臨床スポーツ医学

臨床スポーツ医学
Clinical sports medicine
コース責任者
スポーツ医学教授 武 者
春 樹
1.趣旨
スポーツ医学は、発育期から高齢者までを対象に、運動やスポーツ活動によって生じる身体的・心理的変化
を明らかにし、運動能力の向上や健康の維持増進を目的とする。そのうち基本的な柱について学習する。第 1
に、スポーツにおける幼少期から老年期までの男女の身体的・精神的機能について。 第 2 に、スポーツにお
ける疾病・外傷・障害の予防と治療について。第 3 に、スポーツ選手に対する運動機能の向上についてである。
発育期におけるスポーツの役割は、各器官の生理的機能の向上に加えて、精神的にも協調性や自主性など
の社会生活に必要な要素を得るのに必要不可欠である。また、老年期に向かうにつれ、筋萎縮や骨塩量の低
下等が認められ、これらの生理的変化を調べることは、スポーツ医学にとって非常に重要なテーマである。
また、スポーツの大きな効果として心理面への効用があり、ストレスの緩和が注目されている。現代におけるス
トレス社会にとって、この分野の研究も不可欠であり、今後の研究が待たれている課題である。
運動能力の向上に対する研究は、スポーツ選手のためのみならず、一般の人に対しても、応用ができる非常
に重要な研究である。スポーツ選手に必要な効率のよい筋力トレーニングや運動機能の向上の方法、極限状
態の精神的ケア、身体的ケアなどのすべての情報は、スポーツ選手以外の一般人に対しても有用である。
2.科目責任者・担当者
・スポーツ医学を専門とする教員が各講義と実習を担当する。
・各分野の専門家による特別講義を実施する。
3.学習目標
1)一般目標(GIO)
スポーツ医学における下記事項を目標に知識を習得し、理解を深める。
・スポーツ外傷として、医師国家試験出題基準に示されている内容を理解する。
・スポーツによる重症度の高い頭・頚部外傷について理解する。
・スポーツにおける内因性事故としての突然死を理解し、予防および対策を理解する。
・スポーツ現場におけるドーピングの問題点を理解する。
・メディカルチェックの意義を理解する。
・スポーツ選手の心のコンディショニングの理解と心理的サポートについて学習し、選手や患者との
コミュニケーションの取り方を習得する。
・スポーツ現場における栄養管理・水分補給に関しての理解を深める。
・自然環境のなかで、高所とスポーツ医学に関しての理解を深める。
・各疾患に対するリハビリテーションの意義を理解する。
・スポーツにおける視機能・認知機能の重要さ、パフォーマンスとの関連性について理解する。
・女性における身体発育・加齢および女性特有の疾患とスポーツの関係を理解する。
・スポーツに関連する内科疾患を理解し、対処方法を習得する。
・スポーツによる心臓の生理的変化を理解し、病的心臓との鑑別が説明できる。
・テーピングを実践しその理論を理解する。
・生活習慣病における運動の意義を理解し、運動処方により患者指導方法を習得する。
・人間の足の機能と構造を学び、スポーツシューズとの関連性について理解する。
2)行動目標(SBO)
スポーツによる運動器疾患
1. 上肢の外傷(肩関節脱臼、突き指)を概説できる。
2. 下肢の外傷(膝靭帯損傷、半月板損傷、足関節捻挫、アキレス腱断裂)を概説できる。
3. 離断性骨軟骨炎、肉離れ、について概説できる。
スポーツによる頭・頚部外傷
1. 脳振盪について概説できる。
2. 急性硬膜下血腫について概説できる。
3. 脊髄(頚髄)損傷について概説できる。
特別講義 1:スポーツにおける内因性事故
特別講義 2:東京マラソンの事故防止対策
1. スポーツにおける内因性突然死について説明できる。
2. スポーツにおける突然死の防止対策を述べることができる。
ドーピング
1. 禁止薬物・禁止方法について説明できる。
2. ドーピング検査手順について説明できる。
3. アンチドーピング活動について説明できる。
メディカルチェック(整形外科系)
1. メディカルチェックの目的を説明できる。
2. 骨関節疾患、スポーツ外傷、障害を予防する為の評価項目を説明できる。
3. 評価項目を実践し、疾患との関連を理解する。
スポーツ医療におけるコミュニケーション
1. コミュニケーションの基本的知識と阻害要因を理解する。
2. 非言語的コミュニケーション、言語的コミュニケーション、説得的コミュニケーションについて習得する。
3. スポーツ臨床の技法について概要を学習し、スポーツ選手への活用方法について説明できる。
現場における栄養管理
1. スポーツにおける栄養管理・食事の重要性を説明できる。
2. スポーツ現場における水分補給の必要性・補給方法を指導できる。
環境と医学
1. 高所環境における生体反応について説明できる。
2. 高所環境における医学的問題点を理解し、説明できる。
3. 低酸素トレーニングによる生体反応を体験し、理解する。
スポーツリハビリテーション
1. 各疾患におけるリハビリテーションの目的を説明できる。
2. スポーツ疾患におけるリハビリテーション過程を理解する。
3. 疾患特異性を考慮したリハビリテーション方法を説明できる。
4. 身体機能向上に対するトレーニング内容を理解する。
5. リハビリテーション過程における評価方法を説明できる。
視力とパフォーマンス
1. スポーツに関連した静止視力と動体視力の理解と、視力矯正と視力検査法について説明できる。
2. 視覚機能、認知機能、筋機能と、パフォーマンス評価との関連性について理解する。
女性とスポーツ
1. 女性の身体変化とスポーツの関係を理解する。
2. 女性特有の疾患とスポーツの関係を説明できる。
スポーツによる内科疾患
1. スポーツにおける内科疾患について説明できる。
2. 運動性貧血・運動誘発アナフィラキシー・オーバートレーニング症候群について説明できる。
スポーツと心臓
1. スポーツ心臓形成の因子を説明できる。
2. スポーツ心臓特有の心電図を判読・解説でき、病的心電図との鑑別ができる。
テーピング
1. テーピングの目的を説明できる。
2. テーピングの種類、使用する物品を説明できる。
3. 足関節の基本的なテーピングを実践できる。
メディカルチェック(内科系)と運動処方
1. 内科疾患(高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満・心臓病)の運動療法の必要性・理論が説明できる。
2. 上記疾患の運動処方を作成し、患者指導が実践できる。
スポーツとシューズ
1. スポーツシューズの構造について理解する。
2. 人間の足部、足関節の機能と解剖について説明できる。
3. スポーツシューズによる医学的な問題点を理解する。
4. 足サイズの計測方法を習得し、適正な靴を選択できるようにする。
4.学習内容
全体講義および小グループ(30〜40 名程度)による講義・実習・レポートという学習方法により行う。
スポーツによる運動器疾患(全体講義)
スポーツ外傷の中で、医師国家試験出題基準(医学各論Ⅸ、10-G)に示されている外傷を全て概説する。
[準備学習]
スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「15.スポーツによる外傷と障害(1)上肢」、
「16.スポーツによる外傷と障害(2)下肢」を読んでおくこと。
スポーツによる頭・頚部外傷(全体講義)
スポーツ現場において重症度の高い頭・頚部外傷について、脳振盪、急性硬膜下血腫、脊髄損傷を
中心に、それらの病態、治療、予防に関して講義する。
[準備学習]
スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「17.スポーツによる外傷と障害(3)脊椎・体幹」、
「18.スポーツによる外傷と障害(4)頭部」を読んでおくこと。
ドーピング(小グループ講義・実習)
スポーツ現場におけるドーピングの実態、アンチドーピング活動について解説する。また、実際のドーピング
検査で使用されている検査フォーマット(模擬)を使用した実習を行う。
[準備学習]
1.スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「22.ドーピング防止」を読んでおくこと。
2.実習レポートを提出する。
メディカルチェック(整形外科系)(小グループ講義・実習)
身体機能の評価から得た情報がどのように骨関節疾患、スポーツ外傷および障害の予防につながるか概説
する。
[準備学習]
スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「13.運動のためのメディカルチェック---整形外科系」を
読んでおくこと。
スポーツ医療におけるコミュニケーション(小グループ講義・実習)
スポーツ選手の心のコンディショニングの理解と心理的サポートについて概説し、ロールプレイ形式で
外来シミュレーションを行い、お互いのコミュニケーション能力について評価をし合う。
[準備学習]
1.スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「7.発育期と運動 P.63-66」「11.メンタルヘルスと運動」
応用科目「2.スポーツによる精神的障害」を読んでおくこと。
2.実習レポートを提出する。
現場における栄養管理(全体講義)
スポーツ選手の栄養管理・食事およびスポーツ現場における水分補給の考え方、方法について概説する。
[準備学習]スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「5.運動と栄養・食事・飲料」を読んでおくこと。
環境と医学(小グループ講義・実習)
高所における低酸素環境について概説し、実習により低酸素トレーニングを体験し、お互いの生体反応を
理解する。
[準備学習]
1.スポーツ医学研修ハンドブック応用科目「1.スポーツと環境」を読んでおくこと。
2.参考書として「登山の医学ハンドブック改訂第 2 版(杏林書院)」を読んでおくことを勧める。
3.実習レポートを提出する。
スポーツリハビリテーション(小グループ講義・実習)
スポーツ外傷、障害を中心にリハビリテーションの進行過程、身体機能トレーニング、評価方法について
説明する。
[準備学習]
スポーツ医学研修ハンドブック応用科目「13.アスレティック・リハビリテーション」を読んでおくこと。
視力とパフォーマンス(小グループ講義・実習)
スポーツにおける知覚の役割や反応、視力について概説し、実習により視覚機能、認知機能、筋機能測定を
実践する。
[準備学習]
1.スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「2.神経・筋の運動生理とトレーニング効果 P.22」
応用科目「21.スポーツと眼科」「7.アスリートの体力評価 P.58-61」を読んでおくこと。
2.実習レポートを提出する。
女性とスポーツ(全体講義)
女性の成長と加齢とスポーツとの関係および女性特有の疾患とスポーツの関係を概説する。
[準備学習]
スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「6.女性と運動」を読んでおくこと。
スポーツによる内科疾患(全体講義)
スポーツによる内科障害全般について概略を説明し、運動性貧血、運動誘発アナフィラキシー、
オーバートレーニング症候群に関して詳述する。
[準備学習]
スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「12.運動のためのメディカルチェック---内科系」
「14.運動と内科的障害」、スポーツ医学研修ハンドブック応用科目「8.スポーツによる内科的障害」
「22.スポーツとアレルギー疾患」を読んでおくこと。
スポーツと心臓(全体講義)
スポーツ心臓形成について概説し、スポーツによる形態変化、スポーツ心電図の特徴を講義する。
[準備学習]
スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「12.運動のためのメディカルチェック―内科系」を読んでおくこと。
テーピング(小グループ実習)
スポーツ外傷に対する応急処置、スポーツ障害に対する再発予防のためのテーピングを理解し実践する。
[準備学習]
スポーツ医学研修ハンドブック応用科目「18.テーピング・ブレース」を読んでおくこと。
メディカルチェック(内科系)と運動処方(小グループ講義・実習)
生活習慣病における運動療法のためのメディカルチェックの必要性・方法を概説し、運動負荷試験・
呼吸機能検査実習により得られたデータを元に運動処方を作成し、患者に行う運動療法指導を実践する。
[準備学習]
1.スポーツ医学研修ハンドブック基礎科目「3.呼吸・循環系の運動生理とトレーニング効果」
「8.中高年者と運動―内科系」「12.運動のためのメディカルチェック―内科系」「19.運動負荷試験と運動処
方の基本」「20.運動療法とリハビリテーション―内科系疾患」「24.保健指導」を読んでおくこと。
2.実習レポートを提出する。
スポーツとシューズ(小グループ講義・実習)
日ごろ知る機会ない自分の足サイズを計測することで足の特徴を知り、スポーツシューズについての知
識を深める。
[準備学習]
1.参考として「腰痛・下肢痛のための靴選びガイド第 2 版(日本医事新報社)」を読んでおくことを勧める。
2.実習レポートを提出する。
5. 成績評価
1)総括的評価:学期末定期試験
・情意領域(態度・習慣)の評価については、出欠および授業態度、適宜提出させる課題レポートなどにより
評価する。
・認知領域(知識)の評価については、各講義担当領域より出題し評価する。
・評価方法は、記述式試験とする。
・定期試験が基準点に達しない場合、再試験を行う。
2)形成的評価:随時
・必要に応じて評価結果をフィードバックする。
下記の評価項目を総合して総括評価する。
評価項目
実施回数
評価割合
定期試験
1
80(%)
レポート
10
10(%)
授業態度
10(%)
備考
前期期末試験期間中に実施する。
実習態度を評価する。
6. 教科書・参考書
教科書:『スポーツ医学研修ハンドブック(基本科目)』第二版(文光堂)
『スポーツ医学研修ハンドブック(応用科目)』第二版(文光堂)
講義シラバス、講義で配布するプリントを十分に活用すること。
参考書:『登山の医学ハンドブック』改訂第 2 版(杏林書院)
『腰痛・下肢痛のための靴選びガイド』第 2 版(日本医事新報社)
7.準備学習
学習内容の [準備学習] に記載
8. オフィスアワー
所属
役職
氏名
時間
スポーツ医学
教授
武者 春樹
毎週水曜日 8 時 30 分~9 時
場所
体育館1階
スポーツ医学講座
連絡先
4553(内線)