292号 - 結核予防会

竹下景子さん結核予防会本部訪問
∼複十字シール運動にご寄付をいただきました∼
去る6月9日,女優の竹下景子さんが結核予防会本部(東京都千代田区)を訪れ,複十字シール運動に
多額のご寄付をいただきました。
竹下さんには,以前から複十字シール運動の趣旨にご賛同いただきご協力をいただいており,本会発行
の複十字シール運動ビデオ(平成12年発行,今年度改訂)や,昨年の結核予防週間ポスターにもご登場い
ただいています。
当日は,本会青木会長,仲村理事長,羽入専務理事,山下事業部長と共に,発展途上国での結核問題と本
会の国際協力活動,国内の結核の現状などについてなごやかに歓談されました。
竹下さんから本会青木会長に多額のご寄付をいただきました。
結核問題や本会の活動についてなごやかにご歓談。竹下さんは結核
問題について熱心に質問され,「高齢化社会での結核の増加や医師
の結核離れが心配」との感想を述べられました。
Message
今後の事業展開を考える
田崎 正善
たざき まさよし
結核予防会滋賀県支部長
滋賀県健康づくり財団理事長
滋賀県支部は昭和15年に発足し,昭和55年に(財)
結核予防会滋賀県支部,(財)滋賀県対ガン協会,
滋賀県公衆衛生協会の三団体を統合し,財団法人滋
賀県保健衛生協会となりました。本年4月1日より
健康づくりに関する各種の事業を積極的に推進する
ため組織を拡充し,財団法人滋賀県健康づくり財団
として新たにスタートしたところです。
おりしも,5月1日より健康増進法が施行され,
これまでの二次予防に偏重した健康政策から一次予
防を重視し,健康寿命の延伸などを目指す取り組み
の展開ができる基盤ができました。当財団において
は,結核健康診断,各種がん検診,また,平成10年
度より基本健康診査事業を市町村から受託し,その
結果を集計し,地域の実態を明らかにするとともに
保健事業の方向性を検討する資料の提供を行ってき
ました。それを基にいくつかの市町村において,受
付・診査結果等のシステムの開発や,保健事業の成
果を評価するために必要な資料の整備,推進に貢献
してきたところです。
また,結核対策においては,篤志家からの寄付金を元
に,結核検診受診の機会に恵まれない在宅要援護高
齢者に対し,居宅における検診(喀痰検査,胸部
直接撮影,健康調査等)を実施するとともに,近年,
肺結核およびその他の胸部疾患のX線読影にたずさ
わる医師の確保や技術の向上が緊急の課題となって
いることから,X線読影研修会等を開催しております。
新規事業として,介護保険通所サービスを利用する
高齢者や障害者に対する結核検診を受託し,ハイリ
スクグループの重点的な結核検診を計画していると
ころです。
このように財団の事業は,その社会情勢の変化と
ともに,多岐にわたっております。財団を取り巻く
経営環境には厳しいものがありますが,これまでの
事業を推進する中で積み上げてきた精度管理や保健
事業の企画力を生かし,民間の持つべき効率性や積
極性を発揮しつつ,健康づくりの一翼を担う機関と
して,一層の向上に努めてまいりたいと考えており
ます。
目 次
1
田崎 正善
■メッセージ 今後の事業展開を考える
2
多田 有希
■SARSについて ■直接服薬支援による治療成功率向上と費用対効果の関係
4
内村 和広
について
■平成15年度結核対策特別促進事業の方向について 6
野原 勝
7
■乳幼児のBCG接種
中園 智昭・星野 斉之
9
■NEWS 結核患者届け出義務違反で初の罰金命令
9
■結核研究奨励賞受賞者決定
■大阪市保健所における結核診査協議会
10
亀田 和彦
−その経験からの提言−
13
野中 辰雄
■ずいひつ 加藤楸邨と其の妻
■第78回日本結核病学会総会に参加して
14
西井 研治
■複十字シール運動
16
平成14年度複十字シール運動募金成績
複十字シール募金運動に参加して
17
∼平成14年多額募金者の方々よりのメッセージ∼
複十字シール運動の新たな歩みに向けて 18
山口 峯生
■茨城県支部寄贈の検診車によるカンボジア・プノンペン
市内での診察開始
16
■タイ・チェンライでの結核の予防と治療に対するHIV感
野内ジンタナ
染者の貢献
20
中野 静男
■2002年度フィルム評価会報告
22
■たばこ 2003年世界禁煙デー記念シンポジウム
24
「たばこ」対策の「ことば」コンクール募集要項 26
■TSRU(結核サーベイランス研究会)2003年会合報告
森 亨
27
青木 國雄
■思い出の人を偲んで∼岡田博先生
28
▽予防会だより
●新しい国際協力事業への歩み
石川 信克
30
●第4回結核予防会広報・シール担当者会議報告
牧内 朋子
32
〔表紙〕平成15年度複十字シール運動ポスターより
〔カット〕佐藤奈津江
07/2003 複十字 No.292
1
SARSについて
国立感染症研究所 感染症情報センター
主任研究官 多田 有希
発生の経緯
2002年11月から中国広東省で肺炎が流行し,2003年2月
SARSの臨床的特徴,診断,治療等について,これまでに
までに5人の死亡例を含む305人の患者が発生。中国当局は
発表された知見を基にまとめてみる。
これをクラミジア肺炎の流行としていた。その後2003年3
症状・所見
月にベトナムのハノイ市で,上海と香港に渡航歴のある人
SARSは通常2∼10日の潜伏期間の後,発熱,悪寒戦慄,
が肺炎で入院し,その病院で医療従事者を中心に約40人の
頭痛,全身倦怠感,筋肉痛などのインフルエンザ様症状で
肺炎の院内流行が発生した。さらに香港の病院でも同様の
発症し,1∼2日後に乾いた咳や呼吸困難感などの呼吸器
肺炎の院内流行が発生した。これらの流行の原因は,これ
症状が出始め,発症後3∼7日で低酸素血症が出現する。
までに知られている病原体では説明がつかず,WHOは注意
下痢は時にみられるが,発疹や神経学的症状は通常みられ
を喚起する緊急情報を発表し,本格的に調査を開始した。
ない。胸部レントゲン上では間質性肺炎を示す浸潤陰影(ス
その後も,シンガポール,カナダ,ドイツで,香港から入
リガラス状の陰影)が特徴的である。検査所見の異常とし
国または帰国した人々に同様の肺炎が引き続き発生したため,
て報告されているものは,血液中のリンパ球数の減少,白
WHOは広く世界で流行する可能性があると考え,3月15日,
血球の減少,血小板数の正常下限ないし減少,血清LDH上昇,
原因不明の呼吸器疾患としてSevere Acute Respiratory
CPK上昇,GOT/GPT上昇である。腎機能は正常のことが
Syndrome(重症急性呼吸器症候群 ; SARS)と命名し,“地
ほとんどである。
球規模で警戒すべき感染症の発生である”と,全世界に向
診断
けて警告を発した。その後もSARSの流行は拡大し,中国,
確定診断には病原体であるSARSコロナウイルスの検査を
台湾を中心に症例数が増加した。
行うことになる。検査方法には,病原体検出検査としてウ
イルス分離とRT- PCR,それに血清抗体検査の3種類がある
図に見られるとおり,6月23日の時点で,世界中の29カ
国から8,459人が報告され,死亡者は805人である。わが国で
の発生は確認されていない。
病原体と感染経路
2
SARSの臨床
が,未だ研究途上である。ウイルス分離は病原診断として
重要な検査だが,時間を要する。迅速診断法とされるRT P CR検査(病原体の遺伝子を人工的に複製し,検出しやす
くする方法)は,現段階では感度は十分と言えず,感染し
WHOがSARSの原因となる病原体を解明するために,9
ていても検出されないこともある。また,喀痰などの気道
カ国13カ所の研究施設からなるネットワークを組織し,国
検体,尿,便のいずれについても最も検出されやすいのは
際的な共同研究が行われた結果,コロナウイルス科に分類
発病後10日前後とされている。抗体検査は,発病初期と回
される新しい型のウイルスが発見された。4月16日,WHO
復期のペア血清で行うが,回復期血清は発病3週以降の採
はこれをSARSの病原体であると決定し,「SARSコロナウ
血が勧められている(発病2 0日頃で約 6 0%,3 0日頃で約9 5
イルス」と命名した。
%の陽性率とされる)。このような状況から,現状では病原
従来のコロナウイルスはヒトに一般的なカゼを起こす病
体検査による早期診断は極めて困難で,診断は主に他疾患
原体のひとつだが,このような重症の病気を起こすことは
の除外によって行われている。
知られていない。また,ブタ,ネズミ(マウス),ニワトリ,
治療
七面鳥などでは,呼吸器,消化器,肝臓,神経などの病気
治療については,有効な根治的治療法はまだ確立されて
を起こすことも知られているが,SARSコロナウイルスはこ
おらず,初期には,SARS以外の肺炎との鑑別が困難なため,
れまで知られているいずれのものとも遺伝子学的に明らか
一般の細菌性肺炎を対象とした抗菌薬の投与と対症療法が
に異なることが分かっている。どのようにしてこのウイル
中心となる。また,肺病変が進行する場合には,酸素療法
スが出現したかは,未だ不明である。
や人工呼吸器での管理が必要なこともある。抗ウイルス剤
感染経路については、現在のところ、動物を介して感染
であるリバビリンの静脈内注射とステロイド剤の併用療法
することを示す証拠はなく、ヒトからヒトへの感染が中心
を行い,効果が期待できるとの報告も出たが,明確な効果
と考えられている。気道分泌物の飛沫感染が最も重要と考え
が科学的に証明されたと言える段階ではない。
られるが,手指や物を介した接触感染,糞便からの糞口感染の
予後
可能性も言われている。空気感染の可能性は非常に少ないと考
予後については,10∼20%で気管内挿管と人工呼吸器が
えられているが,完全に否定はできない。
必要となるほど重症化しているが,80∼90%は発症後6∼7
7/2003 複十字 No.292
日頃に回復している。致死率は,年齢や基礎疾患などによ
策に加え,飛沫感染予防策,接触感染予防策,空気感染予
って,また感染経路や暴露したウイルスの量などによって
防策が必要とされる。マスクに関して,WHOはN95規格よ
も異なるが,全体として14∼15%(24歳以下1%未満,25
り高性能であるマスクの着用を推奨しているが,飛沫感染
∼44歳6%,45∼64歳15%,65歳以上50%)と考えられて
が主たる感染経路であると考えられていることから,N95規
いる。
格のマスクで十分であると考えられる。なお,これらの感
感染性を有する時期
染防具については適切な着用がなされていること,着脱時
感染性を有する時期については,これまでの疫学調査報
に汚染されないことが非常に重要である。
告からは,患者が発熱や咳などの症状を呈しているときに
また,接触者調査は感染源の早期発見につながり,感染
感染が起こっており,肺炎の極期が最も強いと考えられる。
拡大を防ぐために重要である。保健所等により適切に対象
症状が出現する以前の潜伏期間の患者から感染した報告は
者が把握され,状況に応じた自宅待機,症状発現時の早期
なく,感染する可能性は極めて低いと考えられている。
受診,受診方法の徹底されることが必要である。
消毒に関しては,SARSコロナウイルスは,80度10分の加
感染予防・感染拡大防止
熱(熱湯消毒等)のほか,次亜塩素酸ナトリウムや消毒用
現状において感染を受ける可能性は,感染伝播のある地
アルコールなどの一般に用いられている様々な消毒剤で感
域へ渡航する場合か,SARS患者と接触する場合である。
染性がなくなると考えられている。
感染伝播のある地域へは不要不急の渡航をしないことが
終わりに
勧められるが,やむを得ず渡航した場合,現地では手洗い
などの個人的な衛生管理に注意し,できるだけ人の密集す
本稿はこれまでに得られた知見を基に書いたものである。
る場所には行かないよう配慮する。公共の場所でのマスク
疫学状況,診断や治療に関する知見,ウイルスに関する知
の使用は必ずしも必要とはされていないが,心配があれば,
見など新たなことが次々と分かってきているが,これらは
飛沫感染が主要な感染経路と考えられていることから,適
未だ極めて流動的である。病原体は判明しているものの,
切なマスクの使用は有効な感染防御手段となると考えられる。
治療法や感染予防策の確立に必要なSARSコロナウイルスの
発熱または呼吸器症状が認められた場合には,現地の医療
性質,感染経路,臨床像等,未だ不明な点が多い。
機関に相談する。
また,現在報告されている症例数は,WHOの症例定義に
帰国後は,明らかなSARS患者との接触歴がなく,症状が
準じて各国から報告されているものであり,診断の確定し
認められなければ行動制限の必要はないが,状況に応じ10
た真の患者数を表すものではないことに注意が必要である。
日間の自宅待機を考慮し,症状が出現した場合には保健所
この調査(サーベイランス)方法は,診断基準が決定でき
あるいは医療機関に連絡し,その指示に従い医療機関を受
ない現状においては,迅速に流行状況を掴むことができ,
診する。
非常に有用な方法ではあるが,一方で病原体の異なる類似
患者と濃厚に接触する可能性のある医療機関等における
感染症の紛れ込みの可能性が高いことや,逆に症例定義か
感染拡大防止対策としては,感染経路が不明で,確立され
ら漏れる患者がいる可能性もある。
た治療もなく,ワクチンもない現状においては,①受診時
有用かつ正確な知見が集積され,少しでも早くSARSが制
のトリアージ,②患者隔離,③バリアナーシング(マスク,
圧し得る感染症となることを願う。 ガウン等の適当なバリアーを使って患者への看護・介護を
SARSに関する最新情報は,
国立感染症研究所ホームページ(http://idsc.nih.go.jp)
及び厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp)などをご
参照ください。
提供すること)の徹底が必要である。具体的にはマスク,
手袋(両手),眼の防御用具(ゴーグルなど),使い捨て
ガウン,エプロン,汚染除去可能な履物により,標準予防
図 SARS累積症例数・死亡者数
9000
8421 8460 8459 900
8202 8384
7864
799
725 770 784
7447
8000
7000
6538
6000
症
例 5000
数
4000
(人)
3000
5050
0
643
552
461
3861
321
3169
2601
2000
1000
805
1622
167
4
456
17
58
98
217
144
症例数
死亡者数
800
700
600
死
500 亡
者
400 数
300(人)
200
100
0
日 8日 5日
日
日 9日 6日 2日 9日
日
日 4日
日
日
日
21
14
17
31 月7
16
12
2
2
1
23
2
月 6月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
6
4
5
4
4
3
3
6
5
4
3
5
6
5
WHOによるサーベイランスのための症例定義(「疑い例」・「可能性例」)に準じて,世界各国からSARS「可能性例」
数及びその転帰(死亡数・回復者数)が報告されている。
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3
直接服薬支援による治療成功率向上と
費用対効果の関係について
結核研究所研究部主任 内村 和広
はじめに
結核治療においては患者の確実な服薬による治療の
完了が基本である。しかし,近年における患者の高齢
化や社会的に治療中断リスクの高い集団への偏在化と
いった背景から,より強力な患者支援が求められてい
る。このような状況を受けて厚生労働省による「日本
版21世紀型DOTS戦略」が発表され,現在DOTS戦略
による結核対策の全国的な展開が推進されている。こ
の日本版DOTS戦略は地域,患者の背景に応じてより
効果的な服薬支援方法,DOTSモデルが選択される。
一方,DOTS事業推進においてはその評価が不可欠で
あり,財政的・資源的に限られた条件下では事業の医
療経済的側面も評価対象となる。この評価のための方
法に費用対効果分析と呼ばれるものがある。今回
DOTS戦略の費用対効果分析に向けての試みとして,
特に患者への直接服薬支援による治療成功率向上と費
用対効果の関係に焦点を当て分析を行った。
費用対効果分析
費用対効果分析は治療方式や医療政策の意思決定の
場で用いられている方法であり,治療法や政策による
効果(結果)をある指標を設定して評価し,その効果
を得るために要した費用を比較検討するものである。
例えば,費用は安いが存命率の低い治療法と費用は高
いが存命率の高い治療法を比較する場合,効果として
「患者1人の救命」を設定すれば,結局は後者がより
低い費用でその効果を得ている(患者救命1人あたり
の費用が低い),という結果が得られる。
結核治療における分析―直接服薬支援による治
療成功率向上と費用対効果の関係―
前述のとおり,日本型DOTS戦略は地域の特性,患
者の背景などによりいくつかのDOTSモデルから選択
4
7/2003 複十字 No.292
される。したがってDOTSの評価においても各DOTS
の状況に応じた分析が必要となるが,いずれにおいても
治療成功率の向上がその大きな目的である。そこで今回
はDOTSの費用対効果分析に向けて,直接服薬支援によ
る治療成功率向上と費用対効果の関係を調べた(図1)。
図1 直接服薬支援による治療成功率上昇と費用対効果
直接服薬支援
費用
治療成功率の上昇
治癒件数
死亡回避件数
多剤耐性結核
回避件数
1. 効果指標について
結核治療の費用対効果を考える場合,効果の指標と
して
・治癒件数
・死亡回避件数
・多剤耐性結核回避件数
・新たな感染者の少数
などが考えられ,最終的には地域の結核罹患状況の改
善などが目標となるが,今回は一次的な指標として治
癒件数を効果として分析した。
2. 費用
費用は大きく,入院治療費,外来治療費そして多剤
耐性結核治療費を考え,それに直接服薬支援による追
加費用を設定した(表1)。直接服薬支援には外来型,
訪問型を考え,それぞれの費用に1カ月患者1人あた
り1万円,3万円をそれぞれ仮定した。
3. モデル
効果指標(治癒件数,死亡回避件数等)を推定する
ために,患者の治療経過をモデル化する必要がある。
今回結核研究所森所長の指導の下,図2に示す患者経
過モデルを構成し分析を行った。
4. 分析
分析は患者経過のモデルをもとに治療成功率を変数
として,10年間での治癒件数及び治療に要する費用を
推定し,費用対効果を求めた。
5. 結果
直接服薬支援の費用が1万円,3万円の場合の治療
成功率と費用対効果の関係を図3に示す。仮定した諸
費用のもと直接服薬支援費用3万円の場合,治癒1人
あたりの費用は治療成功率90%で130万円と推定され,
治療成功率が80%,70%と低下するにつれ治癒1人あ
たりの費用は150万円,180万円と上昇する。
直接服薬支援費用3万円と直接服薬支援なしの場合
の治療成功率と費用対効果の関係を図4に示す。これに
より,直接服薬支援がない場合と比較して直接服薬支
援がどの程度費用対効果的となるか及び費用対効果と
なる分岐点が示される。例えば直接服薬支援がない場
合の治療成功率が70%で,直接服薬支援により治療成
功率が85%に向上したとすると,追加の直接服薬支援
費用を要したとしても治癒1人あたりの費用としては
30万円強の節減がなされたことになる。また,直接服
薬支援による治療成功率が85%の費用対効果と等しく
なる点をみると,直接服薬支援がない場合で79%とな
り,直接服薬支援なしの場合の治療成功率がこれ以下
であれば直接服薬支援は費用対効果的であり,以上で
あれば費用対効果的ではなくなり,直接服薬支援での
より以上の治療成功率が求められることになる。
DOTS導入事例への応用
今回,A市とB市の協力により,A市a区,B市b
区のDOTS導入事例の成績を提供していただいた。両
区のDOTSはタイプとしては拠点型DOTSであり,院
内DOTSの後,診療所・保健所での外来型DOTSとなる。
対象は両区合わせて63名で主にホームレスの患者であ
り,治療中断のリスクが高いと考えられる。DOTSに
よる治療成績は良好で治療成功率は90%,脱落中断は
5%であった。これをもとに治癒1人あたりの費用対
効果を計算した。ただし治療期間は入院期間が4.4カ月,
外来DOTS期間が4 . 1 カ月で,前節のモデルよりも治
療費用は高くなっている。また各費用も実際とは差が
あると考えられる。あくまで仮定下の費用のもとでの
推定とご了承いただきたい。
図3 治療成功率と治癒1人あたりの費用対効果
(万円)240
表1 費用
1カ月
入院医療費
入院時検査費
入院管理料
外来治療費
外来検査料
抗結核薬剤費
多剤耐性結核治療費
抗結核薬剤費
検査費
手術費
直接服薬支援
外来型
訪問型
計
×2カ月
90万円
45万円
×4カ月
10.4万円
2.6万円
平均
2000万円
×4カ月
4万円
12万円
1万円
3万円
失敗
脱落
治癒
治癒・慢性排菌・死亡
死亡
0.1:死亡
早期死亡
自然治癒
治癒
0.8X:治療成功
再治療
直接服薬支援
費用:3万円/月
160
140
費用:1万円/月
120
60
治癒
X:治療成功
あり
0.9ーX:治療失敗
脱落中断
180
65
70
75
80
治療成功率
85
90(%)
(万円)230
なし
再発
200
図4 直接服薬支援による費用対効果の大きさと分岐点
図2 患者経過モデル
X:治療成功
220
治
癒
1
人
あ
た
り
費
用
対
効
果
多剤
耐性
治癒
治
癒
1
人
あ
た
り
費
用
対
効
果
210
190
直接服薬支援
なしの場合
170
150
直接服薬支援
費用:3万円/月
30.7
130
治癒・慢性排菌・死亡
死亡
図中, Xは治療成功率を, 数字は分岐における事象の生起確率を示している
110
60
65
70
75
80
85
90(%)
治療成功率
7/2003 複十字 No.292
5
直接服薬支援による治療成功率向上と費用対効果の関係について
結果を表2に示す。DOTS後治療成功率90%での治
癒1人あたりの費用対効果は239万円と推定された。
この推定をもとにすると,DOTS前の治療成功率が80
%であれば26万円,70%であれば66万円の治癒1人あ
たりの費用節減があったと考えられる。
表2 DOTS導入事例の費用対効果推定
直接服薬支援あり
直接服薬支援なし
治療成功率
(%)
治癒1人あたり
(万円)
差
90
85
80
75
70
238.8
248.5
264.9
283.7
305.1
0
+9.7
+26.1
+44.9
+66.3
おわりに
DOTS推進に向けてその経済的側面からの評価を行
う場合,治療成功率上昇の評価を正しく行うことが重
要である。これにより費用対効果的にどの程度の節減
が可能かの推定が可能となり,結核対策でのより効果
的な財政的・資源的配分へとつながることになると考
えられる。
本稿は第78回日本結核病学会総会でのシンポジウム
「DOTS戦略の成果」での発表をまとめたものであり,
詳細は雑誌に投稿予定である。
平成15年度結核対策特別促進事業の方向について
厚生労働省健康局結核感染症課
予防接種専門官
野原 勝
結核対策特別促進事業の目的
結核対策特別促進事業は,結核予防法による定期の
健康診断及び予防接種の着実な実施を図りつつ,既存
の補助制度等がない事業であって,地域住民の自主的
な協力と地域の実情に応じた重点的な結核対策事業の
実施により,効率的・効果的な結核予防対策の推進に
資することを目的にしています。具体的には,結核の
罹患率の高い地域等,特に重点的な対策を必要とする
地域において,地域の事情に即した結核対策への取り
組みを行う都道府県・政令市等に対する補助事業です。
全国一律的な措置である結核予防法が結核対策の一
階部分であるとすると,それぞれの地域特性に配慮し
た,きめ細かな対策を行う二階部分とも言え,近年の結
核罹患の特徴である,地域格差,高齢者の罹患の増加,
薬剤耐性菌の出現などの問題に対応した事業と言えます。
本稿では平成15年度の結核対策特別促進事業のメニュー
や合理化の主旨と方針について要点を紹介します。
平成15年度の見直しについて
国が拠出する補助金については,平成10年5月に閣
議決定された地方分権推進計画等により,国の負担が
特に必要なものに限定する観点から,合理化を推進す
ることとなっていること,また,昭和61年度の事業開
6
7/2003 複十字 No.292
始から相当年度期間が経過していることから,平成15
年度予算執行方針については,その内容について見直
しが図られています。
具体的には,結核対策特別促進事業のなかで,補助
率の高い特別対策事業のうち,研修事業等については定
着してきたと考えられることから,一般対策事業に振り
分けられることになりました。また,平成14年3月の厚
生科学審議会結核部会報告「結核対策の包括的見直しに
関する提言」の内容を踏まえ,結核対策を一律的,集団
的対応から,最新の知見やリスク評価に応じたきめ細か
な対応へ向けて整理・合理化を行っています。
大都市における結核の治療率向上(DOTS)
事業の推進
DOTS(直接服薬確認療法)戦略は,結核治療成功
率の向上や薬剤耐性結核対策のための有効な手段であ
り,結核対策特別促進事業の中でも「大都市における
結核の治療率向上(DOTS)事業」として取り上げら
れていますが,その活用については一部の自治体に限
られており,普及しているとは言えない状況です。
そこで,厚生労働省では平成15年2月に,DOTS戦
略を全国的に推進し,大都市に限らず地域の実情に応
じて弾力的に運用できるように図るため,「日本版21
世紀型DOTS戦略推進体系図」を作成し,いくつかの
服薬支援体制のモデルを提示しました(本誌No.291に
掲載)。厚生労働省としては,政令市及び特別区に限
らず広く都道府県を対象に,本体系図を参考として本
事業への積極的な取り組みをお願いしているところです。
乳幼児のBCG接種
一生に一度のBCG接種!だからこそ質の高いものを!
!
そのために技術評価を!
!
!
第一健康相談所診療部長 中園 智昭(写真左)
結核研究所対策支援部企画・医学科長 星野 斉之(写真右)
はじめに
平成15年度より,小中学校の健康診断におけるツベ
ルクリン反応検査と陰性者へのBCG接種が廃止とな
りました。BCG接種を受ける機会は,乳幼児期の一
回だけとなりました。失敗は許されません。そこで,
本稿では,BCGの接種方法の要点と接種技術の評価
方法を紹介いたします。
BCGの接種方法の要点
1.接種部位
上腕外(伸)側のほぼ中央(三角筋下端)部に行う
ことが昭和42年3月17日厚生省公衆衛生局長通知に定
められている。他の部位,例えば肩部に行うとケロイ
ドを生じやすいので絶対に行ってはならない。
2.接種部位の消毒
接種部位をアルコール綿で消毒する。乾かないうち
にワクチンをたらすとBCGが死滅するので,よく乾
いてからワクチンを滴下する。
3.ワクチンの滴下と塗布
接種者は被接種者の上腕を左手で握りほぼ水平に固
定する。アルコールが乾くのを待って滴下用スポイト
で,接種に十分な量(大きめの1滴)のワクチンを滴
下する(図1)。このとき,スポイトの先端が皮膚に触
れないように注意する。通常1滴で充分であるが,不
十分と思われる時はさらにもう1滴加える。滴下され
たワクチンをツバの側面で上腕の縦方向に沿って(図2)
約1.5cm×3cm程度の範囲(図3)に塗り広げる(ツバ
で強くこすり塗布層が薄くなりすぎないように注意)。
4. ワクチンの接種
管針を皮膚面に垂直に保持し,上腕部を下から支え
ている左手で強く握って接種部位の皮膚を緊張させ(図
4),ツバの両端が皮膚に十分つくまで(通常皮膚が
5∼6mmへこむ程度)管針を強く押して(図5)接種
する。管針の円跡が相互に接するようにして2カ所接
種する(図6)。腕の縦方向とツバの縦方向とが一致す
るように押す。2カ所の接種が重なると,局所反応が
融合するおそれがあるので必ず針痕が長方形に並ぶよ
うにする。管針を押すとき,管針をねじらないように
注意する(傷口を大きくして接種菌量が多くなるため)。
押し終わったら,ワクチンを塗り広げたときと同様
にツバの側面で皮膚上のワクチンを2∼3回針痕にな
すりつける(図2)。接種後,針痕が18個きれいにそろ
って膨れ上がり,わずかに血がにじむ程度が理想的で
ある。押し直しはしない。
図1
図3
図2
BCG液
図4
緊張させる
図5
図6
図1∼6出典:結核予防会発行『新BCG接種の理論と実際』(一部改変)
7/2003 複十字 No.292
7
接種が終わったら接種部位に日光を当てたり触った
りしないで,ワクチンが乾くのを待ち,乾いてから衣
服の袖を下ろさせる。接種後の注意事項を保護者に知
らせ,局所反応について説明する(詳細は前頁厚生省
通知参照のこと)。
3) 実施主体
4) 接種年月日
BCGの有無を確認することにより,BCG接種率
の検討が可能となる。生年月日及び接種年月日を記録
することにより,接種月齢の検討が可能となる。実施
主体と接種年月日の記録から,担当者ごとのBCG接
種技術の評価を行うことが可能な場合がある。
2.BCG接種歴と針痕数の記録方法
表に記録用紙の例を示す。接種無しの場合にはその
理由を記入しておくと,未接種の理由を検討する時の
参考になる。また,1歳過ぎて接種を受けた場合にも
理由を聞いておくと,接種月齢の検討時に参考になる。
3.BCG針痕の観察方法
BCG接種痕の観察方法を以下に述べる。
1) 左腕に接種されている場合が多いので,左腕の袖
をまくって上腕伸側を中心に広く観察する。
2) 一見針痕が認められなくとも,指で皮膚を寄せる
ことにより観察しやすくなり,発見できることがあ
るので,試行する。
BCG接種の評価方法
BCG接種後のツベルクリン反応の強さと針痕数は
相関する(図7)ので,針痕数を検討することにより接
種技術を評価することができる。ここでは,乳幼児期
の健診時に,母子手帳から検討に必要な情報を集める
とともに,針痕数を数えて評価する方法を紹介する。
1.BCG接種歴の情報収集
過去のBCG接種の有無,接種した日時や実施主体
については,保護者への問診や母子手帳から情報が入
手可能である。入手すべき情報を以下に挙げる。
1) 氏名と生年月日
2) BCG接種の有無
図7 針痕数別に見た発赤と硬結の平均値
18
16
14
( )
12
ミ
リ
発赤
硬結
10
8
6
4
2
0
0∼4
5∼9
10∼15
16∼17
18
針痕数
表 BCG接種技術評価記録表
氏名
(生年月日)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
8
7/2003 複十字 No.292
接種の有無
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
有り・無し
( )
接種自
治体名
接種年月日
針痕数(複反応)
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
年 月 日
個( 個( 個( 個( 個( 個( 個( 個( 個( 個( 個( 個( )
)
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乳幼児のBCG接種
3) まれに右腕に接種されている場合があるので,左
腕に針痕を認めない場合には右腕も必ず観察する。
具体的な方法や事例については,結核予防会発行の
パンフレット「ひとめでわかるBCG接種の評価方法」
を御参照下さい。
4.指標を用いた評価方法
BCG接種の普及度及び接種技術の評価は,以下の
指標を用いることができる。
1) BCG接種率:調査対象者または管轄地域の接種
対象者中のBCG既接種者の割合をもって示す。調査
時の対象者の年齢にもよるが,少なくとも1歳6カ月
時健診では,例外を除いて全員がBCG接種を受けて
いる(すなわち接種率100%)ことが望ましい。未接種
の場合には,未接種の理由を聞き,接種を希望しなが
ら機会を逃した事例が認められる場合には,BCG接
種の広報活動,接種機会等について再検討することが
望まれる。
2) 1歳時BCG接種率:BCG接種を受けた者につ
いて接種を受けた月齢を算出し,調査対象者中の1
歳時BCG接種率を算出する。接種率は高い方が望
ましい。低い場合には,広報活動や接種機会につい
て検討する。なお,接種率の指標を計算する場合,
当日の出席者に加えて欠席している対象児の人数や
BCG接種状況を把握できている場合は,対象児総
NEWS
結核患者届け出義務違反で
初の罰金命令
∼浜松労災病院医師が結核無届け∼
浜松労災病院(浜松市)に勤務していた男性内科医(45)
が,同市内の女性(40)を結核と診断しながら同市保健
所に7年以上届け出なかったなどとして,浜松簡易裁判
所が,結核予防法(第22条及び26条)違反の罪で内科医
に対して罰金10万円の略式命令を出した。
内科医は1995年9月,同病院を受診した女性を結核と
診断したにもかかわらず,女性が家庭の事情を理由に入
院や家族への告知を拒否したことから,同市保健所に届
け出なかった(第22条違反)ほか,女性の家族や病院職
員に消毒や隔離など必要な感染防止策を指示せずに昨年
11月まで通院させた(第26条違反)。女性は昨年11月,
発熱で同病院救急外来を受診したところ結核と判明,肺
の機能が低下しており他の病院に入院の措置がとられた。
内科医は3月11日付けで同病院を辞職している。
なお,この事件では,この患者による感染の危険にさ
らされた病院職員や外来患者など200名を超える人々に検
診が行われた。
(中日新聞より) 文責 編集部
数を分母として検討する方が望ましい。
3) 平均針痕数:BCGの接種技術のうち,管針の押
し方の評価は平均針痕数を用いて評価できる。平均
して15個の針痕が残っていれば,その集団に対して
行ったBCG接種の接種技術には,問題が無かった
といえる。平均針痕数が十分ではない場合には,実
施主体やBCG接種担当者ごとの平均針痕数などを
検討して,改善を進めるべきである。
5. 評価後の対応について
1) BCG接種率が低い場合:BCG未接種の理由を
検討し,予防接種の広報活動,接種機会や会場の検
討等を行うことが望まれる。
2) 平均針痕数が小さい場合:BCG接種の技術に課
題がある可能性があるので,実施主体,接種担当者・
団体,関係者と検討会を行い,次回の接種に向けて
改善策を検討することが望まれる。
最後に
本年度より小中学校のBCG接種が廃止になり,B
CG接種を受ける機会は乳幼児期の1回だけとなりま
した。乳幼児を結核から守るために,これまで以上に
接種技術の評価と適切な方法の確保に留意する必要が
あると思います。本稿がその一助となれば幸いです。
結核研究奨励賞受賞者決定
平成15年(第18回)結核研究奨励賞(結核予防会主催)
の受賞者3名が,3月13日の結核予防会常任理事会にお
いて決定し,後日表彰状が各受賞者に授与された。受賞
者及び業績表題は以下のとおり。
●入江 章子氏(国立療養所近畿中央病院研究検査科技
師長):「新しい抗酸菌検査導入への取り組み−抗酸菌
検査の迅速化を目指して−」
●西島美津子氏(市立室蘭総合病院結核病棟看護師):
「結核による長期入院患者の不安の軽減を試みて−経過
表作成としおりの充実化−」
●木野内利之氏(茨城県古河保健所健康指導課係長):
「新しい体制下での結核定期外健診への取り組み」
文責 編集部
7/2003 複十字 No.292
9
大阪市保健所における結核診査協議会
―その経験からの提言―
b 3カ月の期限つきで合格とするもの
結核予防会大阪府支部
結核研究所顧問 亀田 和彦
① 再治療の初回申請で塗抹陰性でX線上硬化に
傾いた病巣のみの例は,培養結果が判明する
までの3カ月
② 非結核性疾患も疑われる例
3. 35条申請について
a 不合格とするもの(ただし34条で合格)
大阪市では平成12年度より新しい地域保健体制の下,
それまでの22保健所を1保健所とし,もとの保健所は
保健センターと呼称され,1つとなった大阪市保健所
に結核診査協議会(以下診査会)が新設された。それ
を機会に同診査会の機能を補充するため,保健センター
市内東西南北の4つの保健医療圏ごとに各ブロックか
ら2つと,西成保健センター,西成行旅,一般行旅の
計11専門部会が設置され,1診査会,11専門部会体制
となった。診査会は毎週1回開催,新体制になった当
初は診査件数1回約150∼200,所要時間4時間以上に
も及んだが,3年経過した現在では70∼130件に減少,
2∼3時間の診査で終了できるようになっている。以
下,大阪市診査会での裁定のめやすとしている「診査
基準」の概要と実際的な運用を紹介し,併せて診査会
統合による利点などを述べ参考に供したい。
A 診査基準
Ⅰ 34条,
35条の申請そのものについて
1. 34条,35条共通で不合格とするもの
① 塗抹陰性で胸部X線上治療が必要と思われる
所見のないもの
② 前回の申請時3カ月のみ,または今回限りと
していたにもかかわらず再申請され,かつ主
治医からの治療継続の必要性についての記載
のないもの
2. 34条申請について
① 塗抹陰性でX線上からも排菌の可能性が低い
もの
② 菌陰性持続の良好な経過中塗抹のみ,あるい
はPCRなど核酸増幅法のみで陽性となったもの
③ 34条で治療が開始され期待通り経過している
にもかかわらず,2カ月後に治療開始時の培
養が陽性と判明したとの理由で35条への切り
替え申請が出されたもの(34条のまま継続)
b 3カ月の期限つきで合格とするもの
① 初回申請(再治療の初回申請も含む)PCRな
どの核酸増幅法のみ陽性のもの
② 塗抹陰性であるがX線所見から培養では陽性
となる可能性が高いと思われるもの(空洞が
あるか,なくとも広がり2以上のものなど)
③ 胃液,あるいは気管支洗浄液,擦過材料から
のみの菌陽性のもの
④ 35条の継続申請で,すでに2∼3カ月培養陰
性が確認されており今後も陰性持続すると思
われるもの
Ⅱ 申請薬剤について
肺結核に対する単剤使用,耐性薬剤の使用,3カ月
以上にわたるPZAの使用,8 0歳以上の高齢者に対する
SM,PZAの使用,多剤耐性持続排菌例に対する無効
多剤長期使用,不必要な5剤使用などは好ましくない
処方と考えて不合格とする。初回塗抹陰性例に対して
INH,RFPの2剤申請が出た場合はINHの未治療耐性
を考慮して,ほかに1剤を加えた3剤使用を指導する。
a 不合格とするもの
① 菌陰性,標準治療完了例に対するINH単独投
与の申請
② 経過良好の初回例の標準治療期間を超えた申
請(後述)
③ 過去2回以上の治療を繰り返している塗抹陰
性,かつX線上硬化巣のみの例(行旅者に多い)
10
7/2003 複十字 No.292
Ⅲ 初感染結核 に対する予防内服(マル初)
の34条申請
BCG歴のない乳幼児,未就学児のツ反10mm以上,
小中学生20mm以上のものは排菌者との接触が明ら
かでなくても合格とするが,BCG歴のあるものはツ
反陽性で排菌者と接触があれば合格,接触がなけれ
ば不合格とする。
マル初の申請書に記載されているツ反の判定記録
が不適正と思われることがしばしばあるので,申請
の適否を決定するために必要なツ反判定技術と記載
方法の教育が必要と思われる。
Ⅳ 病型分類(学会分類)
について
① 専門部会と診査会の判定が大きく食い違う場
合のみ訂正する。
② 胸水貯溜のP 型が軽度の癒着,肥厚のみとなっ
たものはⅤ型とし,膿胸となったものはP em型と
する。
③ 正面X線写真では所見がなくてもCTで浸潤影
があれば0型(CTⅢ型),正面X線写真では
浸潤影のみでもCTで空洞が見られればⅢ型(CT
Ⅱ型)と,CT像をかっこ内に追記する。
④ 治療中はⅢ型,治療終了すればⅣ型としがち
であるが,治療中,後にかかわらず病巣周辺
にボケ像があればⅢ型,なければⅣ型とする。
V 治療終了の時期に対する助言
1. 初回治療例
① 経過良好で既に標準治療期間を超えた例に対
する新たな申請は不合格とする。ただし不規
則治療に陥っていたことが明らかな例(副作
用によるものも含む),INH,RFPいずれか
に耐性があった例,糖尿病など合併症のある
例,他疾患のためステロイド剤使用中の例な
どはこの限りではない。
② 2回目の申請時(35条から34条への切り替え
申請の場合も),今回の申請切れの時点で標
準治療期間を満たす場合は今回限りの承認と
する。
③ 今回で治療終了予定との記載のある場合は記
載通り終了を勧める。
2. 再治療例
① すべての薬剤に感受性があり経過良好な例は
初回例と同様2クールまで。
② INH,RFPのいずれかに耐性のあった例では
菌陰性化後1.5年,両剤に耐性のあった例では
陰性化後2年の治療。
③ INH,RFP以外の多剤にも耐性のある持続排菌
例が陰性化した場合はその後2年の治療,陰性
化しない場合は外科治療の検討を勧める。外科
治療も不可能な例にはINH単独投与を助言する。
3. 非定型抗酸菌陽性例(AM)
診査会における本症の扱いについては告示, 疑義解釈の形での公式指示は出されていないが,
第一病名肺結核,第二病名非定型抗酸菌陽性例と
して申請が出された場合は34条で承認する(35条
は対象にならない)。AM特にMAC症では,肺結
核のような決定的な処方と必要治療期間が明らか
でないためフリーパスで承認していたが,平成15
年からはRFP,EB,KM(SM)と,抗結核薬で
はないがCAMなど使用されて菌が1年以上陰性
が続いておれば,治療を終了して観察に切り替え
てもよいのではないかと助言,M.kansasii症は菌
陰性化後1∼1.5年で終了を助言する方針とした。
4. 肺外結核
申請書のみでは詳細が把握し難い場合が多いの
で,1年を越す継続申請には主治医に治療終了の
時期の目安を問い合わせるのも1つの方法と考え
る。腸結核には著効あるSMを,髄膜炎には髄液
移行性良好なPZAの併用を指導する。
B 診査会統合による利点
① 事前に行われる各部会での情報把握と予備的
検討により適切な診査ができる。
② 診査基準に従って行われるため診査会,部会
ともほぼ統一された考え方が浸透し,患者管
理と治療の基本方針に共通認識が得られ,医
療機関に対する指導も容易になった。
③ 保健所で大阪市全域の患者を掌握できることが
大きな利点で,最も成果を上げたのは不必要な
治療が少なくなったことである。平成12年度と
14年度を比較した表(次頁)に見られるごとく
全体の診査件数は20.8%減少し,特に西成行
旅で37.9%,一般行旅で44.5%の減少を見た。
また,診査件数に対する不承認率も少なくな
り,これも行旅群に著明であった。これは大
阪市に多い行旅者が救急搬送された場合(な
かには自分で救急車を呼ぶ者もいる),受け
入れた医療機関が胸部X線上複雑な古い結核
の陰影があるとの理由のみでその都度行って
いた再登録,再あるいは再々治療の申請に対
して,それまでは各保健所で承認するのが常
であったが,新体制になってからの診査会で
は排菌の認められない例はすべて不承認と裁
定したことによるものであり,過去3年間の
統計に見られる大阪市の結核罹患率の減少に
も少なからず寄与したものと思われる。
④ 診査会で市全域の患者の胸部X線写真を見る
ことにより,個々の肺結核の進展度,つまり
結核症の病期病相を形態学的に知ることがで
き,どんな人が(職業,生活環境など)どん
なステージの結核で発見されているかの視点
から大阪市の結核問題を多角的に考えること
7/2003 複十字 No.292
11
大阪市保健所における結核診査協議会 ―その経験からの提言―
ができ,結核対策を進める上でも貴重な示唆
が得られることはきわめて興味深い。
少,一般医の結核離れ,保健所の管理機能の低下もあ
り,今日的な結核対策の理解も混乱し,全国的には診
査会の対応にも格差が生じていると思われる。このよ
うな時代であればこそ保健所と医療機関との橋渡しを
すべき診査会の役割はきわめて大であって,全国の診
査会が可能な限り統一した考え方(基準)で運用がな
されることが望まれる。また各地の診査会では件数も
減り,かつ結核専門医も少なくなっているので,地域
ごとに診査会を統合しコンパクトなものにすれば,診
査会の機能をより効率よく発揮できると思われる。実
際的な運用面では学問的な解釈と行政的な解釈との間
のギャップ,申請書類上の治療内容と実際の臨床の場
での治療との間にギャップがあることも否定できず,
したがって診査会からの助言,指導通り実行されてい
るかどうかの問題もあろうが,診査会の統合は既に神
戸市も成果を上げており,我々大阪市の経験からも大
きな利益をもたらすことは明らかである。1回40件程
度までであれば1時間あまりの診査ですまし得ると思
われるので,全国的な診査基準の作成と可能な限りの
診査会の統合を望みたい。
結核予防会大阪府支部では筆者が大阪市保健所の診
査委員長,増田國次相談診療所長が行旅専門部会の委
員,ほかに相談診療所,堺高島屋内診療所,大阪病院
から計6名の医師が大阪府下の保健所で診査委員とし
て活躍中である。わが国の結核対策の中心的役割を担
う結核予防会の医師は,それぞれの府県の診査会にあ
ってもリーダーとして適正な治療と患者管理の普及に
努力し,従前にも増して結核対策への新しい歩みを続
けていきたいものである。
C 診査委員,
事務執務者の大変さ
件数が多く診査会が毎週開催のため,診査委員の負
担も大きい。最近は件数が減ったとはいえ1回70∼
130件,診査に3時間近くを要し疲労度もかなりのも
のである。保健所側も事前準備,診査中のフィルムの
出し入れ,事後の処理まで大変な仕事量である。平成
15年度より原則として各部会からセンター長が出席し,
事前討議の内容の説明を行うこととなったが(14年度
までは任意参加),それまでは大阪市保健所撫井賀代
医師と西淀川保健センター甲田伸一所長が全部会で得
た情報,事前にすませた主治医とのやりとりまでを伝
える役を果たしていた。過去のスムーズな診査会の運
用は2人の努力なくしてはあり得ないものであった。
診査会の「大変さ」は件数の多いことによるもので
はあるが,職種,立場を問わず誰もが全国一悪いと言
われ続けている大阪市の結核事情の改善を図るには,
診査会機能の活性化こそが最重要との認識に立って診
査会を支えていることが,「大変さ」をカバーしてき
たと言える。
あとがき
診査会は1951年に設置されて以来,結核予防法を通
してわが国の結核医療水準の向上と適正医療の普及に
大きく寄与してきたが,化学療法,菌検査技術の進歩
と疫学的様相の変貌を背景に,患者管理の考え方も昔
とは大きく変化した。この間にあって結核専門医の減
表 平成12年度・14年度大阪市結核診査協議会診査件数内訳
34条
件数
一
般
住
民
平成
12年度
西
成
行
旅
12年度
一
般
行
旅
12年度
14年度
14年度
14年度
12年度
計
14年度
承認
(合格)
35条
不承認
(不合格)
件数
承認
(適)
4,190
4,010
180
1,180
1,119
(100.0)
(95.7)
(4.3)
(100.0)
(94.8)
3,379
3,203
176
1,133
1,084
(100.0)
(94.8)
(5.2)
(100.0)
(95.7)
543
(100.0)
341
(100.0)
299
(100.0)
164
(100.0)
389
(71.6)
259
(76.0)
172
(57.5)
117
(71.3)
5,032
4,571
(100.0)
(90.8)
154
(28.4)
82
(24.0)
127
(42.5)
47
(28.7)
461
(9.2)
349
(100.0)
213
(100.0)
150
(100.0)
85
(100.0)
281
(80.5)
189
(88.7)
118
(78.7)
76
(89.4)
1,679
1,518
(100.0)
(90.4)
3,884
3,579
305
1,431
1,349
(100.0)
(92.1)
(7.9)
(100.0)
(94.3)
計
不承認
(不適)
61
件数
5,370
(5.2) (100.0)
49
4,512
▲16.0
(4.3) (100.0)
68
892
554
▲37.9
(11.3) (100.0)
32
449
9
249
▲44.5
(10.6) (100.0)
161
6,711
(9.6) (100.0)
82
5,315
5,129
241
(4.5)
4,287
225
(95.0)
(5.0)
(75.1)
448
(80.9)
290
(21.3) (100.0)
▲20.8
(5.7) (100.0)
不承認
(95.5)
670
(19.5) (100.0)
24
承認
(64.6)
193
(77.5)
222
(24.9)
106
(19.1)
159
(35.4)
56
(22.5)
6,089
622
(90.7)
(9.3)
4,928
387
(92.7)
(7.3)
( )内数値は%
12
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ずいひつ
野中病院院長
加藤楸邨と其の妻
野中 辰雄
( 秩父宮妃記念結核予防事業功労賞
第6回受賞者 )
朝日新聞の大岡信の「折々のうた」に
・わが指に針置かざりき秋の蜂
加藤 知世子
という句が載っていた。大岡信は次の様に解説している。
「頬杖」(昭和61)加藤楸邨夫人。「頬杖」は結腸
癌のため76歳で逝去した後に編まれた第6句集。題名
は夫楸邨がつけた。「机に頬杖をついてじっと何かを
思いつめてゐる知世子の姿を見てゐると,その頬杖の
内容が何だったのかしきりに思はれてくる」。楸邨に
よる「あとがき」から夫思いの控えめな人柄が端然と
して姿勢が据わっている女性だったと思う,とある。
楸邨と知世子が結婚したのは昭和4年である。楸邨
は其の年私達の中学校に国語教師として赴任してきた。
長身の背をすっきり伸ばして何とも信頼できる教師で
あった。1年中黒い同じサージの洋服を着ていて手垢
でピカピカ光っていた。中学生の眼にも気の毒に思え
た。当時楸邨の給料は月50円だと聞いていた。其の金
の一部を当時旧制水戸高校に在学していた弟さんの学
資に送っていたと言うのだから,まさに赤貧洗う生活
をしていたことに間違いない。そんな頃結婚生活に入っ
たのだから,吾々でさえ大変だろうなと感じていた。
先生は私の級担当であり,私は級長をしていたため特
別に可愛がられていたので,先生のお宅へ押しかける
ことが何回かあった。新妻の知世子さんは,私にカレー
うどんなるものを御馳走してくれた。腹をへらしてい
る中学生には何ともうまかった。これはうめえや,な
どと勝手なことを言い,奥さん,お代わりを下さいと
言って腹いっぱい御馳走になったのだから,今になっ
て思えば,顔から火の出る様な申し訳ない気持ちにな
るのである。
楸邨が吾々の中学を去って文理科大学へ入学し,大
田区北千束に移られてからも何回もお宅を訪ねた。そ
んな時手土産など持っていった覚えはない。それでも
知世子さんは快くもてなしてくれた。私は其の頃,楸
邨先生の句碑を建てようと思っていた。そして先生の
在任中の7年間の卒業生に,「先生の句碑を建てたい
ので諸君の寄附をお願いしたい」という檄をとばした。
忽ちたくさんの卒業生から思いがけない程の寄附が寄
せられた。私は早速句碑を建てる場所を苦労の末確保
し,各地を走り回り石を探し,ようやく満足できる石
を発見した。私は心を躍らせて北千束の楸邨宅を訪ね
た。そして意気込んで,「先生に教えていただいた卒
業生で先生の句碑を建てたいと思うのです。建てる場
所も石も決まりました。ついてはどの句を刻むか先生
に決めていただきたい」と申し上げたのである。とこ
ろが楸邨先生は「私の生きている間は自分の句碑は建
てません」と言はれた。其の時の私の落胆,谷底に突
き落とされた気分であった。
さて話は変わるのだが,楸邨記念館が10年程前,長
野県小淵澤の標高千メートルの空気の清々しい素晴ら
しい眺めのところに建てられた。其の記念館の一隅に
ある楸邨の蔵書の中に,私の送った私の2冊の歌集が
加えられていて感激した。
今や知世子夫人亡く楸邨も去り,教え子の吾々も年
をとった。山好きの楸邨は長男が生まれた時,其の名
前を穂高とつけたが,其の穂高さんも今はもう老人臭
くなった。
私の思い通り昨年母校の校庭に楸邨の立派な句碑が
出来た。句碑落成の記念式典の席で,私は永い間の句
碑建設の苦労話をした。出席者一同は熱心に私の話を
聞いてくれた。穂高さんも私の手を握って「父は貴方
様に本当にお世話になりました」と涙を流した。
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第78回日本結核病学会総会に参加して
4月23日∼25日/倉敷市
岡山県健康づくり財団
( 結核予防会岡山県支部 )
附属病院院長 西井 研治
2003年4月23日から25日まで,第78回日本結核病学
会総会が岡山県倉敷市で開催されました。会場は倉敷
芸文館でした。会期中は天候には恵まれませんでした
が,会場内では熱心な討議が行われていました。今回
会長をおつとめになった松島敏春先生は,川崎医科大
学呼吸器内科教授で,感染症に関するわが国の第一人
者です。私も,以前からご指導いただいている先生で
あり,今回の総会に大いに期待して参加しました。
私が感じたこの総会のテーマは,「易感染性宿主の
問題」と,それに含まれるかもしれませんが「高齢者
の結核対策」ではないかと思います。23日総会前日に,
私が司会をおおせつかった公開講座「高齢者社会の結
核−ケアする人とケアされる人の結核−」が,オープ
ニングシンポジ
ウムとして開催
され,最終日の
最後のシンポジ
ウムとして,「高
齢者の結核対策」
で締めくくられ
ました。
公開講座 高齢者社会の結核
−ケアする人とケアされる人の肺結核−
高齢者医療における肺
結核感染リスクの認識と
その対応策について,そ
れぞれ行政・訪問看護師・
医師の立場から4人の専
門家に発言をいただきま
した。見方を変えると,
老健施設・在宅ケア・病
院の立場でのお話でした
が,指導する難しさや現場
14
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での苦労やアイデアが聞けて有意義でした。聴衆も種々
の職種の方たちが集まっており,日常医療で困ってい
ることを率直に質問されていました。内容を少し紹介
すると,「福祉施設の問題としては,職員や施設来訪
者(ボランティアを含む)に若い方が多く,入所者か
ら排菌者が出た場合,集団感染事例になりやすい」,
「きちっとした検診を行おうとしても,本人や家族の
意識が低い」,「寝たきりの入所者の場合,レントゲ
ン撮影ができない」などでした。訪問看護師の江田さ
んは,実際に経験した排菌者の介護体験を発表されま
した。誤嚥性肺炎の診断で病院を退院したばかりの高
齢者が実は結核であり,自分を含め多くの人が感染の
危険にさらされたお話でした。病院の院内感染対策を当
てはめて,「咳や痰がある方の在宅介護に,マスクとガ
ウンをつけて行くなどは現場ではまったく考えられない」
と言われるのはもっともだと思いました。結核感染予防
は病院より在宅の方が難しいと改めて認識しました。
続いて,国療南岡山病院の多田先生より専門医の立
場からの発言があり,最後に基調講演として近畿中央
病院院長の坂谷先生から,現場ですぐに役立ちそうな
結核対策の知識のご教示がありました。ガフキー8号
の患者さんと半日同じ部屋で過ごせば,100%の人が
結核に感染するなど,具体的に数値を挙げて説明があ
り,非常に分かりやすいお話でした。
会長講演 岡山県における の
M. kansasii
地理的,年代的広がり
総会初日,朝一番に松島教授による会長講演があり,
M.
kansasii のユニークな研究成果を聴講することがで
M. kansasii
きました。 が東日本から西日本へ伝わって
きたというのは非常に面白いお話でした。非結核性抗
酸菌症でありながら人から人へ感染するのではないか
というお考えは,まだまだ議論が分かれるところだと
思いますが,なるほどと説得力のある説でした。
シンポジウム 結核の易感染性宿主
会で最もうれしかったことです。中四国の病院を訪ね
て非結核性抗酸菌症の症例を丹念に集め,CTと病理
標本をつき合わせることで,centrilobular nodulesな
ど5つの画像所見に分類して,症例を提示しながら分
かりやすく解説されました。経験的には言われていま
したが,これほど多くの症例を,同じ内科医と放射線
医及び病理医の目でレビューして,集計したことの意
義は非常に大きいと思います。彼の着想と行動力そし
て人間性が,多くの症例と有能な共同研究者を集め,
このようなすばらしい仕事をなし得たのだと感動しま
した。
シンポジウム 高齢者の結核対策
今回の総会の中で,一番興味を引いたシンポジウム
でした。結核病学会で免疫学に踏み込んで,易感染性
を追及したことは画期的なことだと感じました。
抗酸菌感染と宿主の細胞性免疫は非常に関係してお
り,基礎疾患ごとに詳しい解析を専門家にしていただ
いたため,非常に有意義なシンポジウムとなりました。
易感染性宿主として糖尿病,胃切除,透析,AIDSと
高齢者が取り上げられました。糖尿病については琉球
大学の川上先生が発表され,糖尿病の易感染性はTh1
関連サイトカインの産生低下が関与しているらしいと
の話でした。しかし,なぜ糖尿病でこのサイトカイン
が低下するのかはまだよく分かっていないようです。
糖尿病患者の15∼20%に結核を合併すると言われてい
ますから,この解明は臨床に非常に大切なことだと思
いました。八木先生の胃切除後の結核合併も有名な知
見ですが,最近あまり取り上げられることがなく,こ
のテーマでまとめるのは大変だったろうと少し同情し
ました。透析患者やAIDSについては,集団感染事例
になることがあり,公衆衛生学的にも興味を引く発表
でした。AIDSのように細胞性免疫が極端に低下した
宿主に結核が発症すると,空洞を伴うような典型的な
結核像は少なく,非定型的結核像を呈することが多い
ため発見が遅れて,集団感染に発展してしまうことが
経験されています。今回のシンポジウムを契機に,あ
らためて,易感染性宿主の結核について注意が必要な
ことを痛感しました。
教育講演 非結核性抗酸菌症(特にMAC)の
画像所見 今村賞受賞
演者の香川医科大学の藤田次郎先生は,私の岡山大
学医学部での同期生であり,彼が今村賞を受賞し,あ
わせて教育講演を行われたことが,個人的には本総
総会を締めくくる形で高齢者の結核対策シンポジウム
が開かれました。結核緊急事態宣言にも述べられていま
すが,高齢者の結核の増加が,現在の結核再興を招いて
いる一因と考えられています。易感染性宿主である高齢
者の結核は,臨床所見や画像所見が非定型的なため診断
の遅れを招きやすく,集団感染の原因になることが稀な
らずあります。若い世代への「感染の鎖」を断ち切るた
めにも,高齢者の結核対策は最重要課題でしょう。結核
治癒痕をもつ高齢者のうち無治療者に,INHを予防内服
させ将来の発症を防ごうという試みは,残念ながらあま
り良い結果は得られていません。予防が無理である以上,
早期診断・早期治療が重要なことは明らかなのですが,
高齢者結核における「診断の遅れ」は確かに目立ちます。
なぜ診断が遅れるのでしょうか。大牟田病院のデータを
見ると,肺炎と誤診されるものが多いこと,痴呆があれ
ば問診や喀痰検査に協力が得られにくく,診断が遅れた
例が見られたとのことです。もっと血清診断などの早期
診断法が確立すれば,非定型的な画像であっても,適切
な診断ができるのではないかと考えさせられました。早
期発見の手段としての検診は,結核の登録状況をみると
あまり期待できず,かかりつけ医への働きかけがさらに
必要だと考えられました。
まとめ
感染症学の原点である結核を通して,高齢者医療の問
題点や易感染性について深く掘り下げることのできた3
日間でした。医師をはじめ,看護師,保健師,放射線技
師,ケースワーカーと多彩な医療現場のスタッフが一同
に会し,忌憚のない意見をぶつけあうことができる学会
構成にされた松島会長に深く感謝して,報告を終えたい
と思います。
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●募金総額 5億2,007万2,902円
●諸 経 費 1億3,771万 447円
(シール封筒の製作費,宣伝資材その他)
●益 金 ※ 3億8,236万2,455円
※募金額から諸経費を差し引いた金額
平成14年度も目標額6億5千万円を掲げ
て運動を展開しました。厳しい経済状況にも
かかわらず,募金額は全国で5億2,007万円,
前年に比べ2,386万円の減となりました。募
金をいただいた皆様のあたたかいご協力に
心より感謝いたします。
内訳は郵送による募金は全体の33%,婦
人会や関係団体などの組織のご協力による
募金は67%となっています。募金経費は昨
年に比べて4%減の27%となりました。
都道府県別に募金状況をみると,前年に
比べ増えたのは12支部で,その中でも沖縄
県は5,851万円と昨年よりさらに600万円も
の増額となりました。その他,大阪は3,000万
円台,長野,静岡,宮城では2,000万円以上
の募金が集まりました。
益金の使途は右のとおりです。国際協力費
は昨年の3%から9.8%と3倍に増えました。
結核予防会事業部資金課
益金の使途
次年度以降に行う胸部検診車、
検診機器等の整備のための
積み立てとして 9,992万円
結核予防思想の普及・啓発に
1億4,065万円
0.4%
結核など胸の病気の
調査研究に 151万円
0.7%
医療施設の整備 265万円
途上国の結核対策支援に
3,766万円
26.2%
36.8%
9.8%
14.6% 11.5%
胸部検診車の整備に
4,398万円
全国各地域の
結核予防団体の活動費に
5,600万円
茨城県支部寄贈の検診車によるカンボジア・プノペン市内での診察開始
結核予防会茨城県支部からカンボジア国立結核セン
ター(CENAT)に寄贈された検診車により,プノン
ペン市内のレントゲン施設のない4つの郡病院での診
察を開始しました。この検診車は平成13年2月に茨城
県支部において贈呈式が行われ,直接撮影ができるよ
うに改造を加え,カンボジアに輸送されました。その
後,結核予防会結核研究所の中野静男放射線学科長に
よる現地での技術指導を経て、平成14年4月∼12月の
全国実態調査の一部に使用されていたものです。
この度郡病院での使用開始にあたり,平成15年3月
に再塗装を施しました。検診車側面にはCENATの敷
地に立つ看板のイラストと同じ図案で,「適切な薬の
服用で結核は治る!」「DOTSで結核をやっつけよう」
というメッセージが描かれ,この車輌が茨城県支部か
ら贈られたことを明記しています。もう一方の面には
かわいらしいイラストが描かれています。
交通費をかけてCENATまで来ることができなかっ
た人も近くの郡病院で診察が受けられるようになり,
結核患者発見に威力を発揮しています。
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この情報はJICAカンボジア結核対策プロジェクト飯塚昌調整
員よりお寄せいただきました(編集部)
複十字シール募金運動に参加して
∼平成14年多額募金者の方々よりのメッセージ∼
平成14年度もたくさんの方々に募金にご協力いただき誠にありがとうございました。
募金者の方から複十字シール運動へのメッセージを寄せていただきましたので,ご紹介させていただきます。
結核予防会事業部資金課
武田 久子 様
小川 和榮 様
(左写真 妹小川英子様)
結核予防法改正直後の昭和26年4月23日,私は東京都の保健
東北で生まれ育った私が複十字シール募金を知ったのは,も
所勤務を命ぜられました。同63年3月31日定年退職後も結核と
う20年も前のことです。今はもう亡くなりましたが,ある大学
のご縁は切れずに今日に及んでいると申せましょう。
教授から結核予防のための運動があることを伺いました。そし
最初は,妹英子宛に貴シールが送られ,「1,000円ずつ納め
て,早速募金を始めました。それから今日まで、複十字シール
させていただいている」と申しておりました。妹は亡くなりま
運動とは随分と長いおつき合いになります。
したが生前通り妹の名で続けて参りました。
私はかねてより社会福祉に興味があり,同じ頃老人ホームの
それがなんと迂闊にも,貴会へはここ2,3年おろそかにして
慰問も始めました。趣味の踊りを生かして,刑務所慰問などを
いたことに気がつきました。しかもちょうど7回忌にあたりま
行っています。今年は5月に障害のある子供たちと一緒に旅行
したので,姉の私が成り代わり細やかな募金をさせていただい
してきました。
た次第でございます。
妹はひそかに重症身障児施設等に協力しておりました。今後
とも妹の気持ちを引き継ぎ微力をつくす所存でございます。
高橋 昭美 様
成田 實 様
結核予防会へご協力をさせていただいたのは,我が家にも結
結核について昔からいろいろと話を聞いておりましたし,学
核患者がいましたので,同じ病気で苦しんでおられる方が快方
生時代になったこともあります。その後,多くの人が治って社
に向かわれ,元気に社会復帰されるよう望む気持ちからだった
会復帰したのを知りました。
と思います。
47歳で十二指腸潰瘍の手術をした時,胸は2カ所石灰化して,
無理な戦争をしたため,日本は荒廃し,食べるだけで精一ぱ
結核が治ったあとがあると言われました。以後健康になりまし
いの毎日でしたから,医療も同じようなことだったと思います。
た。清瀬には親戚もあり,中里のふじ見幼稚園に毎年健診に行
敗戦直後入院した病院には結核で苦しんだ方,亡くなられた方,
きました。また,秩父には33カ所行き,秩父神社に参拝し,ゆ
次々に倒れていかれるのを毎日のように目の当たりにして心が
かりのある結核予防に関心を持つようになりました。
痛みました。
戦時中インドネシアに居ました。9月頃の気候で住みやすく,
現在では考えられないことでしょうが,日本では結核が国民
街の中は水洗便所ですが,マラリア,呼吸器関係の病気が多く
病でした。が,経済的に豊かになって驚くほど罹患率が減少し,
あるようでした。人生3度目の正直何かしようと思い,「結核
忘れかけていましたら,この20年位前からまた静かに潜行して
予防」に決めました。お役に立てば幸いです。
きたとのこと,意外でした。
私の信条は,尽くすということ,「有難う」と言うこと,ま
パンフによるとアフガンなど海外活動にも活発になってきた
だまだいろいろあります。結核予防もその一つです。結局,自
とのこと,今後の活躍を期待いたします。
分も救われているのです。感謝しております。
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複十字シール運動の新たな歩みに向けて
結核予防会評議員
全国結核予防婦人団体連絡協議会
事務局長
山口 峯生
今年はデンマークで世界初のクリスマスシールが誕
生して100年の記念すべき年に当たる。また日本では,
昭和27年に財団法人結核予防会が「諸外国との連携を
深め,結核予防を国民一般の協力と支持により推進す
る」ことを目的に厚生省,文部省,郵政省の後援(い
ずれも当時の名称,ただし,郵政省の後援は平成6年
度まで)により,複十字シール運動を全国で展開して
から,新たな半世紀への道を歩み始める年でもある。
ところで昭和49年5月1日発行の『複十字』117号に,
姉崎卓郎(元本会調査課長・故人)筆の「複十字シー
ル運動の源流を尋ねる―初心忘るべしや―」が掲載さ
れている。
<1954年に国際結核予防連合が,シール誕生50周年
の記念図書を発刊している>で始まる記述は,<結核
シールと衛生教育の専門家ビボレルが,53カ国の結核
シールの歴史と現状を紹介している>と続き,<多く
の国で結核が減少したのはシール・キャンペーンの直
接的成果だと主張するビボレルのシールが果たした価
値を顕示したいとの気魄には心うたれるものがある>
と感想を述べ,ビボレルは,<結核シールには,①進
んで結核と対決しようという戦意を芽生えさせた心理
的教育効果,②世の中は助け合いという連帯感を教え
てくれた社会的効果,③結核予防資金を生み出す経済
的効果の三つのメリットがあると高唱するのです>と
結んでいる。
募金は,営利を目的としない公益法人にとって,当
該団体の事業目的と資金集めが達成できる極めて重要
な事業である。結核予防会の統合支部は38に達し,生
活習慣病や悪性腫瘍など結核以外の疾病の健診事業に
進出している。一方,全国結核予防婦人団体連絡協議
会加盟団体数50中,地域婦人団体連合会(地婦連)母
体の団体は40で,活動領域は高齢者,環境,社会教育
など多分野に及んでいる。
複十字シール運動は,結核予防会の職員,結核予防婦
人会の会員が,本来の事業目的である結核予防に従事す
る大切な絆,証であり,その普及度,募金成績は,結核
18
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予防に取り組む私達の意欲を表すバロメーターだと思う。
時あたかも,厚生労働省は昨年3月,厚生科学審議
会結核部会より「結核対策の包括的見直しに関する提
言」を受けて,昭和26年の結核予防法大改正以来50年
振りに現行法を大幅に見直し,結核の現状に適応した,
個別的,リスク別の効率的な結核対策への転換を進め
ている。新施策が成果を上げるには,新しい対策に対
する国民の正しい理解と協力が不可欠であり,国民参
加型の結核予防に果たすシール運動の役割は大きい。
私は,シールは「結核制圧を実現する多様な目的と
価値を兼ね備えたボランティア活動の糧(活動の根源・
力づけるもの)」だと思う。 そこで,赤い羽根などの単なる募金財(募金に効用
をもつもの)とは異なる,シールの資財(事業のもと
でとなる財産)としての優れた特性について私見を述
べ,参考に供したいと思う。
1.
シールの多様な目的
1) 結核予防の普及 シールの魅力的な図案及びロゴマーク「結核をなく
そう」により,国民ならびに医療,行政,マスコミ等
に対して,結核制圧への社会的関心を高める。結核予
防会,結核予防婦人会は,連携を強め,結核に対する
国民の理解を深めると共に,シール運動の効果的な
PRを目的に,平成12年から毎年,結核予防週間に「全国
一斉複十字シール運動キャンペーン」を実施中である。
2) 結核予防事業資金の募金と活用
平成14年までの募金による益金累計額は約119億円
に達しており,結核予防週間・結核予防全国大会・パン
フレット・複十字誌など結核予防の普及,人材育成の研
修,全国各地の結核予防団体の活動,結核の調査・研究,
検診車等の整備,途上国の結核対策支援など,結核のま
ん延状況や事業の重要度に即して活用されている。
3) 結核対策の国際的支援活動
結核予防会本部は,募金で得た資金による途上国の
世界最初のシール
デンマーク 1904年
ホルベル氏の記念シール
デンマーク 1927年
結核予防会による
最初のシール
1952(昭和27)年
支援事業として,現在,ネパール,インドネシア,ミャ
ンマーの3カ国で結核対策プロジェクトを実施中であ
る。また各都道府県支部は,支部独自で国際協力を行っ
ているのに加えて,支部が本部の国際協力事業に拠出
し,本・支部が一体感をもって途上国の結核対策を支
援する,14年度に発足した方式にも協力している。
結核予防婦人会は,平成6年から途上国の結核対策
スタディツアーを始め,シール運動による国際協力の
成果を現地で確認し,本運動の一層の推進を目指して
いる。
4) ボランティア活動の勧め
結核予防会並びに結核予防婦人会が,シール運動に
ついて国民の理解,協力が得られるように努めること
により,結核予防を中心とした健康づくりのボランティ
ア活動を発進できる。また「社会奉仕は肉体的健康に
勝る心の健康をもたらす」ことに着目し,従来型の一
次予防に社会奉仕を加えた「新一次予防」を提唱,実
行することにより,医療費の増加が抑制される。さら
にシールが,ツ反・BCG接種を廃止した小・中学校で,
結核予防を中心とした保健,社会奉仕の心を養う道徳
等の教材に採用されれば,次代を担う子供達のボラン
ティア精神の養成ならびに保健や情操教育に役立てる
ことができる。
2.
シールの多彩な使用価値
シールは封筒のような実用的価値は乏しい。しかし,
シールは結核予防の普及,資金集めにとどまらず,次
のようなシールならではの使用価値がある。 1) 結核制圧の象徴 シールを結核制圧の象徴として,例えば年賀状や封
書,名刺等に貼ることにより,結核制圧,健康を願う
気持ちを相互に共有できる。
2) 結核制圧の糧 募金協力者にシールを贈ることにより,シール運動
が,募金を呼びかける者と協力者の双方に,結核制圧
を意識付ける場となり,その糧となる。
3) 収集,鑑賞の対象品
シールには発行国の自然や動植物及び風習や工芸品
等が描かれており,世界各地の歴史や文化を語る資料,
琉球最初のシール
1952(昭和27)年
※琉球では1972年の本
土復帰まで独自のシール
を発行していました
最初の公募図案によるシール
1957(昭和32)年
安野光雅氏による
今年度のシール
2003(平成15)年
美術品としての価値がある。
結核予防婦人会はそこに注目して,国の内外で発行
されているシールを,郵便切手と同様に,収集,鑑賞
の対象とすることを通じて結核への関心を深めること
を目的に,『複十字シール発行50年記念アルバム』を
製作,頒布した(平成13年度事業)。
収集は,対象の多様性や面白さにより人の本能に根
差した誰しも経験する魅力的な趣味で,収集や鑑賞を
通して視野が広がり,豊かな教養を身につけることが
できる。「複十字シール友の会」の立ち上げが,私の
夢である。
4) シールを用いた創作品
シールを用いての祝儀袋,しおりなどの作品づくり
は,創作する喜びと共に,日本的なシールの使用法,
普及法として,各地の結核予防婦人会を中心に広がり
をみせており,一層の普及が期待される分野である。
シール自体がいかに優れていても,シールを募金や
結核制圧に生かすように使わなければ目的が達成でき
ない。机にしまい込まれたシールは活躍の場を失った
ことを嘆いているし,シールの製作費も無駄になる。
シールは使用して初めて目的が全うされるのである。
時に,シールはデザイン料や印刷費を要するのでやめ
るか,赤い羽根的なものに替えてはとの提案がある。こ
れはシール運動の目的が十分に理解されていない考えで,
シール運動は単なる募金活動ではない。シール運動は資
金づくりと共に,シールを使うことにより結核制圧への
効果が倍加できるという,一石二鳥の優れものである。
1904年,ホルベルが「結核で苦しんでいる子供達を
救おう」と始めたシール運動は,100年にわたり人類
が継承してきた国際的な結核制圧活動であり,結核制
圧の糧としての社会奉仕であり,社会的動物と言われ
る人間が育んだ,結核制圧運動の推進と募金を兼ねた
健康に関する文化活動だと思う。
私たち結核予防事業に携わる者は,自身がまず結核
を制圧するための多様な目的と価値をもつシール運動
を見直してその重要性を認識し,率先して運動に協力
し,寄付をする。その上で広く募金を行い普及に努め
る。複十字シール運動を普及させる鍵は,私達一人ひ
とりの,わが心,わが手にあることを忘れてはならな
いと思う。
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中国
タイ・チェンライでの結核の予防と
治療に対するHIV感染者の貢献
ミャンマー
ベトナム
ラオス
チェンライ
バンコク
カンボジア
結核研究所講師
野内ジンタナ タイ国チェンライ県HIV感染者グループのために
Jintana Ngamvithayapong-Yanai
f o r P e o p l e L i v i n g wi th H IV i n Chiang Rai, Thailand
はじめに
発展途上国では,HIVに関する疾病と死亡の主な原
因が結核である。HIV感染者の3人に1人が結核を発
症している。1995年,結核予防会結核研究所は,タイ
の研究機関と共に,HIVと結核の感染が最も高い地域
の一つ,タイ最北チェンライ県で,結核HIV研究プロ
ジェクトを新設した。以来,毎年県主催の結核年次会
議を行っている。この会議には,地域の公的及び民間
の保健医療従事者,また日本から結核研究所代表や若
手研究者が参加している。
2003年の会議では,市町村レベル(district)で活
動する「エイズ感染者ネットワーク」の積極的な参加
を促すために,顕彰論文を募った。論文課題は,「あ
なたのHIV感染者ネットワークではどのように結核の
予防治療に取り組んでいますか」であった。チェンライ
県内に15あるネットワークのうち10団体が応募し,優
れた3団体が結核年次総会で発表し,タイ保健省結核
課長及び結核研究所副所長により表彰された。
表彰されたHIV感染者ネットワーク,会議来賓,講演者,プロジェ
クトスタッフ,結核研究所代表で
この記事では,HIV感染者ネットワークが作成した
論文をまとめた。HIV感染者ネットワークに参加する
人々の多くは,夫からHIV感染し,夫を亡くした女性
で,労働者あるいは農婦であり,小学校教育を受け,
農村地域に居住している。
ネットワークとコミュニティー資源でHIV感染の拡大
に対処
Weing Pa Pao 村HIV感染者ネットワーク代表
Sunee Taokhumchoomさんが優勝論文を発表
20
7/2003 複十字 No.292
1993∼95年,チェンライでHIVが深刻に流行した時,
既存の病院や保健医療従事者では対応が間に合わなか
った。あふれるエイズ患者にベッドはなく,保健医療
従事者は多大な仕事量に働き疲れた。そこで,この危
機に対応するために,HIV感染者は自らネットワーク
組織を結成した。そして,HIV感染者を治療面,心理・
社会・経済面から支援するために,様々なセクター(例
えば,宗教組織・コミュニティー組織・民間組織・政
府組織等)から資源を入手して活動を開始した。
HIV感染者ネットワークに参加する不安から・・・ 孤独から大きな家族に包まれる・・・
「私は不幸者のひとりだった。自分で自分を暗く
寂しい世界に閉じ込めていた。HIV感染者ネット
ワークに参加する前の1年は10年にも感じられた。
ある日,同じ血の色を持つ人々の集まりと出会った。
はじめは躊躇した。周りの人に私のHIV感染が知れ
ることが怖かった。しかし,HIV感染に苦しんでい
るのが自分だけでないこと,ネットワークの他の人
も,私と同じ運命や悲しみを負っていることを知っ
た。そして私は参加を決めた。」
(Mae sruay村HIV感染者ネットワーク)
「HIV感染者ネットワークに参加して私は変わっ
た。活動に参加しているときは温かい心でいられる。
ネットワークのメンバーは私の友であり大きな家族
のようだ。集まりに来ないメンバーがいるときは,
心配して声をかけあう。」
(Weing pa pao 村HIV感染者ネットワーク)
結核の予防と治療におけるHIV感染者ネットワーク
の役割
HIV感染者ネットワークの重要な役割の一つは,地
域の病院での月1回の集まりである。ここで,健康の
情報や生活の経験を交換し合い,また,運動,宗教の
式,昼食を共にする。病院のスタッフをネットワーク
地域の病院でのHIV感染者ネットワークの会合:共同で健康活動を
行う
のメンバーが手伝い,健診を行い,結核やカリニ肺炎
等の日和見感染の予防をする。
HIV感染者ネットワークが行う結核予防に関する活
動は次のとおりである。
1.結核に関する教育(結核の症状及び結核への偏見
について)
2.病院での痰による結核スクリーニング
3.衛生面に配慮した咳,痰の排泄,マスクの使用の
奨励
4.結核予防内服及び治療の脱落者をフォローアップ
5.家庭訪問し,服薬の困難を癒すことによって結核
予防内服及び治療の継続を支援
「私達のチームは,結核を患い,抗結核薬服薬が
困難な人を励ましています。薬が大きく不満を持
つ人には,飲みやすいように砕いてあげ,菓子だ
と思って飲み込むように言ってあげます。6カ月後
には治癒するから,家族に結核を感染させないよう
に治療をしていこうと励まします。私達は,結核
はHIV感染者が罹りやすい病気であることを知っ
ているのです。」
(HIV感染者ネットワーク)
本稿作成にあたり,稲岡恵美氏(東京大学医学部大学院),
地域の病院でのHIV感染者ネットワークの会合:結核を含む健康情
報が交換される
野内英樹氏(結核研究所研究部主任研究員)に翻訳のご協
力をいただいたことを感謝いたします。
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2002年度フィルム評価会報告
結核研究所対策支援部放射線学科長
(結核予防会胸部検診対策委員会精度管理部会)
中野 静男
はじめに
胸部フィルム評価法
1999年に,厚生省「藤村班」の症例対照研究によっ
て肺がん検診の有効性が証明され,さらに肺がん検診
の精度を高く保つことが重要となってきている。
結核予防会では1984年よりフィルム評価会を実施し
ている。例年12月に行われていた評価会であるが,19
回目を迎えた今回は1カ月遅れの1月9日・10日の2
日間にわたって結核研究所で行われた。参加者は全国
支部施設から医師・放射線技師,またメーカーなどか
らの参加も含め総勢86名であった。
さて,ここで結核予防会胸部検診対策委員会の歩み
について少しふれてみたい。1984年大分県で開催され
た第35回結核予防全国大会支部長会議において,議題
として肺がんの問題が取り上げられ,結核予防会とし
てこれらの課題に取り組むために,専門の委員会を作っ
て検討すべきであるとの結論に達し,胸部検診対策委
員会の前身である「肺癌検診対策委員会」が組織された。
この委員会には4つの小委員会が設置され,精度管理部
会の前身である「精度管理小委員会」も設置されている。
この後1998年,長崎県で開催された第49回全国大会
支部長会議において,委員会設置から14年経過したが,
実際機能していない小委員会もあるため,再編し名称
も改めてはどうかと提案され,現在の「胸部検診対策
委員会」の組織形態となって現在に至っている(図1)。
結核予防会のフィルム評価法について簡単にふれて
みたい。胸部フィルムの評価は,「濃度」「コントラ
スト」「鮮鋭度」「粒状性」「姿勢」「性腺防護」「カ
ブリ」「シミ・キズ等」「装置の整合」,さらに間接
フィルムは「均等性(濃度,コントラスト,鮮鋭度)」
がプラスされる。以上,直接フィルムは9因子,間接
フィルムは10因子を1から3ないし4にランクづけす
る。最終的に読影価値からみた総合評価をする。A:
優れて読影価値が極めて高い(すべての因子がランク
1),B:優れたフィルムでAに近い(ランク2が2
個以内),C上:Bに近い,C中:9因子は2や3が多
い,C下:Dに近い,D:読影が極めて困難,E:全く
読影できない。以上,A∼Eの7段階の評価である。
2002年度の評価成績
今回提出された間接フィルムは150本,直接フィル
ムは125枚,CRフィルムは14枚であった。1984年(直
接1985年)からの評価成績の推移を間接フィルムは図
2,直接フィルムは図3のグラフに示した。
図2 間接フィルム評価成績の推移(1984∼2002)
(%)
A
B
C上
C中
C下
60
図1
50
40
胸部検診対策委員会
30
総括部会
精度管理部会
統計部会
20
10
フィルム評価会
0
1984
22
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86
88
90
92
94
96
98
2000
02(年)
フィルム評価会会場風景
図3 直接フィルム評価成績の推移(1985∼2002)
(%)
60
B
A
C上
C中
C下
50
40
30
20
10
0
1985
87
89
91
93
95
97
99
2001 (年)
2002年度の間接フィルムの評価成績は,評価A:
12.7%,B:30.7%,C上:50.7%,C中:6.0%,結
核予防会の合格基準であるC上までに入ったフィルム
は94%(1984年56.4%)になる。次に,直接フィルム
の評価成績はA:14.4%,B:39.2%,C上:42.4%,
C中4.0%,同じく結核予防会の合格基準のC上まで
に入ったフィルムは96%(1985年60.5%)であった。
CRフィルムの評価は1998年から行われているが,
評価成績の推移をみてもほとんど変わっていない。
2002年度の評価成績はA:21.4%,B:42.9%,C上:
35.7%であった。
評価成績からの問題点
2002年度の評価結果より問題点を探ってみた。①間
接フィルムで問題となった項目は,コントラスト75%,
濃度65%,均等性17%,かぶり10%の順であった。さ
らに指摘された濃度とコントラストを部位別でみると,
いずれも肺野部が多かった。次に均等性(濃度,コン
トラスト,鮮鋭度)は,写真濃度のバラツキが問題に
なっている。これはX線装置の自動露出機構(ホトタ
イマー)に問題があり装置の改善が望まれる。②直接
フィルムで問題のあった項目は,コントラスト69%,
濃度55%,鮮鋭度10%,かぶり10%の順であった。指
摘された濃度とコントラストを部位別にみると,濃度
では肺野部と縦隔部,コントラストでは縦隔部の指摘
が多かった。③CRフィルムでは依然としてC上のフィ
ルムが35%を超している。CRシステムでなぜ?… やは
り濃度とコントラストに問題があった。濃度では肺周
辺部と縦隔部が「やや適」の不足となっている。そし
て,これに連動した形でコントラストが「やや適」と
指摘されている。CR装置はデジタル処理で画質をコ
ントロールできるメリットが特徴である。それがなぜ
生かされていないのか,装置の性能によるものなのか,
画質に対する施設の好みによるものなのか今後の検討
課題である。
おわりに
試みに2001年度にフィルム評価成績の一覧表を作成
し各施設に配布した。内容は評価されたすべてのフィ
ルムの撮影条件と評価結果(いずれも画質に関する因
子)を一覧にしたもので,自施設のみならず他施設の
評価内容も一目で分かり,技術的なことも比較できる
ようになっている。2002年度分についても同様のものを
作成し各施設に配布の予定である。ぜひこの一覧表を
フィルム精度向上の参考に使っていただければと思う。
最後に,20回目を迎える今年度のフィルム評価会
は例年通り12月の開催予定で準備を進めているとこ
ろである。全国支部・施設の皆様方の積極的な参加で,
このフィルム評価会がさらに発展することを願って
いる。
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23
2003年世界禁煙デー記念シンポジウム
6月2日 / 科学技術館サイエンスホール(東京)
5月31日は世界保健機関(WHO)が定める「世界禁煙
デー」。毎年この日は,たばこを吸わないことが一般的な
●発表
1. 受動喫煙の健康影響について
社会習慣となるよう加盟各国で様々な催しが実施されている。
∼祖父江 友孝(国立がんセンター研究所がん情報研究部長)∼
厚生労働省は,平成4年以降この日から始まる1週間を「禁
受動喫煙がもたらす健康影響について解説。「肺がんと
煙週間」と定め,各種の普及啓発活動を実施しているが,
受動喫煙」の因果関係が世界的に注目され始めたきっかけ
その一つである「世界禁煙デー記念シンポジウム」が,6
は,1981年に,国立がんセンター初代疫学部長の平山医師
月2日,科学技術館サイエンスホール(東京)にて,約300
が発表した27万人を17年間追跡した調査結果で,喫煙者で
名の参集を得て開催された。
ある夫と生活する非喫煙者の妻の肺がんリスクが2倍に増
16回目を数える世界禁煙デーの今年の標語は「たばこと無縁
えるというデータであった。その後,各方面からの報告に
の映画やファッションへ行動を」(WHO標語:tobacco free
film, tobacco free fashion, Action! )。今回は,このマスメ
より,心疾患・子宮頚がん・低体重児出産・小児の慢性呼
ディアをターゲットにした呼びかけであるかのようなテー
っても肺がんについてのデータが圧倒的に多く,国際がん
マを一部に取り入れつつ,わが国で本年5月1日に施行さ
研究機関(IARC)においては,明確に「発がん性あり」
れたばかりの「健康増進法」の中で,初めて法律に取り入
と判断し,1.2∼1.3倍のリスク増加をもたらすとの報告が
れられた文言である「受動喫煙」を中心に,その健康影響
なされている。また,わが国の非喫煙者における肺がん死
や防止策に関する講演や討論が行われた。
亡率が,欧米諸国より高めであることから,日本の住居の
坂口力厚生労働大臣は冒頭の挨拶で,生活習慣病を予防
狭さや密閉度の高さが受動喫煙の暴露レベルを高めること
する上で,たばこ対策を進めることが重要な課題であると述べ,
が想定されると述べ,もはや受動喫煙の害は明確なものと
この認識の下,平成12年から推進している「健康日本21」にお
して,なお一層の防止策を検討すべき時期に来ていると締
いて①喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識の普及,
めくくった。
②未成年者の喫煙の根絶,③公共の場や職場での分煙の徹底及
び効果の高い分煙についての知識の普及,④禁煙支援プログラ
ムの普及―について,具体的な目標を立てて取り組んでおり,
吸器疾患などのリスク増加も示唆されているが,なんとい
2. テレビドラマにおける喫煙描写場面の実態について
∼上島 弘嗣(滋賀医科大学福祉保健医学講座教授)∼
とりわけ②に重きをおいた運動を展開していると強調した。
「人間は,有名人や地位ある人の行動や格好を真似す
また,わが国で「健康増進法」が施行されたのと時を同
る傾向がある」と前置きをした上で,2001年7∼9月に
じくして,本年5月のWHO総会において,保健分野で初め
民放5局で放映された連続テレビドラマ7番組の喫煙描
ての多数国間の国際条約である「たばこ対策枠組条約」(詳
写の実態調査結果を発表した。スライドでは,医学生が
細はNo.293に掲載予定)が採択され,WHO主導の下,たば
人気俳優に扮し,当該喫煙場面を再現。『医師(江口洋介)
こ対策を国際的に推進するための第一歩が踏み出されたと
が病院入口でくわえたばこで救急車到着を待つシーン』
述べた。
や『失恋した男性(竹野内豊)が自宅で悶々とたばこを
続いて,以下5名の発表の後,パネル討論が行われたの
吸うシーン』に,会場は爆笑の渦に包まれた。本調査で
で紹介する。
は3分間を1単位として区分し,計1,264単位のうち約10%
に“喫煙場面”が見られ,灰皿などの“喫煙関連場面”
の描写は20%にのぼった。すなわち総ユニット中30%に
なんらかの喫煙場面が登場したことになり,逆に喫煙を
否定する描写(壁に禁煙ロゴマークが出た等)はわずか
0.2%であった。また,氏は,全体的に分煙への配慮は見
当たらず,喫煙の必然性の無い場面での喫煙場面が多か
ったことを強調。いずれも10∼20%の高視聴率ドラマで
あり,主役の俳優が喫煙している率が50%以上と高かっ
たことから,憧れの俳優の喫煙描写が未成年者の喫煙開
始に与える影響への懸念を述べた。 坂口厚生労働大臣による挨拶
24
7/2003 複十字 No.292
3. 職場における受動喫煙対策
∼鈴木 英孝(エクソンモービル医務産業衛生部長)∼
したと説明。策定にあたり,住民や事業所と,延べ100回以
上にわたる議論を重ね,地域社会を巻き込む参加型の条例
としてスタートさせたことを強調。また,通常役所が罰金
職場で実施すべき受動喫煙防止対策について,具体的に
をとる場合,納付書を渡し後日支払ってもらう方式だが,“即
説明。分煙対策として室内に喫煙場所を設置する際に,次
金払い”方式を取り入れた結果,7割が後者で支払われて
の4つの要素が必須であると述べた。①喫煙室による隔離,
いることを紹介した。 ②換気扇などの排気装置の設置(空気清浄機の設置では不
「次代を担う子供達のためにも,大人がいい社会,いい
十分),③ドア面で0.2m/秒の空気の流れ,④フレッシュ
環境をつくる責務を負っている」と,何回も繰り返された
エアーの取り込み。また,喫煙室の囲いとしては,天井か
のが印象的であった。
らカーテンやビニールを吊るし,床から本棚やショーケー
スを利用して閉鎖空間をつくるといった簡素なもので十分
●パネル討論「効果的な受動喫煙対策」
であることを紹介した。また,自社で行ったアンケート調
参加者から予め寄せられた質問に答える形式で,前5氏
査により,職場の分煙への理解度が99%にものぼったこと
による討論が行われた(座長は上島滋賀医科大学教授)。「千
を挙げ,会社全体の取り組みとして,社員へ受動喫煙の影
代田区と同様に,路上喫煙禁止条例を策定した地区はあるか」
響などの啓発や禁煙サポートの体制整備など,喫煙率の低
との問いに,石川氏は,東京都杉並区・品川区ならびに福
下を目指した対策を推進していくことが大切であると結んだ。
岡県福岡市が実践に向け動いており,その他の地区にも徐々
4. 一般飲食店における受動喫煙対策
∼小城 哲郎(全国飲食業生活衛生同業組合連合会専務理事)∼
一般飲食店における分煙禁煙対策の現状と今後の改善策
を述べた。健康増進法25条によって飲食店での受動喫煙の
防止義務が規定されたことに伴い,全国の200店舗において
緊急に調査を行った結果,全面禁煙に取り組んだ店はわず
か1%であったが,ランチタイム禁煙など時間を限定して
策を講じていた店舗は57.2%と多く,受動喫煙対策への認識
は,営業者にある程度浸透しつつあると発表。顧客ニーズ
に沿わねば経営が成り立たないという観点から困難な面も
あるが,すぐにでも取り組める対策として,テーブルに灰
皿を置かず顧客から要望があった際のみ提供する,またそ
の際,周囲に非喫煙者がいた場合は遠慮願いたい旨,一言
促すことなども一案であると述べ,さらに消費者が,禁煙
分煙対策をとっている店を容易に判別できるよう,今後ス
テッカー表示なども考えていきたいと述べた。
5. たばこ対策 地域での取り組み
に広がりつつあると回答。
「受動喫煙の健康影響についてのデータはどのようにと
るか」との問いに,祖父江氏は,数万∼100万人に対しアン
ケート調査を実施し,5年10年と追跡をしていくと説明。
また「どうしたらたばこをやめられるか」との問いに,た
ばこの害の影響を正しく理解してもらうことが大事である
と述べ,ちまたで発がん性ありとし騒がれている電磁波・
放射線・ダイオキシンの健康影響など,たばこに比べれば微々
たるものである点を強調した。
「飲食店での効果的な分煙方法」について,鈴木氏は煙
は上るものなので,2階を喫煙室,1階を禁煙室にするこ
とが最も理想的であると述べた。
閉会にあたり,たばこと健康問題NGO協議会島尾忠男
会長(本会顧問)より,先駆的取り組みにより,環境美化
のみならず禁煙・分煙の推進に貢献された千代田区に対し,
感謝状の贈呈が行われ,本シンポジウムは幕を閉じた。 文責 編集部
∼石川 雅巳(千代田区長)∼
東京都千代田区が昨年10月より開始した,路上喫煙に関
する条例(空き缶,ペットボトルの投げ捨て等の禁止条項
も含む)の制定に至るまでの経緯を発表。本条例では安全
な町づくりといった「環境面」に重きが置かれているため,
前4氏の発表とは視点が異なる。氏は,本条例の策定に踏
み切ったきっかけは「町が汚い。なんとか改善はできない
ものか」という区民の強い声にあったとし,平成11年に“区
民のモラルに期待する”という形で,罰則なしの条例を制
定するも効果が得られなかったことから,新条例では区役
所職員が自ら取り締まりを行い,違反者から罰金(過ち料
2,000円)を徴収するという前代未聞のしくみで挑むことと
たばこと健康問題NGO協議会島尾会長が石川千代田区長に感謝状を贈呈
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「たばこ」
「たばこ」対策の
対策の「ことば」
「ことば」コンクール募集要項
コンクール募集要項
たばこと健康問題NGO協議会は,平成3年に発足し,「たばこのない社会」の実現を目指し,活動を行ってまいりました。
この間,日本での禁煙に対する国,地方自治体,企業等の取り組みも大きく変化し,一部自治体では罰則付きの路上禁煙地
域を設定するまでになりました。
禁煙運動の広がりに伴って,禁煙運動に関する「ことば」も多く生まれました。「禁煙」以外では「断煙」,「絶煙」,「無
煙」などです。このことは,たばこを好まない人がいかに多いか,よく示しています。
しかし,これらすべては「たばこを吸っている人がやめる」といった,たばこを吸う側を意識した「ことば」が多く,もと
もとたばこを吸わない人々を意識した「ことば」が少ないのが現状です。「ことば」の響きにも否定的に感じるものも少なく
ありません。(一例には「たばこを吸わない人」を「非喫煙者」と言っているなど)
本協議会としては,今後「たばこを止めさせる」ことではなく,「たばこを吸っていない」,「たばこを吸わせない」こと
が常識となる社会環境づくりに,例えば「禁煙席」ではなく「喫煙できる席」という表記に改め,従来たばこを吸わない人が
禁煙席を探していたものを,喫煙する人が席を探すというような方向に,より力を注ぐべきと考えております。
そこで今回,「たばこを吸っている人」を主とした「ことば」(「禁煙」,「無煙」など)ももちろんですが,上記に述べ
たような「たばこを吸っていない人々」の側に立った「ことば」も募集いたします。本協議会では,この「ことば」を今後の
運動の旗印として活用して行きたいと考えております。
多くの方々より,センスあふれた「ことば」をお待ちしております。
なお,採用の作品は,本協議会ホームページや新規事業などで活用させていただく予定です。
たばこと健康問題NGO協議会
(加盟団体) 財団法人がん研究振興財団,財団法人結核予防会,財団法人健康・体力づくり事業財団,財団法人日本公衆衛
生協会,財団法人日本食生活協会,財団法人日本心臓財団,財団法人日本対がん協会,財団法人母子衛生研究会
1.募集内容
本コンクールの趣旨に沿う形の,一般の方にも親しみ
やすく,覚えやすい「ことば」をお考え下さい。
今回募集するのは
●「禁煙」,「無煙」など,喫煙者をなくすために
使う「ことば」
● たばこを吸わない人の立場からのたばこに対する
「ことば」
です。
なお,「ことば」とは,
① 単語
② 「ことば」と「ことば」を組み合わせて熟語化し
たもの。
③ 漢字等を組み合わせて,新たな「字」を作成した
もの。またその組み合わせ
④ キャッチコピー的なもの
等,従来のものにこだわらず,ご自由な発想でお考え
下さい。
字数等の制限はございませんが,なるべく簡潔なもの
でお願い致します。
2.応募資格
どなたでも応募できます。(個人だけでなく,職場単
位の応募も構いません)
3.応募期間
平成15年6月2日から平成15年12月31日まで
4.選考について
応募作品の中から選考を行い,最優秀賞(1名),優秀
賞(4名)の5件を選考します。
※選考された作品の著作権および今後発生するすべて
の権利は主催者に帰属します。
26
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5.賞と記念品
最優秀賞:図書券 50,000円 優 秀 賞:図書券 5,000円
6.発表
①本協議会ホームページ上
②本協議会加盟団体の機関誌等
③平成16年度世界禁煙デー記念シンポジウム内で表彰
(予定)
7.応募方法
下記の必要事項をご記入の上,はがき,FAX,E-mail
などで応募下さい。
〈必要事項〉
①氏名・性別・年齢
②職業
③勤務先(所属先・学校名)
④勤務先住所(未就業の場合は自宅住所)
⑤電話番号
8.応募先
財団法人結核予防会 事業部普及課内 たばこと健康問題NGO協議会事務局 「たばこ対策のことばコンクール」係 〒101-0061 東京都千代田区三崎町1-3-12
TEL 03-3292-9288 FAX 03-3292-9208
E-mail [email protected]
TSRU(結核サーベイランス研究会)
2003年会合報告
4月3日∼5日/タンザニア
結核研究所長 森 亨
TSRU2003年会合は,4月3日∼5日の3日間,
DOTS発祥の地の1つであるタンザニア,首都ダルエ
スサラーム郊外のバガモヨで開催された。リヴィング
ストーンゆかりの地,かつての奴隷積み出し港のあっ
た所と聞く。この会議は2000年に結核研究所がお世話
して東京にて開かれた後,スイス,ベトナムに続いて
の開催である。出席者数は総勢60人程度で,先進国で
はオランダが最も多く5人,スイス,ドイツ,デンマー
ク,スウェーデン,韓国がそれぞれ1∼2名,WHO(本
部,WPRO),IUATLD,アフリカでは地元タンザ
ニアが最も多いが,ほかにはマラウィ,南ア,ボツワ
ナ,セネガル,ザンビア,ケニア及びインドなどであっ
た。日本からは筆者のほか結核研究所国際協力部山田
企画調査科長が出席した。
学術検討会
学術検討会は,タンザニア保健省副大臣の祝辞を含
む開会式の後,3日間にわたり開催された。内容の概
略は以下の通りである。
1.TB-HIV
主としてアフリカ諸国の経験について発表があった。
Williamsらによれば,HIV感染後CD4細胞数が500
を切った時点でHAARTを完璧に行うと,その後の結
核患者発生数は50%減できるが,HAART治療のコン
プライアンスが低くなれば効果も非常に小さくなると
のことである。
2.塗抹顕微鏡検査
塗抹検査技術の改良(フェノール硫酸アンモニア沈
殿法,カルボールフクシン液の濃度の変更,蛍光法な
ど),喀痰採取時期の意義,精度管理(再染色の意義),
塗抹検査弱陽性の意義,治療開始後2カ月で菌陽性例
に強化相を延長する意味などについて発表があった。
3.新しい診断技術
筆者は日本の第2世代QuantiFERONの経験につい
て発表した。オランダのようなBCG接種をしていない
国でも,結核問題の半分以上がBCG接種や非結核性抗
酸菌感染の多い途上国からのあふれ出しなので,この
ような方法は意義が大きいとのこと。ほかにこの方法
の疫学応用,血清診断,途上国でのPCRの経費効果分析
そして細菌の発生する臭気(揮発体)を分析して結核
菌ないし結核病変を発見する方法の研究など(これは
ベルギーのベンチャーの研究,「電子の鼻」)につい
て報告があった。
4.その他
インドのPPM(公私医療連携),南アの地域結核
有病率調査,タンザニアのツベルクリン・サーベイ(HIV
流行下に関わらず感染危険率が著減したとの報告。バ
イアスか?),香港の罹患率減少傾向鈍化の原因(WPRO
の中まん延国研究の延長),オランダ全国RFLP分析
の接触者対応への影響,結核感染のどれだけが家族内・
地域内で起こるか(南アでのRFLP応用研究,高まん
延状況では家族内感染は意外に少ない),ドイツの地
域RFLP分析,韓国のPPM(いまや扱う結核患者数で
民間医療機関が保健所をしのぐようになった状況での
問題)などの演題があった。
国際結核サーベイランスセンター総会
主としてツベルクリン・サーベイを中心とした途上国
のサーベイランスの援助に関する活動,測定器具(キャ
リパース)の改善,20mm以上の大きな硬結の記載方
法,トレーナーのトレーニング,デンマーク血清研究
所に対するツベルクリン(RT23)値下げ交渉の経過,
ツベルクリンサーベイデータ分析技法(ミックスモデ
ル)の研究進捗状況,等々について報告された。
* * *
この会議はもともと先進国のサーベイランス研究を
主目的とした貴重な結核疫学研究の場だったが,今回
はそのような演題は少なく,途上国の問題が中心となっ
ていた。これは80年代にWHO本部がメンバーに加わっ
たときに「途上国が対象とならなければWHOの参加
は無意味」というWHOの意向に沿って,アルジェリ
アやタンザニア,ベトナムなどを迎えたことに端を発
する。
しかし,そうした中でも臭気分析による結核診断と
か,免疫学的診断といった新たな技術やRFLP分析に
よる分子疫学のテーマなどTSRUらしいテーマが出さ
れており,それなりに興味深いものがあったことは一
応の収穫と言えよう。
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思い出の人を偲んで
予防医学の先達,孤独な歩みから組織研究へ
お
か
だ
ひろし
岡田 博
先生
名古屋大学名誉教授(予防医学講座)
元 愛知医科大学学長
明治45年3月21日出生,平成13年9月29日逝去
享年90歳
文:名古屋大学名誉教授 青木 國雄
先生は豊かなご体格で,明朗でユーモアにあふれ,
難問を抱えていてもどこ吹く風と,にこにこ人に
接せられ,なんとなく明るい雰囲気を醸される方
であった。定年退官後は,予防医学を研究してい
るので早死にするわけには行かないし,長命の家
系でもないし,辛いな,と呟かれながら,お酒や
食事量を減らされ,運動,ことに,ステッキをつ
いての散歩の日課は容易とは思われず,ご努力に
感服したものであった。大胆で,大まかな反面細
心で,肝心なところを押さえておられたので,後
期老年期もかなり順調に過ごされたと思う。 平成11年,人間ドックで肝臓に腫瘍が発見されたが,
予期しないくらい回復され,その間も何事もなかっ
たように振る舞われていたのは,ご立派であった。
しかし好事魔多しで,日課とした散歩の帰途,ふと
疲れを覚えられ,たまたま来たバスに乗車,バスの
急発進で身体をひねり,アキレス腱を切断,入院,
病臥された。お見舞いに駆けつけると,運,不運は
紙一重だね,車に乗るつもりが,たまにしか来ない
バスに乗り,乗車直後の安心感でちょっと気を抜い
たときに平衡を失った。病臥してみると,肥満とか
年齢の影響がどっと出てきた感じだよと,しみじみ
言われた。これは最後の教訓であった。まあ,アキ
レス腱ですので,すぐ退院ですねと申し上げたが,
入院期間は少し長かった。いったん退院されたが,
まもなく血栓症が悪化し,乖離性大動脈炎で急逝さ
れた。80歳まで現役同様に活動され,その後も社会
医学活動や,長く奥様の看護,介護も続けられ,生
涯現役同様に終わられたと敬意を表している。
ご略歴
先生は京都でご出生,名古屋帝国大学医学部を昭
和12年3月ご卒業,直ちに同大学第一内科勝沼
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精蔵教授の下で内科学を専攻,医局長も務められた。
昭和18年,恩師から,名古屋大学に新設された予
防医学講座の助教授に推薦された。直ちに東京の
国立公衆衛生院に内地留学,野辺地慶三先生はじ
め当時の指導者から公衆衛生学を学んだが,5カ
月後,軍医として軍隊に招集され,フィリピン島
に上陸,九死に一生の危機を何度も抜けられ,俘
虜生活も送られて帰国され,予防医学講座に復帰
された。昭和29年米国ジョンスホプキンス大学に
留学,公衆衛生学士(MPH)の学位を得て帰国,
昭和30年5月,名古屋大学予防医学講座の教授に
就任した。結核と伝染病予防研究が中心であったが,
昭和40年代は循環器病の疫学研究,次いで健康の
疫学研究に重点を移された。
昭和50年3月同大学を定年ご退官,その後,新
設の愛知医科大学教授(公衆衛生学)として新講
座の設立に努力,同57年4月愛知医科大学学長(3
年間)として管理運営にあたられ,学長退職後は
名古屋市科学館館長として,80歳まで青少年の医
学生物学教育に尽力され,同時にいくつかの社会
的医学的活動を続けられた。
結核への貢献
戦後復員されたが,大学は戦災で焼失,仮施設
住まいで研究器具はほとんどなかった。主任教授
さんぞう
の鶴見三三教授は,大学院生とBCG研究や,生体
の免疫研究で脂肪酸代謝という先端研究を進めて
おられたので,岡田先生も結核菌やBCGの基礎的
研究を始められた。まもなく鶴見教授が病臥され,
研究費も資材もなく,お得意の臨床疫学的な研究
を中心とされるようになった。戦後の結核街頭検
診の先頭に立ったり,学童,生徒のツ反応やBCG
等の野外活動は,当時,大学人としては,との批
判があったようである。しかし結核のまん延と昭
和26年結核予防法の改正以後は,行政だけでは十
分手が回らず,医学関係者すべてで予防に対応せ
ねばならぬ背景もあった。先生は批判にめげず仕
事を継続され,一方実験室ではツベルクリンの特
性の研究や,動物でツ反応やBCGの研究をされた。
ツ反応発現様態の研究
多くの門下生(保健所,学校,企業などに勤務)
を動員して,ツ反応の発現様態とBCG接種や結核
発症との関連などを,何万人という大規模な単位
で検討された。BCG頻回接種者では,早発反応(24
時間後に発赤が最大になる)や遅発反応(72時間
後に反応が最大になる),赤くない朽葉色反応の
発現が多く,胸部X線所見と対比しての臨床的意
義を検討された。病理学的な検討がないなどの批
判には,素直に教えを乞い,研究に生かされた。
第1回のツ反応は小さいが,2∼3週後に再度実
施すると見事な陽性反応を呈する,いわゆるブー
スター効果とか,逆に陽性者が2回目のツ反応で
擬陽性化,陰性化する現象も多く,1回のみの検
査判定の問題や,前腕屈側の同じ部位に繰り返し
ツ反応を行うと,反応が変化するので,部位の変
更なども強調され,実施要領の改正に貢献した。
精製ツベルクリンの実用化については,厚生省
の研究班を組織され班長としてそのあり方をまとめ,
答申された。やがてPPDsが全国的に使用されるよ
うになった。しかしPPDsでも問題はすべて解決せ
ず,最近また同じ検討がなされたが,過去の文献
の考察が少ないのを嘆いておられた。
非定型抗酸菌感染の研究
昭和32年,非定型抗酸菌による結核類似疾患が
染谷らにより日本で報告されるや,かなりの感染
者を予見し,昭和34年,米国NIHへ要請して,非
定型抗酸菌の皮膚反応用のPPD(PPD-Y:,
M.Kansasiiから精製,PPD-B,はBatty株から精製)
と対照の人型結核菌PPDsを入手された。直ちに全
国的な組織を作り,学童から成人までの感染状況
を推定された。これがわが国最初の非定型抗酸菌
感染の疫学的研究である。
その後名大日比野進教授らの臨床疫学的研究に
より数十例の非定型抗酸菌症が発見され,また1
回のみの微量排菌者が多数検出されたことから,
さらに感染調査が必要となり,先生は全国的な研
究組織を作り,九大武谷健二教授の精製された皮
膚反応抗原πの感度と特異度を評価されて,これ
を用いて,数万人の調査を実施し,非定型抗酸菌
の感染が少なくないことを推定した。このπ抗原
は武谷教授のご好意で大量作られ,その後長く研
究者間で利用された。感染の判定は人型と非定型
抗酸菌,2つの皮膚反応の比較によることと,交
差反応があるので,絶えず論争があった。そこで,
非定型抗酸菌症,結核患者,健康住民,学童,生
徒など大集団での調査から,推計学的により説得
力のある判定基準を設定した。これは委員会判定
基準と呼ばれたが,π抗原の利用が限定されてい
たので,現在利用されないのは残念である。その
後も,長く,日比野教授が世話人の非定型抗酸菌
研究班や,また阪大堀三津夫教授班長の抗酸菌分
類委員会に協力された。
結核病学会での活動
主要なものは,第36回(昭和36年)結核病学会
での特別講演で,結核はいまや死亡ではなく罹患
と感染中心に研究すべき時代であることを,
Global epidemiologyの立場から論じ,また第42回
(昭和42年)結核病学会では会長として,疫学,
予防を中心テーマとし,東南アジアの結核とか,
残された中小企業結核,老人結核などに焦点をあて,
非定型抗酸菌感染とともに,新しい研究の方向を
示した。同時に英文図説Global Epidemiology of
Tuberculosisを編集発行し配布した。
企業と地域の結核対策への貢献
戦後の産業企業体結核の対策は重要で,門下生
とともに尽力されたが,昭和35年,日比野教授と
ともに,結核健康管理全国会議を発足させ,企業
での結核問題の共同調査,対策と評価を始められ,
これが全国的な組織として固定し,共同研究も始
まり,40年以上継続された。行政面では,結核の
全国実態調査などに地方委員として協力され,多
くの門下生を衛生行政に送り込み,実践的な結核
対策を充実させた。また愛知県や名古屋市の結核
対策協議会の委員長,教員結核,学校結核管理に
約40年にわたり貢献された。
昭和40年には非定型抗酸菌感染の疫学で日比野
教授とともに中日文化賞を受賞し,また昭和53年
には地域保健への貢献で,保健文化賞を受賞して
いる。
“失敗してもよい,何を失ってもよい,しかし
勇気だけは失わないように”というご発言は,い
まなお脳裏に刻み込まれている。
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予防会だより
新しい国際協力事業への歩み
検討を経て,結核予防会の国際協力に関する概念整理がな
結核予防会国際部長
(結核研究所副所長) 石川 信克
された。まだドラフトの段階ではあるが,以下に掲げる。
結核予防会による国際事業の理念
(Mission Statement)
結核予防会は従来からも結核研究所とは別個に国際協力
結核予防会は,結核が世界の重大な疾病や死亡のもと(健
に対してさまざまな活動をしてきたが,平成14年4月本部
康負担:Health Burden)であるという認識に立ち,民間・
内に新たに国際部を設置して,本格的な事業の展開を検討
非営利組織として,患者の救済,治療,予防を含む世界の
してきた。この背景には,結核研究所への国庫補助金削減
結核制圧のために必要な国際貢献を行う。
により,国際事業に携わる研究所職員の確保が困難になっ
その事業は,結核関連の政府事業の先導,同不足分野の
たという事情もあるが,他方,沖縄G8サミット以来,結核
補完,政策の提言,政治的決断の誘導(アドボカシー),
を含めた感染症対策への国際的な政治的関心の高まりがある。
世界戦略や国際共同事業への参画,日本国民への啓発及び
そこで国際部の基本姿勢は,従来結核研究所が様々な途上
参加の呼びかけ等である。
国で行ってきたプロジェクトに対する技術支援や役務提供を,
(財源)上記事業の遂行のため,できるだけ広く公的・私的
今後は適切な対価を積極的に受けて行い,さらに開発調査
財源を動員・確保し,同時に有能なスタッフを確保する。
等のコンサルタント業務の委託にも応じて,財源を確保し
募金・寄付を通した国民の参加促進も重要な活動である。
つつ,従来結核研究所で行っていた活動を継承・拡大しよ
(事業の内容と形態)結核予防会が従来から積み重ねてきた
うとするものである。このような国際部の平成15年6月現
実績と社会的責任に基づき,以下の3つの機能(表)に基
在までの動きと今後の課題について述べてみたい。
づく形態で事業を行う。
事業の使命(Mission)
をめぐって
A.
コンサルタント機能:世界的ニーズに対応した新事業の企画・
調査・提案・実施を行うコンサルタントとしての機能。相
日本の結核分野の国際協力は,過去40年間に10カ国以上
応の収益を見込む。
の途上国での技術移転プロジェクトや86カ国1,700人に及ぶ
<顧客ないし委託組織>日本政府,JICA,民間組織,世
研修員の受け入れ(人材育成),WHOなど国際機関との積
界開発銀行,世界銀行,アジア開発銀行,ほか国際的資
極的な協力など,他のどの分野にも増して,わが国が世界
金援助組織等。委託ないし他の相当の資金を得て行う。
に誇るべき貢献をしてきており,今後も当分はそのニーズ
B.
世界戦略への参画:世界戦略の作成への参画や,その基に
は増えていくと思われる。その中心的基地であり,担い手
なる世界の結核情報の収集・管理,研究開発(R&D)を行う(主
は結核予防会結核研究所(1988年には国際協力部を設立)
たる機能は結核研究所にあり)。人材育成(研修)も含める。
であり,民間団体としてのスピリットを持ちながら,国策
としての国際協力に準国設機関として全面的に協力してきた。
表 結核予防会の主な国際事業(現在進行中)
ところが,政府の行政改革の流れで,国の姿勢が「国際
種 類
A. 業務委託(JICA等,エイズ財団)
協力は国庫補助の対象になりにくい」として,今後はできるだ
1.現地プロジェクト支援
け経済的に自立して国際協力を行うという方針になった。人道
的国際貢献,福祉事業とも言える国際協力に情熱を燃やしてき
われてしまっては,スタッフは当惑してしまう。
もちろん国立諸機関でも独立行政法人化が進む中,結核
研究所が経済的自立を求められるのはやむを得ないし,従
30
①フィリピン,②カンボジア,③ネパール,④イエメン,
⑤パキスタン,
(⑥アフガニスタン)
2.国際研修(集団,個別) ①長期3カ月,②短期上級6週間,③細菌,
④エイズ対策,⑤個別
たところへ,「この仕事で稼ぎなさい」と言われ,また結核研
究の第一優先でもある途上国での結核対策研究活動の機会が失
内 容
3.コンサルタント機能
調査業務申請中
B. 世界戦略への参画
1.WHO関係
Stop TB Initiative委員,Advisory group委員,
Working group委員
2.IUATLD関係
本部理事,東部地区副会長
来の国の補助への全面的依存を脱して,国際協力でも財源
C. 独自プロジェクト
をできるだけ確保するという「頭の切り替え」も必要であ
1.現地プロジェクト
①ネパール,②インドネシア,③ミャンマー
ろう。しかし上のような当惑を克服するために,自分たち
2.人材育成
①移動セミナー,②奨学金支給
は何をどうすべきなのか,と言うことに対する十分な納得
3.スタディツア−
①先進国,②婦人会(平成15年は事情により延期)
も必要であった。このような苦渋の議論,ただし前向きな
4.在日外国人医療相談事業 結核の医療相談など(93年から一部国の補助あり)
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<参画先ないし委託組織>IU AT L D , W H O , S to p TB
関しても,その受託費について交渉がなされているが,ま
Partnership, エイズ・結核・マラリア世界基金等
だかなりの低額に留まっている。
<資金源>独自予算,委託組織(収益は期待しない)
C.
独自プロジェクトの運営:ニーズの高い地域の活動,患者
いくつかの課題
救済への直接的支援
結核研究所の変革・規模縮小に伴い,結核研究所が中心
<相手団体>現地NGO,現地地方自治体等
になって行ってきた国際協力事業は転換を迫られている。これ
<資金源>複十字シール募金,国内外寄付,資金援助団体,
は同時に結核予防会として飛躍する機会でもある。そのために
草の根パートナー等。収益は期待しない。
は結核予防会が主体となって,世界戦略への積極的な参加,事
業起こし,そのための財源の確保,といった発想の転換が必要
現在結核研究所国際協力部の職員は大半が本部国際部を
である。しかし,財源確保が当然であるといっても,普通の会
兼務しており,両者は密接に連携しているが,漸次,両者
社として,収益を上げることが第一義目標になってはなるまい。
の人員,機能は整理・再編成する。世界戦略への参画,国
そうならないためには,世界的視野での財源確保の努力,国内
際研究開発,国際研修等は結核研究所との緊密な連携で行う。
では複十字シール募金活動の一層の充実や,益金割り当ての拡
また現時点では未整理な部分もあるので,向こう3年間を
大を行いつつ,国際貢献としての事業づくりのために知恵やビ
目安に事業の理念,形態,活動計画を立てることとする。
ジョンと決断が必要であろう。
本年2月には,結核予防会は「国際研修40周年の記念式
新しい組織と活動の動き
典及びシンポジウム」を開催し,内外からの高い評価が寄
コンサルタント(会社)機能に関しては,これまでのと
せられた。
ころJICA(国際協力事業団)に対してコンサルタント登録
在日外国人結核問題に対する調査や,その医療相談事業
を行い,その事業の受注をめざしている。その組織の強化
も10年目を迎えた。これらは公益的な事業であり,収益を
を図るため,国際部副部長兼計画課長,企画調整役を任命
度外視しても継続すべき事業であろう。そのための人材育
した。既に新規プロジェクトや委託業務公示案件に関する
成も重要である。
いくつかの申請を行ったが,いまのところ大きな受託案件
また,エイズのように結核と深い関連のある疾患の問題
は無い。今後関連機関や経験者との協同作業や支援を得な
には関係せざるをえないであろうし,最近新型肺炎(SARS)
がら実績を作っていく必要がある。
の流行で見られたように,新しい流行病の可能性やそれに
一方,従来のJICAプロジェクトへの支援に関しては,「民
対する対応策には,結核対策の経験が生かされるべきであ
間公益団体連携強化プロジェクト支援業務委託費」という
ろう。それらも視野に入れた国際的活動の拡大もあるだろう。
名目で,後方支援に対する対価がJICAから結核研究所に支
結核予防会の国際協力活動について,本部・支部や関連
払われているが,協議の結果,ある程度の額の引き上げが
組織,関心を持って下さる方々からのご理解,積極的なご
見られるようになった。JICAから受託している国際研修に
意見,ご支援を引き続きお願いしたい。
抗酸菌関連検査有料受託のご案内
結核研究所抗酸菌レファレンスセンター
結核予防会結核研究所では,従来,抗酸菌関連の検査を
・病理組織検体の結核遺伝子診断
無償でお引き受けして参りました。平成15年4月より,抗
・抗酸菌(含BCG,非結核性抗酸菌)の同定
酸菌レファレンスセンターの設立に伴い,また結核研究所
・抗酸菌の超微細構造検索
に対する政府補助金の削減のため,結核・抗酸菌感染症診
・抗酸菌由来抗原の免疫組織化学
断に関する検査を,有償(実費)化せざるを得なくなりま
・抗酸菌株の分与(研究用)
した。心苦しいことではありますが,よろしくご理解下さ
いますよう,お願い申し上げます。
また,抗酸菌検査技術研修(個別・集団)の開催も可能
主な受託項目としては以下の通りです。
です。
・抗酸菌のRFLP分析
詳細は,抗酸菌レファレンスセンターまでお問い合わせ
・結核菌感染診断としてのQuantiFERON法検査
下さい。
・遺伝学的抗酸菌薬剤耐性検査
(電話0424-93-5711,またはe-mail: [email protected])
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予防会だより
第4回結核予防会広報・シール担当者会議報告
5月29日・30日/はあといん乃木坂(東京)
結核予防会長野県支部
企画課普及啓発係主事 その後,4つのグループに分かれ活発な情報交換が行わ
牧内 朋子
長野県支部においてもぜひ参考にしたいと思いました。
れました。各県における多彩な活動内容はとても勉強になり,
2日目は,結核予防婦人会秋田県連合会の阿部副会長か
去る5月29日・30日の両日,第4回結核予防会広報・シール
ら「婦人会における複十字シール運動の展開」と題して講
担当者会議が,東京都港区のホテルはあといん乃木坂で開
演がありました。21世紀は健康である国が病気で苦しむ国
催されました。この会議は結核予防の広報・シール運動を
を支援していく時代,子供の頃からの国際支援に対する環境の
より効果的に推進するための知識の習得と,本部と各都道
整備が大切であり,その意味からも複十字シール運動は,行政
府県支部が一体となり連携をもって活動していくための情
の理解を得て推進すべき運動ではないかとお話がありました。
報交換を目的として行われ,各都道府県支部44名の皆さん
続いて,グループでの討議,全体討議を行い,支部・本
と参加いたしました。
部一体となった結核予防広報・シール運動への新しい歩み
はじめに,結核研究所の石川信克副所長から「地球の隅々
を確認しそれぞれの心に誓い,会議は終了しました。
まで健康づくりの輪を―シール募金の目指すもの―」と題
この会議に出席させていただき,改めて広報・シール運
し講演がありました。日本や世界の結核の状況と21世紀の
動の大切さを実感しました。結核対策がすみずみまで行き
社会づくり,結核予防会の事業のすすめ,国際支援等につ
届かず苦しんでいる人がたくさんいることを知り,「世界
いてお話をいただきました。
中の人々の健康を守るために」私達は愛と勇気を心の友達
「広報及び複十字シール運動の事例発表」では,宮城県
として,多くの方から共感してもらえる結核予防運動を進
支部谷津普及広報課長,福岡県支部永田総務経理課主任,
めていく努力をしていきたいと感じました。
並びに静岡県支部中川総務課主事からそれぞれ発表をいた
だきました。谷津課長からは,「直接訪問し協力依頼をす
るのが大事であり,一方的な話し方はしない。相互理解が
得られる話し方を考える」などのお話をいただきました。
永田主任は,郵便局や銀行の本店・支店での「結核予防週間」
ポスターの掲示やパンフレットの配置,福岡ドーム野球場
ホークスビジョンでの無料放映など公益性をアピールして
ご協力いただいた事例や,パンフレット「平成15年度 小・
中学校での結核健診が変わります」の市町村教育委員会と
私立の小中学校への無料配布などについて紹介されました。
中川主事からは,平成14年度事業における取り組み,平成15年
度への抱負についてお話がありました。静岡県広報誌への結核
予防週間の記載等については,とても参考になりました。
●2003年世界禁煙デー記念シンポジウム
5月31日の世界禁煙デーを記念して,標記
シンポジウムが,6月2日(月),科学技術
館サイエンスホールにおいて開催された。詳
細はp24∼25に掲載。
多額のご寄付を下さった方々
<指定寄付等>(敬称略)
本部− 上田嘉一朗商店,常盤会,寺田文男,
赤尾ヤヱ子(複十字),盛本越子(新山手・
保生の森)
支部−酒井幸一(宮城県)
<複十字シール募金>(敬称略)
北海道−右近蘇一,札幌市保健所,酒井仁,
32
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支部職員の方々からの事例発表
新関明,鈴木清繁,千代田メディカル札幌営
業所,都意工機,札幌徳洲会病院,東建工業,
記念塔病院,おとなし眼科,岡本正敏,平田保,
第一臨床検査センター,コニカメディカル,
富土木型製作所,小原内科循環器科医院,仲
野谷泌尿器科医院,くみあい食品,小樽病院,
三上徹成,時計台鑑定,日本土木工業協会,
札幌臨床検査センター,北海道ロングリバー,
辻商店,札幌防衛施設局,大成建設,札幌都市開
発公社,平本歯科医院,梅川医科器械店,修道
会本田病院,三王印刷,医用センターフクヤ,
龍興寺,井上啓子,吉尾病院,宮の森スポーツ,
アクセスソフトウェアーテクノロジー,誓願寺,
沼田工務店,サンケイ企画,大平燃料店,北海道
対がん協会,ユニオンサービス,クラーク病院,
真願寺,藤根勝,留萌医師会,中川耕作,音威
子村ライオンズクラブ,石井カズエ,紋別保
健所,月形町,新冠町,大成町,中富良野町,
鶴居村,北檜山町,鵡川町,下川町,釧路市,
小清水町,池田町,音別町,風連町,当麻町,
白糠町,浜中町,京極町,上川町,比布町,
浦幌町,厚岸町,穂別町,愛別町,深川市,東
川町,美唄市,鷹栖町,八雲町,旭川市,札幌
市健康をまもる婦人のつどい,札幌市北区健康
をまもるつどい,北海道庁,丘珠駐屯地,札幌
病院,鹿追駐屯地,帯広駐屯地,第二航空団千
歳基地,滝川駐屯地,島松駐屯地,東千歳駐屯地,
南恵庭駐屯地,美唄駐屯地,美幌駐屯地,苗穂
駐屯地,北恵庭駐屯地,北千歳駐屯地,名寄
駐屯地
宮城県−宮婦連健康を守る母の会,日本競輪
選手会宮城支部,七十七銀行,宮城県職員,
仙台市職員,宮城県警察本部,仙台中央警察署,
仙台北警察署,仙台南警察署,泉警察署,古
川警察署,岩沼警察署,白石警察署,角田警
察署,青葉区連合町内会協議会,宮城野区連
合町内会協議会,宮城地区公衆衛生組合連合会,
県内各市町村立小中学校,白石市医師会,名取・
岩沼医師会,柴田郡医師会,黒川郡医師会,
仙南薬剤師会,石巻市,塩竈市,古川市,気
仙沼市,白石市,名取市,角田市,多賀城市,
岩沼市,蔵王町,大河原町,村田町,柴田町,
川崎町,丸森町,亘理町,山元町,松島町,
七ヶ浜町,利府町,大和町,富谷町,大衡村,
大郷町,中新田町,小野田町,宮崎町,色麻町,
三本木町,鹿島台町,岩出山町,鳴子町,涌
谷町,小牛田町,南郷町,築館町,若柳町,
一迫町,鶯沢町,金成町,志波姫町,花山村,
迫町,登米町,東和町,中田町,豊里町,米
山町,石越町,南方町,河北町,矢本町,雄
勝町,河南町,桃生町,鳴瀬町,女川町,牡
鹿町,志津川町,本吉町,歌津町,東北大学,
宮城大学,仙台第一高等学校,宮城第三女子
高等学校,仙台西高等学校,白石女子高等学校,
利府高等学校,古川高等学校,涌谷高等学校,
宮城学院中・高等学校,東北工大高等学校,
聖ドミニコ学院高等学校,宮城教育大学附属
小学校,陸上自衛隊船岡駐屯地,東北郵政局,
東北郵政監察局,理容組合柴田支部,理容組
合刈田支部,仙南地域広域行政事務組合,大
崎地域広域行政事務組合,塩釜食品衛生協会,
石巻地区食品環境衛生団体連合会,川守田賢子,
田中元直,石川正光,酒井幸一,佐藤博,手
島建夫,森益子,小松茂夫,山田雄二郎,小
野里融,斎藤博之,土屋眞,佐藤正弘,奥山
哲夫,水間誠,越河勝巳,浅沼徳稔,永瀬康一,
樋口白秋,駒田潤一郎,今野直人,加藤國雄,
谷津昌弘
長野県−佐々木匡通,米山政一,中島千和子,
茅野茂治,中里三七雄,勝田岩雄,飯田実,
古澤明雄,斎藤素,古屋大雄,宮崎麗子,塚
田修,中村正勝,福沢礒伊,土屋善雄,横山健,
板倉慈法,芹澤弘文,山岸行雄,横山長幸,
飯島健司,飯島正章,相馬愛次郎,曽我文子,
林明徳,松尾義男,小池清一,高橋義郎,岡
野照美,芦沢美晴,榊原政裕,望月正子,斎藤
平成15年7月15日 発行
複十字 2003年292号
編集兼発行人 山下 武子
発行所 財団法人結核予防会
〒101-0061 東京都千代田区三崎町1-3-12
電話 03(3292)9211(代)
印刷所 勝美印刷株式会社
東京都文京区小石川1-3-7
電話 03(3812)5201
結核予防会ホームページ
URL http://www.jatahq.org
昭,轟清志,小野寿太郎,栗原和之,西原直樹,
上原章平,小山實,間宮淳子,間宮典久,笠
原忠夫,石渕敏明,米倉正博,臼井愛子,水
上淳子,北島敦,野中杏一郎,和田茂比古,
豊田道子,六車方中,三村信夫,中藤晴義,
小平潔,芦沢則文,半田孝淳,若林順天,佐
橋法龍,細野宗孝,塚田盛基,吉川哲仙,青
山喬視,春日建邦,金原靖子,野口浩,米窪
千加代,松浦敏雄,西譲二,大橋俊夫,安藤
博仁,勝山一成,萩本範文,香坂勝,小松哲雄,
小林芙美子,亀田光江,長坂勝,磯部トモ子,
小林俊規,八十二銀行七瀬支店,サンメディ
ックス長野営業所,キッセイ薬品工業,小松
精機工作所,大井建設工業,藤沢商店,三菱
電機中津川製作所飯田工場,マルホン自動車,
ツチヤエンタプライズ,長野県民生児童委員
協議会,長野県中小企業団体中央会,長野県
地域包括医療協議会,長野県建設業協会,天
理教長姫分教会,天理教桔梗ヶ原分教会,上
伊那医師会,神稲建設
熊本県− 東部大谷化学,desダイヤエンジニ
アリングサポート,石井盛和堂,友和会,有
明測量開発社,九州満喜,熊本木材,三ツ矢建設,
長広印刷所,肥後タクシー,東和メディカルサー
ビス,福島文隆堂,熊本県土地改良事業団体連合
会,熊本機能病院,山鹿中央病院,開病院,上村
循環器科,北熊本井上産婦人科医院,坂本クリニ
ック,元島産婦人科医院,春田医院,高浜病院,
桑原内科小児科医院,恵水幼稚園,熊本市立総合
ビジネス専門学校,健康保険人吉看護専門学校,
料亭すざき,反後皓介,松尾逸郎
結核予防会役員人事(敬称略)
支部
発令日
支部名
氏名
発令内容
15.3.31 茨 城 県 支 部 福富 久之 副支部長の委嘱
を解く
1 5 . 4 . 1 茨 城 県 支 部 岡 ] 伸 生 副支部長を委嘱
する
15.3.31 千 葉 県 支 部 志村 昭光 副支部長の委嘱
を解く
15.3.31 千 葉 県 支 部 磯野 可一 顧問の委嘱を解く
1 5 . 4 . 1 千 葉 県 支 部 藤森 宗徳 支部長を委嘱す
る(重任)
1 5 . 4 . 1 千 葉 県 支 部 梅田 勝 副支部長を委嘱
する(重任)
1 5 . 4 . 1 千 葉 県 支 部 林 學 副支部長を委嘱
する
発令日
支部名
氏名
本誌は皆様からお寄せいただいた複十字シール募金の益金により作られています。
複十字シール運動
発令内容
1 5 . 4 . 1 千 葉 県 支 部 堂本 暁子 顧問を委嘱する
(重任)
1 5 . 4 . 1 千 葉 県 支 部 櫻井 義也 顧問を委嘱する
1 5 . 4 . 1 千 葉 県 支 部 渡邊 武 顧問を委嘱する
1 5 . 4 . 1 千 葉 県 支 部 志村 昭光 顧問を委嘱する
1 5 . 4 . 1 千 葉 県 支 部 齋藤 正巳 顧問を委嘱する
15.4.22 神奈川県支部 岡崎 洋 支部長の委嘱を
解く
15.4.23 神奈川県支部 松沢 成文 支部長を委嘱する
15.4.16 神奈川県支部 田中 忠一 副支部長を委嘱
する(重任)
15.3.26 山 梨 県 支 部 山本 栄彦 支部長を委嘱する
15.3.26 山 梨 県 支 部 天野 建 支部長の委嘱を
解く
1 5 . 4 . 1 新 潟 県 支 部 平山 征夫 支部長を委嘱す
る(重任)
1 5 . 4 . 1 新 潟 県 支 部 神保 和男 副支部長を委嘱
する(重任)
1 5 . 4 . 1 新 潟 県 支 部 栗 田 雄 三 副支部長を委嘱
する(重任)
15.4.22 福 井 県 支 部 栗田 幸雄 支部長の委嘱を
解く
15.6.12 福 井 県 支 部 西浦 幸男 支部長を委嘱する
15.5.31 福 井 県 支 部 仲井 公秀 副支部長の委嘱
を解く
1 5 . 6 . 1 福 井 県 支 部 梅田 幸重 副支部長を委嘱
する
15.3.31 愛 知 県 支 部 小川 一誠 副支部長の委嘱
を解く
1 5 . 4 . 1 愛 知 県 支 部 富永 祐民 副支部長を委嘱
する
15.3.31 岐 阜 県 支 部 畑中 賢 副支部長の委嘱
を解く
1 5 . 4 . 1 岐 阜 県 支 部 坂井 昭 副支部長を委嘱
する
15.4.11 滋 賀 県 支 部 田崎 正善 支部長を委嘱する
15.4.11 滋 賀 県 支 部 宮村 統雄 支部長の委嘱を
解く
15.3.31 徳 島 県 支 部 谷川 博文 副支部長の委嘱
を解く
1 5 . 4 . 1 徳 島 県 支 部 鎌田 啓三 副支部長を委嘱
する
15.3.31 宮 崎 県 支 部 植木 英範 副支部長の委嘱
を解く
1 5 . 4 . 1 宮 崎 県 支 部 早川 烈 副支部長を委嘱
する
みんなの力で目指す,結核・肺がんのない社会
平成15年度複十字シール
複十字シール運動は,結核や肺がんなど,胸の病気
をなくすため100年近く続いている世界共通の募金活
動です。複十字シールを通じて集められた益金は,
研究,健診,普及活動,国際協力事業などの推進に
大きく役立っています。皆様のあたたかいご協力を,
心よりお願いいたします。
運動の輪を広げてください。シールは,はがきや,手紙や包装の封印,何にでも使えます。
問合せ:資金課 TEL03-3292-9287(直)