スピーカーに対するアンプのパワーはどのくらい必要なのか? 1

スピーカーに対するアンプのパワーはどのくらい必要なのか ?
特定のスピーカーに対してアンプのパワーがどのくらい必要なのか。 その問いに対する正解はありませ
ん。 スピーカーに合わせたアンプの選択については別々の、 そしてとても明確な 3 つの論点があります。
1.
スピーカーの定格入力
EAW 製品の仕様にある 「最大入力」 は、 EAW の標準的な許容入力テストでスピーカーが出した結果
です。このテストでは、スピーカーを損傷あるいは故障するポイントで実際に「訓練」します。ここで得ら
れた定格入力は、他のスピーカーと比較するために使われるものです。この数値が最適なアンプの出力に
相当する、 あるいは実際の動作環境下で 「安全な」 アンプの出力を表す必然性はないのです。
●論点
EAWの最大入力テストは、スピーカーの熱的な許容入力の限界値を決めるものです。その入力
信号(RMS電圧で測定)を維持すると熱で必ず損傷あるいは故障する原因になるポイントになって
います。 テストの間、 スピーカーは入力信号の RMS レベルより最大で 6dB 高いピーク入力レベ
ルも受けます。このピークレベルテストでスピーカーのピーク許容入力を確実なポイントにしてい
るのです。
フルレンジスピーカーのテストに使うピンクノイズは、 EIA(Electronics Industry Association)準
拠の周波数特性を形作ります。この特性は一般的な音楽プログラムにおける平均周波数特性に匹
敵するよう整形されています。
それでも、これが現実のあらゆる音声信号や、音声信号に対するスピーカーの反応を表してい
るものと見なすことはできません。一般的にピンクノイズを再生すると、スピーカーに典型的な音
楽信号やスピーチよりも大きな熱的なストレスがかかります。しかしながらロックやダンス音楽、
場合によってはクラシック音楽でも、音声信号の内容によってはこのピンクノイズよりもストレスを
与える場合があるのです。
万人に受け入れられる規格がないため、業務用スピーカーメーカー各社では仕様としての許容
入力を得るためにさまざまな試験方法を取り入れています。しかしテスト方法が違っても、それぞ
れの結果は驚くほど近い数値になります。定格には熱的、連続、RMS、平均、AES、EIA、持
続耐入力などさまざまな種類があります。定格入力の違いは実際にスピーカーが持つ許容力の差
ではなく、単純にテスト方法やテスト機器によるものです。したがって異なるスピーカーの許容入
力がおよそ 1.5 倍(あるいは約0.6 倍)程度の範囲に収まっていれば、許容入力を同等と見なすの
が一般的です。この 1.5 倍(0.6 倍)は出力のおよそ± 1.5 に相当します。たとえば定格 600W のも
のと定格900Wのものでは、実際の音声信号に対する許容入力の面で同等、ということもあるの
です。
「音楽」 「プログラム」 「ピーク」 などの定格入力は、 通常熱的な(RMS、 連続など)定格
の2から3倍になります。しかしこうした定格は実際の測定結果としてはまれです。通常はスピー
カーが耐えられるピーク入力、つまり熱的な最大限界値より高い数値を表示するものとしか考えら
れていません。
2.
適合するサイズのアンプを選ぶ
スピーカーに組み合わせるアンプの出力は、必要なサウンドレベルと再生する音声信号の種類という2つ
の要素で決めるべきものです。この要素を明確に決めかねる場合は、経験あるプロに相談するか、EAW
のアプリケーション・サポートグループにお問い合わせください。
●論点
実現可能な最大サウンドレベルは、スピーカーの仕様にある定格入力とは別のものです。これ
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は実際に使われるアンプとスピーカーの感度の組み合わせによるものなのです。 したがって感度
97dB(1W@1m)のスピーカーに100W のアンプを組み合わせている場合と、感度 94dBのスピー
カーに 200W のアンプを組み合わせている場合では、 同じ最大出力が得られることになるので
す。
スピーカーのドライバー、特にコンプレッション・ドライバーは通常、EAWの許容入力テストで
かける以上の瞬間的なピークにも耐えてしまいます。ダイナミクスがかなり広い音声信号の中に
は、たとえばパーカッションのように高い瞬間的なピークレベルを含むものがあります。スピーチ
のようにレベルが瞬間ごとに大きく変動するものもあります。音声信号のピークを再生するとき、
スピーカーの許容能力を活用してアンプをクリップさせないために、 スピーカーの定格入力に比べ
て大きなアンプを使用する場合があります。
ヘヴィメタルやかなりコンプレッションされた音楽などダイナミクスが狭い音声信号には、スピー
カーの許容入力よりも小さなアンプを使い、スピーカーの熱的な許容範囲を超えたストレスをかけ
ないようにする場合があります。
一方、連続(RMS、連続など)定格 500W のスピーカーをとても低いレベルで BGM 再生に使う
場合があるかもしれません。この場合、必要な音響レベルに到達するために必要なアンプは25W
程度のものでしょう。
つまり実際に使用するパワーアンプの出力をスピーカーの許容入力より大きくするか小さくするか
は、用途によって考慮することなのです。
スピーカーの許容入力をフルに活かして音響出力を適切なレベルにする場合であれば、EAW
では原則として仕様における最大入力の倍のアンプを推奨しています。ただしここではシステムが
適切に制御されていることを想定しています。この組み合わせでは許容入力から6dB増大したピー
クを再生することもできます。またこの原則は、EAWの許容入力テストに使用しているテスト信号
とアンプの許容出力から考慮しているものです。しかしながらこの推奨値は問題なく動作すること
を保証するものでは決してありません。その件については次項に譲ります。
3.
スピーカーの損傷を防止する
スピーカーの損傷や故障を防止するために大切なことは、アンプの出力でもスピーカーの定格入力でも
ありません。スピーカーの故障を防止する要素とは、限界を超えたストレスをかけないことです。音響シス
テムの動作が適切でなければ、仮にアンプの出力がスピーカーの定格入力を十分に下回っていても破損す
る可能性があります。反対に音響システムの動作が適切であれば、連続(RMS、平均など)定格入力を遙
かに上回る出力のアンプを使っていても、スピーカーは破損を免れることができるのです。
●論点
音響システムを適切に動作させることとは、再生する音声信号の種類を明確にすること、それ
に応じて出力レベルを制御すること、そしてシグナルチェーンに関わるあらゆる電気機器で電気的
なクリップを発生させないことです。
不適切な動作には下記のものがあります。
1. マイクロフォンのフィードバックを長時間放置する
2. スピーカーの動作範囲外にある周波数をイコライザーでブーストする
3. スピーカーの動作範囲内の周波数であってもイコライザーで極端にブーストする
4. ミキシングコンソール、シグナルプロセッサー、パワーアンプなど電気回路上のいずれかで電
気的なクリップを発生する
5. 歪んだ信号をスピーカーに送る
6. シンセサイザーなどの連続音を長時間アンプのフル出力で再生し続ける
上記の例はいずれも、スピーカーの定格入力や併用するアンプの出力に関わらず、容易にス
ピーカーの損傷や故障の原因になり得るものです。システムに関連する全ての機器がその許容範
囲内で動作しているかどうかは、音響システムのオペレーターの責任です。スピーカーに対して
損傷や故障を引き起こす限界を超えたストレスをかけないようにすることが唯一の方法なのです。
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付記
スピーカーの耐入力
EAWで、より明確に言えばほとんどの業務用スピーカーのメーカーで行っている耐入力テストは、実際
には耐入力のテストではなく電圧テストです。こうしたテストで測定される数値は、常に変わることなく入力
信号の RMS 電圧や平均電圧です。この数字から伝統的な公式を使って耐入力を算出しているのです。
耐入力 = 電圧の二乗 / 公称インピーダンス
しかしながらこの公式による計算結果を実際の基準にすることはまれです。その理由は下記の通りです。
1. 公称インピーダンスが実際のインピーダンスと等しいことはほとんどありません。事実、一般的にスピー
カーのインピーダンスはその周波数帯域によってかなり変化します。
2. スピーカーは通常、受動的な負荷です。つまりインダクタとコンデンサのように、その動作は周波数に
よって決まります。受動的な負荷の場合は電圧と電流が「同期」することがないため、実際の定格入力は
電圧と電源の位相角度がわからない限り算出することはできません。この事情を反映すると、耐入力に相当
する数値は下記のようになります。
耐入力 =(電圧の二乗× cos 位相角度)/ インピーダンス
動作範囲内の各周波数で耐入力を算出するときにこの公式を使わなければ、 合計耐入力は正しく算出さ
れないでしょう。 通常はこの方程式に出てくる 4 つの数値の 1 つ、 電圧だけが測定されます。 1 つの数値
しか代入できなければ、この方程式を解くことはできません。
「公称」インピンーダンスにおける仕様としての耐入力とは、本質的にスピーカーやアンプの仕様にある
のと同じ電圧なのです。 アンプであれスピーカーであれ、 たとえば 8 Ωで 200W のときこのテスト電圧は
40Vrms でしょう。
音声の世界で定格入力を使うこと、それは実際に測定されている数値である電圧の代用に過ぎません。
しかしながら定格入力は慣例的で受け入れられやすく、またさまざまなアンプやスピーカーを比較する上で
十二分なデータです。心に留めておくべきことはただ1つ、その数値が実際のスピーカーの耐入力を科学
的に表しているのではない、ということです。
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