第 38 号 発行:名古屋大学文学部 広報体制委員会 [email protected] 教員コラム―No.37 蛇の絵色々 伊藤 大輔(美学美術史学) 明けましておめでとうございます。今年は蛇 年ですね。蛇を描いた絵を色々ご紹介したいと 思います。生物としての蛇を描いた絵は意外に 少ないです。有名な鳥獣戯画・甲巻の最後(模 本)に蛇が登場するくらいでしょうか。蛇の出 現によって,それまで遊び戯れていた擬人化さ れた動物たちの世界は突然幕を閉じます。楽園 的な世界の破壊者として蛇は描かれています。 こうした暴力的な存在としての蛇は,恋に狂った女性が蛇身に変身するという物語の中にも登場しま す。中でも有名なのは安珍・清姫の「道成寺縁起」の物語でしょう。絵巻ではその異本「賢覚草紙絵巻」 が同じ話を描いたものです。美男の僧賢学は,修行の妨げになるので彼に恋した長者の娘を遠ざけよう としますが,彼の不実に怒った長者の娘は炎も露わな蛇身となって,賢覚の逃げ込んだ鐘を取り巻き, 彼を焼き殺してしまいます。同じように僧に恋した女性が変身する物語に「華厳縁起絵巻・義湘絵」が あります。美男の僧義湘に恋をした善妙という女性はしかし,その恋心を仏法守護の心に昇華させ,龍 神に変身して義湘が海を渡るのを守護します。僧を襲う女性は蛇に,守る女性は龍に,と同じ干支でも ずいぶんイメージが違いますね。 女性だけが蛇身に変身するというわけではありません。「地蔵堂草紙絵巻」では,美女に懸想して竜 宮についていった僧が,現実世界に戻ってくると蛇身に代わっていたという話が描かれています。ここ でも恋心は蛇につながるものなのですね。僧は地蔵に懺悔したところ,夜中に蛇の背が割れ,人間の姿 に戻ったということです。 「天稚彦物語絵巻」では,海竜王である天稚彦は大蛇となって長者の所に現れ,長者の娘との婚姻を 望みます。結婚を受けた末娘が大蛇の頭を切るとそこから美しい男が現れ二人は幸せに暮らしたという のがお話の前半です。そこでは恋心が蛇身に通じるという基本的モチーフを踏襲しながら,蛇身を切る 行為によって,邪心が断ち切られたことを示すのかもしれません。 授業紹介―File50 千年の時を越えて味わう『源氏物語』 専攻:日本文学(文学・言語学コース) 授業名:源氏物語演習 皆さん『源氏物語』と聞いて何を思い出しますか?高校の古典の時間,古典文法と格闘した思い出で しょうか?もし,それしか思い出せないとしたらもったいない!『源氏物語』は約千年も昔に書かれた にも関わらず,現在も読み継がれている世界最古の長編恋愛小説なのです。もっとじっくり楽しく味わ いたいですよね。今年度の「源氏物語演習」では,主人公光源氏が,18 歳の春に,北山で,当時 10 歳 のヒロイン・紫の上に出会う「若紫」の巻にしぼって精読をしています。 授業では,その回の発表の担当者はまず「大島本」という,くずし字で書かれた『源氏物語』を活字 に直す作業をします。平安時代は印刷機なんて無かったので,あの長い『源氏物語』も手で書き写すこ 2013 年 1 月 30 日 とで伝えられてきました。それで,今に伝わっている幾つか の本は本文が少しずつ違うので,見比べる必要があるのです。 次に,分からない語や,いろいろな時代の注釈書を見て, どのように本文を解釈していいか探ります。中には注釈書に よって意見が異なっている場合があるので,どちらの説を採 るか,自分で理由を挙げながら検討することもあります。 最後は,考察として,自分の興味を持ったことについて発 表します。物語の舞台,北山の「なにがし寺」のモデルは, 何という寺だろうか?光源氏が泊まった「深き岩の中」とは, 岩窟のことだろうか,それとも周りを大きな岩で囲まれた庵室のことを指しているのだろうか?どんな 小さなことでもいいのです。それぞれが感じた疑問について,資料を挙げながら発表し,その後に皆で 意見を出し合います。発表者が作る資料は,毎週力作揃いです。一つひとつの単語を大切に読んでいく ことで,予想を超えた『源氏物語』の奥深い世界に触れることができます。 [所 敬子(博士前期1年)] 授業紹介―File51 発掘の成果を記録し,伝える責務 専攻:考古学(歴史学・文化史学コース) 授業名:考古学実習 考古学といえば,みなさん遺跡の発掘をまず思い浮かべら れると思います。発掘現場のフィールドで,土中からあらた な資料を掘り出し発見することは,たしかに考古学でなけれ ば味わえない醍醐味かと思います。 しかし,遺跡の発掘はそれだけでは終わりません。遺跡や 遺物などの「埋蔵文化財」は,それぞれの地域の歴史や文化 を理解する上で重要なものであり,人類共有の財産として後世に伝えていかなければならないものです。 われわれ考古学に携わる者は発掘者の責務として,発掘調査による成果を正確に記録し,それを「発掘 調査報告書」という形で,研究者や地域住民など,国民全体に残し伝えていかなければならないのです。 考古学実習の授業では,そのための基礎的なスキルとして,遺跡の測量や遺物の実測など図面の作成 法や,写真の撮影法などについて学びます。考古学の図面はスケッチではなく,なによりも正確さが求 められますので,遺物をよく観察しつつ,その形状や特徴を,定規やその他多くの専門的な実測道具を もちいて,正確に写し取っていかなければなりません。本研究室では,過去に大学でおこなった発掘調 査で出土した本物の遺物をもちいて実習をおこなっており,この授業を通して学生たちは,将来埋蔵文 化財の発掘調査に携わったときのための技術を身につけるとともに,遺物を観察し,そこから歴史復原 のための情報を引き出すという,考古学者としての「目」を養っていきます。[梶原 義実(准教授)] 最近の文学部 あけましておめでとうございます この一年が,読者のみなさまにとって素晴らしい歳になることをお祈りいたしております。しかしながら, 新規一転の新年といかないのが本学文学部でして,新年早々の卒業論文の締切を目前に,(一部の?)4年生た ちは,年末から引き続き正月返上で頑張っています。追い込まれる前にきちんとやってお いたらいいのに…とは, 多くの原稿や論文の締切に絶えず追われている私たち教員も,他人のことは言えないかもしれません。 (梶原) 名大文学部の WEB サイト *本紙では,名大文学部の多彩な内容を順に紹介していきますが,それまで待てない人は… http://www.lit.nagoya-u.ac.jp/ まで(『月刊名大文学部』のバックナンバーもあります)
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