を使って問題解決する
態度が育っている。
大学指導教官
広島大学大学院教育学研究科教授
片上宗二
【参考資料】
○
単元の学習過程と評価活動
学習過程
子どもの活動・意識と振り返り
興味・関心の喚起
学習テーマに対する構えをもつ
↓
学習の対象に関心をもって働きかける
問題意識の喚起
・調査・観察活動
・体験や作業的な活動
第1回
中間報告会
ポートフォリオの時間
課題づくり
学習素材、共通体験の提示と援助
活動を支援し交流の機会を設定する。
↓
なぜ?
どうすればいいの?
問題点を明確にし、課題を決定する
子どもたちは、∼に関心が強いな。
こんな主題だと学習が深まりそう。
学習課題として成立するよう調整
ウェビング 整理とグループ化
何に関心があるのか。今後、何を調べたいのか 課題として適切か。
↓
解決すべき内容と方法を考える
見通し評価 内容・方法面の指導
ポートフォリオの時間
∼という理由で∼を調べたい
↓
∼と∼を調べたら∼が分かる。
∼を調べるにはこの方法がいい。
↓
個々の課題に対する追究活動を行う
∼が分からない
そうかなるほど
↓
課題解決途中の振り返り
第2回 中間報告会
追究する
・資料収集活動
・見学による調査活動
・聞き取り調査
ポートフォリオの時間
∼は分かったけど∼を調べなければ
↓
第3回 中間報告会
課題に対する結論の考察
・提示・提案準備
・教師や友達と相談
ポートフォリオの時間
学習成果を整理する
生き方の自覚
ポートフォリオの時間
評価の観点と評価規準
総合的な学習の時間において、児童一人一人の進
問題解決の核心の要素を含んでいるか。
解決方法は適切か。
子どもの問題解決を支援する
学習がより深まるよう助言する。
インタビューのアポイントとり等。
方法の妥当性と内容の深まり評価。
まとめ・発信の援助
解決事項から価値ある内容を選ぶ。
↓
学習成果を発表する
分かりやすくまとめ、発表する。
↓
学習に対する振り返り
学習活動全体を振り返る。
まとめる 発信
学習のまとめ
○
教師の評価・指導・援助
重要な成果が含まれているか。
発表会で学習価値を評価する。
学習のよい点や変容を評価する
何がわかりどんな考えをもったか。
どんな方法が有効だったか。
本校では、以下のような評価の観点と評価規準を設
定した。
歩の状況を把握し、技能や能力の発達を促すために
≪具体的な評価の観点≫
は、それらがどのように発達していくかに関する概
A:学習への積極的な態度と理解力
略的な見通しをもつ必要がある。教師は、こうした
総合的な学習の時間では、児童自らが関心をもっ
見通しをもつことによって、その場その場で子ども
て学習を展開する必要がある。しかし、「学習目的」
の学習状況を評価し、支援することが可能となる。
や「学習内容」に対するある程度の理解力がなくて
それは、児童の学習をより深化・発展させるための
は、「関心」や「意欲」も深化せず、
「自ら課題を見
指標(評価の枠組み)と言えるものである。そこで、
つけ、自ら学ぶ」ことは難しい。そこで、
「学習への
積極的な態度と理解力」を目標として設定する。
な知識の獲得と統合は、学習対象に対する認識の変
B:総合的な思考・判断
容としてとらえることができる。
総合的な学習の時間では、課題を解決するために
E:自己評価
情報を比較・分類したり、既有の知識や概念、経験
学習が態度化するまで高まるには、児童が自らの
を基に仮説を設定したり、集められた資料を基に、
学習を振り返って学習構想を練り直し、さらに学習
その資料を超えた事態を予想したりするなど、総合
を進めていく自己評価活動が重要である。
的に思考を働かせ、判断する力が求められる。そこ
F: 学習価値の認識
で、
「総合的な思考・判断」を目標として設定する。
学習価値を認識することで、学習に対する意欲を高め、
なお、思考、判断といった方法的諸能力は、一律に
より明確に自分の考えや学習の有効性に気付くことがで
達成基準をつくり、上位下位の判断を行うことは困
きる。また、学習活動全体の意欲や態度化にもつな
難である。
がる。
C:調べ方の活用・開発
G:表現
総合的な学習の時間では、児童は各教科で学んだ
自分の活動について自由に話をしたり、自分の考
解決方法や探究方法、生活で得た知恵を駆使して問
えを相手に伝えたりすることで学習も深化・発展す
題解決する。しかし、時には新たな調査方法や実験
る。交流を通して得られた新たな気付きや驚きは、
方法を学ばなければならないこともある。
「調査」
、
自分の課題解決や思考を深めるきっかけとなる。
「実験的な探究」に関わる「方法の活用」
「方法の開
発」を目標として位置付けることは「問題の解決や
探究活動に主体的に、創造的に取り組む」ことにつ
ながる。但し、
「調べ方の方法の活用や開発」は、児
童の課題や目的によって異なる。また、ある探究方
≪原南小学校の評価の観点》
上記の観点は整理すると次表のように分類できる。
評価の観点
自分知
法が他の探究方法より高次であるということは断定
できない 。
方法知
D:知識の獲得と統合
総合的な学習では、基礎となる知識は教科の学習
や生活経験から得たものが主である。しかし、課題
内容知
具体的な評価の観点
A:学習への積極的な態度と理
解力
E:自己評価
F:学習価値の認識
B:総合的な思考・判断
C:調べ方の活用・開発
G:表現
D:知識の獲得と統合
について調べる中で子どもが新たに知識を獲得し統
合されることも多い。それは、児童自ら獲得してい
く知識であり、経験的な統合がなされる。このよう
○原南小学校
総合的な学習の時間
観点
B:総合的な思
考・判断
・ 観察
(比較・分類)
・疑問点・問題
点の発見
問
題
発
見
場
面
E:自己評価能力
F:学習価値の認識
評価の観点と評価規準(段階指標 )
一部抜粋
評価基準(段階指標)
(1)観察(比較・分類)
①細かな点での違いを見つける。
②違いが目立つ中で、同一な点に気付く。
③パターンや関連性・連続性を見つける。
④観察したものから問題に関連したものを選択できる
(2)疑問点・問題点の発見
①活動を思い出す。
②難しかった所、苦労した点を言う。
③基準としてどこまでできたか判断できる。
④次の適切な目標を設定できる。
①学習に対する内容的・方法的・情意的価値に気付く。
②学習を全体的に見直し、学習のよい点や改善点を自覚する。
③学級全体における自己学習の位置付けや貢献した事実を理解する。