筋電位測定による自動車の乗り心地評価

筋電位測定による自動車の乗り心地評価
Evaluation of ride comfort with EMG
背景
Background
近年,自動車の乗り心地に対する要求は高まっており,乗
り心地は自動車の最も重要な評価要素の 1 つになっている.
それゆえ,官能評価に代わる客観的な車両の運動性能に対す
テストコース
る評価手法の提案が望まれている.本研究では,乗員の生体
情報に着目し,運動性能に対する乗り心地の新しい評価指標
測定された加速度
の可能性として,乗員の筋電位を検討している.
Measured accelerations
以下に未改造車,改造車の 4 つの加速度計でそれぞれ測定
筋電位計測
された加速度の波形を示す.
Measurement of EMG
頚部左右の胸鎖乳突筋を筋電位を測定する部位に定めた.
胸鎖乳突筋は頭部を支える役割を持ち,主な運転操作には関
与していない筋肉である.
未改造車の加速度
実験用車両
Cars for Experiments
実験では,同じ車種の自動車 2 台を用意し,1 台を改造し
て剛性を高めることで運動性能の違いを作り出している.ま
た,下図の様に 4 つの加速度計を設置し,同時に加速度を測
改造車の加速度
定する.また,車両前部の 2 つの加速度の差と,後部の 2 つ
相対加速度
の加速度の差をそれぞれ相対加速度として求める.
Relative accelerations
未改造車,改造車の車両前部と後部の相対加速度を示す.
Direction
Front relative
acceleration
Front inside
y x
x
y
Front outside
Rear relative
acceleration
Rear inside
y
Rear outside y
実験条件
未改造車の相対加速度
x
x
Experiment conditions
被験者を実験車両の後部座席に乗車させ,実験コースを未
改造車,改造車でそれぞれ走行する.実験は 5 名の被験者に
対して行い,実験コースは次に示す様なスラロームコースを
速度 65 km/h で走行する.また,同時にアンケートも行う.
改造車の相対加速度
K.Nakano Lab, Institute of Industrial Science, University of Tokyo
特に後部の相対加速度において未改造車の値が大きくなっ
RMS values of Sternocleidomastoid muscle
[μV]
350
300
250
200
150
100
50
ている.車体の剛性を高めたことにより,車両内部の振動(加
0
Normal
Modified
sub1
速度)が低減されていると解釈できる.
sub2
測定された筋電位
Measured EMG
sub3
例として,以下に被験者 1 の筋電位波形を示す.
sub4
sub5
Left side
Right side
0
50
100
150
200
250
300
350
[μV]
被験者全員の RMS 値の比較
アンケート結果
Results of questionnaire
アンケートは,
「どちらの方が乗り心地が良いか」の選択と,
未改造車乗車時の筋電位
走行中に感じた「力み」
,
「ストレス」について 1~5 の 5 段階
評点によって採点させる.なお,評点が大きいほど,強く感
じるという形式である.結果は,被験者 5 を除いた 5 名中 4
名の被験者が,改造車の方が乗り心地が良いと回答した.力
みとストレスについては,以下に示す様に改造車の方が優れ
るという結果になった.剛性を高めたことにより,運転性能・
改造車乗車時の筋電位
乗り心地が改良されたと考えられる.
5
筋電位の絶対値について,評価を行うために,RMS 値(Root
4
Mean Square value)を求める.被験者 1 の筋電位に対して,0.1
3
秒幅で求めた RMS 値を次に示す.
2
Straining
Normal
Modified
1
0
sub1
sub2
sub3
sub4
sub5
「力み」に対するアンケート結果
5
Stress
Normal
4
Modified
3
2
1
左側胸鎖乳突筋の RMS 値
0
sub1
sub2
sub3
sub4
sub5
「ストレス」に対するアンケート結果
結論
Conclusion
運動性能の異なる車両に乗車したときの胸鎖乳突筋の筋電
位の違いについて,RMS 値によって解析を行った.これより,
右側胸鎖乳突筋の RMS 値
剛性を高めた改造車の方が筋電位の RMS 値が小さくなると
いう傾向がみられた.車両内部の加速度が小さくなったこと
定量的な評価を行うために,被験者 5 名について,スラロ
ーム走行時全体で計測された筋電位の RMS 値を求めたもの
により,頭部を支えるための筋活動が小さくなったためであ
ると示唆される.
を次に示す.5 人中 4 人の被験者で,改造車の方が RMS 値が
小さいという結果になった.
K.Nakano Lab, Institute of Industrial Science, University of Tokyo